介護者にやさしくないニッポン~スウェーデンにあって日本にない支援とは

世界でも類を見ない高齢社会に突入した日本では、介護にまつわる問題が日々話題になっています。しかし、その中で忘れられがちなのが、要介護者を介護する家族や近親者など「介護者」への支援です。

1日の多くの時間を介護に費やしている介護者は、肉体的にも精神的にも、さらに経済的にも大きな負担を強いられているのが実情です。しかし、それをサポートする体制はお世辞にも万全に機能しているとは言えません。

この介護者支援の問題は、先進国はどこでも共通のはず。他国ではどのような施策がとられているのか。そこから日本にも取り入れられるものはあるのか。

そこで、先進国の中でも最も福祉が充実しているといわれるスウェーデンの介護者支援の実態を、スウェーデンの社会保障や福祉、財政などを専門としている関西福祉大学教授の藤岡純一先生にうかがいました。

今回のtayoriniなる人
藤岡 純一(ふじおか・じゅんいち)
藤岡 純一(ふじおか・じゅんいち) 関西福祉大学教授。立命館大学大学院経済学研究科博士課程単位取得、京都大学博士(経済学)。専門分野は社会保障論、比較福祉学、財政学で、特にスウェーデンの社会保障システムや福祉の現状に詳しい。主な著書に『現代の税制改革―世界的展開とスウェーデン・アメリカ』(法律文化社)、『分権型福祉社会・スウェーデンの財政』(有斐閣)、『スウェーデンにおける社会的包摂の福祉・財政』(中央法規)などがある。

1990年代から始まったスウェーデンの介護者支援

藤岡先生によると、スウェーデンで介護者支援の重要性が叫ばれ始めたのは、1990年代に入ってからのことだそうです。

「それまでは、公的な介護を充実すれば介護者の負担も軽減されると考えられてきました。ところが1990年代に入り経済危機と財政危機が発生し、これ以上の高齢者福祉の充実が困難だという認識が広がり、家族や親族の役割ということが再認識されました」

それとともに介護者の調査も進み、介護離職や介護者の健康問題、介護者自身の時間が取れないことなどの問題が明確になっていきました。そこで、1996年に『スウェーデン介護者協会』が設立され、政府に介護者支援の導入を働きかけていきます。

スウェーデンには、全国に「コミューン」と呼ばれる290ほどの基礎自治体があり、2009年の社会サービス法の改正により、介護者支援はこのコミューン単位で行われるようになりました。これらの支援は基本的にコミューンが責任を持ち、財源もコミューンの税金によるものです。

ただスウェーデンでは、介護者協会をはじめとする民間団体のメンバーも介護者支援に大きな役割を果たしており、その多くはボランティアです。彼らの多くが、配偶者が要介護者であったりすでに亡くなってしまったりした人たちで、彼らもいずれ要介護者になり、公的な介護とボランティアの支援を受けるという、介護→要介護のサイクルになっているそうです。

個人を尊重しつつも要介護者との絆を大切にする

「スウェーデンの高齢者介護も日本と同様で、施設系サービスである「特別な住宅」と在宅サービスの2本立てで構成されており、近年は在宅に重点を置こうとしている点も似ています。その中でスウェーデン独自の介護者支援として『ホームレスパイト』、介護者出会いセンターなどのミーティングポイントの設置、要介護者と一緒に泊まれるショートステイなどが挙げられます」(藤岡先生)

『ホームレスパイト』は、交代ヘルパーを派遣して家族介護者に休息を取ってもらうシステムで、1週間の利用時間は平均12.5時間、多くのコミューンでは平日も休日も実施しており、無料で利用できます。

介護者が集まる『介護者援助グループ』の会や『介護者出会いセンター』などのミーティングポイントが常設されているのも、スウェーデンの介護者支援の特徴の一つでしょう。ここでは要介護者と介護者が一緒に集まり、フィーカ(ケーキを食べコーヒーを飲みながら談笑するスウェーデンの伝統)を行います。また、彼らに向けたカウンセリングや講演会、健康促進活動、趣味の活動、教育活動なども行われています。コミューンはこのような場を作る義務があり、場所の賃貸料はコミューンが持ちます。

「スウェーデンでは、高齢者がそれぞれ個人として独立しながら、家族や親族の関係も非常に重要視する傾向が日本より強くあります」

と藤岡先生は言います。スウェーデン人は他国に比べ身内に対する愛情が深いといわれ、多くの人が介護をする理由に「感情の絆」つまり愛情を挙げるそうです。

そのためスウェーデンでは、高齢者施設の『特別な住宅』は日本よりも個室が広くゆったりとしていて、個人の家具などを持ち込んで自宅同様の部屋にすることができます。食事や時間の使い方も要介護者の都合が優先されます。その一方で、例えば在宅の要介護者を短期間外部で預かるショートステイでは、要介護者と介護者が一緒に泊まって休息をするというケースが多くみられるなど、個人の自由や独立と身内や仲間との絆を尊重する支援のあり方が一般的なのだそうです。

「介護」の支援から「介護者自身への支援」へ

こうしたスウェーデンの介護者支援から見えてくる日本の課題、そして取り入れるべき点は何でしょうか。

藤岡先生は、日本の支援事業が、『介護』そのものへの支援が中心で、『介護者自身への直接の支援』が少ないことが問題の一つだと言います。

「日本でも、スウェーデンで行われているような、介護者の休息を目的にした支援や、介護者が集まる場の常設など、介護者自身への直接的な支援のメニューを明確にすべきでしょう。介護保険による公的な介護は、介護者によっても支えられていることをより強く認識しなければなりません」

そのためには、まず何よりも市町村と包括支援センターが具体的に何を行うべきかを明確にするべきだと藤岡先生は言います。スウェーデンでは介護者協会の支部が多くのコミューンに作られているように、日本でも介護者の会をいたるところで作り、それを市町村が支援すべきだと語っています。

高齢者が個人として独立しながら、家族や親族の関係も大切にしているスウェーデンの介護者支援。遠いヨーロッパの話で片付けるのではなく、日本も学ぶべき点が多いのではないでしょうか。

古里 学
古里 学 フリーライター、エディター

大手出版社の編集者を早期退職後、2016年よりフリーのライター兼エディターに。主な活動フィールドは「なろうと、介護と、自衛隊」。「小説家になろう」に代表されるweb小説に編集及びかつての経験を活かした介護関係の記事の執筆、そしてなぜか自衛隊に関する取材記事を多く手掛けている。

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