「今から知っておきたい親のこと」の第2回目は、「親の履歴書」です。
「親の履歴書」とは、親の出生地(出身地)、本籍、学歴、職歴、結婚、出産(子供の誕生)、専門分野、技能、記録、表彰、著作、免許、資格等々の情報のことです。
履歴書というと、仕事を探す時に書くものと思われるでしょう。親の経歴はだいたい知っているし、なぜ履歴書などというたいそうなものが必要なのか?という方もいらっしゃると思いますが、介護では予想以上に親の細かい情報がカギになってくるのです。
親の介護が始まると、親の状態の変化次第では、お役所関係、介護サービス関係、金融関係をはじめ、様々な関係者に対する手続きや書類の記入の際に、親の委任を受けたうえで、家族が代行する機会がけっこうあります。
細かく親の経歴を問われることは少なくても、何年に退職したかとか、いつからこの家に住んでいるかなど、いきなり聞かれてもわからないこともあります。他にも、親の出身校や勤めていた会社、所属していた団体などから、突然連絡が来ることもあります。そういったときに、あらかじめ「親の履歴書」があれば、返事をきちんと出すなどの対応ができるのです。
また、親の状態が急変したり認知症が進行したりして、親の意思表示が難しくなったときは、権利譲渡や成年後見制度の申立の検討をせざるを得ないことも起こり得ます。これらの申請に必要な書類には、本人の学歴や職歴など経歴を記入する欄があります。
こういったことから、「親の履歴書」は、親が元気なうちに、本人と一緒に作成しておくと安心です。
親の履歴書を知っておきたい理由は、手続きや書類の記入の代行のためだけではありません。
親の出生、育った時代や土地、結婚年齢、何歳の時に子供が生まれたか、そしてこれまでしてきた仕事や頑張った証などを時系列で追う作業をしていると、親のこだわりや挫折、成功と自慢、後悔など、親の人生が見えてきます。家族にとっては、もしかしたら事務代行よりも、親の人生が見えてくることのほうが、介護をする上では大事なポイントになるかもしれません。
筆者自身がまさにそうでした。20年近く離れて暮らしていた父親を介護するために同居を開始しましたが、父は脳梗塞の後遺症で失語症になり、認知症も発症していたため、文字を読むことも書くことも、言葉を話すこともできなくなりました。
私は必要に迫られて、父親の経歴をまとめたものを作ったのですが、その作業をしたおかげで、父の人生を振り返ることができ、「今は要介護状態になってしまったけれども、それまではこんな風にいろいろなことをしながら元気に生きてきたんだなあ」という感慨が沸き起こりました。
その気持ちは、始まったばかりの介護に対してポジティブに思えるきっかけの一つとなり、「人生最後の季節を少しでも穏やかに過ごさせてあげたい」という思いが自然に生まれました。
父の履歴書は、本人に聞くことができないので、母に確認しながらまとめましたが、父が元気なうちに、もう少し本人から話を聞いておけばよかったなという気持ちが、ずっと残っています。
では、「親の履歴書」に書く内容についてです。
必要と思われるカテゴリーは、大きく分けて次の2つがあり、それぞれのカテゴリーの中に、必要に応じて細かい項目を設定します。なお、親の履歴書は、父親と母親を別々に作成しましょう。
親の基本的な生活歴
など
親の仕事歴や活動歴
人生の歩みは人それぞれですから、必要ない項目もあると思います。親の人生の流れがわかるよう、臨機応変に工夫しながら、オリジナルの履歴書を作るとよいと思います。
なお、既に自身の経歴書を作成していたり、エンディングノートを作っていたりする親もいるでしょう。そういう場合は、経歴の部分を教えてもらいながら、家族が独自に作ったフォーマットに記入し直し、足りない情報をヒヤリングするといいと思います。
しかし、ヒヤリングが難しかったり、親から経歴を聞き出すのが困難だったりする家庭や親子事情もあります。
親の履歴書はこれまでの人生の流れがわかるものですから、親の人生を否定しない態度で接することが大事です。親のことをそろそろきちんと知っておきたいという姿勢で、一緒に履歴書を作りたいという気持ちが素直に伝われば、案外スムーズに進めることができると思います。
介護が始まりそうなとき、始まった介護に不安を感じ始めたとき、親の履歴書を書いてみることをお勧めします。
イラスト/上原ゆかり
在宅介護の経験をもとにした『ケアダイアリー 介護する人のための手帳』を発表。 高齢者支援、介護、福祉に関連したテーマをメインに執筆活動を続ける。 東京都民生児童委員 小規模多機能型施設運営推進委員 ホームヘルパー2級
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