骨転移の痛みは放射線治療で軽減される?患者さんにも家族にも優しい治療を

前回はがんの治療とセットで知っておきたい緩和ケアのお話でした。

がん治療においては痛みや吐き気など、がんそのものの痛みや治療に伴う副作用によって苦しむことが少なくありません。患者さんとお話しする中で「治療したいけど痛いのは嫌だ」や「死んでもいいけど苦しいのは嫌だ」と痛みや苦痛に対する忌避感は死そのものよりも強く感じられることが多々あります。

ただ、緩和ケアの発達によって、こうした苦痛はだいぶ抑えられるようになったので我慢はしないで是非緩和ケアを頼って下さいという内容でした。

緩和ケアと相性が良い放射線治療

実は放射線治療は緩和ケアとしても優秀な治療の一つです。近年の放射線治療技術の進歩は目覚ましく、痛みや苦痛を感じさせずに完治させる照射法も発達し、転移などで完治が難しくなってしまったがんにも副作用の心配なく疼痛や苦痛などを取り除く効果をもたらしてくれます。

治療自体も以下のような機械に10分程度寝るだけで、放射線を当てている間は何も感じません。

照射される放射線を感じることもありませんし、手術のように皮膚を切開することもなければ、点滴の針を刺すことすら必要がないため、本当に治療されたかどうかも疑わしく思われる方もいますが、その苦痛を取り除いてくれる効果は後から実感することになります。

著者撮影

がんは骨に転移しやすい

がんが痛みを引き起こす場合、骨に転移をしてしまったパターンが多いです。がんが転移をしやすい臓器は血流が集まりやすい肺や肝臓が多いですが、その次に多い転移先が実は骨です。

おおよそ根治しきれなかった癌を持つ人の半数は骨転移を起こすので、もしご自身が介護されている親御さんが、がんを患っていて腕が痛いとか腰が痛いとか急に訴え出したら、それは骨に転移した可能性があります。

骨に転移をすると、がんは骨の中で増殖してしまうので、ぶつけたり衝撃を当てなくても骨が折れたりヒビが入ってしまい痛みを起こしてしまうのです。

親御さんの骨転移を疑ったら

まずはもう高齢だからと諦めないでいただきたいところです。がんをお持ちの場合、通常は痛みのコントロールで麻薬を使われることが多いですが、その使用には注意が必要です。

医療用の麻薬は中毒性などなく疼痛も強力に抑えてくれたりと、一般の方々が想像するよりはずっと良い薬ではあるのですが、一方で麻薬は量を増やすと吐き気が出てきたり、便秘になったり、眠気を起こしたりと痛み以外の困った副作用を起こしてしまいます。

完治できないがん患者さんの場合、確かに余命が通常の寿命よりも短くなり、諦めがちになって麻薬だけで済ませてしまうことが多いのですが、余命が短いからこそ気持ち良く生きられる時間を長くすることが大事だと心を切り替えて痛みのケアを丁寧にしていただければと思います。

骨転移の痛みによく効く放射線治療

骨転移に対する痛みに対して放射線治療を行うとおおよそ7~8割の患者さんに鎮痛効果が見られます。また、3割程度の患者さんは痛みが全くなくなってしまうため、痛みに対する治療としてはかなり優秀です。

麻薬の副作用で気持ち悪さや眠気などを起こしていた患者さんも麻薬の量を減らすことが出来て元気な生活を取り戻せるようになった患者さんも多くいらっしゃいます。この骨転移は女性で一番多い乳がんや、男性で1番多い前立腺がんで特に起こりやすいので、放射線治療は多くの患者さんの味方になってくれます。

介護する家族にも優しくなった放射線治療

また、今までの痛みを取り除くための放射線治療はおおよそ弱い放射線を10回(10日間)当てることが多く、加えて放射線治療をするためのC Tを撮像する日も必要だったため介護する家族も計11日間病院に通院する必要がありました。

1日あたり待ち時間合わせても1時間程度で済むとはいえ、普通の人より体が弱ってしまった患者さんを連れて11日間も病院に通院するのは連れてくる介護者にも相応の負担を強いることでもありました。

ただ、近年は放射線を1回あたりやや強めに当てることで、回数を減らしても効果はさほど変わらないのではないかという報告も相次ぎ、放射線治療を5回で行ったり、1回だけで行ったりすることも一般的になってきました。

私の勤める東京大学病院では、なるべく本人と介護するご家族の負担を減らすために、状況的に可能なら、診察+C T撮像+放射線治療(1回)の一連を来院された1日で済ませてしまうこともしばしばあります。どうしても病院の滞在時間は長くなりますが、家と病院を行き来する苦労よりはずっと良いということで喜ばれることも多いです。

骨転移以外の痛みにも効く放射線治療

実は放射線治療は骨転移以外のあらゆるがんの痛みにも有効です。完全に治すための(強い)放射線治療はがんの状態を選びますが、痛みや出血などを抑えるための(弱い)放射線治療は多くの場合、上記のような治療(1回〜10回)が可能です。

苦痛が除去できる確率は骨転移ほどは高くないですが、副作用もほとんどなく、がん患者さんの生活の質を保つための強力なオプションになってくれるため、家族としても知っておくと良いと思います。

放射線治療を受ける時の注意点

こうした放射線治療を受けるために注意することがあります。

上述の通り、放射線には痛みを取り除く力がありますが、放射線を当ててから、効くまでにおおよそ1週間〜2週間ほど時間がかかります。痛みが強くなってから治療しようとしても、それだけのタイムラグがあるため、効くまでの間は痛みに苦しむことになります。

また、治療自体は台に乗って寝るだけなのですが、この台も放射線の通過を邪魔しないように作られているため、決して寝ていて快適な台ではなく、固く無機質で、骨転移などで骨の痛みがある方は辛く感じることがあります。是非痛みが軽度なうちからご相談ください。

そして、前回お話していたように緩和ケアの先生ともうまく付き合えていると、痛み止めの薬を導入するにもスムーズに進み、快適な時間が増えるので是非緩和ケア外来をうまく利用してください。

放射線治療を難しく考えないで

これほどまでに使い勝手の良い放射線治療ですが、日本では聞き慣れない方も多いかなと思います。

実際に日本ではがん患者さんの25%程度と4人に1人しか放射線治療を受けていません。ただ、実は海外では軒並み60%程度のがん患者さんが受けられています。

これだけ機器も進歩し、完治できる治療や痛みを取る治療も対応できるため、海外のように多くの患者さんが放射線治療を受けるのは当然なのですが、日本の放射線治療医はどうやらアピール下手のようでなかなか患者さんにお伝え出来ていないようです。

また日本の場合だと患者さんが増えても医師達の給料が増えるわけでもなく、海外では実績に応じて増えていくという背景もありそうです。

患者さんに勧める一言

放射線が使える場面は多くあり個別の患者さん毎にしっかりした検討が必要です。しかし、今回のように骨転移の痛みを抑える場合は、使う放射線の量が少ないということもあって気軽に勧めることが出来ますのでご安心ください。

「今回の治療はあまり副作用も出ず、照射してから1週間〜2週間くらいで痛みが小さくなるし、早い人は照射した当日から痛みが消えたなんていう人もいるから是非されていってください」と簡単にお伝えすることもあります。このようにアバウトにお話しても大丈夫なくらい、危ない要素のない治療になることが多いです。

「当日から痛みが消えるの?」と方もいらしゃるかもしれません。医学的には当日に痛みが消えることはないのですが、気持ちの安心の影響からか照射直後から痛みが消えたと仰る方もいます。

海外の医師と話していてもそういう方はやはりいらっしゃるようで、その国でちょっとテストをしてみたそうです。照射をした人たちと、照射をしたフリだけした人たち(治療台には乗ってもらったけど放射線は出さなかった)に分けてどれだけ痛みが抑えられたかのテストで、もちろん照射をした人たちの痛みは抑えられたのですが、なんと放射線を出していないグループでも当日から痛みが消えたと仰る方が複数いたようです(笑)。

いわゆるプラシーボ効果と呼ばれるもので、思い込みだけでも治った気になる方は一定数いらっしゃいます。それでも痛みが消えるのなら患者さんご本人にとってもプラスになると思うので、「当日から痛みが消える人もいますよ」と言い添えるようにしています。

このようにメリットがいろいろあるので是非検討してみてください。


 

上松 正和
上松 正和 放射線科専門医

九州大学医学部卒。放射線科専門医。国立がん研究センターを経て現在は東京大学病院で放射線治療を担当。無料動画で医療を学ぶ「YouTubeクリニック」では「10分の動画で10年寿命を伸ばす」を掛け声に30-40代の方やがん治療に臨む方へ向けた日常生活や治療で役立つ医療話を毎日配信中。

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