「あんたの世話にはならない」と言われたら - 親とのコミュニケーションのコツ

親の本音を知るには

必要な情報を得るためには、親の気持ちを知っておきたい

介護が必要になる前に、知っておきたい親の情報として、これまで「親のキャラクター」、「親の履歴書」、「親の交友関係と連絡先」、「親の個人情報」、「親の医療データ」についてお伝えしてきました。

でも、これら大事な情報を知ることができるのは、親とのコミュニケーションがあってこそ。「そのコミュニケーションをとるのが一番難しい!」という人は案外多いのではないでしょうか。

親とコミュニケーションをとるためには、「親の気持ち」を知る必要があります。

「親の気持ち」とは、介護が必要になったらどうしてほしいか、最後まで自宅に住み続けたいか、施設や高齢者住宅に入ることを考えているか、延命治療についてどう思っているかなど、高齢になったときの暮らしを親自身がどう考えているかということです。

この「親の気持ち」を知ってこそ、これまで紹介してきた「知っておきたい親のこと」を知る本当の意味が出てきます。

単に手続きに必要だから親の口座をとにかく知りたいとか、必要な情報だけを事務的に知りたがろうとすれば、親から頑な態度をとられたとしても、それは無理からぬこと。「あんたの世話にはならない」、「自分のことは自分でできるし、判断もできる」などと言われて、必要な情報を得るのが難しくなってしまいます。

高齢になった親とのコミュニケーションは、親の今の気持ちを知るために、彼らの暮らしを気にかける姿勢で接することから生まれます。

高齢になっていく親のことを想像することが大事

「今の気持ちを知る」とか「暮らしを気に掛ける」を強調したいのは、気持ちも暮らしも年とともに変化する可能性があるものなので、継続的に気に掛ける必要があるからです。

元気な頃は、「あなたたちの世話にはならないからね」、「胃ろうとか延命治療はしないでね」、「家族のことがわからないほどの認知症になったら施設へ入れてね」などと言っていた人も、いざその時がきたら、以前と同じ考えや気持ちであるかはわからないものです。

元気に見えていても、親は年を重ねており、見た目ではわからないような変化も起こっているでしょう。足腰が弱くなっていたり、耳も多少遠くなっていたりしているかもしれません。

また、長生きすれば、親しい友人や長年交流のあった近所の方々が先に亡くなる経験が増えてきて、配偶者を先に亡くす場合もあります。そういった経験からくる喪失感というのは、とても大きいものです。

体力的な衰えに加えて精神的な寂しさ重なってくると、元気だった頃とは異なる感情や考えを次第にもつようになる親は少なくないのです。

しかし、気持ちに変化が起こっていても、子供には心配をかけたくないのが親というもの。不安な本音や状態を、家族に伝えないケースも多いのです。

したがって、隠された親の本音をいかに引き出すかが重要ですが、親の暮らしの変化や寂しさを想像することができれば、現在の親の暮らしを気にかける姿勢になると思います。常に気にかける必要があるとわかれば、親と常にコミュニケーションをとる大切さに気付くのではないでしょうか。

親とのコミュニケーションの取り方のヒント

それでは、「親の本当の気持ち」を知るためのコツは何でしょうか? それは非常にシンプルなこと。親と話す機会をたくさんつくればいいのです。

例えば、親と離れて暮らしていて、顔を見て話すのが年に数回程度でしたら、それを2か月に1回、1か月に1回と徐々に増やしいきましょう。

遠くに住んでいるので会いに行くのが難しければ、今はスマートフォンで簡単にテレビ電話ができますよね。テレビ電話が困難であれば、電話だけでも頻繁にしてはいかがでしょう。

親の家まで会いに行くにしても、ただ顔を見るだけで話もあまりせずに帰ってしまっては意味がありません。筆者は地域の高齢者の見守り活動をしていますが、親は子供たちの忙しさに理解を示しつつも、内心はもっと話をしたいと思っているように見受けられます。話をしなければ「親の気持ち」はわかりません。話をして、親の気持ちを確認してみてほしいと思います。

話すきっかけが難しいときは、最近の一般週刊誌等では「介護の手続き」や「生前にしておかなければならない手続き」など親に関する手続き特集が多くみられるので、その1冊を手にして「こんな特集読んで、うちがちょっと気になったから」と切り出してみてはいかがでしょう。

「お母さんは(お父さんは)ずっとこの家に住み続けたいの?」という風に、「親の気持ち」を聞いてみることから始めてみます。

そうやって話す機会を増やしながら、親の高齢になった時の暮らしへの思いを知ることができたら、親の交友関係、医療情報、お金に関する話題などの「知っておきたい親のこと」も比較的スムーズに話せるようになっていくでしょう。

互いに元気なうちは、それほど連絡を取り合わなくてもよいものです。

しかし、親が高齢になっていくと、何かあった時に連絡を取るだけでは、そこに至るまでの親の近況はわかりません。そうすると、いざというときに、親が望んでいる判断を代わりにできないのです。例えば、親が望んでいない延命治療を決めてしまうことだって起こり得るでしょう。

兄弟姉妹・夫婦間のコミュニケーションも必要

親の介護とは、やがてくる看取りや相続にまでつながる問題です。したがって、親とのコミュニケーションだけでなく、兄弟や夫婦など、家族間のコミュニケーションも必要になってきます。

でも、家族間のコミュニケーションをとるのは、親ととるよりも難しいという人もいるかもしれません。そんな場合も「親の気持ち」を家族間で共有することから始めるといいでしょう。

兄弟姉妹・夫婦間で「親の気持ち」がわかれば、在宅介護が始まった時はこうするとか、役割分担はこうしようとか、具体的なことを話し合うきっかけが生まれてきます。

連載の最後に

介護というと、排泄介護はどうするの? 入浴介助ができるだろうか? などといった具体的な介助のことを考えてしまうかもしれません。

でも、食事・排泄・入浴介護や家事支援というのは、介護のプロの手や地域の連携があれば、家族の手が少なくても大丈夫。その環境を親と一緒に考えることが、家族の介護です。

家族の役割は、高齢になった親を真の意味で孤立させないこと。

「今から知っておきたい親のこと」も、そのための情報であることを、連載の最後にお伝えしたいと思います。

浅井 郁子
浅井 郁子 介護・福祉ライター

在宅介護の経験をもとにした『ケアダイアリー 介護する人のための手帳』を発表。 高齢者支援、介護、福祉に関連したテーマをメインに執筆活動を続ける。 東京都民生児童委員 小規模多機能型施設運営推進委員 ホームヘルパー2級

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