お忙しいところすみません。かくかくしがじか……。と、いうわけで、私たちは「同じ趣味の人同士で楽しく暮らせる老人ホーム」の可能性について知りたいのですが、今現在、そういう老人ホーム、施設はあるのでしょうか?
「tayorini」をご覧の皆さん、はじめまして。ライターの藤谷千明と申します。
普段はヴィジュアル系バンドやバンギャル(ヴィジュアル系のファンの呼び名)についての記事を書いています。「介護」「老後」に関しては知識ゼロのド素人です。そんな私がどうして「tayorini」で連載をすることになったのか。
簡潔に申し上げますと、「バンギャル老人ホームを作りたい」からです。
あっ、ブラウザ閉じないで。もう少し順を追って説明しますと、バンギャルの友人たちとライブの後にファミレスや居酒屋で、バンドの話でワイワイ盛り上がるじゃないですか。そして感想戦が終わると、たいてい「なんとなく将来や老後が不安だ」という話になるんです。
私を含め周囲のバンギャルはだいたい30代なかばの女性、ライブ費用や生活費も自力で稼いでいけるけれど、じゃあ将来はどうなるんだろう? 独身の人もいれば結婚して子供がいる人もいる、でも女性の平均寿命の方が長いこともあって、どっちにせよ最終的には独り身になるのではないかという不安。正直年金も生きてるうちにもらえるかどうかもわからないし、“今は楽しいけど”どうしたらいいんだろう?
なんて答えのない不安でぐーるぐるしてしまいます。「なにか安心して暮らせる手段はないのかな」「じゃあ将来は皆で住んだらいいのでは? バンギャル老人ホームだ!」というオチになって、解散するわけです。毎回。
という話をバンギャル仲間である「tayorini」の編集者の大田さんにしたところ、「それを実際に調べてみてはどうか」と、この連載が決まりました。そんなわけで、同じくバンギャル漫画家の蟹めんまさんと、色々な介護業界の専門家に取材して、そのお知恵を伝授してもらいたい! ビバ! 趣味と実益!
と、前置きがずいぶんと長くなりましたが、「バンギャル老人ホーム」への道、お付き合いいただけたら幸いです。
第1回は、「tayorini」を運営している、老人ホーム検索サービス「LIFULL介護」の小菅さんに、「老後と趣味」をとりまく現状をイラストレーターの蟹めんまさんと共に伺ってきました。
お忙しいところすみません。かくかくしがじか……。と、いうわけで、私たちは「同じ趣味の人同士で楽しく暮らせる老人ホーム」の可能性について知りたいのですが、今現在、そういう老人ホーム、施設はあるのでしょうか?
結論から申し上げますと、ほぼ聞いたことがありません。
それは何故でしょうか?
現状、介護施設というのは、ご本人が選ぶのではなく、ご家族が選ぶことが多いんです。その場合は住みやすさや、スタッフの質など、安全に暮らせることが優先で、趣味に関しては二の次になりますよね。
たしかに。
介護が必要ない自立の方にむけた施設の場合ですと、社交ダンスやコーラス、ダーツやビリヤードなど、サークル感覚で楽しめるレクリエーションに力を入れているところもあります。
ただ、「うちでは芸人さんが毎日来ます!」とか「歌手の方が毎日コンサートします」とか、エンタメを全面に出した施設という話は、あまり聞いたことがありませんね。
施設側の事情としては、介護保険、つまりは税金を使って、どこまでレクリエーションができるのかという話になりますよね。歌手やタレントを呼ぶにしても、あまり高額な出演料になると、税金から捻出するのは不可能です。では、それをご家族が負担することになった場合、それを全員が納得するかというと……。
現状はそういう施設は難しそうですね。それでは、今後増える可能性はあるのでしょうか?
実は私、漠然とした老後の不安から介護資格(介護職員初任者研修)をとるために学校に通っていたことがあって、そこの先生が、「身の周りの介助はもちろん大切だけれど、趣味を充実させると幸福感はぐっと高まります。だから濃い趣味を持っている介護士と利用者さんは意気投合しやすく信頼関係も生まれやすい。」という話をされていたのが印象に残っているんです。介護のテクニックとは別に、共通の趣味で盛り上がれる施設や、介護士の需要が増えるのではないか、という。
例えばですが、「婚活」も流行り始めた頃と違って、最近は差別化をはかるためなのか、「ロック婚活」とか「オタク婚活」とか、趣味を押し出しているものも増えました。そのうち老人ホームも、漫画がたくさん読める「漫画オタク老人ホーム」、充実したシアタールームのある「映画好き老人ホーム」なんかも出てくるかもしれないじゃないですか。
映画好きの老人ホームなら、僕も入りたいですね(笑)。出てくる可能性はゼロではないと思います。趣味を続けているうちは、肉体的にも精神的にも「若い」と思うんです。なので、趣味は続けた方がいいとはいわれています。なので、そういう施設も増えていくかも……。というくらいしか今は言えませんね。
これも資格学校で聞いた話になってしまうんですが、施設に入っているおばあちゃんが、演歌歌手の氷川きよしさんのファンになったことがきっかけで、どんどん前向きになっていったという例が何件もあるんだそうです。「氷川くんのコンサートに行きたいから、この日までに手術を終わらせてリハビリもしなきゃ」とか、「氷川くんのコンサートに行くなら綺麗にお化粧しないと」とか、「氷川くんの最新情報が知りたいから、インターネットを勉強しなきゃ」とか……。
氷川くん(つい「くん」付けに……)、完全に人の人生を救ってるじゃないですか!
そうなんです、救いまくってますよ。「孫の力」ならぬ、「推しの力」です。介護士さんたちもあまりの回復力に「これがときめきの力か……!」と驚いていたそうです。趣味って、金食い虫かもしれないけど、生きがいでもあるんですよね。
「推しの力」で楽しく過ごせる老後、憧れますね。
今、施設にいる方々でも、単なる「リハビリ」では、なかなか進んでやってくれないんです。
リハビリ計画を立てる時にも、「これだけ足を動かせるようになりましょう」ではなく、登山が好きだった方に「またあの山に登れるようになりましょう」だとか、「あなたの夢を叶えましょう」と言うほうがモチベーションにつながるみたいです。
ほうほう、なるほど。お話を聞いていると、趣味を押し出した施設の存在も、将来的な需要はありそうな……?
「お金の出どころをどうするか」や、税金を使わないといけない面の問題が大きいのはよくわかるんですが、「あったら絶対楽しそうだな」という妄想はしてしまいますね。
じゃあそういう場所を将来的に自分たちで作れないか? と考えてしまうんです。
そもそも、「老人福祉法」では、高齢者が1人でも入居していて、身体介助や生活支援をしている場合は、定義としては「老人ホーム」なんです。
へっ?
行政に届け出していようがいまいが、「老人ホーム」とみなされます。
なんだってーー??
定義としては、そうなんです。老人ホームは入居者の安全のため、スプリンクラーや緊急時の避難経路などを整備する必要があります。この整備には多額の費用がかかることもあり、それを懸念して行政に届けを出さずに運営している老人ホームもあるんです。
開設のハードルがぐっと下がった…!
それに、老人ホームをつくるのに、わざわざ大きな建物を用意しなければならないというわけでもありません。空き家を改築して、小規模な老人ホームにするケースは結構あるんですよ。住宅街を歩いていても「ここ老人ホームなんだ」ってところ、ありませんか?
ありますね。マンションみたいな施設を想像しがちですけど、一軒家みたいな規模も多い。
仮に、相続した実家をバリアフリーに改築して、そこを老人ホームにするっていう事は可能なんでしょうか。
可能ですね。老人ホームは増えているけど、様々なニーズを満たせていないと考え、独立して自分の理想とする小規模な施設を作りたいという人も多いと感じています。
じゃあ、「バンギャル老人ホーム」も作ろうと思えばできるんですね(ガッツポーズ)。とはいえ、はずかしながら本当に知識がないので、そもそも「老人ホーム」にも漠然としたイメージしかないし、具体的にどういう場所なのか、あまりわかってないんです。なので、今回は、そういった知識も含めて教えていただけると嬉しいです。
大きく分けると、公営と民間の施設があります。公営にも「特別養護老人ホーム」や「介護老人保健施設」などいろいろあるのですが、今回は民間の話をメインにしたいと思います。大きく分けて「介護付き有料老人ホーム」と「住宅型有料老人ホーム」というものがありますが、どちらも同じ「有料老人ホーム」です。外観や内装では、まず区別がつかないと思います。
たしかに、写真を見てもわからないです。
何が違うかというと、人員体制や、廊下の幅だったりと、介護保険法で決められている色々な基準があるんです。そこに適合していて、なおかつ、都道府県市町村指定、認可を受けた施設が、「介護付き有料老人ホーム」と呼べるんです。行政上の区分けが異なるんです。
それだけ!?
他にも、「介護付き」は介護スタッフが内部にいるのに対し、「住宅型」は外部から介護スタッフを呼ぶ、という違いもあります。その他、細かい違いはたくさんあるんですが……、長くなるのでそこだけ覚えてください。
なるほど〜。他にはどんな施設があるんですか? 例えば他に名前を聞いたことがあるものは「グループホーム」です。「グループ」で「ホーム」というと、なんだか敷居も低そうなイメージがあります。
共同生活をする、みたいなイメージでしょうか。
学校で習いましたけど、確か認知症がある場合のみだったような……?
グループホームへの入居条件は、認知症の診断書がある方、介護認定で要支援2以上の方、そしてそのグループホームと同じ地域の住民票がある方。これが最低必要なんです。
結構条件があるんですね。
グループホームは家庭に近い環境のなか、少人数で共同生活をします。認知症だからといって出来ないことばかりではありません。生活の中へ介護スタッフが入り、支援を行いながら、買い物や調理など普通の暮らしをすることで、機能維持や認知症の進行をゆるやかにしよう、というコンセプトの施設です。もとは北欧で始まって、2000年代に日本でも増えてきたという流れです。
なるほど〜。
話を聞いていると、バンギャルみんなで老後、一緒に暮らすなら「サ高住」なんかが良いと思うんですが、どうでしょう。
サコッシュ?
絶対わざと間違えてますよね?
「サービス付き高齢者向け住宅」のことです。
めんまさんは知ってましたか?
はい、両親が「ゆくゆくはこういう施設に入りたい」と話してたので、存在は知ってます。バリアフリーになっている賃貸住宅ですよね。早めにそういう施設に入る選択肢もあるのではないかと、ちょいちょい口にしてますね。
「認知症相談」とか、特徴が施設ごとにあるんですね。これは心強いかも。
「サービス付き高齢者向け住宅」は、部屋がバリアフリーになっている上に、日中は介護資格を持った人が必ずいて、安否確認と生活相談が義務付けられている住まいです。括りとしては「賃貸住宅」なんですよね。
厳密には「老人ホーム」ではないんです。
いわゆる「介護度が高くなって施設に入る」という場合の場所ではないんです。
へえ〜。
基本的に、ここに入居される方は、介護認定がない方、または介護度の低い方が多いです。じゃあ「サービス」ってなんなんだというと、主に生活支援ですね。例えば、希望者には掃除や食事の提供があります。内部に介護スタッフはいないので、要介護になったら、外部から呼ぶことになります。この部分は、住宅型の老人ホームと同じです。
料金も、敷金が数十万円、月額が15~20万なら、普通の賃貸よりちょっと高い程度ですね。
有料老人ホームと比べると割安なので、入りやすいんです。年をとって1人で暮らすには不安だけど、まだ老人ホームや介護を受けるには早いというシニアの方にはぴったりですね。
まさにウチの両親のような。
国としても、「サ高住」の整備を促進しているようで、参入している業者にも国から補助金が出ています。そういう背景もあって、今後増える可能性が高い施設ですね。ただ、人員体制に決まりがないので、寝たきりや認知症になっても住み続けられるかというと、施設によってまちまちになってきます。
将来、「サ高住」なら入れそうな気がする……、そして作れそうな気もする……。「バンギャルサ高住」って作れないのかなぁ(ぽわわん)。
「お金があれば」できると思いますよ。
身も蓋もない。
う〜む、ではどのくらいお金がかかるんでしょう。さきほど、「自分の理想の施設を作った人がいる」という話をされていましたが、そういう人がもしいたら、お話を聞いてみたいですね。
そういう方なら、心当たりがあるかもしれません。
本当ですか? ぜひお話を聞きたいです!
施設画像提供:SOMPOケア株式会社、株式会社ナミキ
※画像は2019年3月時点のものです。
奈良県出身の漫画家・イラストレーター。小学生の頃V系バンドに目覚め、以後約20年をバンギャルとして過ごす。主な著書はバンギャル人生をネタにしたコミックエッセイ『バンギャルちゃんの日常①〜④』(KADOKAWA)。趣味はスーパー銭湯めぐりとプロレス鑑賞。
1981年生まれ。自衛官、書店員、DTPデザイナーなどの職を節操なく転々として、フリーランスのライターに。趣味と実益を兼ねたサブカルチャーの領域での仕事が多い。共著に「すべての道はV系へ通ず。」(シンコーミュージック)、「想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本」(サイゾー)など。
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