女手一つで私を育ててくれた母の洋子(63歳)。今は再婚して、再婚相手である誠さん(70歳)の持ち家に住んでいます。都内の戸建て一軒家なので、それなりに価値もありそう……。
誠さんの息子である大輔さん(45歳)は、そもそも誠さんと母の再婚に反対していました。誠さんは家族の反対を押し切って母と再婚しましたが、大輔さんは母のことは好きではないようです。
今、母が住んでいるのは、誠さんの持ち家で大輔さんの実家でもあります。もし誠さんが死んでしまったら、母が住み慣れた家を追い出されないか心配です。
相続法に「配偶者の生活保障を考える」という視点が!
2020年4月1日より、配偶者居住権が施行されます
前回、民法が約40年ぶりに改正されたことはお伝えしました。
今回の法改正で大きく変化したことの一つに、相続法に「配偶者居住権の保護」という視点が入ったことがあげられます。その経緯と具体的な内容について、相続専門の税理士である廿野幸一(つづの こういち)さんにお話しを伺いました。
母の再婚相手の息子が、母のことを嫌いみたい・・
母は、現在、再婚相手の持ち家に住んでいます。
再婚相手が死んだ後の母の生活が心配です。
相続に「残された配偶者の生活保障が大切である」
という観点が盛り込まれました
女手一つで私を育ててくれた母の洋子(63歳)。今は再婚して、再婚相手である誠さん(70歳)の持ち家に住んでいます。都内の戸建て一軒家なので、それなりに価値もありそう……。
誠さんの息子である大輔さん(45歳)は、そもそも誠さんと母の再婚に反対していました。誠さんは家族の反対を押し切って母と再婚しましたが、大輔さんは母のことは好きではないようです。
今、母が住んでいるのは、誠さんの持ち家で大輔さんの実家でもあります。もし誠さんが死んでしまったら、母が住み慣れた家を追い出されないか心配です。
なるほど。娘さんとして、誠さんに万一のことがあった場合の洋子さんの生活を御心配されているのですね。そんな心配をしてくれる娘さんがいて、洋子さんもお幸せですね。
さて。誠さん亡き後の、洋子さんの生活保障が心配なのであれば、今回の法改正で、配偶者居住権が創設されたということを知っておくと良いかもしれません。
配偶者居住権!? それって、何ですか?
配偶者居住権とは、夫婦が住んでいた持ち家がある場合、夫婦のどちらかが死亡した時に配偶者が、終身または一定期間その建物に住み続けられる権利です。
なるほど、そんな権利があるんですね。でも、「配偶者居住権」というところまで、誠さんや母に話をしておく必要がありますか? 大輔さんには、そんな話、とてもできない雰囲気です。
確かに、大輔さんに、いきなりこの話をするのは難しいかもしれませんね。けれども、配偶者居住権を設定していると、洋子さんは、終身または存続期間を定めた場合はその存続期間の間、夫婦で住んでいた持ち家に無償で安心して住むことができるんです。
それは大きいですね。でも、反対に考えれば、今までは、母は無償で住めなかったんですか?
そうなんです。これまでだと、誠さんの家は、全部、洋子さん名義にするか、洋子さんと大輔さんが共有で持っているというイメージでした。
洋子さんも(一部が)自分名義の自宅なので、遠慮なく住み続けることができました。もちろん、大輔さん名義にして、大輔さんが了承すれば洋子さんは無償で住むことも可能でした。
けれども、今回のケースは、大輔さんが洋子さんに対して、あまり良い感情を持っていない可能性も考えられます。そこがポイントです。
ポイント?
万が一、大輔さんから、「家の一部を引き渡して欲しい(共有物分割)」「家賃を払って欲しい(不当利得返還請求)」といった訴訟を起こされると、誠さんの家に洋子さんが住み続けることが難しくなります。この場合、洋子さんが住み慣れた家に安心して住むためには、誠さんの持ち家を相続する必要があったんです。
また、洋子さんと誠さんを養子縁組しておかないと、洋子さんの死後の権利は、香織さんへ行くことになります。それは、大輔さんにとっては面白くないことでしょう。
法律的には、そうなんですね。でも、そんなこと考えてもみませんでした。
多くの方が、そんな感じです。けれども、悲しいかな、法律は、揉めた時のためにあるんです。仮に、誠さんが残した財産が、「自宅5,000万円と預貯金5,000万円」として、誠さんの相続が法律的にどうだったかを、ご説明しましょう。
是非、お願いします!
これまでの法律ですと、下記のイメージ図のように、誠さんの持ち家の相続評価額が高い場合など、洋子さんが自宅の全部を相続するなら、預貯金は大輔さんに渡す必要がありました。(法定相続分で遺産分割する場合)
ええっ! 預貯金を大輔さんに渡してしまったら、母の今後の生活は、どうなるんですか?
そこなんです! 今回の「配偶者居住権の保護」ができた理由として、相続に「残された配偶者の生活保障」という考え方が盛り込まれました。
残された配偶者の生活保障?
これまでの相続は、「親から子への財産の承継」という側面に主眼がありました。けれども、平均寿命が長くなる中で、「残された配偶者の生活保障」が重要視されるようになったんです。
先ほどもご説明した通り、これまでは、洋子さんが住み慣れた自宅に住み続けるためには、所有権を持つために、自宅を相続する必要がありました。
けれども、自宅を相続するためには、預貯金などその他の財産を大輔さんに渡す必要がある……。そうなると、その後の洋子さんのような配偶者の生活に支障が出てしまうケースもありました。
配偶者居住権は、このような事態を避けるために、いわば、残された配偶者である洋子さんの生活を守るために創設された制度なんです。新しい法律は、令和2年4月1日以後に開始した相続から適用されます。
そうなんですね。今年(令和2年)の4月から、法律が変わる。それを知ることができて、良かったです。でも、配偶者居住権という言葉だけでも難しそうで、何だか腰が引けてしまうというのが正直なところです。
確かに、法律用語は、多くの方にとって馴染みのないものです。敬遠されてしまうお気持ちは、とてもよくわかります。
では、配偶者居住権を理解するために、最初に知っておいて頂きたいことを、ひとつだけ、お伝えしますね。配偶者居住権とは、持ち家に対しての権利を、「住む権利」と「所有する権利」に分けて考えてみることがスタートです。
言い換えれば、誠さんの持ち家の価値を、「住むこと」「所有すること」の二つに分けて考え、評価(値段)も、それぞれに設定します。相続税の申告が必要な場合も、この考え方で評価します。
そうすることで、母に何か良いことがあるんですか?
下記の図を見て、イメージして頂くのが早いかもしれません。
結論からお伝えすれば、洋子さんが預貯金も相続することができるようになるのです。持ち家という不動産だけでなく、預貯金を相続することができれば、今後の生活費の心配は減ることになります。
なるほど! そんな制度ができたんですね。
ここで大切なことは、誠さんや洋子さんが、「配偶者居住権が創設された」ということを、知っていることなんです。お金のことは、とかく「知っているか」「知らないか」。それだけで、人生の大きな選択が違ってくることもあります。
なるほど。仮に、母が、配偶者居住権を主張するとしたら、どうしたらいいのでしょうか?
方法は、いくつかあります。大輔さんと遺産分割協議をする、誠さんが遺言を書いておく、誠さんの死後、洋子さんが贈与をうける、家庭裁判所の審判などです。
私は、「揉めない」という意味で、誠さんが元気なうちに遺言書を作成することをおすすめします。
細かいことかもしれませんが、固定資産税の支払いは配偶者居住権を持っている洋子さんの負担になるようです。ただし、固定資産税の通知は、毎年、所有者の大輔さんへ送られます。そうすると、毎年、洋子さんと大輔さんの間でどのように税金の精算をするのか? といった問題も出てきます。
開始したばかりの制度なので、こういった細かい問題はありそうです。大切なのは、誠さんが、自分の亡き後のことをイメージして、洋子さんと大輔さんが揉めるような事態は、事前に少しでも生前にクリアにしておくことです。そのために遺言書は有効ですね。 遺言は揉めるから書くのではなく、書いておけば揉める自体を減らすことができるんです。
―税理士さんに遺言書を作ってもらう相場はどれくらいですか?
「私が依頼を受ける場合は、相続財産にもよるのですが、30万円が目安です」
―遺言書はいつ作るのが良いですか?
「遺言書は、法的な効力のある書類です。何度でも書き換えをすることができますが、認知症など判断能力がなくなってからでは作ることができません」
イラストレーター、Webデザイナー。
記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。 わかりやすく面白いイラストを心がけています。趣味は登山・キャンプ・ゲーム・インターネット。
ウェブサイト「主婦er」運営。夫は長男、私は長女。「親の介護」が集中する(であろう)家庭の主婦です。双方の両親は、お陰様で「まだ」元気。仕事をしながら息子3人を育てている今、「介護」は脅威でしかありません(笑)。そんな私が、「知りたいこと」を記事にしていきます。
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