高齢者になりきって、秋葉原の街で遊んでみる

ぼくたちもあと30年、40年たつと、高齢者に仲間入りすることになる。ずいぶん先の話だと高をくくっているかもしれないが、そのときは意外とすぐやってくるだろう。

覚悟はできているだろうか。

ぼくはできてない。

今の健康な体が、いつかは思い通りに動かなくなるなんて、まるで想像がつかない。

年を取ったら、体は一体どんなふうになるのか。若い頃と同じように街に繰り出したり、新しい遊びにチャレンジしたりできるだろうか?

高齢者の日常生活を疑似体験できるセットを使って、高齢者になりきり、街に出かけていろいろと体験してみた。

高齢者の体を疑似体験してみる

今回使う「高齢者疑似体験教材」は、その名の通り高齢者の不自由さを再現できるセットだ。下記のようなアイテムが入っている。

・イヤーマフ/耳栓:加齢による聴覚の衰えを体験できる。見た目は普通のヘッドホン

・視覚障害ゴーグル:視野が狭い状態や、白内障の状態を再現できる。ゴーグルの中に、各視覚障害体験用のシートが入っている

・ひじ/ひざサポーター:関節に巻いて、ひじやひざを曲げにくくする

・重りバンド手首用/足首用:手首や足首に着けて、筋力の低下や障害から起こる身体の重さを体験できる

・ゼッケン:疑似体験中であることを周囲に知らせて、安全を確保する

・重り付ベスト:筋力の衰えによって、前かがみになる姿勢を体験できる

・前かがみ姿勢体験ベルト:筋力の低下や腰の湾曲による前かがみ姿勢を体験できる

・アルミ折りたたみステッキ:歩行時に負担のかかる体を補助する

そのほか、手先を動かしにくくするゴム手袋などが入っている。実際に着用してみよう。

高齢者疑似体験セット
重りがたっぷり入っているので、結構重い

一人で装着するのは難しいので、補助役の人に手伝ってもらいつつ装着する。装着したあとも、安全のため補助役の人についてもらう。

着用の様子
体が次第に固まっていく

ベストには重りを入れるためのポケットが4つついている。1つ1kg、計4kgの重りを収納して着る(※成人が使用する場合)。

着用してみた
「ヨーコさんや、メシはまだかいのー」みたいなセリフが自然と口をついて出てくる

首にかけているのは「前かがみ姿勢体験ベルト」。先端は左右の膝につながっており、これによって使用中は必ず前かがみの姿勢になる。前傾姿勢になると、高齢者がなぜ杖を使うのかがよく分かった。支えるものがあるとすごく楽なのだ。

視野が狭くなるゴーグルを装着すると、自然と周りをキョロキョロしてしまう。高齢者がよくやってる動作だが、周りが見えづらいせいなのだろうか。あと、イヤーマフで周囲の音が聞こえづらいと、自然と自分の話し声が大きくなるのに気づいた。そういえば、大きな声で話す高齢者もよく見かける。

高齢者の動作の理由が想像できるのは面白いが、姿勢がめちゃめちゃつらいのは完全に想定外だった。

高齢者が、階段を上り下りするとどうなるか

試しに、階段を登ってみた。

階段を昇る
足元が見えないためマジで怖い

普段なら難なく上れる階段だが、高齢者の状態だと一歩一歩が慎重になる。しかし、上りはまだなんとか大丈夫だった。問題は下りだ。

階段を降りる
体を横向きにしないと怖くて下りられない

下りの怖さ。これは上りの比ではない。足元がよく見えないとこんなに怖いのかと、あらためて実感する。

手すりを使って降りる
手すり考えた人、天才じゃないかな?

手すりを使ってみた。手すりがあるのとないのとでまったく違う。手すりのありがたさよ。手すりまじパねえ。

前かがみ姿勢体験ベルトを外した
すんません、一旦前傾姿勢なしにしてもらっていいですか?

そしてやっぱり、強制的な前傾姿勢がめちゃめちゃしんどい。一旦、前かがみ姿勢体験ベルトを外してもらって背筋を伸ばす。はぁ~という安堵のため息とともに、心地よい春風が頬をなでる。平安時代の公家なら一首詠んでたところだなこれ。

高齢者、アキバに降り立つ

若者の町、秋葉原(アキバ)にやってきた。

秋葉原に降り立つ
秋葉原ってーのはここかね

従来、若者の街といえば原宿というのが定番だったが、最近はアキバもその一つといえるだろう。

萌え絵を鑑賞
萌え絵を鑑賞する高齢者「ヨーコさんや、へそしか見えんぞ」

高齢者の状態で、駅ビルに掲示された巨大な萌え絵を鑑賞するものの、前傾姿勢と視野狭窄のため、へそしか見えない。

高齢者、ヨドバシカメラでお買い物

ヨドバシAkiba外観
ヨドバシAkiba

さて、アキバといえば、お買い物。家電量販店でいろいろと商品を物色してみたいので、ヨドバシAkibaにやってきた。

高齢者になっても最新の情報機器は使っていきたい。スマホ売り場でシニア向けスマホを触ってみよう。

シニア向けスマホを試す
シニア向けスマホ。うーん、そんなに使い勝手は悪くないな

字がでかくて見やすい。タッチしたときに、ブルッとする感触があるので、何をどうしたかも分かりやすい。薄いゴム手袋を着けたままでもまったく問題なく操作できた。

自撮りする
はい、自撮り〜

高齢者でもスマホで自撮りができることは確認できた。むしろ、腕が強制的に伸ばされている状態なので、自撮りはしやすいのではないか?

せっかくなので、ほかにもいろいろな売り場を回ってみよう。

エスカレーターで下っている最中
階段に比べて格段に楽なエスカレーター。乗り降りするときは、普段より慎重になった
テレビ売り場を物色する
巨大なテレビモニターだが、近づかないと見づらい
健康器具に乗る
足を乗せると、ブルブル動くボード。この体勢は意外とバランスが取りやすかった
(※今回はあくまで疑似体験のため、実際に高齢者がこのようにバランスを取れるかは、この限りではありません)
ドールハウスを物色する
孫(?)へのプレゼント探し。普段よりも、物が若干持ち上げにくい

表面がツルツルの最新型テレビを眺めたり、エクササイズボードに乗ってみたり、孫へのお土産を物色したりしたのだが、特に高齢者だからという大きな違和感はなく、面白く見て回ることができた。

そしてどういうわけだか、売り物のDJセットをいじったときがいちばん違和感がなかった。高齢者疑似体験教材とテクノミュージックの親和性が発見された。

DJセットを試す
ドゥンードゥンードゥンードゥンードゥンードゥンー……
キメッ

このシーンにおいては、見た目はヘッドホンそっくりなイヤーマフと、尖ったデザインのサングラスっぽいゴーグルが、かなりいい仕事をしている。こういうDJいそう。

高齢者、アキバ名物を食らう

さて、お昼時になってきたので、アキバ名物でも食うかという話になる。

アキバの街と高齢者疑似体験セット
アキバを移動する高齢者

1990年代からアキバ名物として知られている「おでん缶」を買ってみる。

こてんぐシリーズを購入
おでん缶を手にする
おでん缶入手
おそるおそる汁をすするが、思ったほど熱くなかった

缶の中に入っている爪楊枝で、おでんをつつきながら食べる。ここで気づいたのだが、なぜか思ったよりも食べにくいのだ。

おでん缶を実食
なんかちょっとだけ食べにくい

ゴーグルで視野が狭くなっているので、口元が見えず、おでんを口に持っていくのが若干怖い。うっかりしていると、唇に爪楊枝が突き刺さりそうになる。

普段は無意識のうちに、口元を確認しながらものを食べているのが分かった。あと、ひじのサポーターや手首の重りがあるので、普段より腕が疲れる。

実際の高齢者は視野の狭さに加え、手が震えやすかったり、握力が弱かったりもするだろう。ひとりでの食事が困難になるのは、十分想像できた。

高齢者、エアガン射撃にハマる

さて、高齢者でも安心して楽しめるアクティビティはなんだろう。

この体勢でバッティングセンターやボウリングは難しいかもしれないけれど、エアガンの射撃ならできるのではないだろうか?(実は、前からちょっとやってみたかったのだ)

というわけで、エアガン射撃場「TARGET-1 秋葉原店」にやってきた。

エアガン射撃場「TARGET-1 秋葉原店」入口
こちらですー
エアガンを舐めるように見回す
ガラスケースの中のエアガンを選ぶ
どれを使ったらいいのか分からない……

初心者なので、何をどう使ったらいいのかが分からない。これは高齢者だからというわけではない。とりあえず、店員さんのおすすめのレンタルガンで射撃させてもらうことに。

ベンチに座る
準備の間、椅子に座れた

準備してもらっている間、椅子に座って待つ。椅子、めちゃめちゃ楽ちんである。

ぼく自身がマジで腰痛持ちだからということもあるのだが、常に強制的な前傾姿勢なので、腰がメリメリ音をたててきしんでいるような気がする。背筋を伸ばせる椅子は本当にありがたい存在である。

キャラバン隊が、砂漠でオアシスを求めるように、高齢者が電車で席を欲する理由が、文字通り骨身にしみてよく分かる。

銃の説明を受ける
まずは初心者向けの銃を使ってみる

「ハイキャパ5.1」と呼ばれるガスガンで射撃。

銃を構える
狙いを定めて……
狙いを定めている
あれ?

ふと気づいたが、なんという見た目の違和感のなさ。イヤーマフ、ゼッケン、ゴーグルがめちゃめちゃいい仕事している。

銃を構えてキメ顔
こんなのどっかで見たことあるな

モントリオール五輪にクレー射撃で出場したときの麻生太郎財務大臣みたいになっている。おかげかどうかは分からないが、弾(BB弾)が的によく当たった。

H&K MP5 A4を撃つ
連射できるので心強い

続いては「H&K MP5 A4」という短機関銃と呼ばれるタイプの電動ガン。引き金を引くと、スパパパパパパーと心地よい感じでBB弾が的に向かって飛んでいく。楽しいぞ、これは。

さらに「VSR-10 プロスナイパーバージョン」というスナイパーライフルで的を狙ってみる。

VSR-10 プロスナイパーバージョンを撃つ
ハイッ!

あれだ、映画『プライベート・ライアン』で見たやつだ。こういうやつ、撃ってみたかったんだよね。

VSR-10 プロスナイパーバージョンで狙いを定める
シュパーッ

連射ではないけれど、照準で的を狙って撃つのは緊張感があって、これはこれで面白い。

命中した的
かなり命中したぞ!

もはや、高齢者とかどうとか関係なくなってきたが、初めての射撃は楽しかった。疑似体験教材を身に着けているとなぜかロボコップ感もあり、なかなか面白い。

それに写真の通り、このお店では椅子に座って射撃させてもらえるので、腰痛持ちの高齢者にめちゃめちゃ優しい。

店員さんに話を聞くと、70代のお客さんも遊びに来るそうだ。ということはつまり、エアガンの射撃は高齢者でもじゅうぶん楽しめる、ということではないか。

これはかなりよかった。

やっぱりしんどかったぞ

というわけで、高齢者を疑似体験しながら、アキバ観光をしてみた。

ショッピングも、食事も、アクティビティも、それぞれ面白かったり楽しかったりするものの、強制的な前傾姿勢が非常につらかった。これはマジで腰にダメージがじわじわくる。

あと、やっぱりベストは重いし、耳は聞こえにくいし、視野は狭いし、関節は動かしにくい。ものを食べたり、何かを持ち上げたりするようなささいな動きも、普段よりやりづらかった。

「体の自由が効かなくなる」というのは、じわじわ来るものではなく、事故や病気で、ある日突然にやってくることもあり得る。つまり、自分の親や、高齢になった自分ではなく、今の自分がそうなることだってあるのだ。

そんなことを考えると、暗い気持ちになりがちだ。でも、階段で手すりへと誘導してくれたり、前や後ろの見えにくいところを補助してくれたりする人が一緒なら、そこそこ楽しめるのではないか? という気にもなってきた。

それに今回の体験で、体の自由が効かないとどういう場面で困るのかということが想像しやすくなった。自分が支える立場になったときにどうやって補助すればいいのかも、以前より具体的にイメージできる。

暗い気持ちで将来を考えるのはやめにして、親や自分の体が老いたとき、今まで通りに動けなくなったとき、どう楽しんだらいいのか……そんなふうに考えるようにしたい。

高齢者疑似体験教材を脱いだ様子
高齢者疑似体験教材を数時間ぶりに解いて、身軽なことのありがたさを知る

撮影:小野奈那子

写真提供:ヨドバシカメラ

編集:はてな編集部

西村まさゆき
西村まさゆき ライター

鳥取県出身、東京都在住。めずらしい乗り物に乗ったり、地図で気になる場所に行ったり、辞書を集めたりしています。著作『そうだったのか!国の名前由来ずかん』(ほるぷ出版)、『押す図鑑ボタン』(小学館)、『ぬる絵地図』(エムディエヌコーポレーション)、『ふしぎな県境』(中央公論新社)、『ファミマ入店音の正式なタイトルは大盛況に決まりました』(笠倉出版社)ほか。移動好き。好物は海藻。

Twitter@tokyo26 西村まさゆきさんの記事をもっとみる

おすすめの関連記事

介護が不安な、あなたのたよりに

tayoriniをフォローして
最新情報を受け取る

ほっとな話題

最新情報を受け取る

介護が不安な、あなたのたよりに

tayoriniフォローする

週間ランキング

ページトップへ