厚生労働省の発表では、2025年には約32万人の介護職員が不足すると言われており、介護業界で人材の確保は喫緊の課題となっています。人材確保は、新しい方を採用する一方で、就業した人が離職をしない「人材が定着する職場」作りも重要です。
そこでLIFULL 介護では、介護施設運営事業者が人材定着に関してどのような課題を抱えており、どのような施策を行っているのかをアンケート調査をしました。
人材定着に課題を感じると回答した介護施設運営事業者は89.7%と、約9割にのぼる結果となりました。
人材の定着に関して、何に課題を感じているのかを尋ねたところ、もっとも回答率が高かったのは「給与」、「職場の人間関係」で、ともに65.5%でした。次いで「勤務体系や休暇制度」(53.4%)、「教育・研修の体制」(46.6%)も上位に挙がりました。
人材定着率の向上のために実施している施策を尋ねると、もっとも回答率が高かったのは「給与、賞与の引き上げ」で63.8%の事業所が実施していると答えました。介護職員の平均給与は年々上昇しており、平成30年時点で28.8万円でしたが、令和4年には29.3万円と、過去5年でも1万円上がっています(※)。今回のアンケート調査は、そうした処遇改善の動きを裏付けていると言えます。
また、人材定着の課題において「職場での人間関係」を挙げている事業者が約7割いる一方で、「メンター制度や1on1の実施」(22.4%)、「チームビルディングの実施」(12.1%)など人間関係の構築や改善に寄与するコミュニケーションに関する施策はまだ実施率が低いことがわかりました。
続いて、実施を検討しているものの実施できていない施策を聞いたところ、「福利厚生の充実化」が最も多くの回答を集めました(27.6%)。また「通常の休暇制度の変更・創設」、「研修の充実化」(ともに25.9%)も挙げられました。これらは介護施設運営事業者として、必要性を感じているものの、制度の変更という大掛かりなもののため、実施までに時間がかかる施策と考えられます。
人材定着のために実施した施策の中で、効果があったものを一つ選んでいただきました。実施回答数に対して「効果があった」という回答率が高かったものをランキング化したところ、最も「効果があった」とする声が多かったのが「給与、賞与の引き上げ」(43.2%)でした。次いで「勤務時間・勤務制度の改訂」(38.9%)、「メンター制度や1on1などの実施」(38.5%)が上がりました。
「勤務時間、制度の改訂」の内容として、具体的には「週休3日制の導入」や「フレックスタイムの活用」などが挙げられていました。
人材定着について介護施設運営事業者が課題だと挙げていたトップ3が「給与」、「職場の人間関係」、「勤務体系や休暇制度」でしたが、これらの課題解決のための施策が、やはり効果的という評価になっていることがわかります。
そのほかの人材不足への取り組みとして「離職者の再雇用」「外国人採用」「スポットワーカー活用」の取り組み状況を聞いたところ、「積極的に取り組んでいる」回答が最も多かったのが「外国人採用」で27.6%でした。「積極的ではないが一部実績がある」という回答も29.3%あり、外国人採用は比較的取り組みの多い施策であると伺えます。
一方「スポットワーカー活用」は「取り組んでいない」が55.2%と多く、まだ発展途上であることがわかりました。
慢性的な人手不足が続く介護業界。人材の定着や確保は国の政策だけでは解決が難しく、現場での自助努力や工夫が不可欠です。物価や燃料費の高騰も相まって、現場では賃金の引き上げを求める声が高まっています。過去の処遇改善により介護職の年収は上昇していますが、「介護に関わる仕事」という広い視点で見た際に、ケアマネジャーなど他職種の賃金は十分に上がっていません。この賃金格差が現場での課題となっており、バランスの取れた賃金改善が求められます。
また、今回の調査で、介護業務の「スポットワーカー活用」があまり進んでいないことが明らかになりました。スポットワーク市場には新規参入企業が相次いでおり、活況を呈しています。都市部と郊外では需要に違いがありそうですが、こうした新しい人材確保の手段を迅速に取り入れる柔軟性が、施設運営に不可欠です。
新たな人材確保では、単に人手不足を補うだけでなく、適切な人材を確保することが肝心です。「介護に不向き」な人を採用すると、サービス品質の低下だけでなく、既存職員のモチベーションにも影響が出るでしょう。「人間関係が原因」での退職が多い現状を踏まえれば、人材の適性判断が一層重要です。
賃金や福利厚生の改善に加え、職場環境、特に人間関係の改善が、介護施設の人材定着に向けた有効な解決策といえそうです。
調査期間:2024/7/19〜8/23
調査主体:株式会社LIFULL senior
調査対象:介護施設運営事業者に勤務する人 58名
調査方法:webアンケート
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