認知症の父さんと、まだ幼い長男のたー君を抱えたライターの岡崎杏里さんは、育児と介護を同時進行で行う、まさに「ダブルケア」の当事者です。
育児も介護も大変な状況がクローズアップされがちですが、幼い孫と認知症のじいちゃんが織りなす日々は、意外にも笑える場面が多かった!岡崎さんちの日常をお届けします。
厚生労働省が実施している、「こんにちは赤ちゃん訪問(乳児家庭全戸訪問事業)(※)」という取り組みをご存じでしょうか? これは、生後4カ月までの乳児がいるすべての家庭に保健師などが訪問して、赤ちゃんの健康状態を確認するものです。(※自治体により名称が異なります)
もちろん、たー君と私のもとにも「こんにちは赤ちゃん訪問」がありました。
たー君は真冬に生まれたので、外は寒く、実家から帰宅したあとの私は引きこもりがちでした。そんなタイミングでの「こんにちは赤ちゃん訪問」。久しぶりに夫のヒロさん以外の大人と話す貴重な時間で、私の話を親身になって聞いてくれた保健師さんが女神様のように思えたほどです。
この「こんにちは赤ちゃん訪問」では、赤ちゃんの健康状態のチェックはもちろん、産後うつなどが注目されている現在は、お母さんの健康状態もチェックしてくれます。
いま考えるとそのころはまだ体調も戻っておらず、実家にも頼ることができなくなってしまったので、精神的にいっぱいいっぱいでした。ママ向けのアンケートで「孤独を感じて涙が出る」などに大きな〇を付けてしまうなど、私には保健師さんを心配させるような言動が多々あったように思います。
それにより「産後うつ」の傾向があると判断された私はその後も役所の担当部署から「お母さん、大丈夫ですか?」「こんなイベントがあるのですが参加しませんか?」とたびたび連絡をもらうというサポートを受けました。そんなありがたいサポートを受けながら、当時思ったことがあるのです。
「これ、介護にもあればいいのに…」
要介護認定がおりて、介護サービスがスタートすれば、その後月に一回程度ケアマネジャーが訪問してくれて、介護の悩みを相談できます。
しかし、認定を受けるにも、最初にこちらから役所の窓口へ「要介護認定をお願いします」と連絡が必要です。家族の要介護認定を渋る家庭もあるでしょうから、一律で向こうから「相談ごとはないですか?」とやってくる制度が必要なのではないか……と思うのです。
ママさんたちが陥る「産後うつ」と同じように、介護している人たちも「介護うつ」に陥ることが少なくありません。
今回、この原稿を書くにあたり改めて調べみたり、介護者のサポート活動を行っている専門家などに「こんにちは赤ちゃん訪問」の介護バージョンがないものか尋ねてみました。やはり「自治体ごとに高齢者のお宅を訪問する高齢者調査はあるものの、すべての高齢者が対象ではないし、全国統一的であったり、行政発の介護者を支援するための事業はなかなかない」ということでした。
私は子どもを持ったことで、国による、こうした赤ちゃんとママへのサポートを知りました。もちろんこのサポートですべてがカバーできたり、「産後うつ」がなくなるわけではないと思います。それでも、このサポートにより救われたママもいるはずです。
さまざまな事情で実現は難しかったとしても、要介護認定の申請をした家族の中の主たる介護者などに「こんにちは赤ちゃん訪問」のように誰かが訪問するしくみがあれば、「介護うつ」「介護中の虐待」「介護殺人」などが少しは減らせるかもしれません。
さらに言うと、育児グッズを専門的に扱い、育児に関するイベントや相談員もいたりする大型専門店(アカチャン●ンポなど)はたくさんあるのに、その介護バージョンはないに等しい状態です。(介護保険による事情もあるもかもしれませんが……)
ケアする側が孤独を感じたり、追い詰められて「うつ」になったり、「虐待」が起きてしまうなど、悲しい共通点も多い「育児」と「介護」。行政でも、民間でも、それらのサポートで上手くいっている事例などがあれば、横の繋がりを作り共有し合って問題解決ができたらいいのにと思いました。
茨城県つくば市出身。池袋の近くと横浜市の内陸部を経て、つくば市在住。書籍編集・ライティング→IT関連企業を経て、2009年よりフリーランスのイラストレーターとして活動中。
書籍・雑誌・WEB・広告などの媒体をメインにイラストを提供しています。著書に「赤子しぐさ」「赤ちゃんのしぐさ」(共著)があります。
ダブルケアラー(介護と育児など複数のケアをする人)として、介護に関する記事やエッセイの執筆などを行っている。2013年に長男を出産。ホームヘルパー2級。著書に23歳から若年性認知症の父親の介護、ガンを患った母親の看病の日々を綴った『笑う介護。』や『みんなの認知症』(共に、漫画:松本ぷりっつ、成美堂出版)などがある。
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