介護休業など介護の支援制度の周知が義務化へ 介護離職の抑止力となるか

企業が、介護の支援制度を従業員に周知させることが義務に

介護離職を防ぐため、厚生労働省はすべての企業に対し、従業員が40歳になったときに介護休業などの支援制度の周知を義務づける案を示しました。

総務省によると、2022年に家族の介護や看護のために離職した人は10万人以上で、大きな社会問題となっています。そのため厚生労働省は専門部会で今回の介護離職防止のための案を新たに示しました。

案では「従業員が40歳になった時に支援制度を周知すること」や「従業員が家族の介護が必要だと申し出た場合、支援制度を利用するかどうか確認すること」を企業に義務付けるとしています。

法律で定められた介護の支援制度

仕事をしている人向けの両立支援制度には「介護休業」や「介護休暇」があります。介護休業は家族一人につき最大93日間取得でき、介護休暇は年間5日間、時間単位でも取得できます。

介護休業制度とは

介護休業制度は、2週間以上の常時介護が必要な家族を介護する場合に休業できる制度です。対象家族1名につき3回まで取得でき、通算93日まで休業できます。日雇い労働者を除く全ての労働者が取得できますが、有期契約社員については要件があるため注意が必要です。

これらの制度や措置は育児・介護休業法によって定められ、企業の義務となっています。従業員はそれらを利用する権利があるため、制度の利用を理由とした解雇や降格など不利益を与えてはならないと規定されています。

意外と知られていない?仕事を持つ人の間でも半数以上が「知らなかった」

介護離職者は2010年代に入り2倍に増加し、2017年の調査では約9万人にものぼっています。不本意な離職を余儀なくされた本人だけではなく、人材が流出してしまう企業にとってもマイナスの影響があります。さらに介護離職に伴う経済全体の付加価値損失は1年あたり約6500億円と見込まれています。

そのため政府は「ニッポン一億総活躍プラン」で介護離職ゼロという明確な目標を掲げ、仕事と介護の両立が可能な働き方の普及を促進してきました。

しかし、介護している雇用者の9割は雇用形態を問わず、介護休業等の制度を利用していないことがわかりました。

総務省による2018年の介護者の意識調査によると、仕事を持つ介護者の6割が介護休業制度を知らないという結果が出ています。介護離職したことがある人とない人で、その割合はほとんど変わらないため、周知が義務化されれば利用率が高まる可能性があります。

LIFULL 介護編集長 小菅のコメント

制度を知らないまま介護離職をしている人が多い現状を改善するために、介護の支援制度の周知を義務化することは一定の効果がありそうです。

ただし、93日の介護休業をすべて家族の介護に充ててしまうと、あっという間に使い切ってしまうでしょう。

本来の使い方としては、要介護認定の申請手続きや、介護サービス事業所との契約など、あくまで『介護の体制を整えるための休みである』という理解も徹底させる必要があります。

さらに、実効性のある制度にするためには周知義務を課すだけではなく、残業や深夜勤務の免除や、在宅勤務や時短勤務の枠組みを柔軟に設定するなど、企業側の努力も必要になってきます。

また、介護離職をしないことがゴールではありません。介護は数年続くことも多いので、介護者の負担を軽減するサービスや相談窓口に簡単にアクセスできるような環境整備も望まれます。

働きながら介護を担う人は増えていくことが見込まれており、今後の議論の推移を見守りたいと思います。

参考資料:

2019年 株式会社大和総研「介護離職の現状と課題」

平成30年 総務省行政評価局「介護離職に関する意識等調査」

編集長プロフィール
小菅秀樹
小菅秀樹 LIFULL 介護編集長。老人ホーム、介護施設の入居相談員や入居相談コールセンターの管理者を経て現職に就任。「メディアの力で高齢期の常識を変える」をモットーに、さまざまなアプローチで介護関連の情報を発信しています。
ヤムラコウジ
ヤムラコウジ 編集者・ライター

編集プロダクション代表。早稲田大学を卒業後、PR会社やメディアを経て独立。介護関連の取材・執筆を始めて6年経ちました。イベントやインタビュー記事、現場取材など、人の声を伝えるのが得意。読者のプラスになる記事を書くことを大切にしています。

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