現在子育て中の方、あなたはいくつ下記の項目に当てはまりますか?
✓ 高校生以下の子どもがいる
✓ 最近親に会っていない
✓ 親が遠方に暮らしている
✓ 現在の年齢が30代以上
✓ 共働き
✓ 最後に子どもが生まれた年齢が35歳以上
✓ 親が定年退職している
✓ パートナーとの年の差がある
✓ 一人っ子
✓ 最近親が転倒するなど、気になることが増えた
1つでも当てはまる方は、これからのお話しすることを自分ごととしてとらえていただきたいのです。
これは、子育ても仕事も一生懸命な世代に送る「育児」と「介護」のお話です。
ここ数年、人口減少などの様々な要因により一人に課せられる役割が多様になりました。例えば女性の場合は「女性」「母親」「娘」「妻」など家族の中でも多様なラベルが存在します。多様なラベルの中で誰かをケアする役割を引き受けるうちにケアが重なり、「多重ケア」となることも多く見られるようになりました。
ケアの種類も様々で家族や親戚の介護、精神面で不安のある家族のメンタルのケア、障害がある子どものケア、自分のケアなど多岐に渡ります。中でも近年増加し、今後も増加が予測されるのが「育児」と「介護」が重なり同時進行する「ダブルケア」にです。
ダブルケアは2012年に横浜国立大学大学院・教授の相馬直子さん、英国ブリストル大学・上級講師の山下順子さんによる研究から生まれた造語です。狭義と広義があり、狭義としてのダブルケアは「育児」「介護」同時進行という意味であり、広義としては前述した様々なケアを指します。
今回は狭義としての「育児」「介護」のダブルケアを中心にお話ししたいと思います。
平成24年の調査をもとに推計されたダブルケア人口は約25万人。(図1参照:内閣府「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査」平成28年)25万人というと東京都港区の人口(2021年1月1日現在)とほぼ同じ人数になります。
ではなぜ今ダブルケアに注目が集まっているのでしょうか?
ダブルケアの大きな要因として「晩婚化」「晩産化」「少子化」があると言われています。近年の平均初婚年齢は夫、妻ともに上昇し、「令和2年版少子化社会対策白書」によると2018年では夫が31.1歳、妻が29.4歳となっています。(図2参照)1985年と比較すると夫は2.9歳、妻は3.9歳上昇していることになります。
それと同時に平均出生年齢も上昇し、2018年における出生時の母親の平均年齢は第1子が30.7歳で、1985年の25.5歳というデータから4.0歳も差異があります。
少子化に関しては戦後から進んでおり、晩産化も少子化理由の1つになります。少子化傾向になることにより子育てや介護を一人で担わなければならない状況がでてくることになります。ダブルケアの要因は様々な要因が複雑に関係している問題とも言えます。
また、内閣府「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査(平成28年)」によるとダブルケアになる人の平均年齢は39.65歳(男性:41.16歳/女性:38.87歳)。
この世代は世の中的にも現役世代であり、仕事で管理職になる人もいれば、子育てにおいてお金がかかる年齢です。そのため「育児」「仕事」の両立に加えて「介護」が滑り込んでくることを想定する必要がでてくるのです。
ダブルケアのリスクを、2つの側面から話したいと思います。
まずは社会的側面から。2018年におこなわれたソニー生命の調査では実際ダブルケアを行っている人に「ダブルケアを理由に仕事を辞めたことがある」という質問に対し、「はい」と答えた方は全体の10%。男女別になると男性は8.4%、女性は11.6%に。理由として挙げられるのが「子どもが保育園に入れない」が最も多く、次いで「職場が両立しにくい環境」「親(義親)が介護施設に入れない」が続きます。
今後、保育園や、介護施設が十分な環境になるのは難しく、両立を前提とした職場環境を整えない限り会社で中心的になる年齢層の退職が増え、働き手不足に拍車がかかります。
また、子育て中に介護が滑り込んでくることで第2子、3子を産むタイミングを失ってしまうことも。育児よりも介護が先に始まった場合にも同様のことが言え、少子化が更に加速することにもなります。
当事者の視点から見たリスクもあります。「育児」と「介護」が同時進行することにより、子どもや親(義親)からの要求が同時に来てしまうことが多々あります。その都度優先順位を決めることを迫られ、どちらに対しても十分に対応できないこともあり、自分を責めてしまったり、後悔してしまうことも。
仕事に関しても時間的制約ができてしまうので、得られる稼ぎが十分でなくなり、貧困に陥る可能性も考えられます。
「ダブルケア」という言葉を初めて知るという方もいるかもしれません。ダブルケアという言葉の認知度は約18%(ソニー生命「ダブルケアに関する調査2018」)。まだまだ世の中に認知されているとは言えません。そのためダブルケア人口は発表されているより多くいると推測され、同時に多くの予備軍がいると予測されています。
筆者はダブルケア経験者にヒアリング調査を行ってきました。その中で気づいたのは、自分でダブルケア当事者だと気付いた人は少なく、周りから言われたり、インターネットで情報を得たりして、初めて自分が当事者だと知るケースの多さです。
ある経験者は、保育園の送り迎えで保育士さんに自分の状況を話した際に「お母さん、それダブルケアですよ」と教えてもらったと言います。
言葉を知れば、調べることができます。そこで解決に繋がる糸口や少しでも楽になる方法が見つかるかもしれません。あるいは、同じ経験をした方の体験談にたどり着けるかもしれません。
また、当事者ではない人でも「ダブルケア」という言葉を知ることで、渦中にいながら当事者だと気づかない人にできることがあるかもしれません。ダブルケアという言葉の認知度をあげることも、これからの課題と言えます。
ダブルケアの話をした際に「それは女性の社会課題ですよね?」と言われたことがありました。はたしてそうでしょうか?
日本では旧来的な家族の役割分担として「育児、介護は女性が担うもの」という認識がまだ根強くあります。近年では家事代行サービスやベビーシッター、デイサービス、訪問介護など外注先が増えていますが「がんばれば家庭内でできるもの」として育児や介護を女性が担っているケースが多く見られます。しかしこの認識こそ、ケア労働が一人に集中する理由でしょう。
もちろん率先してケア労働を担う男性もいます。しかし、40代前後と言えば管理職など会社の中心となり、長時間労働をこなしている場合も多く、育児や介護のケア労働から遠のいている方が多いのも事実。その結果としてパートナー女性にケア労働が集中している事例もしばしば見られます。
ダブルケアを男女ともに重要な社会課題としてとらえ、ケア労働の外注化だけでなく、男女ともに柔軟な働き方が選択できることも、今後求められるでしょう。
ダブルケアにおいては育児が先に始まり、介護が突然滑り込んでくるというのが主な傾向としてあります。そのため、まずは先に始まる子育てをパートナー同士が協力しながら始めることが重要です。さらに、協力者を探すこと、行政や企業の支援サービスを探すことが、次に控える介護を乗り越える鍵になります。
ダブルケアは女性だけの社会課題ではなく、男女関係なくみんなで取り組むべき課題として認知されていくべきでしょう。
では、ダブルケアを自分のこととして捉えたときに、今からできることは何でしょうか?以下の5つを提案します。
介護に関することは、まず地域包括支援センターに相談してみましょう。自治体が設置主体になりますので、介護が必要な方の該当エリアの地域包括支援センターにまずはご相談ください。
「まだ両親ともに健康で、介護なんて……」という方でも大丈夫です。地域包括支援センターは、介護予防に関する相談にも乗っています。例えば、出かける機会がなく家にこもりがちな両親の姿が気になったら、相談してみるのも手です。
子育てのことで相談が必要な場合は、地域にある子育て支援センターに相談することも有効です。子育て支援センターでは子育てに関わる相談ができ、地域の保育資源の情報などを得られます。
また、子育て支援センターの中にはダブルケアに関わるセミナーの開催や、経験者や専門家と話せるダブルケアカフェなどを開催している団体もあります。
ここ数年でダブルケアに関してのNPOが続々と立ち上がっています。ダブルケアに関する情報発信や、講座や勉強会、ダブルケアカフェの開催などを行っているので参加することで情報収集が可能です。
介護や育児にはお金がかかります。そのためにも仕事の継続が必要になります。現在勤務している会社にはどんな制度があるのか、その制度を活用できるのかなど事前にチェックしておくとその後の相談がしやすくなることもあります。
理想を言えば、両親が元気なうちから、介護が必要になった場合のことを話し合っておくことが最も重要です。しかし、一番できそうでできないのが、この項目だと思います。
親と相談する場合、いきなりエンディングノートなどを出して話を始めてしまうとこじれることも。第一歩として、日頃親とコミュニケーションを取っていない人は、まずは連絡を取ることからスタートしてみましょう。その次の段階として今後の生活などを話していくのがよいかもしれません。
また、きょうだいがいる場合は、きょうだい間で親がもしもの場合どんなことをしたいと思っているのか事前にすり合わせを行いましょう。その際にお金に関わることの話をしておくのも重要です。
介護は突然始まることが多いもの。仕事に家事に育児に……忙殺されている日常に突然介護が始まったら、混乱は避けられないでしょう。リスクを認識して、少しずつでも備えていくことが、混乱を小さくします。
イラスト:松永映子
フリーランスで社会課題に取り組む企業やNPOの広報をサポート。父の手術を機に「ダブルケア」についての活動と発信をスタート。「ダブルケア前提社会」を想定し働きたい人が働き続けられる世の中を目指して事業開発中。東京から香川県に移住、現在6年目。
桑村 美奈子さんの記事をもっとみるtayoriniをフォローして
最新情報を受け取る