親の老後を心配する30代の娘が、お酒の力を借りて父親と本音で話してみた

面と向かってはなかなか話せない親の老後問題。とはいえ、元気なうちに本音を聞いておきたいというのも子どもの本音だろう。ならば、酒を酌み交わしながら酔った勢いで本音をぶつけ合えばよい。どんなぶっちゃけトークが飛び出すか、乞うご期待。

今回の親と子

会社社長の父(71歳)と会社員の娘(30歳)。二人は父の持ちマンションで同居生活を送っているが、生活時間のズレから日頃はほとんど会話がない。娘は父の健康状態を心配しているがーー。

家族でどこかに出かけた記憶がほとんどない

娘

じゃあ、私は生ビールで。おとんは?

父

私も生をもらおうかな。

娘

乾杯! 振り返ってみると、家族3人でどこかに出かけた記憶がほとんどない。

父

自分から旅行に行こうと言い出したことはないね。

娘

ものすごい出不精で、お母さんが近場でどこかに行こうよと誘っても、お金だけ出すから行っといでみたいな。

父

家が落ち着くんだよ。外食も嫌い。

娘

最後に家族写真を撮ったのは●年前の親戚の結婚式(笑)。

父

そんなに前ですか。

娘

お酒も家でひたすら焼酎を飲んでるよね。大五郎みたいな安いやつ。

父

いいお酒をいただいて飲むこともあるけど、ああいうのは糖分が多い。医者に「血糖値、だいぶ高くなってますよ」って言われた。

娘

美味しいから飲み過ぎたんだよ。あと、食事に一切気を使わないのも心配。ご飯に麺とパンとか意味わかんないし。私が野菜料理を作ってタッパーに詰めておくけど、頑なに食べない。

父

弁当も自分で買ってきちゃうから。

娘

それに野菜が入ってたら食べるの?

父

食べない。

娘さんがチョイスした、焼きそら豆ときつね納豆
娘

たばこも吸うし、とにかく不摂生。

父

たばこ税を払って国に貢献してるんだから。やっぱり嫁さんが亡くなって、注意する人がいなくなっちゃうとね。

娘

体心配して「野菜食べて」って言ってるんだけどね。私の反抗期時代はどうだった?

父

関連本も読んでいたんで、こんなもんかと。本には「アホと争うな」って書いてあった。

娘

ああ、そんな風に思ってたんだ。昔からお互い干渉しなかったね。だから、喧嘩もしない。

死ぬ時はピュッと逝くから延命治療はいりません

父

ウーロンハイをいただこうかな。

娘

私も生ビールお代わり。

父

で、今日は何を話せばいいの?

娘

おとんの今後のこと。男性の平均寿命は85歳でしょ。単純に14年あるとしたら残りの人生をどう生きたいの?

父

親父が作った会社を引き継いで今まで必死にやってきたわけで、そんな先のことを考えてる暇はないよ。

娘

私、おとんにエンディングノートを書いてほしいの。

父

何ですか、それ。

娘

「もしもの時」に備えて、保険や証券のこと、あと葬式はこんな感じでやってほしいとかをまとめておくノート。

父

遺言でいいじゃない。

娘

遺言はもっと法的なもので、エンディングノートは財産の分配、金庫の番号、連絡してほしい人を書くの。

父

お母さんは亡くなってるし、財産なんて一人っ子のあなたに全部行くじゃない。

娘

親戚だっていっぱいいるでしょ。もし、おとんが認知症になったらおとんしか知らない情報をどうやって調べればいいの?

父

お金回りのことは会社で雇ってる会計士が全部やってくれるよ。

娘

個人でも保険に入ってないの?

父

入ってません。仕事が忙しくて認知症になってる暇もないから。

もつ煮
娘さんがよくこのお店で頼むというもつ煮
娘

94歳で亡くなったお祖父ちゃんが認知症になったじゃん。会社で持ってる株をなぜか売ろうとして。

父

あれはびっくりしたね。私が証券会社に電話してストップさせた。

娘

おとんと証券会社の間に関係性が築けていたからできたんだよ。おとんが同じことをしようとして、私が証券会社に電話しても相手にしてもらえないよね。

父

まあ、そうだね。

娘

いざという時に延命治療はしてほしい?

父

いりません。

娘

そう言うと思った。私もさせたくない。お金がかかるし、見ていて辛いし。

父

死ぬ時はピュッと逝くから。

緊急入院のたびに会社を早上がりする身にもなって

娘

あっ、とんかつが来た。ここのは本当に美味しいよね。

父

私はウーロンハイをもう一杯。

娘

ペース速くない? あと、認知症にならなくても糖尿病が悪化する可能性もあるし。

父

月に1回、糖尿病の検査を受けてるけど結果は毎回低いレベル。取り立てて健康の不安はないね。

娘

自分が思ってるだけでしょ。

父

町内のお年寄りから病気の話を聞くけど、自分はそこまで大変じゃないなと思う。

娘

そんなこと言って、去年、急性出血性胃潰瘍で2回も緊急入院したじゃない。本人が気付いてなくて、会社の人たちから私に連絡がきたんだよね。「社長、呂律が回っていないし、フラフラしながら帰りました」って。慌てて様子を見に行ったら家で吐血してた。

父

呂律は回ってたよ。

娘

会社の人の感想だよ。

父

話に尾ひれが付いて大げさになるんだよ。

娘

5人ぐらいの人から聞いたから。
緊急入院のたびに会社の人たちに「すいません」って言いながら早上がりする身にもなってもらえますか。2回とも私が救急車を呼んで無理やり乗せたんだから。

父

70歳を超えて「手術経験は?」「ありません!」「入院は?」「ありません!」って、すごいことだと思うよ。

娘

それは61歳で亡くなった母が頑張ってきたから。会社の経理とかも手伝いながら家のこともちゃんとやって。

父

親父もお袋も最後は自宅療養だったけど、ヘルパーさんが食事の支度もしてくれたし。

娘

ヘルパーさんは食事の支度は一切してない。お母さんが全部やってた。結局、ありがたみがわかってないんだよね。

自分が働けなくなったタイミングで会社は畳む

父

しかし、お年寄りがどんどん増えていくね。今はインターネットで探せるんなら家賃が安い郊外の老人ホームが流行るんじゃないの?

娘

駅から近い方がいい、交通の弁がいい、いろんな希望があるから。おとんは認知症になったり、車椅子の生活になったら、階段しかない今のマンションでは暮らせないよね。

父

かといって、老人ホームに行く気はない。

娘

私はおとんの介護はできないから、そういう状況になったら老人ホームに入ってもらうよ。お酒を飲ませてくれるところ探すから。

父

それは子どもの考えであって、自分としては生涯現役。面倒なんか見る必要もないし。

娘

そんなこと言っても、他に選択肢ある?

父

とにかく、未来のまだわからないことについて考えるのは難しいよ。

娘

未来の話ならおとんがやってる株と同じじゃん。値段が上がるかもと思って買うんでしょ。

父

株の話でいうとソフトバンクグループがね。

娘

そんな話はしてないから。

父

あ、そうですか。未来はどうなるかわからないよ。医療技術もどんどん進歩するし。

娘

何十年かかると思ってるの。認知症の新薬もこないだ厚労省から弾かれたし。

父

でも、将来性を見越して製薬会社の株価は上がったんだよ。

娘

これだけ頭が硬いと大変。お代わり頼もっか。

父

お願いします。

娘

そういえば、会社は誰が継ぐの?

父

いさぎよく畳んじゃいます。

娘

どのタイミングで?

父

自分が働けなくなった時。それは自分で判断する。

娘

認知症になったら判断できないじゃない。

父

あんたと話してると銀行屋さんと話してるみたいだよ。悲観的な部分しか見ない。未来に対する夢がないんだよね。

娘

私、年内で一人暮らしするからね。おとんのことは心配だけど。

父

どこに住むの?

娘

まあ、実家の近くにします。

対談場所

千代本(とんかつ店)
東京都台東区上野2-3-9
TEL:03-3831-6315

とんかつ千代本

3代目の高田浩光さん(30歳)は娘の小学校時代の同級生。

「店の大将の父が60歳で母が67歳。介護のこととかはまだ考えていません。ただ、92歳で亡くなった祖父はギリギリまで元気で、たぶん店の帳簿を付けるなどの仕事をしていたから。うちは90歳定年ということで、父にも頑張ってもらおうと思っています(笑)」
 

石原たきび
石原たきび 編集・ライター

塾講師を経てリクルートに入社。2003年よりフリーランス。焚き火、俳句、酒をこよなく愛す。編著に『酔って記憶をなくします』(新潮文庫)など。

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