親の介護に、子育て、配偶者の病気療養、そして自分の病気の発覚。あっと言う間にケアは積み重なり、いわゆる「ダブルケア」に陥ります。
特に子育て中の方は、子ども以外の家族の誰かがケアを必要とすれば、ダブルケアになることは不思議ではありません。その備えはできていますか?また、今からできることはあるのでしょうか?
この連載では、ダブルケアの実例となるエピソードから、どんな風にケアが重なるのか、どのようにダブルケアに寄り添って生活しているのかなど、ダブルケアラーから学びます。
えみこさんの家系図から、えみこさんがケアに携わる人を見ていきましょう。
えみこさんは約10年の間に、以下の方へのケアが重なっていきました。
10年前、九州在住の実母が脳動脈瘤の手術をすることになり、術後認知機能に障害が残ってしまいました。当初は母親のケアを父親が担うことになりましたが、慣れない家事や介護に追われる中、父親も胃がんを患い入院することに。
父親の入院中、母親一人での生活が困難なため、えみこさんがケアをするために帰省します。それはえみこさんの産後のタイミングと重なり、当時長男は0歳でした。
以降えみこさんが関東の自宅に戻っても、遠距離で母親へのケアは続いていきます。
5年前、えみこさんは関東の自宅で両親との同居をスタートし、お母さんへのケアは生活をサポートするものが多くなっていったそうです。
✓ 介護保険の手続き・申請
✓ 母名義の不動産の整理・調整
✓ お墓の管理・手続き
✓ 衣服の管理の手伝い(購入や入れ替えサポート)
✓ お金の管理の手伝い
✓ 美容院への付き添い
✓ ケアマネジャーとの相談
✓ 病院の付き添い(基本は父。行けないときに行くレベル)
✓ デイサービスへの送り出し
✓ 外出の付き添い
母親の認知機能障害が始まった後、父親も胃がんのため入院。何度か手術を行い、術後の検査に行く際は、えみこさんの自宅に一定期間滞在するという生活を数年続けました。
慣らし期間を経て、実母・実父ともに5年前からえみこさん家族と関東の自宅で同居しています。
認知症がある母のケアが中心になるため、父のケアは息抜きや話し相手になることを重点的に行っているそうです。
✓ 病院の付き添い
✓ 話し相手(母への愚痴を聞く)
義母は現在、えみこさん家族と同じ敷地内に住んでおり、義兄と同居中。心臓疾患があり、この10年間で何度か入院。軽度の認知症があります。日常生活はできるものの、最近ではお財布を無くしたり、無くしたものを忘れてしまったりすることもあるとのこと。
✓ 食品や日用品など買い物の手伝い(荷物持ち)
✓ 定期的な見守り
✓ お金の管理の手伝い
✓ 貴重品の管理の手伝い(キャッシュカードや印鑑など)
✓ 探しものの手伝い(無くしたことを気付かないことも)
✓ 入院時の準備・手続き・精算
10年前に誕生した長男は現在5年生。未就学時までは手がかかることが多く、保育園や幼稚園に預けていたそうです。小学生になり学年が上がるにつれて、家事などを手伝ってくれるようになったとのこと。
✓ 乳児期は授乳や排泄、寝かしつけなど生活や身の回りのお世話
✓ 幼児期からは幼稚園の送迎やお弁当作り
✓ 習い事の付き添い
えみこさんは結婚前に乳がんが発覚。結婚後に再発が分かり、摘出手術を受けました。
その際にインプラントを使った乳房再建手術をしており、定期的なメンテナンスや手術が必要。本来はもう少し早く手術をしなければならなかったのですが、二度目のインプラント手術は最初の手術から10年後になってしまったそうです。
✓ 乳がんに関わる通院
✓ 入院時の手続きや精算関連
えみこさんの10年間の多重ケアの変遷を図にしたものがこちらです。
えみこさんのケアの変遷図を見ると、長男、母、父、義母のケアが一気に重なったのは2011年からの1年間。しかし、その前にはえみこさん自身の病気のケアがあり、長男が生まれ、父が倒れて……と少しずつ積み重なっていることが分かります。
2017年以降は、ケアが積み重なった状態で増えたり減ったりを繰り返しているようです。
介護は突然やってくるもの。とはいえ、多重ケアは「明日から多重ケアになります!」といきなりスイッチングするものではありません。気がついたらさまざまな事柄が積み重なっていたり、1つのケアにかかる時間や負担が大きくなったりすることで、多重ケアの状態になることが多いのです。
また、自身のライフイベントや介護される側の状態にも左右されるため、変化しやすく自分でコントロールすることが困難です。時には自分がケアする立場からケアされる立場になることもあります。
だからこそ、誰もが多重ケアへの備えや知識を持っていなければなりません。
では、ケアが一気に重なってしまった時、えみこさんはどうしていたのでしょうか?またどんなことが大変だったのでしょうか?
そうこうしているうちに、えみこさんのインプラント手術は後回しになってしまい、やっと手術ができた頃には、長男が小学校3年生になっていました。
しかも予定していた手術のタイミングで義母が入院することになり、大学生の姪にサポートをしにきてもらったそうです。
多重ケアの困りごとを解消するために、えみこさんがやってみて楽になったことを教えてもらいました。
長男が0~2歳の時に利用。えみこさんと夫が、お互い半休などを使って仕事のやりくりをしていても、予期せぬトラブルで残業になることもあったそうです。どうしても2~3時間長男をみる人がいない、という時に利用したのが民間の保育サービスでした。
えみこさんいわく「当時の勤め先から紹介されたベビーシッターサービスの会社にお願いしていました。基本的に家に人を呼ぶのが好きなタイプなので、最初の利用ハードルは低かったかもしれません。ただ、親がいない状況で家にシッターさんがくるので、息子自身が『置き去りにされた』という意識にならないか心配でした。」とのこと。
最初はトライアルとして、自分が在宅中に短時間のみ利用し、徐々に時間を延ばしたり自分がいないときもみてもらったりしたそうです。
「両親のケアをしていると、どうしても両親側が娘の私に対して『お世話になっている』という負い目のような感覚を持ってしまいがちです。そのため、両親には子どもの送り迎え、犬の散歩、お皿洗いなどの簡単な家事はできるだけ自分たちでやってもらいました。家族として一緒に支え合い、お互いさまを作るようにしています。」と話すえみこさん。
「ケアされる人」「ケアする人」ではなく、お互いの役割を果たすことで気を遣いすぎない距離感を保てているのかもしれません。
「両親がまだ九州の実家に暮らしていた頃、お隣さんに私の連絡先を教えていました。『両親に何かあったら連絡くださいね』とお伝えして。両親のことで気になることがあれば、こっそり電話してくれたりしていました。」と話すえみこさん。
帰省した際は息子を連れて挨拶にいったり、お土産を持っていったりして、良好な関係性を築けるよう努力していたそうです。
「共働きでお迎えの時間に間に合わないため、夕方以降の時間も預かってくれる預かり保育をお願いしていました。ただ、お迎えの時間はぴったりでないとダメで、少しでも遅れると注意されます。その時ママ友が息子を一緒に連れて帰ってくれて、時にはご飯を食べさせてくれることもあり、とても助けられました。」と振り返るえみこさん。
仲のいいママ友には、認知症の母や病気の父と同居していることを伝えていたそうです。ママ友の中には「実はうちも……」という人もいたとのこと。
母や父が息子のお迎えに行ったときなど、事情を知っているママ友が両親に声がけをしてくれたりするのが嬉しかったそうです。
先述の通り、介護していることを、親しい一部のママ友や近しい人にはオープンにしていたというえみこさん。
「同じ状況の方もいて、介護で経験したことを教えてもらったり、自分が相談された時に答えられたりする関係ができたのはよかったと思います。周りの人が事情を知っていると、自分のいないところで両親に声がけしてくれたり、サポートしてくれたりすることがあって、ありがたかったです。」と振り返っていました。
「姉は実家からも私の家からも遠方に住む地方公務員で、義両親と同居をしています。よく『介護が始まる前に家族で役割分担を』という話がありますが、介護が始まる前の段階で、役割なんて分からないですよね?せめて、親がもしものとき『こんなことならできる』『こんな風にしたいと思っている』というスタンスだけでも話しておけばよかったな、と思いました。」えみこさんは、そう振り返ります。
一緒に住んでいる人の方が、必然的に介護の負担は多くなります。主にケアを行っている方が決めたことを支持するなど、事前にルールを共有しておいた方がよかったと感じたそうです。
子育てや介護に追われていると、決められた人数・リソースで日々をまわしているため、何かトラブルが重なった途端に手が足りなくなり「隙間」ができてしまいます。
そのちょっとした「隙間」は、民間のサービスを利用したり、状況をオープンにして家族以外の誰かの手を借りたりすれば、埋めることが可能です。
また、ケアされる側がケアする側にまわるなど、役割を固定しないことによって、お互いさまの気持ちで貢献し合うこともできるでしょう。
人生100年時代となり、誰もがダブルケアを経験する可能性があります。自分の人生や生活を必要以上に犠牲にしないために、サポートしてくれそうな人を書き出したり、公共や民間のサービスを調べておいたりすることは、今からできる一歩なのかもしれません。
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フリーランスで社会課題に取り組む企業やNPOの広報をサポート。父の手術を機に「ダブルケア」についての活動と発信をスタート。「ダブルケア前提社会」を想定し働きたい人が働き続けられる世の中を目指して事業開発中。東京から香川県に移住、現在6年目。
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