高齢の親が肝臓がんになったら――専門医が解説する、治療の選び方

今回は肝臓がんのお話です。肝臓は血流が豊富な臓器で、肝臓がんには以下の2種類があります。

●原発性肝がん:最初から肝臓にできるがん

●転移性肝がん:他の臓器にできたがんが血流に乗って肝臓に生着し、増殖したがん

原発性肝がんなのか転移性肝がんなのかでどのように治療していくかの判断は異なりますが、その治療法は共通する部分が多いです。

まずは、どちらのがんにおいても共通する治療法を説明しましょう。最後に原発性肝がんと転移性肝がんそれぞれの治療法選択のポイントを見ていきます。今回も自分の親御さんにとって最適な治療の選択肢を知ることを目標としましょう。

今回のtayoriniなる人
上松 正和
上松 正和 九州大学医学部卒。放射線科専門医。国立がん研究センターを経て現在は東京大学病院で放射線治療を担当。無料動画で医療を学ぶ「YouTubeクリニック」では「10分の動画で10年寿命を伸ばす」を掛け声に30-40代の方やがん治療に臨む方へ向けた日常生活や治療で役立つ医療話を毎日配信中。

沈黙の臓器「肝臓」

肝臓は有害物質の分解・除去やタンパク質の合成のほか、糖質をグリコーゲンにかえてエネルギーを貯蔵してくれる臓器です。解毒や貯蔵といった、生きていく上で重要な機能を果たしています。

その重量は約1kgと大きく、多少の損傷ではびくともしないため、沈黙の臓器と言われています。ただしひとたび機能が失われてしまうと生命を維持することはできません。肝臓がんの治療をする場合も、この機能が失われない方法を選びます。

肝臓がん治療の第一は手術

肝臓に腫瘍ができた場合、最も完治の可能性が高いのは腫瘍を肝臓の一部と共に切除する手術です。最近は、腹腔鏡での手術も可能になってきており、体への負担は減りつつあります。

ただし、手術ができる状況は限られています。太い血管を巻き込んでいるとできないですし、肝臓に出来た腫瘍の個数が多くても手術できません。また手術で肝臓の機能が一時的に下がってしまうため、がん発覚の際に肝機能が悪くなっている場合も手術はできなくなります。

原発性肝がんの場合、背景にウイルス感染やアルコールを原因とするアルコール性肝炎など抱えた結果、肝臓がんができることが多いです。そのため肝臓がんが発覚したときには、すでに手術ができない状態まで肝臓が傷んでしまっていることも少なくありません。

最近はウイルス感染によるものでも、アルコールによるものでもない肝炎(NASH)も増加しています。どのような方でも、原発性肝がんができたときには、すでに手術ができない場合があるのです。

手術ができない場合の治療法とは

手術ができない場合の治療法として、以下の2つが挙げられます。

治療法 特長
RFA ●手術と比べるとかなり負担が軽い
●1週間程度の入院で済む
放射線治療 ●RFAの治療成績と同等か、それを上回る成績が出ている
●3回から10回の外来治療(1回あたり10分程度)で済む

手術に代わる治療法①: RFA

肝臓がんに対する手術に変わる方法のひとつがRFAです。radiofrequency ablationの略で、ラジオ波焼灼術と訳されます。電流を流すと熱を発生する針を腫瘍に刺して、腫瘍を熱で壊死させる方法です。

手術のようにお腹を開ける訳でもなく、肝臓を切り取るわけでもないので手術と比べるとかなり負担が軽い治療といえるでしょう。全般的に手術の方が治療成績は良いですが、中には手術と同等という報告もみられます。

ただし、太い針を刺すので施術後は数時間ベッドで安静にしなければなりません。熱で周囲の正常な組織も凝固させてしまうため、疼痛や吐き気、発熱などがあり、症状の増悪や焼き残しがないかの検査も含めて1週間程度の入院を必要とします。

体力の落ちた高齢者にはそれなりに負担があるのも事実です。

手術に代わる治療法②: 放射線治療

放射線治療の技術は年々高度になっています。

日本肝臓学会が出版している「肝癌診療ガイドライン2017年版」には、患者さんが受けるべき標準治療として手術あるいはRFAが掲載されています。そして放射線治療は、それらの治療を受けられない場合に受ける治療として記述されていますが、実はその情報も古くなりつつあるのです。

近年相次いで放射線治療がRFAの治療成績と同等か、それを上回る成績が出ていると報告されています(*1,*2)。すでにアメリカのNCCNガイドラインでは、放射線治療はRFAと併記されているのです。

近く日本のガイドラインでも放射線治療が有効な治療法として記載され、定着することが想定されるでしょう。

放射線治療であれば、3回から10回の外来治療(1回あたり10分程度)で済むことも魅力です。
 

放射線治療機器は何を選ぶか

放射線治療をするとしても、それぞれの病院が持つ治療機器によってできる治療が変わります。

しかし、そこまで神経質になる必要はありません。肝臓がんは前回の膵臓がんと違い、そこまでの精度を必要としないからです。もちろん肝臓がんができた部位にもよりますが、基本的な機器があれば治療できます。

ただし、もしも治療機器を選べる環境があるなら以下を検討すると良いでしょう。

サイバーナイフ

●定位放射線治療専門機

●あらゆる角度からX線を照射することが可能

●特に腸管などなるべくX線を当てたくない臓器が腫瘍の近くにある場合に有効

所有病院例:国立がん研究センター中央病院

MRIリニアック(MRIdian、Elekta Unity)

●MRIで腫瘍を確認しながら照射が可能

●肝臓は横隔膜の下にあり呼吸移動が大きいため、照射中に腫瘍が確認できるメリットは大きい

●余計な部位に照射されないため、肝臓への毒性も低い

●一部施設では自由診療で治療されるため注意が必要

所有病院例:国立がん研究センター中央病院、千葉大学付属病院

腫瘍が大きい場合の放射線治療の選択肢

放射線治療の副作用のひとつが肝障害です。

肝臓は大きいため、腫瘍周囲の正常な肝組織がX線によりやられてしまったとしても、ほとんど自覚症状がなく、生活にも支障はありません。しかし、ターゲットとなる腫瘍が大きくなればなるほど正常の肝組織がやられてしまい、生活に支障が出てしまうので注意する必要があります。

また5cmを超える肝臓がんへの放射線治療は保険適応外です。その場合は陽子線重粒子線を検討しましょう。この2つは一箇所に集中して放射線を当てられる特性を持つため、正常な肝組織にあたる放射線の量がぐっと減ります。

ただし、陽子線も重粒子線も先進医療の扱いになり、保険外で300万円程度を支払わなければなりません。

所有病院例:国立がん研究センター東病院、QST病院(旧放射線医学総合研究所病院)

(左が陽子線、右がX線。赤が高線量で青が低線量。X線では当てたい腫瘍以外にも多くの放射線が当たっている様子がわかる)(*3より引用)

状態ごとにおすすめの治療法

さて、実際に自分の親が肝臓がんになったらどうするか、状態ごとにおすすめの治療法を解説します。

状態 おすすめ治療法
肝臓機能が良好で元気 ●手術
少し体力が衰えている

●サイバーナイフ
●MRIリニアック

5cm以上の腫瘍がある
または肝臓機能が悪い
●陽子線
●重粒子線

原発性肝がんの場合

もし親が元気で肝臓の機能も良好ならば手術を選びます。やはり現段階では最も良い成績を出しているのが手術だからです。

少し体力が衰えているなら、サイバーナイフかMRIリニアックをおすすめします。RFAだと入院や疼痛などによる体力低下が懸念されるからです。

MRIが付いていない通常のリニアックでも治療は可能だと思います。もし近くに該当する良い病院がなかったり転院が面倒だったりする場合は、通常のリニアックでの治療を選ぶとよいでしょう。保険診療であることも魅力です。

5cm以上の腫瘍の場合、あるいは肝機能が相当に悪い場合は、陽子線か重粒子線を選びます。やはり最も毒性が少ないからです。

陽子線と重粒子線のどちらを選ぶかは微妙なところで、理論上は重粒子線の方が効果的と思われます。しかし、エビデンスが蓄積しているのは陽子線です。どちらであっても、肝臓がんの治療に慣れている施設であれば良いと思います。

肝臓がんが小さい段階でも、陽子線か重粒子線どちらかを選べばいいのでは、というご意見もあるでしょう。実際にRFAより陽子線の方が優れているという報告もあります(*4)。

しかし先述の通り、陽子線と重粒子線は先進医療の扱いとなるため治療費が高額です。お金に関わることですので、ご家族とご相談いただくとよいでしょう。

転移性肝がんの場合

転移性肝がんの場合も、同様の手法で治療ができます。ただし少し違うのは、その治療法を行って意味があるかどうかです。

例えば卵巣がんの肝転移の場合は腫瘍量が減るだけで効果がありますので積極的に治療を行いますが、膵がんの肝転移の場合はCTやMRIでわかる腫瘍が肝臓だけであっても、他の臓器にがん細胞が潜んでいる場合が多く、肝障害のリスクをとってまで治療はしないことが多いです。

治療は手術にせよ放射線治療にせよ何らかの副作用を伴います。その副作用やリスクがあったとしても、ベネフィットが上回る治療方法を選択するとよいでしょう。

最適な治療法の選択を

肝臓がんに対する治療は他にも色々ありますが、ここでは放射線治療についてどこのメディアよりも詳しく解説しました。

実際は、肝臓がんの状態、肝機能や本人の状態によって適切な治療はさまざまです。こういった選択肢があるのだと知りつつ、親御さんの意志も確認しながら主治医とよく話し合って決めましょう。


 

*1 
Yang-Xun Pan:Stereotactic Body Radiotherapy vs. Radiofrequency Ablation in the Treatment of Hepatocellular Carcinoma: A Meta-Analysis: Front Oncol.: 2020 Oct 29

*2
 JeongshimLee : Comparisons between radiofrequency ablation and stereotactic body radiotherapy for liver malignancies: Meta-analyses and a systematic review:
Radiotherapy and Oncology April 2020, ,

*3 
Smith Apisarnthanarax: Proton Beam Therapy and Carbon Ion Radiotherapy for Hepatocellular Carcinoma: Semin Radiat Oncol : 2018 Oct

*4
Tae Hyun Kim: journal of hepatology: October 05, 2020
Proton beam radiotherapy vs. radiofrequency ablation for recurrent hepatocellular carcinoma: A randomized phase III trial
 

上松 正和
上松 正和 放射線科専門医

九州大学医学部卒。放射線科専門医。国立がん研究センターを経て現在は東京大学病院で放射線治療を担当。無料動画で医療を学ぶ「YouTubeクリニック」では「10分の動画で10年寿命を伸ばす」を掛け声に30-40代の方やがん治療に臨む方へ向けた日常生活や治療で役立つ医療話を毎日配信中。

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