
たとえば介護施設を検討するとき、みなさんは何を重視するでしょうか。
充実した生活環境や介護体制は、もちろんのことだと思います。一方で、「働いているのはどんな人か」という点は意外と見過ごしがちかもしれません。
ベネッセスタイルケアは、ご入居者の方々が自分らしく生きていくサポートを大切にしている企業です。事業理念の『その方らしさに、深く寄りそう。』ことを目指してスタッフ一人ひとりが考え、行動しています。
そして、この実現に向けて力を入れているのが、「根拠をもって課題を解決して、チームを牽引する」腕利きのスタッフの育成です。
厳格な社内専門資格制度により認定される彼らは、『マジ神®』と呼ばれます。「マジ神®」は、「介護の匠」の技を目の当たりにした新人社員が「〇〇さん、マジ神っすね」と発した言葉がきっかけで生まれた、株式会社ベネッセスタイルケアの社内資格制度です。
『マジ神®』は、介護のプロフェッショナルに必要な4つの専門分野に分かれています。「認知症ケア」「安全管理と再発防止」「介護技術」「医療連携&ACP(※)」それぞれの領域に『マジ神®』が認定され、自身の専門性を日々追究しています。
今回は、3人の『マジ神®』へのインタビューを通じて彼らの仕事ぶりや大切にしていることを明らかにしていきます。第1回目は、「認知症ケア」「医療連携&ACP(※1)」の2つのマジ神を兼任する佐藤さん。聞き手は、LIFULL介護・編集長で介護施設入居コンサルタントの小菅秀樹です。ケアの質を高め日々進化する、介護の現場の最前線へ、いざ!
※1 ACP/アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)。人生の最終段階の医療・ケアについて、本人を主体に、ご家族や医療・ケアチームが、事前に繰り返し話し合うプロセスのこと。



――まずは、佐藤さんの専門である「認知症ケア」についてお伺いします。一般の方にもイメージしやすいよう、具体的な例でご説明いただけますでしょうか。
佐藤:そうですね、ご自宅に帰りたい、と繰り返しおっしゃる認知症のご入居者様がいるとします。そこでありがちなのが「もう家には、誰も住んでいないから帰れないんです」といったその場をしのぐための対応です。
――現実を突きつけることで、無理にでもあきらめていただくと。
佐藤:私たちのやり方はまったく異なります。その方の人生を遡って、どんな経験をされてどういう価値観のもと生活されてきたのか。それを知るところから、ご入居者様とのお付き合いをはじめます。その上で、「なぜお家に帰りたいか」を紐解いていくのです。
「家族の食事をつくりたい」や「子どもが心配だから」など、理由は明確にあるもの。そうした想いを汲み取って、ご入居者様それぞれに合わせた関わり方を考え、行動しています。
――これまでのご経験を知るための方法は?
佐藤:ご入居時、独自の「人生を知るシート(※2)」に基づいたヒアリングを行います。ご入居者様の幼少期から現在までを、時間をかけてご本人様やご家族様に伺うのです。
そうすることで後々、「どんな想いでこの発言や行動に至ったのか」が見えてきます。不安があるようなら、解消するための関わり方もわかってきますね。一緒に料理をつくってみる、などさまざまなアプローチを試す上で、その方の歩まれてきた人生を知ることはとても重要です。
※2 その方の人生を学ぶベネッセスタイルケア独自のフォーマット
――ご家族との情報の共有もカギとなるわけですね。
佐藤:しっかりと説明をして、協力関係を築くことでたくさんの情報をいただいています。
日々のご入居者様との関わりの中でも、得られる情報はいろいろあります。スタッフみんなでその日聞いたお話をどんどん書き足しながら、人生が垣間見える個人データベースを更新しています。
認知症の方々は、体調などの影響によってその時々で発言内容が変わっていきます。その小さな違いにも注目しながら、私たちは対応の仕方を変えています。
――こんなアプローチをしたら認知症の改善につながった、というケースもあるのでしょうか。
佐藤:以前、 数分に1回のペースで、繰り返し同じ質問をされる男性がいらっしゃいました。その方に対しては、思い切ってすぐ質問に答えることをやめてみたんです。それで、困ったことやご自身が知りたいことがあれば一旦ノートに書き留めて、スタッフと一緒に振り返る時間をつくるようにしました。
なぜかというと、その方はかつて自分で学んだことをなんでもノートにしたためて、それを拠り所にしていくつもの人生の山を越えられてきました。そこで、今までされてきたのと同じように、書いては再確認したりご自身で考えたりすることで記憶を積み重ねることができるのではと考えました。
やがてその方は質問の回数が減って、わからないことが原因で常に焦っていたお気持ちも穏やかになりました。「認知症ケア」とその方らしさを大切にすることはイコールの関係にある、と改めて実感した出来事です。

――ご本人のできる力(残存能力)をいかに活かすか/奪わないようにするか、がポイントなんですね。
佐藤:基本的にできることは制限しない方針です。ご本人様のやりたい意思を踏まえて、介護スタッフ、看護職員、機能訓練指導員で一丸となってホーム全体で安全面を十分に配慮した取り組みを行っています。
――その一環で、印象深い成果などはありましたか。
佐藤:以前、嚥下(えんげ)障害があって、食べ物を飲み込むのが難しいご入居者様がいました。
そこで、「もう一度アイスクリームを口にできるくらいになりませんか?」という目標を立てたら、ご本人様もとても乗り気になられて。機能訓練指導員の協力を得ながら、会話の量を意識的に増やすことや、ほぼ寝たきりのベッドから起き上がる時間も少しずつ増やすようにしました。
そうやって体力をつけていくと、噛む力や飲み込む力もだんだん回復していきました。それまでペーストだった食事が固形でも大丈夫になり、毎日アイスクリームを食べられるほどになれたんです。
――リハビリも「その方らしさ」と直結しているわけですね。
佐藤:あらためて、私たちの仕事は『その方らしさに、深く寄りそう。』ことがすべてなのだと思いました。
――深く寄りそっていく上で、入居者の方々になんでも話していただける関係づくりが不可欠だと思うのですが、どう工夫されていますか。
佐藤:私は出勤したら、必ずご入居者様全員と会話するようにしています。1日8時間勤務なら、どこかで時間はつくれますし。新しいご入居者様が来られたら、初期段階から関わりを持つなど、普段からコミュニケーションを絶やさないようにしています。
もうひとつ意識しているのは、業務に追われてせかせかしているように感じさせないことです。私たちが忙しそうだと、ご入居者様から見て話しにくい印象になってしまいますから。そうならないようにスタッフ個々の業務を調整するのも、私の重要な務めです。
スタッフが笑顔で働いている介護施設は、心の余裕がある証拠。それは、施設選びの観点のひとつにもなると思いますね。

――佐藤さんのもう一つの専門「医療連携&ACP」についても教えてください。
佐藤:いつか訪れるかもしれない終末期を見据えて、今後の変化を見通し、ご本人様の望まれる生活に対して、医療・薬・最期に向けてどうされたいかについて、ご本人様やご家族様の希望を擦り合わせて、ホーム内でしっかりと共有する。さらに、往診に来る医療従事者の方々とも目線を合わせて、よりよい生活になるようサポートする取り組みです。
――たとえば、どんな活動をしているのですか。
往診の際は私も立ち会って、ご入居者様にご安心いただけるようにしています。普段からご本人様の近くにいて想いを汲み取っている立場から、皆様が言い出せないことを代弁する、ということもやります。
どうしても医師や看護師の方々には遠慮してしまうご入居者様も多いですから。
また、非常にセンシティブな話題だからこそ、ご家族様とは普段から会話を持つよう心がけています。なかなか面会に来られない方であれば逐一ご様子の変化を報告するなど、いつか直面する現実と向き合えるように心の準備をしていただくことも大切だと思っています。
――ところで佐藤さんが、「医療連携&ACP」の『マジ神®』になったきっかけは?
佐藤:私は入社9年目になります。これまでの経験を通じて、介護技術にくわえて医療や薬の知識があれば、ご入居者様の生活をお手伝いする選択肢が増えると感じました。お看取りに向けて、さらに寄りそえる存在になりたかったこともきっかけになっています。

――最後に改めて、佐藤さんにとっての『マジ神®』とは。
佐藤:ご家族様に対して、もともとのお母様らしい、お父様らしい姿に近づけられるか。それは、私が目指していることのひとつです。
「このホームに入ってよかった」と前向きなお気持ちになっていただけるかは、我々ホームの職員次第だと思っています。ご入居者様にもご家族様にも、なにか困ったことがあったら、すぐ思い出し、頼っていただける存在になれたら最高ですね。
そんな想いがあるせいか、仕事をしていてモチベーションが下がったことは一度もなくて。もっとできるようになりたい、と毎日楽しく過ごさせていただいています。
佐藤さんのインタビューからは、入居者一人ひとりの背景や想いに丁寧に寄りそおうとする関わり方が伝わってきます。たとえば「家に帰りたい」という言葉に対しても、その裏側にある記憶や生活習慣に目を向け、対応を工夫する姿は、認知症ケアにおける理想的な実践のひとつといえるでしょう。
なぜなら、言葉を表面通りに受け取るだけでは、かえって混乱や不安を招くこともあります。その人が本当に求めていることは何か。どのような背景があるのか。そうした深い理解をもとに関わることで、本人にとっての安心や信頼に確実につながっていくはずです。
「医療連携&ACP」の場面でも、事前の情報共有や医師との調整に努めるなど、日々の積み重ねを大切にしている様子が印象に残りました。特別な対応というより、「当たり前のことを丁寧にやる」ことの価値を、あらためて教えてくれる内容でした。
さらに、ケアの質を継続的に高めていくには、個人の努力だけでなく、それを支える仕組みやチームの協力が欠かせません。佐藤さんのような姿勢を持つ人が活躍できるのは、そうした取り組みを後押しする社風や環境がしっかりと整っているからだと感じました。

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