
介護施設では、たくさんの若いスタッフが元気に働いています。そして、そんな若手社員を牽引するベテラン社員の姿もあります。チーム全員が成長して、ご入居者の方々にとってよりよい生活を提供するために。
ベネッセスタイルケアは、ご入居者の方々が自分らしく生きていくためのサポートを大切にしている企業。『その方らしさに、深く寄りそう。』ことを目指してスタッフ一人ひとりが自ら考え、行動しています。
そして、その実現を目指して力を入れているのが、「根拠をもって課題を解決して、多職種のチームを牽引する」腕利きの介護スタッフの育成です。
厳格な社内専門資格制度により認定される彼らは、『マジ神®』と呼ばれています。『マジ神®』は、「介護の匠」の技を目の当たりにした新人社員が「〇〇さん、マジ神っすね」と発した言葉がきっかけで生まれた、株式会社ベネッセスタイルケアの社内資格制度です。
『マジ神®』は、介護のプロフェッショナルに必要な4分野の総称。「認知症ケア」「安全管理と再発防止」「介護技術」「医療連携&ACP(※1)」というテーマ毎にマジ神が認定され、それぞれが専門分野を日々追究しています。
この連載は、そんな彼らの仕事ぶりや想いについて、『マジ神®』本人にインタビューを行うものです。第3回目は、「認知症ケア」の『マジ神®』であるベテラン社員。聞き手は、LIFULL介護・編集長で介護施設入居コンサルタントの小菅秀樹です。ケアの質を高め日々進化する、介護の現場の最前線へ、いざ!
※1 ACP/アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)。人生の最終段階の医療・ケアについて、本人を主体に、ご家族や医療・ケアチームが、事前に繰り返し話し合うプロセスのこと。


――渡辺さんは、中途でベネッセスタイルケアにご入社されているんですよね。
渡辺:以前は博物館で遺跡の発掘に携わっていて、次にやってみたくなったのが介護の仕事でした。それからもう20年です。訪問介護のヘルパーから認知症の専門施設を経て、「最先端の介護に触れたい」と8年ほど前に転職したのが当社でした。

――それまでのお勤め先と、ベネッセスタイルケアとの違いは?
渡辺:なんといっても研修制度 が充実していることです。転職した時点で、私には介護職としてすでに12年ほどのキャリアがありましたが、ご入居者様の視点から学べることの多さに驚いてばかりでした。
それから、最新技術への取り組みです。「サービスナビゲーションシステム」というベネッセ独自の記録システムを導入しており、ご入居者様の日々のご様子を記録しています。蓄積されたデータをもとに、ご入居者様の「普段とご様子が異なる」予兆を、独自のAI(マジ神AI)によって検知しています。そして、AIから得られる適切なケアのヒントを参考にしつつ、日々のご入居者様へのケアに活用。ご入居者様のお困りごとの要因を分析して、よりよい生活の実現につなげています。
――渡辺さんは、ベネッセスタイルケアに転職する以前から認知症の方々と長く接していらっしゃいますよね。コミュニケーションを取る上で、どんなことに気を配っているのでしょうか。
渡辺:その方をとことん 知る、ということです。なにがお好きなのか、どんな歌を聞いたらうれしいのか、誰が来たら心が弾むのか。でも、病気を抱えてしまうと、その好きなことすら訴えることもできないのです。
だからこそ、お相手の人生をお伺いし、どんなことがお好きだったのか、どんなこだわりや価値観をおもちなのか、きちんと理解した上で声をおかけしたり、接したりしていく。すると、微笑んでいただけたり、私の名前は覚えていただけなくとも「あなた」と認識していただけたり、心がちょっと通じたなと思える瞬間があって、とても嬉しく思います。
――少しずつ信頼関係を築いていくわけですね。
渡辺:本当に小さな、日々の積み重ねになってしまうのですが。熱いお茶を飲んで1日を始めるという習慣をお持ちの方に、そのお気持ちも理解したうえで熱いお茶をお出しすれば、よろこばれますし、こちらの存在も覚えていただけます。
――そんな渡辺さんが、『マジ神®』になろうと思ったいちばんの動機はなんでしょうか。
渡辺:あらゆるタイプの認知症に対応できるようになりたい。日進月歩で進化する治療方法や薬のことも理解したい。そのために自分のスキルを上げていかなくては、と考えたことが『マジ神®』を志すきっかけになりました。

――渡辺さんが専門とされている「認知症ケア」とは、どういったことを指す言葉でしょうか。
渡辺:私は、地域の方向けに介護セミナーを行うこともあります。その場で相談されるのが、「最近ご飯を食べてくれない」とか、「お茶を出しても飲んでくれない」といったお悩みです。
じつは認知症になると、白い器に盛られたご飯が見えなくなる方がいらっしゃいます。どちらも白い色なので認識できなくなるのです。目の前にあるお茶がお茶だとわからず飲めなかったりする方も。
そこで、私はお伝えするんです。「なんでこれが食べられないの?」というご自身の常識を押し付けてしまうのではなくて、認知症というフィルターを通した前提でものの見方を変えてしまえばよいのです。
品数が多いお食事に集中していただけなければ、フルコースの料理のように一品ずつ出してみませんか。トイレに手間取るようであれば、ズボンはやや大きめのものにすると、脱ぎ履きしやすくなって、お手伝いしなくてもご自分でやっていただくこともできますよ。こういったアドバイスをご家族様にさせていただくのも、広い意味での「認知症ケア」といえます。
――特別な専門知識がなくてもご家庭でできるやり方をお伝えしていると。ご入所する前の段階から、認知症ケアははじまっているわけですね。ホームにおける実務では、どんな取り組みをされていますか。
渡辺:若いスタッフたちが、知識はありながらも見落としがちな部分を細かくフォローしていくことです。
たとえばお水がほしい、と言ってくださるご入居者様ばかりならよいのですが、そうではありません。こちらから働きかけなければ水分不足になってしまいます。
そこに気づいてほしいから、私は「ああ、いま◯◯さん、お水ほしいかも」とそっとつぶやくんです。強く言うのではなく。それを繰り返しているうちに、「◯◯さん、今日800ccしか飲んでいないので、お水をお出ししないといけないですよね」とスタッフのほうから自発的に行動するようになってくれます。
自分のほうがキャリアもあるからと押し付けるのではなく、「こうやればうまくいくかも」というヒントを出すことが、日々の取り組みのひとつですね。
――それこそが豊富な経験をお持ちの渡辺さんが、若いスタッフの多い職場に在籍している意義といえますね。
渡辺:以前、私は入浴をすることが難しかった方を担当して、お風呂に入っていただけるようになった経験があります。
その時に、その方が「何がわからなくて」怖いと感じられるのか、その反対に「わかっていらっしゃることは何か」をお風呂以外のご様子からも丁寧に観察していきます。これまでのご生活から入浴がお好きと伺っていれば、どんな風に入っていらっしゃったのか、「お風呂に入る」ということがわかる手がかりになる工夫はないかを考えます。
スタッフといっしょにお風呂の介助をしながら、そんな知見もお伝えしています。それによって「こうすればできるんだ」というスタッフ自身の成功体験につながって、ご入居者様のサポートの質が向上していくことを目指しています。
私だけができていても意味はありません。みんなが自分のようにできるようになることが、『マジ神®』としての務めなんです。

――いまの話からもわかるのですが、ベネッセスタイルケアはチームの全員でサポートすることが基本なんですね。その中で、自分にない発想や視点を同僚から学んでいくという。
渡辺:若いスタッフに、私はよく質問するんですね。あなたが担当しているご入居者様はどんなものが好きで、なにがあるとご機嫌ななめになるか。その方自身から学んでいかなければ、心地よい感情を汲み取ることはできません。
100人いらっしゃれば100通りの認知症があります。もちろん過去の経験から対応できることは多いと思います。でも、まったく通用しない場合にも出合うわけですから。私自身も勉強中といえますし、まだまだ毎日が新鮮で楽しく感じています。
――会社の事業理念である『その方らしさに、深く寄りそう。』を体現しているわけですね。入居者の方々の身体機能をなるべく維持するために、どのような関わり方をされていますか。
渡辺:お手伝いをし過ぎないことですね。みなさまできるところはやっていただきましょう、というのが基本です。だからこそ、私たちは、ご入居者様の「わかる・わからない」「できる・できない」ことを知り、「できること・わかること」を活かせるように支援しています。
もちろん調子が芳しくない日や、雨が降って足腰が痛むという日は、しっかりとサポートを行っています。

――最後の質問です。「認知症ケア」の『マジ神®』の目線から、これから介護施設を選ぶ方にアドバイスをいただけますでしょうか。
渡辺:車椅子の方であればトイレの広さ、といった設備面を重視するケースは多いかと思います。
それはもちろん大切ですが、気に留めていただきたいのは、そこにいるスタッフはどんな人かということ。ご入居者様のご状況に適したスタッフはいるか。
あるいは、ホームは生活の場だからこそ、趣味が楽しめるか。そして、ご本人様の趣味について、どんなきっかけで始められ、どのように楽しまれていたのか、などぜひ教えていただきたいです。好きなことをその方らしく楽しめると入居後の生活の質も向上します。
孫のような若いスタッフがいて、お嫁さん世代の私のような年代もいて。ご入居者様とともに、家族のように暮らしていくわけで。介護施設は、なにより「人」なんです。
渡辺さんのお話からは、認知症の方の気持ちに寄り添おうとする姿勢が強く伝わってきました。たとえば、白いご飯が見えづらくなった入居者には、器の色を変えるといった、感覚や認知機能の変化に応じた細やかな工夫が印象的でした。行動の背景にある生活歴や心情を丁寧にくみ取ろうとする姿勢に、積み重ねてきた経験が息づいていると感じます。
また、若手職員とともにケアにあたる中で、自身の考えを押しつけるのではなく、さりげなくヒントを示して気づきを促す姿にも、若手職員を牽引するベテラン職員としての理想像が重なりました。そうした日々の関わりが、スタッフ一人ひとりの成長を後押しし、ご本人の安心感や生活の質向上にもつながっているのでしょう。
さらに、ベネッセスタイルケアでは、個人の知見や工夫を属人化させず、組織全体で活かすための「マジ神AI」という仕組みを導入。現場に蓄積された知識や対応例を誰もが参照できる環境が整っており、ケアの質を継続的に高めていくための心強い支えとなっていると感じました。

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