「火が消えてないじゃない(怒)!!」
親が突然倒れた、さぁどうする?
会社員歴20年、その後クリエイティブコンサルタントとして独立し8年。
仕事一筋で生きてきた、介護のことなんてまるでわからない独身ワーキングウーマン、中村美紀50歳。
大好きな母、馬が合わない父の、突然の同時多発介護にてんやわんやしながら、仕事人間としての特性を活かし、「ビジネス思考」で介護を乗り切っていく、壮絶だけど、コミカルな記録。
突然母が倒れ入院し、そのショックで父も倒れ入院。
父は数カ月後には退院し、デイサービスと訪問看護を受けるようになりました。
介護サービスを利用することで日常生活は安定してきましたが、入院前と比べると、最近の父は薬の副作用もあってか気力の衰えが目立ちます。
気力の衰えは、視野や思考の狭さとなって表れました。日々、自分の食事や入浴を「こなしている」印象で、まわりに気が配れなくなり、かつては楽しんでいた散歩や庭いじりなどの趣味をする姿はみられなくなってしまいました。
それじゃますます気力が低下してしまうのではないかと、親戚を家に招いたりもしましたが、客人に対しての配慮や気遣いは疲れるようで、そのうち「もう休む」と言い、寝室に引っ込んでしまいます。
うむむ、失敗。
その後も、父の気力は低下していきます。
高齢者の気力の低下は、こんなにも出来ることが減っていくものなのかと驚く自分。
少し前までの元気な父の姿が印象に残っていて、この変化は私も受け止めきれていません。
そのうち、日常生活にも影響が出始めました。
台所に行くと、火がつけっぱなし!
「火が消えてないじゃない(怒)!!」
コンロの火がついたまま、空のお鍋が真っ黒になっていたので、本当に驚き、その驚きが怒りとなってしまい、そのままの勢いで父を責めてしまいました。
「今配達がきたから〜」
理由を聞くと、お湯をわかそうと火をつけた後、配達が来たのでそのまま出てしまい、火を消すのを忘れてしまった、とのこと。
薬の副作用のせいでしょうか、体がだるくなるようで、ますます気が回らなくなっているようです。日常生活への影響はどのぐらいでてしまうのだろう? 父との生活に不安がよぎります。
その後、私が怒りすぎたので、父は自信を無くしてしまったのでしょうか。立て続けに、夜玄関の鍵が開けっぱなし、夜窓が開けっぱなし、エアコンがつけっぱなし、という事態がおきました。
「また、やりっぱなしー(怒)!!」
火も危険、夜の玄関・窓の開けっ放しも防犯上危険。何か対策を考えないと…と焦り始めました。
高齢かつ要介護の父にこれ以上何かを求めるのは無理。
変わるなら私でなければならないのですが、この父の急激な変化には、頭も気持ちもついていけていません。
大胆な切り替えをするために、「IF思考」を利用することにしました。
「IF思考」とは、「もし〜だったら?」という形で、設定・前提・条件を変え、発想を促進する方法です。発想の幅を広げたり、思考の柔軟性を促すのに有効で、新たな着眼点でアイディアを出す時などに使われます。
「もし〜だったら?」という形で発想を促す思考法。
これまでと異なる設定・前提・条件で考えるという、視点を変更するプロセスを意識的に組み込むことで、発想の幅を広げ、現状にとらわれないアイディア創出を促すことができる。
この方法で、「もし父が〜をできなかったら?」と仮定してとらえてみることにしたのです。
うん、これはまずい。火事になったら大変です。この間はたまたま私が気づきましたが、仕事で家に居ない場合などはフォローできません。最近のコンロは火災防止機能がついているとはいえ、主な家火災の原因の上位に「コンロの消し忘れ」は君臨します。
なるべく火を使わずに済む方法を考えることにします。
父は早寝。私が父より早く寝ることはないので、私が寝る前の玄関の鍵の確認をすればいい。「寝る前の玄関の鍵確認」を習慣化する、と決めました。
これも玄関と同様に、「寝る前の窓の鍵確認」を習慣化させます。
最近の夏の暑さは尋常ではありません。エアコンを付けないと、家にいても熱中症になるケースもある。寝ている時もつけた方がいい、という報道もあります。
エアコンの消し忘れは大勢に影響なし。気になるのは電気代だけ。親の介護で気苦労が絶えない中、お金で解決できるなら安いもん。
だったら私が稼いで払う。気にしない!と決めました。
(お金の問題が安いもんだと思えるなんて…私もマヒ気味です)
Q.父が、もし火を消し忘れたら?
A.火は危険なので、使わない方法を考える
Q.父が、もし夜玄関・窓を閉め忘れたら?
A.寝る前に私が確認することを習慣化する
Q.父が、もしエアコンを消し忘れたら?
A.消し忘れよりも、付けずに熱中症になることを気にするべき。消し忘れぐらいでピリピリしない。気になる電気代は働いて稼ぐ、と割り切る。
「父ができない」ことを前提に考えることで、物事が整理できました。
IF思考で整理したことは、すぐに実行することにしました。
話してみると「毎回確実に火を消せるか自信がない」と父。
確かに、火をつけている最中に電話がなったり、お風呂が沸いたりすると、そちらが気になり、火のそばから離れてしまう、というケースが何度かみられました。
ちなみに、どんなケースで火を使っているかを聞くと、お湯を沸かすならポット、何かを温めるならレンジ、と代替が利きます。
そこで思い切って「火を使うのをやめよう」と提案しました。
そして父と一緒に、父がコンロを使うケースを洗い出し、その場合はポット、その場合はレンジ、とひとつひとつ、どうすればいいかを示しました。
すると父は安心した様子。
それ以来、父はコンロを使うのを止めました。それでもストレスは感じていないようです。
夜寝る前に玄関・窓の鍵を確認。開いてたらかチャッと閉める。私が工夫するだけで済むならこんな簡単なことはありません。
習慣化は訓練。繰り返し行えばそれが当たり前になります。問題なし。
もう必要以上にピリピリせず、「気にしない」と割り切る。気になる電気代は「私が稼ぐ」。こうしてせっせと原稿を書いてがんばります。
もう最近は、父母の介護の件で何かあったら、「原稿のネタにしてやる!」と考えて自分を奮い立たせています。
こうして、これら対策をしばらく続けてみると、事態が好転し始めました。
IF思考で父の「し忘れ対策」を考えたつもりだったのですが、これにより、私は気持ちを切り替えられるようになり、できることが減っていく父を受け止められるようになっていったのです。
気持ちの切り替えができているので、父が何かし忘れていても、イライラすることがなくなりました。
すると、父とのぶつかり合いが減っていきました。逆に、父が何かできると、褒めるようになっていました。
すると、父は自信を取り戻したのでしょうか。何かをし忘れることが減っていったのです。
出来ることが増えたわけではありません。今でもコンロは使いません。
ですがぶつかり合いが減るだけで、我が家は少し幸せが増えました。
介護の親との生活は、大きな改善は難しいもの。
親の変化に、こちらが気持ちを切り替えて(これが難しいところですが)、日常生活の工夫を積み重ねていくことが、平和をもたらす…(いや「工夫をし、平和をもぎ取る」の方が感覚的に近いのですが)と確認しながら、これからも日々を過ごすことになりそうです。
・高齢の親はだんだん出来ることが減っていく。自分が高齢になれば同じ…と頭ではわかっているが、なかなか受け止めきれないのが現状。
・凝り固まった考えから抜け出し、新たな発想や思考の切り替えをするためには、「IF思考」を利用するのも手
・親の変化に合わせて、こちらも変化(進化?)していく。いきなりは無理なので、徐々に自分を変える。頭ではわかっているのに、気持ちを切り替えるのがなかなか難しい…という前提で、なんとか解決策を捻り出し、自分を変えていく。終わりのない旅だけれど、流れに任せてこの先を進もう(と自分に言い聞かせる)
次回は、「介護施設入居」か「在宅介護」か…納得のいく決断をするために「情報収集」を怠らない
(株)リクルートフロム エー、(株)リクルートに20年在籍し、副編集長・デスクとして10以上のメディアにかかわる。2012年に独立し、紙・WEBメディア設計、編集コンテンツ企画制作、クリエイティブ研修講師、クリエイティブ組織コンサルタントなどを請け負う。 国家資格キャリアコンサルタント/米国CCE,Inc. GCDF-Japanキャリアカウンセラーでもある。
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