氷河期世代のライフプランを探るー40代アルバイト女性、実家を相続する場合

先が見えない、老後の世界。モヤモヤを晴らして可視化すると、今できることがわかるかもしれません。ライターの藤谷千明さんが「氷河期世代」と呼ばれる方の暮らしを取材し、専門家と共にライフプランを見通します。第2回は、40代でアルバイトで働く女性からのご相談です。

他人のつらさに厳しい言葉が飛び交うことへの危惧

就職氷河期世代の話は定期的にSNS上で話題になります。かつては、上の世代の無理解に対して抵抗したり嘆いたりするものが多かったけれど、最近は下の世代からの「氷河期世代は被害者意識が強いのでは」という意見に、「下の世代にこの辛さはわからない」と反論する、対立も目にするようになりました。

やれやれ、これからは下の世代からの突き上げ論も出てくるのか〜、と遠い目になります。とはいえ、コロナ禍以降を生きる若者の皆さんも大変だと思うんですよね…。人には人の乳酸菌…世代には世代の苦労…。

SNS上では、「他人(世代)の辛さや苦労」に対して厳しく、冷淡な意見が目立つような気がしています。私自身にもそういうところ、あるんですけどね。世代対立は盛り上がるコンテンツだから仕方ない、といわれると、それはそうなのだけど…。

ただ、わりと自分もそういうところあるんですけど、誰かに厳しい人って、自分自身にも厳しい傾向にあります。自分も辛いのにそれを認めることができず、自縄自縛になって声を上げることが難しいのかもしれません。だからこそ、他人に厳しい風潮が廃れていくといいなあ、と思っています。

今回は、自分自身の将来を不安に思っている私と同年代の女性のお話を伺いました。

彼女も「自分はまだマシかもしれない」と、様々な不安を言葉にすることが難しいのかも…ちと感じることがありました。私も含めて、いわゆる「氷河期世代」と呼ばれる人たちに共通する問題なのかもしれません。

だからこそ、ご登場いただいた方が抱えている不安は、他の方も抱えている、またはこれから突き当たる悩みかもしれません。そんな時の、未来の見通し方の参考になればと思います。

今回の相談者
Hさん
Hさん 40代女性。東京都在住。大学を卒業後、十数年前に発症した鬱の影響もあり、アルバイト勤務と自宅での休養を繰り返している。両親の持ち家であるマンションで暮らしている。兄が一人いるが、結婚して独立している。
藤谷さん
藤谷

今日は氷河期世代のライフプラン取材、よろしくお願いします。私とHさんはほぼ同い年ですね。

Hさん
Hさん

恥ずかしながら、これまで体調のことがありフルタイムで働いたことがなく、月に10万円以上稼いだ経験がないし、自分の貯金もできてないですし。精神科にも通っているけど、最近別の病気も発覚して…。正直将来に関しては不安しかないのですが…。

藤谷さん
藤谷

私も非正規雇用かバイトばかりで、記憶してる限りだいたい時給1000円代でしたね。Hさんの趣味は何ですか?

Hさん
Hさん

元々女性アイドルが好きだったんですが、好きだったグループは解散してしまい……最近はライブのために外に出ることもなくなって…。その分お金使わなくていいかな、みたいな(笑)。家でできる趣味、最近は人形の服を作ったりしてます。

藤谷さん
藤谷

なるほど。人形の洋服作りは長いんですか?

Hさん
Hさん

20年前くらいに一度ハマっていましたが、アイドル現場から足が遠のいた時期に再燃しました。あとはネットで「なろう小説」を読むのにハマっています。異世界ものが好きで、転生でも最初から異世界が舞台でも好きです。

藤谷さん
藤谷

ジャンル内に膨大な数の作品があって、掘っていくのが楽しそうですね。私はたまに漫画版を読んでいます。

将来への不安1:親とのコミュニケーション

藤谷さん
藤谷

ちなみに、一緒に暮らしていらっしゃるご両親とは、何か取材についてお話されましたか?

Hさん
Hさん

はい。勇気を出して親に老後や将来について聞いてみたら、「あなたが5年は暮らせるくらいのお金は残すつもりよ」と言われました。ただ、それがいくらなのかはわかりません。それ以上聞くのも気が引けるし…。

藤谷さん
藤谷

たとえば、年間100万円なら500万円、50万なら250万円ですもんね。お金のことは家族だからこそしにくい…というのもわかります。

Hさん
Hさん

両親とは仲は悪くないんですが、お互いの将来について話し合いの場を持とうとしても、あまり積極的ではなく…。特に父が年々、頑固というかコミュニケーションが取りづらくなってきていて、こっちが話しかけても「ああ」とか「うん」とかしか言わないんです。

藤谷さん
藤谷

歳を重ねた親と対話しづらくなるというのは分かります。この先のことを真剣に話したいのに「そういう縁起の悪い話はしないで」と話し合いを拒む親御さんの話、よく聞きますね。

将来への不安2:親の持ち家をどうするか

Hさん
Hさん

それと、気になっているのが住居の問題です。今は両親の名義のファミリータイプの分譲マンションに住んでいますが、両親の死後、このマンションをどうするべきかが分かりません。ローンは完済しているようで、立地が便利なこともあり、できれば住み続けたいですが、ファミリータイプが故に一人では広すぎるんですよね。

藤谷さん
藤谷

「親の家」を相続したところで、一人だと持て余しそうですし、誰かに貸すにも「大家」の経験なんてないし、損しない売り方も知らないし、想像つかないですよ、私は。

Hさんの現在の収支状況

遠山さん
遠山さん

こんにちは。ファイナンシャルプランナーの遠山です。人生にはいろんな羅針盤があると思うのですが、今回はお金のことを羅針盤にして人生を考えていく時間にできればと思います。
まずはライフプランを設計するために、現在の収入と支出、資産状況をお聞きしたいと思います。

1ヶ月あたりのHさん個人の支出

生活費の内訳
食費:2万円
雑費:2万円
趣味:1.3万円
携帯・通信費:1万円
交通費(バス代):420円
医療費:7千円

1年あたりのHさん世帯全体の収入と支出

【収入】
世帯主収入:120万
税・社会保険料:-30万
収入合計:90万

【支出】
生活費:85万

【資産・負債】
現預金:20 万
資産合計 :20万

Hさん
Hさん

今現在、私が払っているのは、自分の食事代と携帯代くらいです。服はあまり買っておらず、髪は千円カットです。医療費は、精神科は自立支援を申請しているので無料なのですが、実は昨年、健康診断を受けたら別の病気が発覚してしまい…。難病なのですが公的な支援対象ではないようで、診察と薬代で七千円かかっています。その通院のバス代です。ちなみに障害者手帳の3級を持っています。

藤谷さん
藤谷

「ここの出費を削りましょう」的な部分、見当たらない…。というかどの部分も無理して減らしてもストレスしかたまらないのでは…。

Hさん
Hさん

この記事を読んだ人が「この人は実家太いくせに努力してない」なんて思うんじゃないかと、不安になってきました。

藤谷さん
藤谷

「この人は親の持ち家があるし、恵まれている。なのに節約や努力をしてない」なんてね…。思ってたとしても、ネットの見える場所に書かないでほしいですね(祈り)。それに、反対にそういうふうに思ってしまう人って、自分が苦労しているときも「自分はマシ」って考えちゃって、声をあげることが出来ないかもしれない…。

遠山さん
遠山さん

どなたのご相談にも言えることですが、やりくりするために趣味や交際費を削るというのはおすすめしていません。何のために生活しているのか、という話になってきますからね。

Hさんのお金の見通しをグラフにしてみた

遠山さん
遠山さん

では、あまり考えたくないかもしれませんが、ご両親が亡くなった場合、どのくらい変化するのかをシミュレーションしてみます。現在の住居を売らないで住み続けた場合を考えてみます。

将来一人暮らしになった場合、生活費はどのように変化しそうですか?

Hさん
Hさん

大体これくらいでしょうか…?

Hさんにヒアリングした一人暮らしになった場合の生活費予想

食費:3万円
雑費:4万円
趣味:2万円
携帯・通信費:1.5万円
水道光熱費:2万円
交通費(バス代):5千円
医療費:1万円

遠山さん
遠山さん

ありがとうございます。さらに一人暮らしの場合の支出を見積もってみますね。
まず住居費用として、固定資産税や火災保険などをご自身で払うことになります。
あとは、家具家電や家の修理も必要になるので、10年間で50万円くらいはかかるとしますね。インフレ率などは考慮していない計算がこちらです。

Hさん
Hさん

結構…厳しいですね…。

藤谷さん
藤谷

もちろん必ずこの通りになるというわけでもないですが、現在いただいた情報からグラフを作るとこのような形になります。ここから、今できることを考えていけるといいですね。

Hさん
Hさん

やっぱり収入をあげることからですよね…。

春まで週4で接客のアルバイトをしていたんです。ただ、ちょっと社員さんと相性が良くなくて……。ぶっちゃけ、ハラスメントを受けているような状況になってしまい、体調のこともあって辞めてしまいました。

藤谷さん
藤谷

それは健康な状態でも辞めた方がいいやつですよ…。

遠山さん
遠山さん

働いて心身の健康を害してしまったら元も子もないので、できる範囲での就労が大前提ですが。久しぶりに働いてみて、何時間くらい働けるだとか、どんなお仕事ならコンスタントに続けられるとか、ご自身でなにか感じたことはありますか?

Hさん
Hさん

そうですね、立ち仕事や通勤が身体にかなり負担だとわかったので、週4日6時間程度の座ってできる仕事がいいなと思いました。雇用保険に加入できるくらいは働きたいので、ハローワークの障害者枠も視野に入れています。

藤谷さん
藤谷

では座って勤務できる接客の仕事があるといいですよね。個人経営の写真店の受付をしたことがありますが、そこは座って勤務できていました。

遠山さん
遠山さん

コールセンターやカスタマーサポートのお仕事も座ってできそうですね。

Hさん
Hさん

昨年、体調が悪く寝たきりになることが多かったので、仕事を始めるには、そもそも体力作りも必要そうだなと思いました。ウォーキングは始めたいと思ってます。

藤谷さん
藤谷

コツコツ続けられる運動が見つかるといいですね。私は最近ようやくランニングが続くようになりました。

 住居はダウンンサイジング、またはルームシェアを視野に。まずは家族との相談を

遠山さん
遠山さん

住居に関しては、相続したマンションを貸し出して、それで得たお金よりも安い賃貸にご自身が住むようにすると一人暮らしになった時の支出がそこまで大きくならないですね。Hさんご自身はどうお考えですか?

Hさん
Hさん

家のことは家族や兄もいるので、自分の一存ではどうしようもないですが…。親は「売っても貸しても好きにすれば」という感じで、兄も「私に」と言ってます。将来のことだから、どうなるかわかりませんけどね。それを前提にした仮定の話をするならば、藤谷さんのようにルームシェアをしたいと思っています。

藤谷さん
藤谷

説明させていただくと、私はオタク友達3人と賃貸一軒家でルームシェアをしています。今年で4年になります。わりと快適です。

Hさん
Hさん

一人で家を切り回せる自信がないので、藤谷さんみたいに友達と暮らすことができたらいいですよね。
例えば、この家自体にかかる月6万円を二人で割るとすれば単純計算で3万円。同じ価格の都内のアパートよりはいい住環境なので、一緒に住んでくれる友達がいれば…。

藤谷さん
藤谷

ふむふむ、私も最近「実家相続するからあなたみたいに友達とシェアしたい」「2世帯住宅を相続するから、いつか藤谷さんのルームシェアそこでやらない?」的に、お声がけいただくことはありますね。後者は冗談だと思いますが(笑)。実家を相続して友達とルームシェアしたいという人はこの先増えるのでは。それがどのくらい実現性があるのかは、まだ未知数ですが…。

Hさん
Hさん

どうするにせよ、両親や兄との話し合いが必要そうです。

遠山さん
遠山さん

こちらのシミュレーションのグラフをお渡しするので、もしよろしければご両親と、今までできなかった将来の話をするきっかけとしてお使いください。

Hさん
Hさん

そうですね、今回の相談をきっかけにして、もう一度両親と話し合ってみたいと思います。

イラスト/蟹めんま

奈良県出身の漫画家・イラストレーター。小学生の頃V系バンドに目覚め、以後約20年をバンギャルとして過ごす。主な著書はバンギャル人生をネタにしたコミックエッセイ『バンギャルちゃんの日常①〜④』(KADOKAWA)。趣味はスーパー銭湯めぐりとプロレス鑑賞。

藤谷千明
藤谷千明 ライター

1981年生まれ。自衛官、書店員、DTPデザイナーなどの職を節操なく転々として、フリーランスのライターに。趣味と実益を兼ねたサブカルチャーの領域での仕事が多い。共著に「すべての道はV系へ通ず。」(シンコーミュージック)、「想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本」(サイゾー)など。

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