高齢ドライバーはみんな免許返納すべき!? 自動車と高齢者のいい付き合い方を考える

近年、よくニュースで取り上げられるようになった高齢ドライバーの自動車事故。「高齢の家族、親戚がいつまでも自動車免許を持っているのは、なんとなく不安……」と考えている人も多いのでは。

ライターの藤谷さんとイラストレーターの蟹めんまさんも例外ではないようで……。

高齢者"だから"危険な運転をする?

めんま
めんま

最近、うちの父が自動車免許を返納したんですよ。

藤谷
藤谷

「免許返納」ってやつですね。何がきっかけだったんですか?

めんま
めんま

やっぱり高齢者の事故のニュースもあって「自分もいつか……」と心配になったと。

藤谷
藤谷

なるほど~。私も東京に住んでいる親戚がいて、90代の女性なんですけど、最近「ドライブに行きましょう」と誘われましてね……。

めんま
めんま

え? それは藤谷さんの運転で?

藤谷
藤谷

いいえ、90代の親戚の運転です。私も最近まで知らなかったんですが、素敵なMT車をお持ちでしたね。

めんま
めんま

ええーーー、きゅ……90代で運転はさすがに危なくないですか……!?

藤谷
藤谷

う~ん、そりゃ私もそう思うんですけど、どうやら大変ドライブがお好きなようで。「最近は世間が年寄りの運転に冷たいから」とかボヤいているのを見たら、強く言い出せなくて。それに私は遠い親戚だから、あんまりゴチャゴチャ言うのも差し出がましいというか……。

めんま
めんま

でも何かあったら遅いですよ。

藤谷
藤谷

そうなんですよね……。

めんま
めんま

ハッ、これって連載の企画になりそうですね。

藤谷
藤谷

親戚付き合いと実益を兼ねた企画提案! というわけで、今回は免許返納についての取材にしたいんですよ。

編集部・大田さん
編集部・大田さん

なるほど。でしたら「NPO法人高齢者安全運転支援研究会」の平塚さんに話をうかがってみるのはどうでしょう。

藤谷
藤谷

ぜひぜひ!

今回のtayoriniなる人
平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚雅之 (ひらつか まさゆき) 特定非営利活動法人 高齢者安全運転支援研究会・事務局長
一般社団法人日本自動車連盟(JAF)に約26年在籍したのち、2012年の研究会発足に尽力し2013年より現職。
自動車の使用環境に対し、ユーザーの視点から問題提起する。
近年は、特に高齢ドライバーと認知機能の問題に対し、独自の調査研究に基づき意見を発信している。
日本認知症予防学会の認定資格である「認知症予防専門士」でもある。
1958年生まれの62歳
藤谷
藤谷

というわけで(2回目)、高齢者の方に対してどのように免許返納を促すべきか、教えてほしいんです~。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

なるほど。まず皆さんに質問があります。

めんま
めんま

質問に質問を返されてしまった!

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

「高齢者の運転は危ない」って思います?

藤谷
藤谷

う~ん、数年前に大きな事故の報道もありましたし、やっぱり不安になってしまいます。

めんま
めんま

祖父母や両親自身の怪我も怖いですが、人生の終盤に誰かを傷つけてしまうようなことにはなってほしくないです。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

では具体的に、ご家族、ご親戚の運転の「なにが危ないか、どこが危ないか」は説明できますか?

藤谷
藤谷

ウッ!

めんま
めんま

……私に至っては運転免許を持ってないので何も説明できませんね……。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

皆さんは、ニュースなどの影響もあって「高齢者の運転は危ない」という先入観で見てしまっている。もちろん、大前提として危ない運転をする人は免許を持ち続けてはいけない。けれど、それと年齢は関係ない。このグラフは、年齢層別に10万人あたりの交通事故件数を出した、平成30年の警察庁の統計ですが、若い人の方が多いんです。なのに「若者は免許を返せ!」とは言わないでしょ。それはバイアスです。

原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別免許保有者10万人当たり交通事故件数(平成30年中)

出典:平成30年中の交通事故の発生状況(警察庁:https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00130002&tstat=000001027457&cycle=7&year=20180&month=0&stat_infid=000031800894&tclass1val=0)
めんま
めんま

言われてみたら、それはたしかに……。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

うちのNPOは、この超高齢社会で長く安全に社会生活を営めるよう調査研究をしている団体なんですね。

運転する高齢者がたくさんいる超高齢社会では、大多数の人が普通に運転しています。だからこそ、もう少しフラットな目線で高齢者の運転を考えてもらわないと、高齢者の方も納得しないですよね。ただただ「高齢者だから危ない」「年を取ったら絶対免許を返せ」と押し付けることはおかしいんです。

めんま
めんま

完全に先入観で見てしまっていました。

藤谷
藤谷

頭ごなしに「あなたはもう一生ライブに行けません、なぜなら社会の迷惑なので!」なんて言われたら、きついなあ。

めんま
めんま

自分も15歳くらいのときに、親から「危ないからライブに行くな」とか死ぬほど言われました。そのときに「危ないって言うなら一度現場を見て何が危ないのかちゃんと説明してくれ!!」って思いました。大人になって、あのやるせなさを忘れていました……。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

ね。だから「年だから危ない、もう運転をやめろ」って言われても、高齢者も納得するわけないでしょ。

現在の免許制度と高齢ドライバー

藤谷
藤谷

そもそも現在の免許制度では「危ない運転」をする人を見つけるためにどのような制度があるのでしょうか?

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

今は免許更新のときに、70歳以上が「高齢者講習」を、75歳以上は「認知機能検査」を受けることが必要になります。認知機能検査を経たあとは、結果により3つのクラスに分けられます。

第一分類
認知症が疑われるため、運転免許を継続して持つためには医師の診断書が必要になる方。認知症と診断されると免許取り消しに。

第二分類 
医師の診断書は不要だが、認知機能の衰えが認められ、要注意とされる方。免許更新期日前に3時間の高齢者講習を受講する。さらに教習所で実車による運転チェックを受ける。

第三分類 
認知機能に問題がない。免許更新期日前に2時間の高齢者講習受講が必要。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

この制度は動き出してからまだ数年しか経っていません。毎年認知機能検査を受けている人は、およそ200万人。その中で3%弱が第一分類になります。

大田
大田

およそ4〜5万人が「認知症の恐れがある」と判断されるんですね。そして運転を続けるには、認知症かそうでないかを示す医師の診断書が必要になると。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

ただ、その中で45%(※)の人が、診断書を取る前に自分で返納しちゃうんです。

(※平成30年警察庁 認知機能と安全運転の関係に関する調査研究報告による)

めんま
めんま

お医者さんの診断の結果によって免許を失ってしまうよりは、自分から返したほうが精神的なショックは少ないということでしょうか。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

そうですね。家族や周囲から「認知症」ってレッテルを貼られたくない高齢者は多いと思います。プライドがありますから。

それと免許更新のときだけではなく、75歳以上の方で一定の違反行為を行うと、臨時認知機能検査を受けることにもなっています。また、2022年の6月までに導入される予定ですが、対象となる項目の違反歴がある75歳以上のドライバーは、免許更新時に実車での運転技能検査が課されることになりました。クリアできなければ更新できません。

藤谷
藤谷

じゃあ、仕組みは充実してきているってことですね。危ない運転をする人は免許継続できないし、逆に言えば高齢になっても安全な運転をする人は胸を張って継続できる。

大田
大田

免許がなくなった後のサポートも充実してきていますよね。地域によっても違うんですが、免許を自主返納すると「運転経歴証明書」がもらえて、タクシーでそれを見せると10%オフになるようなサービスをやっている行政もあるらしいです。

めんま
めんま

うちの父も返納したときにタクシークーポンをもらったと言っていました。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

ただ、免許の「取り消し処分」になった人は「運転経歴証明書」はもらえないんです。診断書をもらう前に自主返納するならもらえるけど、認知症と診断された書類を提出すると「自主返納」ではなく「取り消し処分」だから、特典を受けるための証明書をもらえない。

めんま
めんま

理不尽ですね。「取り消し処分」のほうが車に乗れない喪失感は多そう。例えばライブで、わざとじゃなく何かとんでもないことをやらかして出禁になってしまうのと、自分からライブに行かないと決めるのでは、精神的ショックがぜんぜん違う。

安全な運転の工夫から、自主的な返納まで。高齢ドライバーの家族とどう向き合う?

藤谷
藤谷

では、どこかで自分で返納を決めるのが理想的ではありますね。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

今の免許制度って、免許を取るときに「こんな状態になったら免許を返納する」という基準を教えていないんですよね。返納自体は1998年に導入された制度なので。

めんま
めんま

それはうちの父も言っていました。いずれ手放す物って言われてないし、そんな感覚もなかったと。

藤谷
藤谷

まだ四半世紀くらいしか経ってないんですね。

めんま
めんま

制度や社会の変化に人々の気持ちが追いついてないのかもしれないですね。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

今の高齢者は高度経済成長を支え、車社会の発展とともに生きてきた人たちです。そういう人たちは「免許を取って車を持つこと」自体にすごく思い入れがあるんです。

藤谷
藤谷

どうやって自主返納を促せばいいんでしょうか。めんまさんのお父さんはどんな経緯で返納したんですか?

めんま
めんま

私の父は今73歳なんですけど、池袋の事件の報道を見て「加害者になってはいけない」と思ったのがきっかけで、72歳のときに返納しました。

藤谷
藤谷

やはりあの事件の影響は大きいんですね。

めんま
めんま

それと、父の父、つまり私の祖父も80代で免許を返納しているので、自分もいつかと思っていたそうです。とはいえ、すごく迷ったようなのですが。

藤谷
藤谷

車がないと生活が不便ということはなかったのですか。

めんま
めんま

昔は駅から徒歩1時間の場所に住んでいて車なしでは生活できませんでしたが、11年前に駅から徒歩3分の場所に引っ越したんです。近所にスーパーや大きな商業施設もあるので、ここで10年以上暮らした結果、車がなくても生活できる確信が持てたから、免許を手放す気持ちになったそうです。

藤谷
藤谷

なるほど。きっかけは事件だけど、それまでの11年があってこそですね。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

私の知っている事例で、返納までに7年かかった方がいました。7年間、家族と免許について揉めていたんだけど、最後はご本人が物損で事故を起こしたことがきっかけで、自主返納したそうです。

藤谷
藤谷

7年! やっぱり時間がかかるものなんですね。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

ご家族のお迎えに行ったり、あるいは行楽に出かけたりと、ドライバーにとって免許には思い出や家族を支えてきた自負が詰まっていることが多いんですよ。それなのに、家族から今までへのリスペクトがなく「迷惑だからやめて」と言われれば、けんかになるのは当たり前です。

藤谷
藤谷

でも日常生活ですぐ転んだり、物忘れが多かったり「衰えが出てきたな……」となれば、家族としては自動車との付き合い方を相談したいとは思います。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

切り出し方として、これまでへの感謝を表しつつ「最近体の調子はどうなの?」と労る気持ちを糸口にするのがいいでしょう。そこでもし気になることがあるなら、安全に運転を続ける解決策を一緒に考えてみましょう。

めんま
めんま

労りの気持ちから入れば確かに聞いてくれそうですね。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

通勤通学の時間帯はどうしても自転車や歩行者が増えるから、運転を避けるとか。病院に行くのに使っているなら、駐車場が空いている時間帯に行くとか、色々な工夫が考えられます。
もし持病があるなら、それに合わせた提案をするのがいいですね。白内障があるなら、太陽や夜間のヘッドライトが眩しい時間帯は運転を避けることを提案するとか。

ドライブレコーダーの取り付けもすすめてみましょう。客観的な事実を捉えるものですから。記録された映像を一緒に見て「ちょっと危なかったね。このときはどうしたの?」と問いかけていくと、ご本人もだんだん「危なくなってきたな」って自覚が出てくる。そこでやっと「家族もサポートしていくから、返納を考えてみようか」という話ができます。

めんま
めんま

安全な運転のサポートをするつもりで話していって、返納は客観的な事実をもとに相談すべきってことですね。

藤谷
藤谷

親との密なコミュニケーションが大事になってくるんですね。う~ん、私はそれがちょっと苦手で……。離れて暮らしているんですが、頻繁に連絡を取ったりはしてないんですよね。そんな場合、何から始めたらいいでしょうか。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

例えば盆暮れに帰省することがあるなら、運転席側に傷がないか確認してみてください。運転席の反対側は死角だから多少こすることがある。だけど運転席側がベコベコだと認知機能が衰えているので、周囲と相談して検査をすすめてみてはいかがでしょう。

連絡を取るときには、メッセージアプリよりも電話してみるのがおすすめですよ。会話が続かないとか、気付けることが増えますから。

運転という「趣味」を諦めることになったら-代わりになるものは?

藤谷
藤谷

車を移動手段として使うだけでなく、運転自体が趣味になっている人だと、納得して返納しても喪失感はすごそう……。ドライブとか車いじりが趣味って人いますよね?

めんま
めんま

私たちはこの1年以上、コロナ禍によってライブを奪われてきたわけですから。そうすると、免許を奪われたと感じる高齢者の気持ちも少しはわかるような……。

運転そのものが趣味の場合、車に代わる趣味でおすすめのものってないですかね。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

最近はゲームで非常によくできたものがたくさんあってね。実在するコースを走ったりいろんなパーツがあったり、グラフィックもかなりリアルなんです。
うちの団体の理事長も死ぬまで免許返したくないってタイプだから(笑)、シミュレーター代わりにいろんなゲームソフトを試していますね。

めんま
めんま

私たちがオンラインでライブ参戦する感覚に近いですかね。100%代わりにはならないけど、選択肢があるのは救いです。

藤谷
藤谷

うちの父も「もうスロットには行かない」といって、一時期その代わりにドラクエのカジノをやっていましたね(笑)。

平塚雅之 (ひらつか まさゆき)
平塚さん

教習所は私有地だから、たまに免許返納した人たちのために開放してくれるとか。あるいは自動車メーカーの私有地で運転できるような「もう一度運転を体験できる」サービスがあるといいかもしれませんね。

めんま
めんま

そういうふうに、いろんな楽しみ方ができるようになったらいいですね。

2021/07/29

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イラスト/蟹めんま

奈良県出身の漫画家・イラストレーター。小学生の頃V系バンドに目覚め、以後約20年をバンギャルとして過ごす。主な著書はバンギャル人生をネタにしたコミックエッセイ『バンギャルちゃんの日常①〜④』(KADOKAWA)。趣味はスーパー銭湯めぐりとプロレス鑑賞。

藤谷千明
藤谷千明 ライター

1981年生まれ。自衛官、書店員、DTPデザイナーなどの職を節操なく転々として、フリーランスのライターに。趣味と実益を兼ねたサブカルチャーの領域での仕事が多い。共著に「すべての道はV系へ通ず。」(シンコーミュージック)、「想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本」(サイゾー)など。

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