親が突然倒れた、さぁどうする?
会社員歴20年、その後クリエイティブコンサルタントとして独立し7年。
仕事一筋で生きてきた、介護のことなんてまるでわからない独身ワーキングウーマン、中村美紀49歳。
大好きな母、馬が合わない父の、突然の同時多発介護にてんやわんやしながら、仕事人間としての特性を活かし、「ビジネス思考」で介護を乗り切っていく、壮絶だけど、コミカルな記録。
あなたの実家の大黒柱は誰ですか?
我が家は、完全に母。
何を食べるか、何を買うかなど、どうするかの判断は、すべて母です。
例えば、母は旅行が好きで、よく親夫婦で旅行に出かけていましたが、行き先決定も、申し込みも、全て母が行なっていました。
当然お金の管理も。
こんな我が家の中心人物、大黒柱の母が、突然倒れたのです。
母の入院・手術の対応をしなければならないのはもちろん、どう日常生活をやりくりするのか早急に考えなければなりません。
父は、母に全て任せていたので、そもそもどうなっているのか知らないようだし、動揺が激しいので頼れない。
私は、同居はしているものの、世帯は完全に別。親のあれやこれなんてまったく把握していない。
しかも私は、仕事中心の生活を送っていて、家のことや家事のことが大の苦手です。
加えて、母が倒れたショックで頭が回りません。
どうしたものか。
頭の回らない時こそ冷静になるために〜と、この状況をビジネスに例えてしまう自分。
「自分の意向に反して『家庭安定運用プロジェクト』に参加、「大黒柱」という名のプロジェクトリーダーに任命された。まずは「親の家庭運用」を解明して、最短で日常化させよ。前任不在のため引き継ぎなし。現状把握からスタートせよ」
あーん、まったく気乗りしません。
気乗りしないまま動いてみると…意外にも辛いのはメンタル面でした。
「引き継ぎなし」の状態なので、まずは現状把握から〜といろいろ動き、調べるのですが、これはつまり母の軌跡をたどるという行為。
調べる度に触れる、残されたもの全てに、母の生き様が宿っている気がしました。作業をすればするほど、元気な頃の母を思い出したり、もうこのような状態に戻れない母の現状をつきつけられる思いにかられるのです。
心の整理もつかないまま作業をしなければならないのは、意外にも精神的に辛く、悲しさを増長させました。
親の情報を事前に把握しておくことが、いかに大事か。
ええ、わかります。「そんなこと言われても。今はカンケーないし」と思いますよね。
ついこの間まで私もそうでした。
母が倒れるまでは、両親ともにピンピンしていたので、親の介護なんて現実感がありませんでしたし、興味もなかった。
それで…このあり様です。
なので、結論を先に、声を大にして言います。
「親情報は、事前に把握しておいた方がいいですよ!!!」
今回は、それはなぜなのか、事前把握が出来ていないといかに大変かを、我が家を例にしてお伝えしようと思います。
入院・手術をすることになると、最初の病院手続きで、保証金がいくらだの、支払いタイミングはいつだのという説明を、うわーっと受けることになります。
頭が回らないので、えーとはいはい、と聞き流す自分。
しばらくして請求書が届きました。
どえー!数十万!
しかも数カ月目には、軽く数百万を超えました。
これはまずい!
右半身麻痺、失語・失行のある母の病状を考えると、今だけでなく、この先の介護も視野に入れなければならない状態。
お金面はどうしていくのか、長期目線での経済設計が必要です。
今までは、親の口座を勝手に触るのは罪悪感があり、一旦私が払っていましたが、この金額の負担が長期的に続くとなると、なかなかしんどい。
どうしたもんか、と調べてみると「親の入院・介護費用は、親口座から使うのが鉄則」とあります。
よし、と腹をくくり、親資産を明らかにし、何をどのように使うのか考えよう、と覚悟を決めました。まずは、使える状態にあるのかを確認しないといけません。
そもそも親の銀行通帳がどこにあるのかわからなかったので、保管場所だと思われる場所を、すべて漁ることからスタート。これが徹夜作業になりました。家の中は、すぐに、まるで盗難にあったかのような散らかり具合に。
なんとか銀行通帳・カードを探し出した後、動かせるかどうかの確認に、銀行を訪ねます。
銀行交渉、これがなかなか大変でした。
母の状態を説明し、
とある銀行とは利用できるよう交渉、
とある銀行とは揉めながらカードの作り直しを依頼、
とある銀行とは暗証番号の件で口喧嘩に発展、などなど、
数々の山を越え、やっと銀行口座と通帳・カード、暗証番号の把握ができ、利用できるような状態にまでたどりつけました。
この大変な経験、交渉詳細は語れませんが、ここに経験上わかったことを、私見として書いてみます。
基本的に、銀行は、
結論をお伝えするなら、今から絶対に「親のお金」を把握しておいた方がいい。
この原稿を読んでいただいたのが吉日、ぜひ行動をおこしてもらいたいです。
でも。
親御さんは、いくら娘・息子でも、大きな抵抗を示すと思われます。
これも至極当然。
だって自分のお金のこと、誰にも話したくありませんよね。
ここで考え方を切り替えます。
「教えてくれない」のではありません。
「(まだ)教えるに値しない」と思われているのです。
親御さんに「自分の老後を視野に入れ、信頼できる子供に託す」と思われるかどうか。
これが問われているのです。
親御さんの信頼、ぜひ勝ち取ってください。勝ち取れる可能性があるだけいい。
我が家は突然だったので、信頼を勝ち取るか否かなんてやりとりさえも出来ませんでした。
信頼を勝ち取る一番の近道は、コミュニケーションの量だと私は思います。
どんどん親と揉めて、大事なお金のことを話し合ってください。
少々説教くさくなってしまいましたが(すみません)、ここまでしつこく書いているのは、お金の問題は本当に大変だからです。
我が家は、母と揉めることができませんでしたが、母のお金管理はきちんとしていて、苦手な私でも、なんとか把握できました。
引き継ぎなしで把握できるなんて正直思ってもいなかった。本当に母に感謝です。
入院手続きの際には、母の健康保険証の提示を求められました。
ええっと次回持ってきます、と病院に言い訳をし、急いで探すことに。
家に帰ると、親宛の書類の山。
もう何がなんだかわかりません。
母の病状は思わしくなく、何がどこにあるのか聞ける状態にない。
父に聞いても、母に頼り切っていたので、知らないという返事以外期待できない。結局、自分が親の情報を把握するしか解決の道はなさそうです。
であれば、いっちょやるしかない、と、再び覚悟を決めました。
親の銀行通帳探しに続き、第二回目の大漁り。
二回目ということで、私も視点をあげました。
今度は、「健康保険証探し」だけでなく、「親生活の全体像を把握し、生活設計を立てられる状態にする」という目的に切り替える。
そして、引き出しという引き出しを開け、全てを整理し、現状把握に努めることにしました。
家の権利書、保険証書、町内会の役員書類、送られてくる郵便物、趣味で作ったと思われる絵ハガキの数々。色々なものが出てきました。
これらを、夜な夜な全部広げ、分類し直し、ファイリングしました。
この経験が、大きかった。
大変でしたが、大まかな親生活の全体像が把握できたのです。
把握できただけではありません。
把握できたことが、自信と安心につながりました。
今までは何かあるたびに、「あれどこにあるんだっけ?」「これどこにあるんだっけ?」と慌てふためき、無理だとわかりつつも父に聞いて、不甲斐ない答えしか聞き出せないと言い争いをし、常にイライラしていました。
親生活の概要を把握した今、もう何かを聞かれても、どこにあるのか答えられます。
何がどうなっているのかがわかれば、どうすればいいのか判断がつきます。
父に何かを聞かれても答えることができ、父の心の安定につながります。
もちろん、探していた保険証の類も見つけることができました。
結局、私が把握できていなかっただけ。把握しようと動き出したら、母の管理・整理は美しく、とても把握しやすかった。これまた母に感謝です。
書類以外にも、例えば、母が入院する際には衣類の準備も求められましたが、衣類の整理も前向きに動けました。
これは余談ですが、蓋を開けてみると、タンスの中身はひどかった。母は、衣類の整理のセンスはなかったようです(苦笑)。母と父のものがごちゃまぜ、ぐちゃぐちゃでした。
結局、引き出し・収納器具にして20個あまりと、クローゼットのいくつかを全て整理し直しました。一度全て出し、母の分、父の分と分けて畳み直し、整理して再収納。そして中身がわかるようメモを貼り、父が困らないようにしました。
そして入院のための衣類セットを作りました。
これで、お金も、書類も、衣類も整理したことになります。
親の日常生活の概要は、大まかですが把握できました。
よしこれで、大抵の問題はなんとか解決できるだろう、と思いましたが…これが違った!
また新たな問題が浮上しました。
母が突然倒れ、介護を考えるにあたり、地域包括支援センターに相談しに行きました。
地域包括支援センターとは、国が進める「地域包括ケアシステム」の一環として作られている介護などを支援する組織。存在を知ったときは嬉しくなり、介護に関して困ったり、わからないことがある度に連絡をしていたほど。
すると、びっくり!
しばらくして地域の支援体制として情報共有がされたのでしょう、町内の民生員の方に伝わり、家に様子を見にきてくれたのです。
「大変でしたね。お母さん、大丈夫ですか。お母さんは、町内会の役員をしてもらっていたので、代行をたてて対応しようと思いますが、いいですか」
うわー、そこまで頭が回らなかった!
如何せん、町内会などの町内活動はまったく把握していない私。民生員の方に気にかけていただいて助かりました。
母の状態を話したところ、「すべてやっておきます」と言ってくれました。
すると、町内の仲間や母の友人に情報共有がされたのでしょう、ご近所さんや、お友達からぞくぞくと電話がかかってきました。
「お母さんとお琴を一緒に習ってたものです。お母さんが倒れたと聞きました。悲しいです。先生とお琴仲間には、私の方から連絡しておきます」
「お母さんと体操を習っていたものです。私、お母さんにお世話になって…。先生と体操仲間には私から連絡しておきます」
そうか、この方達にも連絡をしなければいけなかった!
中にはこんな連絡ももらいました。
「お母さんと以前職場が一緒だったものです。みんなでボランティアの一環として、舞台を観に行く約束をしていたのです。席の調整が必要なので、仲間には私から連絡しておきます。チケットの支払いはまだでしたのでダイジョブです」
わー、ボランティアの件は、うっすら母から聞いたことがあります、という状態。
こちらもまったく気づけなかった!
思えば、習い事や、約束など、どちらもお金が絡みます。
月謝などの支払いだけでなく、舞台などは席の確保、映画などはチケットなどの兼ね合いもあります。
もし、金券は全て母が預かっていた、という事態だったら、多大な迷惑をかけるところでした。
母は交友関係が広く、お勤め時代の友人、学生時代の友人、町内の友人、習い事の友人など、毎週誰かしら友人と会い、定年後の第二の人生を楽しんでいました。
定年後の人生を楽しめることがひとつのスキルだととらえると、母はたいしたもんだなーと日頃から感心していたくらいです。
母友人達にも母の件は伝えておいた方がよさそうです。でも誰に連絡をとればいいのか判断がつきません。それならば!と叔母たちに相談してみました。
すると叔母たちは、母からよく話を聞いていたようで、連絡した方がいい友人たちを教えてくれたり、学生時代の故郷の友人たちには連絡しておく、と言ってくれました。
これで一安心。叔母たちにも感謝です。
振り返ると、母の交友関係に対しては、私は明確な打ち手を講じていません。
地域包括支援センターに相談したことがきっかけで、町内民生員の方や、ご近所さんに伝わり始めました。
それから電話をもらったり、ご近所さんが家に様子を見に来ることが頻繁になった、という感じなのです。
母が倒れ、父も体調を崩していたので、このような気にかけてくれる行為や、声かけ、時にはおすそ分けをいただくなど、本当に助かりました。
これが、地域コミュニティや地域ネットワークの重要性か!
情報管理・漏洩問題なんてなんのその、こうして口伝えで広まり、支えようとしてくれる動きにつながっていることが、どれだけありがたいことか。
私はそれまで、「父に頼れない」ということで、全て一人で背負っている気になっていました。これが身体的にも精神的にも辛かった。
いままで地域・親族と疎遠だった私ですが、母が倒れたことをきっかけに、地域の支え、人の繋がりを実感できました。
時には母が倒れた悲しみを共有し…時には支えられ…これは私にとってとても大きなことでした。
本当に、皆さまに感謝です。
こうして、突然目の前に現れた数々の壁を必死に乗り越え、今があるわけですが、できればこんな大変なことになる前になんとかしておきたい。
事態が起きた時に一から動く、ということがどんなに大変か。最初にわかっていたらこんなことにはならなかったのに〜と思うことが多々あります。
それらをここに、事前に把握しておいた方がいい「親情報リスト」としてまとめてみます。
一般的なものとして「終活リスト」がありますが、いわゆる「終活リスト」は、就活する本人がこうしたい・伝えたい・伝えた方がいいという内容をまとめたもの。
ここでいう「親情報リスト」は、家族側目線で、知っておいた方がいいと思われる情報をまとめたもの、という違いがあると考えています。
【終活リスト】 【親情報リスト】
終活する本人がこうしたい、という目線で情報をまとめたもの。終活する本人目線。
親の入院・介護を視野に入れ、必要だと思われる親情報をまとめたもの。家族目線。
「親情報リスト」を整理してみたら「6カテゴリ」。
リスト項目は、イメージしやすくするために、一旦細かくあげてみます。
まずは「カテゴリ」と「まとめた方がいい理由」をおさえていただければ、リスト詳細はご自身の親御さんにあわせてアレンジする、ぐらいの大まかな捉え方でいいと思っています。
【親情報リスト】
カテゴリ1:お金まわり | |
---|---|
理由:入院・介護費用などの支払いのために把握 | |
・財布 | ・銀行口座 |
・通帳 | ・カード |
・暗証番号 | など |
カテゴリ2:健康まわり | |
---|---|
理由:突然の入院介護に備え、親の健康状態を把握 | |
・かかりつけ医 | ・持病 |
・処方薬 | ・バイタル |
・治療希望(延命措置希望) | ・運動機能の状態(体の不自由さの把握) |
など |
カテゴリ3:資産まわり | |
---|---|
理由:入院・介護・生活費の中でも、大きな費用捻出など、いざというときのために把握 | |
・家権利書 | ・有価証券 |
・生命保険(証書) | ・車保険証 |
・健康保険証 | ・介護保険証 |
など |
カテゴリ4:衣類まわり | |
---|---|
理由:入院・介護入居時対応のために把握 | |
・洋服 | ・下着 |
・アウター | ・鞄 |
・帽子 | ・マフラー |
・メガネ | など |
カテゴリ5:日常生活まわり | |
---|---|
理由:日々の生活や、支払いもの関連の把握 | |
・光熱費 | ・通信費 |
・食費 | ・親小遣い |
・保険料 | ・食事の好み、好き嫌い |
など |
カテゴリ6:習い事・交友関係まわり | |
---|---|
理由:必要事項の連絡のため、地域・友人のつながりを把握 | |
・習い事 | ・参加イベント |
・友人 | ・ご近所さん |
・町内会 | ・年賀状 |
など |
ちょっと多いですね。
「どれから手をつけていいかわからない」という方にオススメするとしたら…手始めに「入院セット」を作ってみるのはどうでしょうか。
・数少ない「事前準備か可能なもの」として、荷物をまとめておく
もしくは、
・まとめるまではしなくとも、どこに何があるかは把握しておき、いざという時にまとめられる状態を作る
というところから行うといいかもしれません。
入院をすると、歯ブラシ、タオル、院内用サンダルなどと諸々必要となりますが、それは入院してからと割り切り、事前情報として知っておいた方がいいという観点で「5つ」あげてみます。
1.お金…どこから入院費を賄うか
2.保証人…誰にするか
3.健康保険証…どこにあるか
4.衣類…どこにあるか
5.薬…今飲んでいる薬は何か
親にはいつまでも長生きして欲しいもの。
準備しすぎると、倒れる前提で話をする悲しさに苛まれ、縁起でもない、と思われるかもしれません。
ですが、「何もわからない」状態で一番困るのは、我々というより、親御さんです。
ここは「親のために」と割り切って、情報整理のために動くきっかけにしていただけたら幸いです。
・親は突然倒れる
・倒れてからの対応は大変なので、できる準備はしておいた方がいい
・「親情報リスト」で現状把握に努める
・特に「お金」まわりの把握は、親と揉めがちだが、揉めるのが当たり前だと割り切って、堂々と揉める
・一度で把握しなければいけないと思うと大変なので、時間をかけて、少しずつ「親情報リスト」把握していく、と考えるのも手
・できれば「この苦労はできるうちが花」と思って楽しめるのが理想
次回「お粥対応で介護施設入居が危うい!?『マトリクス』を使って『お粥問題』解決に挑む!」をお届けします。
(株)リクルートフロム エー、(株)リクルートに20年在籍し、副編集長・デスクとして10以上のメディアにかかわる。2012年に独立し、紙・WEBメディア設計、編集コンテンツ企画制作、クリエイティブ研修講師、クリエイティブ組織コンサルタントなどを請け負う。 国家資格キャリアコンサルタント/米国CCE,Inc. GCDF-Japanキャリアカウンセラーでもある。
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