がん治療のセカンドオピニオン、3つのハードルとその突破口とは?

連載も5回目です。前回で親御さんやご自身ががんと診断されたところまでみてきました。今回は皆さんが、がんと戦う決意を固めたシーンに入っていきます。この回では皆さんが1度は聞いたことのある「セカンドオピニオン」についてお話します。

セカンドオピニオンはがん治療の強力なオプション

「セカンドオピニオン」というのは現在診療を受けている担当医とは別に、違う医療機関の医師に求める「第2の意見」の事を指します。

このセカンドオピニオンはがんに限ったものではなく、あらゆる疾患で利用する事が可能です。ただ、がんのようにある程度時間に余裕があり、解釈や治療法が分かれ、絶対数の多い疾患はあまりありませんので、がんの診断や治療において用いられる事が一般的です。

がんの診断や治療では、患者さんやご家族と担当医との間で十分に話し合い、納得して治療を受けることがとても大切です。

しかし、十分な話し合いを行っていたとしても、必ず完治できて、副作用が全くない治療は存在しませんので、治療を受ける側にはそれなりに覚悟を必要とします。

その時に「他の治療法はないのだろうか」あるいは「他の医師の意見を聞いてみたい」と思う事は自然な事ですし、仮に意見が同じであったとしても疾患や治療への理解が深まり、覚悟を決める手助けとなってくれます。

セカンドオピニオンの「心のハードル」「知識のハードル」「お金のハードル」

セカンドオピニオンは患者さんやご家族にとって重要なオプションですが簡単に受けられるわけではなく、相応に必要な準備があります。そこには2つの【ハードル】が待っています。

①    主治医にセカンドオピニオンを受ける事を告げる(心のハードル)

まずはセカンドオピニオンを受けるに当たっては主治医にその旨を告げる必要があります。

セカンドオピニオン先の病院では元の病院での検査結果や治療経過を知って、診断や治療の意見をまとめるからです。そのため、主治医にセカンドオピニオンを受ける旨を伝えて、資料を準備してもらう必要があります。

ここで「主治医の先生を信じてないみたいで言いづらい」のような【心のハードル】に直面します。

ただ、安心してください。我々医師側も自分が全ての病気に精通しているわけではない事は理解していますし、医師自身も患者さん側になった時にセカンドオピニオンを一度は求めるだろうなという感覚でいますので気兼ねなくおっしゃってください。

「(主治医の)先生が信じられないわけではなくて、がん治療の判断で後悔したくないから。」と言い添えると言いやすくなると思います。

②    セカンドオピニオンを受ける病院を決める(知識のハードル)

セカンドオピニオンを求める場合、どの病院を受診するかを決める必要があります。

今ではセカンドオピニオンは一般的になっており、ある程度の病院であればセカンドオピニオンを受け入れています。しかし、これは良く調べる必要があります。

セカンドオピニオンを受ける以上、ご自身やご家族の疾患に詳しい医療機関を尋ねる必要がありますが、これは医療者でも「この疾患ならこの病院/先生が良い」というのが全ての状況で伝えられるわけではありません。

もちろん近隣の病院ならば、あの病院は整形外科は強いとか、腫瘍内科はなくて抗癌剤は弱いかな等の漠然としたものはわかりますが、「この疾患について聞くなら〜病院の〜医師のところに」と全国を見渡してハッキリ言える場面はごく僅かだと思います。

主治医としても患者さんの覚悟を決める大事な過程のセカンドオピニオンで患者さんが納得しない病院を紹介するわけにもいかず、ご自身で決めていただくことになります。ここに【知識のハードル】があります。

患者さんやご家族は書籍や論文、業績発表、病院の設備更新発表を検討して決めることもありますし、「がんセンターや大学病院でなら納得できそう」という理由で決めることもあります。

③    セカンドオピニオンは自費診療(お金のハードル)

セカンドオピニオンは治療に必ずしも必要ではないため、自費診療の扱いになってしまいます。

通常は1度の診察で3万円〜5万円程度です。がん治療は一般的に高額であり、一生モノでもありますので数万円の出費は安いとも受け取れますが、(治療費は含まず)意見を聞くだけで数万円というのは通常の保険診療に慣れている私たち日本人にとっては【お金のハードル】として感じられると思います。

3つのハードルを簡単に超えて「第2の意見」を聞く方法

実はこの【心のハードル】【知識のハードル】【お金のハードル】を簡単に超えて「第2の意見」を聞く方法があります。

皆さんは放射線治療医と呼ばれる放射線治療を専門とする医師をご存知でしょうか。聞いたこともないよという方は是非、私のプロフィール欄を確認して頂きたいです。

皆さんが聞いたこともないというのは無理のない話で、全国で32万7000人ほどの医師がいる中で放射線治療医は2000人程度です。医療界の中で放射線治療医を見つけることはクローバーの草原の中で四つ葉のクローバーを見つけるようなものです。ただ、がん診療をしている病院では必ず見つけられます。

放射線治療医は放射線腫瘍医とも表記され、腫瘍の治療に放射線治療は欠かせない存在です。私たちはあらゆる腫瘍を数多くみて、実際に治療に当たり、腫瘍(がん)に対しての知識は豊富にあります。

「第2の意見」とはこの放射線治療医の意見です。

通常、患者さんの主治医となるのは各診療科(例えば婦人科、泌尿器科など)の外科医や内科医です。そこで診断や治療の説明を受けることになります。ここで、「第2の意見」を聞こうと正式に他院へのセカンドオピニオンの準備をしようとすると前述の3つのハードルにぶつかってしまいます。

力強い方は突破していけるのですが、そういう方ばかりではありません。この段階で是非、放射線治療医(放射線腫瘍医)の存在を思い出してください。「放射線治療医の話も聞いてみたい」と一言主治医に言うだけで皆さんは「第2の意見」を聞く事ができます。

 

前回お話しした標準治療は手術・薬・放射線治療の3つで構成されており、その中でも放射線治療は手術に変わる手段として目覚ましく進化を遂げています(例えば前立腺癌などは手術しなくても、たった5回の照射でも根治可能となったりしています)。

機器も進化を続けており、以前は出来なかった事も出来るようになっています(昔は放射線の再照射はできない事が一般的でしたが、今は方法を選べば可能)。
そのような変化は私たち放射線治療医でも最新の知見に追いつくのが大変なこともあるので、各科の先生が追いついていないこともしばしばあります。是非一度、放射線治療医の話も聞いてみてください。

院内の紹介であれば、通常の保険診療の範囲内ですし、検査データや診療記録は電子カルテ上で共有されていますので、皆さんにとっても、主治医にとっても煩雑な事はありません。治療方針については外科医や内科医の先生と同様のことをお伝えするかも知れませんが、それでも疾患や治療についての理解は深まると思います。

4つ葉のクローバーが皆さんに幸運をもたらすように、放射線治療医(放射線腫瘍医)が皆さんにとってきっと有益な情報をもたらすでしょう。

セカンドオピニオンはがん治療において重要なオプションです。大変な側面もありますが一度は検討してみてください。そして簡単に「第2の意見」を聞く方法として「院内の放射線治療医(放射線腫瘍医)にも聞いてみる」という事も頭の片隅に残して頂ければ、がん治療も少し楽になるかなと思います。

上松 正和
上松 正和 放射線科専門医

九州大学医学部卒。放射線科専門医。国立がん研究センターを経て現在は東京大学病院で放射線治療を担当。無料動画で医療を学ぶ「YouTubeクリニック」では「10分の動画で10年寿命を伸ばす」を掛け声に30-40代の方やがん治療に臨む方へ向けた日常生活や治療で役立つ医療話を毎日配信中。

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