
ホスピス型住宅は、末期がんや難病などにより病院での治癒が困難な方が、苦痛などを和らげる「緩和ケア」を受けながら残された時間を自分らしく過ごすための住まいとして注目されています。病院と自宅の中間的な存在として、24時間体制で医療的ケアを受けながら生活できる場所です。
しかし、一部の運営事業者による不正な診療報酬請求の報道が相次ぎ、「ホスピス型住宅」に対してマイナスのイメージを持たれる方も少なくありません。そうした中で、真摯にホスピス型住宅の運営に取り組む事業者は、この状況をどのように受け止め、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
今回は、LIFULL介護 編集長の小菅秀樹が、全国でホスピス型住宅「ReHOPE」を展開する株式会社シーユーシー・ホスピス代表取締役の藪康人氏にお話を伺いました。事業者として昨今の報道をどのように受け止めているのか、ホスピス型住宅に求められることは何か、そして入居者にとって良いホスピス型住宅とは何かについて、率直にお聞きしました。
小菅:最初に藪さんが2025年6月にシーユーシー・ホスピス代表取締役にご就任されてから、特に力を入れて取り組まれていることについて教えてください。
藪氏:私は看護師として病院で6年ほど勤務した後、大学院で経営学を学び、医療法人の経営企画職を経て、2018年にシーユーシーに入社しました。入社後は病院の経営支援などを経験し、シーユーシー・ホスピスに来て今年で3年目になります。 当時は約30 施設だったのが、現在は50施設に成長しています。
施設数が増えれば、当然一つひとつの拠点の運営の質にバラつきが出やすくなります。そこで私が特に注力しているのが「現場力」の向上です。現場力とは、現場のスタッフが自ら課題を見つけて解決していく力のことです。

小菅:現場力というのは興味深いコンセプトですね。なぜそこに着目されたのでしょうか。
藪氏:私たちが提供するのはサービスなので、目に見える形があるわけではありません。現場で生み出されて、その場で消費されていく。しかも、その場面というのが入居者様ごとに無数にあるんです。
マニュアルや標準的な手順は決められますが、それだけで万事OKというわけにはいきません。専門家として持っている技術をどのように提供し、深く寄り添いながら、尊厳を保ちながら安心安全に過ごしてもらうか。そのための工夫を教えていくことが重要なんです。
本社で一律に決められることには限界があります。だからこそ、現場のスタッフが標準的なルールは守りつつも、それを超える部分については自ら考えて行動できる組織を作っていくことが必要だと考えています。質の高いケアを実現するためには、質の高い人材が必要です。
小菅:他社が運営するホスピス型住宅での不正請求報道が相次ぎました。一連の報道を受けて、ホスピス型住宅に対する社会的なイメージに、どのような変化があったと考えていらっしゃいますか。
藪氏:ホスピス型住宅という言葉自体が、そもそも一般の方々にはあまり認知されていませんでした。医療提供ができる高齢者施設として一部の方々に認識されていたサービス形態が、今回の報道によって良くも悪くも広く認知されることになりました。

小菅:報道の内容について、事業者としてはどのように受け止められましたか。
藪氏:私たちは「手厚いケア」という表現を使っていますが、この言葉がすべてを正当化するために使われるようになってしまうことには注意が必要です。保険を最大限活用して過剰と捉えられるような医療を提供しているのではないかと思われてしまう可能性があります。
重要なのは、「過剰」と「不正」という論点をしっかり区別して整理することです。当然のことですが、やっていないことをやったことにするのは明らかに不正で、あってはならないことです。
一方で「過剰かどうか」については、私たちが専門的な知識に基づいてその方を評価し、関係各所とも共通認識を揃えながら24時間のケアが必要だと判断したのか、そのプロセスをみんなが同じレベルで説明できるようになることが大事だと考えています。
小菅:報道を受けて、現場のスタッフの方々に変化はありましたか。
藪氏:報道により、専門職の中での共通理解と世の中からの見られ方の差を感じ、中には、自身がやってきたことや考えに対して自信を失ってしまう現場のスタッフもいたのかなと想像します。この経験から、私たちは教育の重要性を改めて感じ、一層力を入れて取り組んでいます。 なぜそのケアを行うのか、専門家としてチームで理解を共有し、判断して実行していく。そしてそれをご家族だけではなく、第三者にも説明できるようになることを目指しています。
小菅:具体的に、御社ではどのようなスタッフ教育を行っているのですか。
藪氏:当社では「ケア技術向上推進チーム」が報道以前からあり、看護や介護の各分野の専門家が教育を行っていて、技術の標準化を目指しています。
例えば、私たちの施設では、入居者様の1割弱の方が人工呼吸器を使用されています。
しかし、看護師であれば全員が人工呼吸器を扱えるわけではありません。大学病院でも人工呼吸器は集中治療室でしか使われないことが多く、一般病棟ではほとんど動いていません。そういう機器に日々向き合うスタッフの不安を解消し、安全性を確保するための教育から始めています。
また、スタッフが入居者様やご家族の役を演じて、実際のケアの場面を動画で撮影し、教材として活用しています。例えばエンゼルケア(※)の時にどんな会話をしているのかを動画に収めて、具体的にどのように行うかをスタッフ同士で共有する取り組みもしています。
年間を通すと40の講座を実施しており、中堅・若手層が積極的に参加してくれています。
また、教育だけではなく、私たちの行動指針に立ち返ることも大切だと思っています。私たちは「『前を向いて生きる』を支える。」を使命として掲げており、これをどれだけ実現できたかエピソードを募って広報しています。自分たちがやってきたことがきちんとサービスの品質や患者様、ご家族の満足に繋がっていることを実感してもらい、自信を持つことで自律的な組織を目指しています。
※エンゼルケア…逝去された方のご遺体を清潔に保つ処置のこと
小菅:ご入居者にとって「安心安全なホスピス型住宅」とはどのような場所だとお考えですか。
藪氏:まず重要なのは雰囲気です。判断材料は、挨拶がしっかりできているか、玄関がきれいに保たれているかといった基本的なことです。私は「玄関のゴミを誰かが拾ってくれるのではなく、みんなが気づいて拾える組織は、入居者様の小さな変化にもしっかり気づける組織だ」とスタッフに伝えています。
ホスピス型住宅では、入居者様の死生観や、痛みに対してどう向き合うか、病状が悪化した時に再度病院での治療にチャレンジするかどうかなど、重要な意思決定を支える場面が多くあります。そのためには、しっかりと会話ができる相手なのかが重要です。
小菅:医療面での安心安全も重要ですね。
藪氏:大切なのは、看取りの場とは「死を待つ場所」ではなく、「生を支える場所」であるということです。前向きに生きることを支援する場なので、その人の残りの時間をどう過ごすかには、高度な医療的知識と介護力が必要です。
例えば、最後まで食事をとっていただくという一つの行為でも、それが安全に行われているかが重要です。職員がどんな教育を受けているか、年次報告書などでどんな教育活動をしているかを公表している施設の方が信頼できると思います。
小菅:やはり、スタッフの信頼感は非常に大事ですよね。ホスピス型住宅を見学する際のポイントとして、私は以下の3つをチェックいただくことをおすすめしています。
1つ目は「最期までその人らしく暮らせる場所か」という点です。生活の楽しみが保てるか、食事や嗜好品の自由度があるか、ルールではなくその人の意思を尊重したケアをしているか。
2つ目は「スタッフが信頼できるか」です。表情や態度に優しさが感じられるか、落ち着いた雰囲気が保たれているか、緩和ケアに関する知識や研修を受けたスタッフが常勤しているかがポイントです。
3つ目は「家族が安心できるか」という視点です。面会のルールに自由度があるか、スタッフが入居者だけでなく家族にも寄り添う姿勢があるかどうかが大事だと考えています。
藪氏:同感です。「重い病や障害のある方が、安心して自分らしい時間を過ごせる場所を届けたい」という思いで、全国にホスピス型住宅の展開を進めています 。ケアの専門性を高めるために2023年度から専門的な資格や経験、知識をもっている看護師による専門研修を取り入れました。また、ご家族と過ごすための時間を重視したケアに取り組んでいます。

小菅:安心安全なホスピスを実現するためには、先ほどお話に出た「現場力」の重要性を強く感じます。
藪氏:私たちが目指しているのは、トップダウンとボトムアップをちょうどよくバランスさせることです。医療の安全に関することは会社が決めたルールを徹底する必要がありますが、サービスは現場で提供されるものなので、現場が考えなくなってしまうと質が下がってしまいます。
そのための具体的な取り組みとして「WeCanレポート」を導入しています。「WeCanレポート」とは、現場で気づき、解決した改善事例を、スタッフが自らレポートにまとめて投稿し、それを互いに褒め合う仕組みです。スタッフは毎日、本人は意識していなくとも、1日1個は何かしらの工夫をしているんです。それを見つけて褒め合う仕組みです。
例えば、「トイレに花を一本飾りました」「玄関の枯れた花をきれいに植え替えることにしました」といった本当に小さなことでもいいんです。そういった小さな工夫の先に大きな改善があると考えています。2025年7月の開始から、約800件もの改善事例が集まっていて、成果を感じています。
「WeCanレポート」では、各拠点が抱えている課題をスプレッドシートで見える化しています。現場がどんな困りごとを抱えているかを把握し、同じような問題がすでに別の拠点で解決されていれば、「あの拠点で聞いてみてはどうですか」と橋渡しをしています。
50施設もあると、北海道の拠点で困っていることが、すでに九州の拠点で解決されていたりします。でも、情報が拠点ごとに閉ざされていると、どこに答えがあるかは分からない。そこで問題を共有し、解決事例を全国で横展開できる仕組みを作っています。

小菅:「WeCanレポート」には表彰制度もあるとお聞きしました。
藪氏:半期ごとに集まった 改善事例の中から十数件を選んで 表彰しています。まだ始めて1年半ほどの取り組みですが、積極的に取り組んでいる拠点は雰囲気が良く、質の高いケアができています。スタッフのモチベーションも毎月測定していますが、こうした取り組みに参加している拠点は比較的好調を維持しています。
小菅:最後に、ホスピス型住宅の社会的な意義についてお聞かせください。
藪氏:私が看護師になったばかりの時代と比べても、医療が必要な状態で在宅にいる方が大幅に増えています。ご家族が様々なものを犠牲にしながら介護を続けるケースも多いです。
そういう状況だからこそ、人生の最期に尊厳を失うようなことはなくしていきたいと考えています。日本全国どこであっても、一定程度以上のホスピスケアが受けられる仕組みを社会インフラとして整えていきたいです。シーユーシーグループのミッションでもある「医療という希望を創る。」を目指して、他の関係機関の方々とも役割分担をしながら面で支えていければ、安心な社会を実現するためにお役に立てると考えています。

小菅:選択肢を示すということですね。
藪氏:おっしゃる通りです。人生の最期に選択肢を提示できる存在になりたいと思っています。今年の5月、日本ホスピスホールディングス様と一緒に業界団体『日本ホスピス住宅推進協会』を設立しました。これまで現場の知恵によって発達してきた業界ですが、今後は私たちがホスピス型住宅で実現したいことを言語化し、参画する事業者が高いレベルでの制度理解と運営理解を持って、良い施設が世の中に広がっていくようにしたいと考えています。
また、私は病院を長く運営してきた経験から、この存在の社会的意義をデータで証明することも必要だと考えています。有識者や学術分野の方々とも連携しながら、ホスピス型住宅があることで地域の医療がどう変わったか、入居者様の平均余命にどう影響したかなど、エビデンスを蓄積していく必要があります。
今回の対談を通じて見えてきたのは、一部で不正請求が報じられる事業者と、シーユーシー・ホスピスのような真摯に取り組んでいる事業者の違いです。
藪氏が強調された「現場力」の向上は、スタッフ一人ひとりが専門性を持って判断し、その根拠を説明できるようになることで、「手厚いケア」の真の意味を社会に示していく取り組みといえるでしょう。
ホスピス型住宅を検討される際は、施設の雰囲気や職員の教育体制、そして何より入居者とご家族の意思を尊重したケアが行われているかを確認することが重要です。人生の最期を過ごす場所だからこそ、信頼できる事業者を見極める目を持つことが大切なのです。
構成:株式会社プロペラプロジェクトラボ
編集:LIFULL 介護 編集部

有料老人ホームの入居相談員として首都圏を中心に300ヶ所以上の老人ホームを訪問。1500件以上の入居相談をサポートした経験をもつ。介護離職防止対策アドバイザー。「メディアの力で高齢期の常識を変える」を掲げ、介護コンテンツの制作、セミナー登壇。YouTubeやX(旧Twitter)で介護や高齢期の情報発信を行う。2025年7月集英社より「幸せになれる老人ホーム探し~マンガでわかる高齢者施設~」発売。
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