在宅ワークと介護の両立ーー「内観法」でリモート会議中に乱入してくる 父への怒りを抑える

親が突然倒れた、さぁどうする?

会社員歴20年、その後クリエイティブコンサルタントとして独立し8年。
仕事一筋で生きてきた、介護のことなんてまるでわからない独身ワーキングウーマン、中村美紀。

突然母が倒れ、その半年後に父も倒れるという同時多発介護になったのが48歳。

その後、仕事と介護の両立にてんやわんやしながら、仕事人間としての特性を活かし、「ビジネス思考」でなんとか介護を乗り切っていくという、壮絶だけど、コミカルな記録。

リモート会議中なのに、何度も話しかけてくる父に、イライラは増す一方!

一都三県もようやく緊急事態が解除されたものの、新たな変異株があらわれたりと、まだまだ収束しそうにない新型コロナ。

少なくとも3蜜を避けた、いわゆる「新しい生活様式」は、もうしばらく継続が必要そうです。

テレワークを推奨する企業も増えてきました。私も今まではシェアオフィスやコワーキングスペースなどで仕事をしていましたが、現在は完全在宅ワーク。お仕事関連の打ち合わせなどは、全てWEBによるリモート会議です。

そこで、困ったことがおきました。

リモート会議中は、もちろん家に居ても(相手と会話中なので)父の相手はできなくなるわけですが、父にとってはこの状態が理解できないようで、何度伝えても、会議中に話しかけにくるのです。

リモート会議を行う際は、事前に「話しかけないで」と伝えるようにしているのですが、それでも話しかけにきます。

私

「今日は1日中リモート会議だから話しかけないでね」

父

「はぁ」

言われた時はうなずくのですが、しばらくすると…。

父

「ちょっと歯が調子悪くてさ〜どうしようかと思ってるんだけど〜」

私

「は!? 歯!? (急いでミュートにし)今仕事の話をしてるから後にして!」

父

「はぁ…」(ダジャレではなさそうです)

父は気になることがあると、すぐに解消しないと気がすみません。

父の介護理由が精神的なものもあるからでしょうか。そわそわし、落ち着かなくなり、気になることが解消されるまで「我慢する」「しばらく待つ」ということができないのです。

一旦断っても、またすぐにきます。

父

「この書類さ〜どうしていいかわかんないんだけど〜」

私

「は!? 書類!? (急いでミュートにし)今仕事の話をしてるから後にして!」

この調子です。

何度言っても伝わらないので、私のイライラは増す一方。

父と言い合いになると、ついつい言い過ぎてしまい、毎回反省するのですが、自宅待機生活で父と一緒に居る時間が長くなると、父とのぶつかり合いも増加の一途。こんな自分が嫌になります。

どうしたものか。

調べると「内観法」という、感謝の気持ちが確認できるフレームワークがあることがわかりました。

早速試してみます。

「リモート会議」ではなく「パソコン会議」と呼ぶなど工夫をしているのですが…パソコンに向かって人と話すという状態は父の時代にはなく、理解しづらいのでしょう。

「内観法」で、親への感謝の気持ちを再確認する

「内観法」とは、自分の内面を観察することで、自分を知るという心理学の手法のこと。

身近な人物との関係に改めて目を向け、「してもらったこと」「して返せたこと」「迷惑をかけたこと」の3項目について振り返ることで、関係性やコミュニケーションの問題に対する気づき・発見をうながし、改善につなげていく、というものです。

振り返りの際に思い抱く、他者への感謝の気持ちや、罪の意識に向き合うことが、自分への気づき・発見につながる、とされています。

浄土真宗の一派に伝わる精神修養法をもとにした考え方で、コミュニケーションやストレスマネジメントに活用できるため、ビジネススキルとして企業研修にも応用されているよう。

長期にわたるコロナ生活で、父とぶつかる自分が嫌になってきている自分にはぴったり。

これらを実際やってみることに。まずは、「してもらったこと」から振り返ってみます。

【「内観法」で父との関係を振り返る】

1.「してもらったこと」を振り返る

・育ててもらった(でも親だから当たり前)

・学費を出してくれた(でも親だから当たり前)

・昔は、車をよく洗ってくれた(今はしない)

・昔は、よく駅まで送ってくれた(今はしない)

う〜む。

感謝の念を呼び起こしたいのですが、子ども時代にしてもらったことについては、どうしても「親だから当たり前」という気持ちがぬぐえません。

昔と今を比較して振り返ってしまうと、「以前してもらったのに、今はしてくれない」という部分に目がいき、「感謝」も「反省」の念も浮かびません。

これでは視野が広がらないので、目線を変えて、母が倒れた以降について、「直近」として振り返ってみます。

2.「してもらったこと<直近>」について振り返る

・洗濯をしてくれる

・自分の寝室やリビングの雨戸を開け、ポットにお湯を入れてくれる

・ゴミ出しをしてくれる

父自身の食材は、自分で買いに行く

・父自身の通院は、自分で行く

うむ。

母が突然倒れ、介護施設に入居してからは、母が担ってくれていた生活上の役割を、どう2人で補いあえるかが死活問題でした。

父は、母に父の衣類の出し入れはもちろん、上げ膳据え膳までやってもらっていた、いわゆる「昭和のオヤジ」タイプ。自分のお金も、持ち物も、一切自分で把握していません。

母は幸せそうでしたので、2人の役割分担ができていたということなのでしょう。

ですが、母が家に居なくなったからといって、その分を私が全て補うのは、お仕事との両立の面からも、精神的な面からも難しい。

その観点からいうと、父が、自分のことや家のことを少しでも行ってくれるのは、とってもありがたいと感じています。


感謝の念、出てきました。良い兆しです。
このまま進めてみます。

他者との関係性を振り返ることで、感謝や反省を促す「内観法」。父との関係は果たして改善されるのでしょうか!?

「内観法」であぶりだされた感謝の気持ちが一変!
「やってあげた」という恩着せがましい気持ちとの戦いへ

続いては「して返せたこと」について振り返ります。

3.「して返せたこと」について振り返る

<衣>
・父の衣類の管理、季節の入れ替えをする
・父の布団の管理、季節の入れ替えをする

<食>
・日々のスーパーの買い出しに行く
・父の食事の準備をする(作り置き分は、レンジで温めれば食べられる状態にしておく)
・朝昼晩何を食べるかの指示をする(作り置きが多いと、何を食べるのか混乱するので)
・食器洗い・収納をする(父も自分の分の洗い物はするが、洗い残しがあるので黙って再び洗う)

<住>
・電化製品の購入・管理(修理含む)
・家の修理・管理(業者支払いなど)
・消耗品(洗剤・シャンプー・トイレットペーパー・箱ティッシュほか)の購入・管理

<金>
・父母の資産管理
・日々の支払い管理(光熱費・新聞など)
・イベント関連の支払い管理(墓・町内会費など)

<人>
・母の入居介護の管理(主介護者)
・父の在宅介護の管理(主介護者)
・母・父の介護サービス専門家とのやりとり など

う〜む。

洗い出しが止まりません。

数が多いほど「やってあげてる感」が芽生え、「私はこんなにしてあげているのに」という、見返りを求めてしまう気持ちが膨れ上がります。

あら? さっき確認した感謝の気持ちはいずこへ…?

これはあまりよろしくなさそう…なので、このくらいにとどめ、続いて「迷惑をかけたこと」について振り返ってみます。

4.「迷惑をかけたこと」について振り返る

・先日WEB飲み会で飲みすぎて、洗い忘れた食器を洗ってくれた。

・先日私の洗濯物が少々多かったにもかかわらず、洗ってくれた(しかし、あらってやったぞと恩着せがましく何度も言われた)

・先日「歯の具合が悪いこの状態を、医師になんと伝えればいいか」と相談されたが、何を言いたいのか汲み取るのに時間がかかり、結局「どうしたいの?目指しているゴールは何なの?」と言ってしまった。

・父は私に対し、本当は母のようにもっと構って欲しいのだろうが、父は甘えすぎてはいけないと必死にこらえている。私はわかっていながら、そこまではできないと割り切って距離を置こうとしている。

うむ。

洗い出しながら、自分に変化が生まれました。

「ちっちゃなことで怒っている自分」に気づき、恥ずかしくなってきたのです。

また、父に対して、いわゆる高齢者に必要とされる「声かけ・見守り」は最低限行っているつもりなのですが、もっと面倒をみて欲しいのに我慢をしている父に対し、距離をおこうとする自分を、『迷惑をかけたこと』として洗い出していることに驚きました。

そっか、「迷惑をかけている」と思ってるのか、自分。

「内観法」による内省は、確かに気づき・発見が多い。
しかし、改善につなげるには時間がかかりそう(本音)

「内観法」は、“自分を知る”という観点においては、いわゆる「自己分析」と同じような効果があると思いました。

私はキャリアコンサルタントでもあるのですが、「自己分析」によって自分を把握し、自分のことが理解できるようになると、自分のことを認めることができ(自己受容)、自己肯定感につながりやすい、とされています。

「内観法」を実施してみると、「これはおかしい」と思ったり、「これはまずい」と思ったり。

感謝や反省の念だけでなく、驕り高ぶる感情や、恩着せがましい気持ちにもなり、自分としては認めたくない部分もありました。

この感情が揺れ動いている「素の自分」を受け止めることも大事なのでしょう。

客観的に自分を見つめ、自分を理解し、素の自分を受け止めることで、相手も受け止めることができる。

相手を許せるからこそ、自分も許せる。


お互い今が一番若い。今が一番やれることが多い状態で、この先心身ともに衰え、やれることが減ってきたら、「あの時はまだマシだった」と、今に感謝するはず。

そう思ったら、先ほどちらりと芽生えつつ、どこかに行った「感謝の気持ち」が復活。

「内観法」により気づいた点をすぐに改善につなげるのは、この在宅ワーク生活においてはなかなか難しいのですが、どこかに忘れていた「感謝の気持ち」を取り戻せたので、まずは良しとしようと思います。

まとめ

  • 人間関係やコミュニケーションにおいて、自分を客観的にみつめ、振り返ることは、仕事においてもプライベートにおいても大事。
  • 相手との関係を見つめ直すには「内観法」という手法もあり。
  • 「内観法」実施プロセスにおいて芽生える、自分の良い感情も悪い感情も、全て受け止めて「自分」として認められるかが重要、という解釈。
  • 「年寄り笑うな行く道じゃ」。いずれは自分も“高齢者”。いささか恐怖を覚えるが、その状態を見せてもらっているという意味でも親に感謝し、学びの意識に変えたい(と自分に言い聞かせる)。
中村美紀
中村美紀 クリエイティブコンサルタント・編集ディレクター

(株)リクルートフロム エー、(株)リクルートに20年在籍し、副編集長・デスクとして10以上のメディアにかかわる。2012年に独立し、紙・WEBメディア設計、編集コンテンツ企画制作、クリエイティブ研修講師、クリエイティブ組織コンサルタントなどを請け負う。 国家資格キャリアコンサルタント/米国CCE,Inc. GCDF-Japanキャリアカウンセラーでもある。

プロフィールhttps://miki-nakamura.com/ブログhttps://oyakaigo.miki-nakamura.com/ 中村美紀さんの記事をもっとみる

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