和田さんはなぜ見守りツールを導入されたんですか?
見守りツールというものがある。いろいろなパターンが考えられるけれど、今回は親の見守りツールの話だ。親が一人で離れたところに住んでいると、病気になっていないか、倒れていたらどうしよう……など何かと心配事が絶えない。またコミュニケーションがうまく取れないこともある。
LIFULL 介護が2021年に実施した「離れて暮らす親とのコミュニケーションに関する実態調査」を見ると、直接親と会えないことに不安を感じている人は50.9%と半数以上を占めている。私と同じような悩みを持っている人は多そうだ。
そこで今回は、見守りツールを通して遠方の親とコミュニケーションを取るおすすめの方法を詳しい人に聞こうと思う。
誰もが毎年一つだけ年齢を重ねる。自分が一つ年を重ねれば、親も一つ年を重ねることになる。そして、自分より早く親は衰えていく。悲しい事実ではあるが受け入れなければならないことだ。
別に暗い話をするわけではない。そのような事実があるわけだから、さてどうしよう! と前向きに考える話だ。地主家は私が東京に住んでいて、父は福岡県の北九州市で暮らしている。母はすでに他界しているので、一人暮らしなのだ。息子としては何かと心配ではある。
67歳の父とは、普段は月一くらいでLINEする程度。別に仲が悪いとかは一切ないのだけれど、男同士だしそんなもんだと思う。同時にもっと気軽にコミュニケーションが取れればと思うわけだ。
一人で考えても仕方がないので、ライターの和田亜希子さんにお話を聞くことにした。
和田さんはお母さまと離れて暮らしており、いろいろな見守りツールを駆使している方だ。コミュニケーションも見守りツールを通して行っているそうなので、私が一番知りたいことも聞けるはずだ。
<和田亜希子さん:テクニカルライター。1970年生まれ。一人暮らしをしている高齢の母親を見守る&サポートするため、実家のスマートホーム化に取り組む。「見守りテック情報館」で情報発信している>
和田さんはなぜ見守りツールを導入されたんですか?
2021年の夏に父が他界しまして、母が一人暮らしになってしまったという環境の変化が一番大きかったです。それまでは父がいたので、二人いればそんなに必要性はないかなという感じでした。
やはり一人暮らしだと何かと心配ですよね。
母と連絡が取れないこともありました。母が一人で倒れてしまうとどうしようもない状況が生まれてしまいます。実家は千葉県の北部にあり、私は横浜に住んでいるので、どんなに急いでも片道で4時間くらいかかってしまうんです。それでも頻繁に駆けつけることがありました。
そこで見守りツールを導入されたわけですね。
父が生きている時からネットワークカメラは使っていたんですね。ただ父が他界してから、母がカメラに映っていないところで倒れていたことがありまして……。
死角で倒れていらしたんですか?
そうなんです、行ってみたら倒れていたということがあったのが2021年の9月でした。後日、なるべく死角ができないように寝室にもネットワークカメラを設置しました。
ネットワークカメラを導入する時、ご両親は難色は示さなかったですか? なんか監視されているみたいじゃないですか。
ネットワークカメラではなく防犯カメラだからと説明しました。「留守の時、誰かに侵入されても分からないでしょう」と言って導入しました。あとは旅行の時にペットの見守りにもなるからと。
なるほど、実際物騒ですからね、世の中。
ずっと見られていると恥ずかしいという話もありましたが、父が入院している時に、母が生活している様子をライブで父に見せたんですね。その時に第三者の視点で見ることができて「こうやって観られるのはいいね。安心だね」となりました。
画面を見せると確かにいいですね!
父も母も「便利なものがあるんだね」という感じでした。その後、父が病気で寝たきりになってしまった時に寝室にカメラを移して、何かあった時は電話をくれなくてもカメラ経由で直接話ができるからという話をしました。
話もできるんですね、便利!
はい。カメラにマイクとスピーカーが付いているので、こちらはアプリで見ながら会話ができます。
お母さまとのコミュニケーションに課題はあったのでしょうか?
密に連絡は取っていたのですが、父が亡くなった直後くらいから急に母に認知症の症状が出てきてしまったんです。それでも生活する分には不自由はなかったのですが、勘違いが多くなって「あんた、いつまで遊びに行っているの!」と電話がかかってきて怒られるんです。
認知症は大変ですよね。私も認知症の祖父と一カ月くらい一緒に暮らしたことがあるんですが、祖父は私のことをずっと「淳くん」って呼んでいました。
母はスマホは持っているんですが、持たずに外に行ってしまい徘徊状態になることもありました。その後は人感センサー、開閉センサー、スマートリモコンなどいろいろなツールを導入しました。
一番よかったのはなんですか?
一番はスマートリモコンですね。
IoT(Internet of Thingsの略、以下IoT)ですね!
そうです、IoTのリモコンです。うちの場合、一番の課題がエアコンだったんです。母がエアコンを夏につけてくれなくて、熱中症になって倒れて搬送されたこともあります。
それは、エアコン代がもったいないからではなく、おそらく高齢によって温度感覚が鈍くなり、暑さが全く分からないからなんです。33度とか、私が汗だくになるような温度になっても、母は全く暑いと感じない。汗すらかかないんですね。
人間の体ってどうなっているんだろうと不思議に思いますね。
和田さんは横浜にいて、千葉のご実家の温度が分かる?
スマートリモコンがあると、スマホで温度とかも分かるんです。ちゃんと母がエアコンをつけて涼しくしているかなというのが手元で確認できるのですごく楽になりました。つけていなければこちらでスイッチを入れます。毎日母に電話して、「エアコンつけてね」と言い続けなくてよくなりました。
スマートリコモンにしても、ネットワークカメラにしても、お母さまご自身に負担はないんですね。
そうですね、ネットワークカメラは、リビングと寝室に設置していて、もう一カ所、レンズが360度回転するカメラを廊下にも置いてあります。
母がトイレの前で倒れて動けなくなったことが何度かあるんです。その時は360度カメラを動かして「お母さん、今介護ヘルパーの人が助けに来るからね」とカメラから呼びかけながらヘルパーさんに助けに来てもらってなんとかなりました。
ネットワークカメラなどは和田さんが都度チェックはしないといけないんですよね?
朝見て、お昼前に仕事しながら見て、お昼に見て……。2〜3時間おきくらいにカメラを見ていた時もありました。それが結構負担で。それで導入したのが、人感センサーなんですね。
人が動くと教えてくれるやつですね。
母はトイレが近くて、3時間置きくらいに行くんです。そこで、人感センサーをトイレに置きました。万が一倒れてしまった場合、トイレに行かないと通知が来ないので、お昼頃にスマホを見て通知が来ていなければおかしいなと気付けます。その時に初めてカメラを見て確認します。
今はカメラ+人感センサーの両方でチェックできるので、頻繁にカメラをチェックすることはなくなりました。
組み合わせが大切なんですね!
そうですね。カメラだけだと、確認する負担は大きいと思います。
お母さまに施設に入ってもらうということは考えなかったんでしょうか?
考えました。今でも選択肢として残していますが、施設の世話になろうとしない理由は母が徹底的に拒否しているからです。現在デイサービスには通っているんですが、人付き合いが得意ではないんです。施設の人によると自分から話かけることはほぼないとのことで。
私とお母さまは同じタイプの人間のようですね。分かります、お母さまの気持ち!
なので施設に入って、人付き合いが24時間になるのが絶対嫌だと聞かなくて。まだ認知症の症状は軽く、普通に生活しているけど薬や食事を忘れてしまうだけなので、本人が一人で暮らしたい、飼っている猫と一緒に暮らしたいと言っています。そうしてあげたいけど、私が仕事をやめて実家に戻れるかは悩ましいところなので、今の状況は妥協案ですね。
そんな中で見守りツールを使うのがすごく便利ということですよね?
そうですね、私にとってはそれがちょうどよかったです。
ちなみに導入にあたってのどれくらいのお金がかかったんでしょう。
全部のツールを合わせて5、6万円くらいでしょうか。見守りツールがなかったら、もっと帰省していたり、介護に費用がかかっていたりしたかもしれません。そう考えると十分ペイしているかなと思います。
うちはまだ元気ではあるんですが、そのような見守りツールの導入を考えています。もっとコミュニケーションが取れるといいし、父の生活が便利になればと思っています。何かおすすめはありますか?
Amazonの「Echo Show 5」が一番おすすめです。5インチくらいで小さいですけど、机の上に置いておくだけで音声操作でいろいろできて、すごく楽しめるし、コミュニケーションツールとしてとても使えます。
和田さんも使っていますか?
使っています! 最初は丸い「Google Home Mini」を置いていました。
人間の脳には「見当識」といって、今日は何日だから昨日は何日で何曜日といった連続した感覚があるらしいのですが、高齢者だとそれが分からなくなってしまうんですね。そんな時に、聞けば答えてくれる、どこでも確認できるというのがよかったみたいです。
でも、今はEcho Show 5なんですよね?
Echo Show 5のAlexaには“呼び出し”と言う機能があるんです。プライバシー完全無視の機能ではありますが、双方同じアカウントでログインしておくと、こちら側で“呼び出し”をするだけで強制的にビデオ通話が始まるんです。
母はタップをして応答するという動作ができなくなってしまったんですが、私が”呼び出し”をすれば母は何もしなくてもつながるので問題なく会話ができます。もちろん設定で解除することもできます。
なるほど、それは便利かも。ほぼ一択ですね。
音声でいろいろできるのも便利です。先ほど話題に出たスマートリモコンもスマートスピーカーと連動させることで、「エアコンつけて」だったり、「テレビつけて」だったりを全部やってくれるんです。リモコンの操作方法が分からなくなってしまっても、音声だったら使えます。
私もEcho Show 5ではないんですが、Alexaなら使っています。「Alexa、音楽かけて」とか。さっきから和田さんがAlexaと言うとうちのAlexaが反応しています。
Alexaの声が聞こえるなとは思っていました!
父にEcho Show 5を持っていったらどうですかね?
いいと思いますよ! 以前エアコンや食事のことで毎日母に電話をしていた時に、うっとうしく思われて関係が悪化したことがありました。そういうこともEcho ShowのAlexaがやってくれるんですよ! 薬やゴミの日、デイサービスの日など、1日の日課をリマインドに設定すればAlexaが言ってくれるんです。もちろん事前の設定が必要ですが、遠隔でも設定できます。
それいいですね、年齢関係なく忘れますからね、人って!
それにLINEとかだとスマホを持って画面に話しかけている感がありますが、Echo Show 5だと机の上に置いてあるデバイスに息子の顔が浮かび上がってくるので、電話とはまた違った感じがありますよ!
うちの子どもでも使えますね!
わたしの知り合いも、2〜3歳のお子さんが自分でおじいちゃんに電話すると言っていました。お子さんが「じいじに電話」って言うだけで会話を始められるので。
いいですね、あとすみません、私は独身で子どももいないんです。ちょっと言ってみたかっただけで……。「Alexa、彼女を探して」と言いたい毎日です。
まだAlexaにはそれはできないですね。
ですよね。
ただ父が急に倒れて動けなくなった時に連絡が来るような、夢のようなツールってないですかね?
私もそんなツールが欲しいと思っているんですが、例えば、「Hello Light(ハローライト)」という電球があって、リビングなど部屋の電球をハローライトに置き換えるだけでいいんです。中に通信機能が入っていて、1日の間に点灯がないと通知が飛んでくるという仕組みですね。
クロネコヤマトなどと提携もあって、セットアップもしてくれるサービスも始まりました。それであればインターネット環境がない家でも簡単に見守りシステムがつくれるので、利用者も増えているようです。
それ便利ですね! 次はそれにしようと思います!
そうですね、いろいろ試してみていいんじゃないでしょうか。
私はノート2ページくらいに、何が困っているかをまず書き出しました。あとは実際に起こったこと、例えばトイレの前やベッドの下、玄関で転倒したとか、郵便物がすごくたまっているとか、近所の人がチャイムを鳴らしても出てこないとか、ひたすらリストアップしまくって。それを解決する/しない、リスクのある/なし、発生の頻度などを整理したんです。そして必要なものから導入していって今に至るという感じですね。
なるほど、いきなりは大変ですもんね。
最近は母の認知症も少し改善されてきました。
それは素晴らしい!
先日、脳神経外科のお医者さんから「あなたは真面目な人だから、お母さまにいろいろと言っていませんでしたか?」と言われたんですね。「転んだら危ないから気をつけて」とか、「エアコンつけてね」とか、私が心配のあまりいろいろと口出ししていたことがストレスになって母の認知症を悪化させていたかもしれないね、と。
見守りツールを導入したことで、母がすごく穏やかになったんですね。母の認知症もかなり改善されて一次障害などが減りました。認知症が進んだのは父が亡くなった環境のせいだと思っていたのですが、実は私のせいだったかもしれません。
うちは男同士なのでたぶん私が言うと父もストレスを感じるはずです。とりあえず、Echo Show 5を持っていきます。
最後に、ご実家での設定ってお母さまは一人でできました?
いや、それは無理でしたね。私が全部セットアップしています。
ですよね!
和田さんに教えてもらった「Echo Show 5」を買ってセットアップをするために実家のある北九州に飛んだ。Echo Showにもいろいろな種類があるけれど、一番安いEcho Show 5でいいと教えてもらったのでそうした。いい意味でおもちゃ感があって父が好みそうな気もしたのだ。
地主家の場合、実家に来ても懐かしさはない。なので実家に「帰る」という表現はあまり使わない。転勤族だったため、今父が住んでいる家に私は住んだことがないのだ。たぶん10回くらいしか行ったことがない気がする。
Echo Show 5を持って来ました!
前回使ったサングラスどっかに片付けたな。
あぁ大丈夫、今回はそういうのじゃないから。
<前回はこのような格好で父に出てもらいました!>
もっと気軽に話したりできたらいいな、と思って。
なるほど。前にデカいボタンみたいなGoogle Homeを使ったけどあまり便利に感じなかったけどな。
今回は画面があるから随分と違うと思うよ。とりあえずセットアップをしてみよう。
そうだね。
ケイ(父は私のことをこう呼ぶ)はEcho Show 5の使い方に詳しくてセットアップをしに来たんじゃないの?
知らないよ、持ってないもん(今回初めて買った)。うちのAlexaはタブレットのやつだしね。
なんで来たの? 送ってくれたらやったよ!
一人だと面倒でやらないでしょ、なんか。
それはあるね、やらないね!
私も別にEcho Show 5に詳しいわけではないけれど、Wi-Fiに繋ぎ、Amazonのアカウントを入れてセットアップが完了した。そして、使い方を説明した。事前にいろいろ調べてきたので、なんて素敵な息子なんだろうと自分だけ感動していた。
さっそく使ってみて。本当に便利だから! 「Alexa、音楽をかけて」で音楽が聴けるし、「Alexa、天気を教えて」で教えてくれる。「Alexa、ケイスケに電話をかけて」で電話もかけられる。
「Alexa、天気を教えて」。
おぉ! これはいい。画面があるといいね。すごくいいじゃん、これいいね、ホントいいよ。
今月分の「いい」を全部言ったほどの「いい」の数だね。
「Alexa、音楽をかけて」。
いいね、音がいい、こんなに小さいのに音もいい、すごいね。
本当だね、音がいいのは驚きだわ。
パソコンでなんかやっている時に、今まではCDで音楽をかけていたけど、これでいいね。声でできて便利。
それだけじゃないんです、スケジュールも教えてくれます。ゴミの日とか忘れるでしょ。
ケイと違って忘れないね。
保険として、保険として。
賢い、これケイの家にあった方がよくない?
そうね、ゴミの日、忘れがちだからね。
地主家で唯一、部屋が汚いのがケイだからね。
ゴミの日を忘れる以前の問題だからね。
Echo Showは未来って感じがするけど、ケイの望む未来は来ていないね。
そうね、部屋を綺麗にしてくれるアイテムの登場がないね。
「Alexa、ケイスケに電話をかけて」。
部屋を片付けましょう。
それは直接言ってよ。Echo Showを通さなくていいから。
そうか。
使いこなしてるな!
先にも書いたけれど、Echo Showは登録しておけば、音声で電話をかけることができる。今回は私と弟の連絡先を登録しておいた。
これで使い方の説明は終わりかな。どう?
使ってみないと分からないけど、いい気がする。画面があって、声でコントロールできるから。
他にもいろいろ買えば、エアコンとか部屋の照明とかもコントロールできる。
やってみようかな、これかなり便利だよ。
喜んでもらえたみたいでよかった。
ありがとう!
父にEcho Showを持っていき、設置して一週間ほど使ってもらった。最初はいいと思ってもその後はあんまり使わない──。そんな事態もなくはないので、その後の感想をEcho Showに電話をして聞いた。
いいよ、これはかなりいいよ!
どんなところが?
毎朝、Echo Showにラジオ体操をかけてもらってやってるよ!
健康的!
電話もいいね。持って話す感じではないから、自然に話せる気がする。
それはあるかもね。
さっきからチラチラ見えているそのジーパンは部屋着?
ちゃうわ! 値段に震えながら買ったわ!
Echo Showはよく見えるな!
見えてないわ、見えていたら部屋着に見えんわ!
見えた結果の部屋着だったんだけどね。
じゃかしいわ!
コミュニケーションもスムーズに取れた気がした。普段はたまにLINE電話をするくらいだった。でもEcho Showだとテレビ電話が普通な気がしてお互いを見て自然に話せる気がする。
たぶん入り口の問題だ。どうしてもLINEは電話の派生ツールと私も父も考えているふしがあり、テレビ電話の敷居が高い。しかし、今回は最初からいきなりテレビ電話だったので、自然にお互いを見て話せているのだと思う。かなり便利なツールを買えたと思う。父も喜んでいるようだし、よかった。
見守りツールとして、地主家ではとりあえず「Echo Show 5」を導入した。
使い方としては本格的な見守りツールというよりは、コミュニケーションツールとしての側面が大きいけれど、父が元気なうちに導入することで、そのようなツールを父自身も使いこなせるようになるし、警戒心も感じないのではないかと思う。早めの導入がいい気がした。
編集:はてな編集部
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。著書に『妄想彼女』(鉄人社)、『ひとりぼっちを全力で楽しむ』(すばる舎)などがある。
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