老後に向けてお金をいくら、どのように準備していけばよいのか、漠然とした不安をお持ちの方も多いのではないかと思います。そこで、老後に向けて必要なお金を確認し、足りない場合はどのような方法があるのか、具体的にご説明させていただきます。
「老後に向けていくら準備すればよいか?」という相談をされる方は、何か1つの具体的な数字を回答として期待されているのではないかと思いますが、残念ながらそのような回答はありません。
というのも、その時点において、一定の仮定のもと、老後に必要なお金を計算することは可能ですが、人生は必ずしもその通りにはいかないからです。
とは言っても、どのように考えればよいのかという基本的な考え方がありますので、ご説明させていただきます。
まず大切なことは、ご自身にとっての老後、つまり現役引退はいつになるか、ということです。一般的には働くことで収入を得て生活をしていますが、いつまで働くかを考えていく必要があります。
会社員の方であれば定年が60歳などと決められている方が多いと思いますが、その会社を退職したとしても、働くこと自体を止める必要はありません。
極端なことを言えば、生涯現役として働き、継続的に収入が得られるのであれば、老後というものは訪れないとも言えます。国会議員や落語家などが象徴的ですが、個人事業主の方、そして企業の創業者の方など、60代はもちろん、70代、80代まで現役で働いている方はたくさんいらっしゃいます。
これまで長年会社勤めをしてきて、少しでも早く引退したいという方もいらっしゃると思いますが、いずれにしても、ご自身が何歳くらいまで働いて現役生活を継続していきたいか、ライフプランを明確にしていくことがとても大切なのです。
現時点での老後の見込み時期が決まったら、老後に向けた今後のお金を整理していきましょう。
大きく分けると、今後の生活費などの支出、今後得られるであろう収入、そして現在持っている金融資産や不動産などの資産という3つに分かれます。
以下ではこの3つについて1つずつご説明していきます。
今後のライフプランに沿って、生活費などの支出を確認していきましょう。
今後の基本的な生活費はどのくらいにするか、持家の場合には住宅ローンの返済はいつまで続くのか、お子様がいる場合には今後必要となる教育費はいくらか、など整理していきます。賃貸の方は、現在のお住まいを継続するのか、老後は少し家賃の低いところに引越すのか、など考えてみましょう。
会社員の方が現役引退されると、交際費や衣服費などが大幅に減り、思いのほか生活費が下がったという声も多いです。すでに現役引退されている先輩やご自身のご両親などにリアルな生活費を聞いて確認してみるとよいでしょう。
次に老後の収入を確認していきます。
日本は国民皆年金(※1)ですから、通常は公的年金収入が老後収入の柱になります。「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」でご自身や配偶者が受給できる公的年金の見込額を確認しましょう。
次に会社員の方の場合は退職金や企業年金など勤め先からの退職給付見込み金額を確認しましょう。確定給付企業年金、確定拠出年金などすべての制度について、何歳の時に一時金としていくら、何歳から何歳まで年金としていくら、など具体的な見込み金額を確認していきます。これは公務員の方も同様です。
最後にご自身で老後に向けて加入されているものがあればそれらについても確認しておきましょう。個人型確定拠出年金や民間の生命保険会社で加入されている個人年金保険や養老保険について、何歳から何年間、年間いくら受け取る見込みか確認しましょう。
次に個人事業主の方ですが、会社員の方と比べると、公的年金が老齢基礎年金のみであること、また職場の保障がないことが特徴です。
個人事業主の方で、国民年金基金、小規模企業共済、個人型確定拠出年金など老後に向けた資産形成の制度にご自身で加入されている方はそれぞれ確認しておきましょう。
これらの制度は税制上、掛金拠出時、つまり年金の加入者が、運営者に掛金を払い込む際に所得控除があり、年金を受け取り時も退職所得控除や公的年金等控除といった税制優遇があるため、老後に向けた資産形成の仕組みとしてはとても有利なものです。まだ利用されていない方は利用を検討されるとよいでしょう。
このように、まずは現時点で受け取る見込みになっているお金についてすべて「棚卸し」して、確認してみましょう。
※1:基礎年金ともいわれ、日本の公的年金制度は基本的に 20 歳以上 60 歳未満のすべての人が公的年金制度の対象になっています。
老後に見込まれる収入と支出を確認し、支出が収入を上回っている場合には、その差額は手元にある資産から取り崩していくことになります。現在お持ちの資産で足りるかどうか、現時点の資産状況についても確認しておきましょう。
預貯金、有価証券(株式や債券)、生命保険契約(解約返戻金)、不動産、自動車などお持ちの資産を列挙して、それぞれの金額を書いていきましょう。生命保険契約はその時点で解約した場合にいくらお金が戻ってくるかという解約返戻金の額を確認します。
不動産については購入時の価格ではなく、現在売却したらいくらになりそうかという時価が確認できるとベストです。不動産会社に査定を依頼すれば確認することはできますが、そこまでしなくても、インターネットの不動産サイトなどで、近隣の類似物件をチェックすればおおよその金額は分かるかと思います。
その他、自動車、ゴルフ会員権、貴金属など、換金するとある程度のお金になるものはリストに加えておきましょう。
資産に加えて、何らかの借入金がある場合にはその最新残高と借入金利も確認しておきましょう。一般的に最大の負債は住宅ローンですが、教育ローンや自動車ローンなど、すべての借入金についてチェックしてください。
老後の収入、支出、そして現在の資産状況が確認できたら、1年毎の収支と資産残高の推移を確認するために、お金の流れを見える化するキャッシュフロー表と呼ばれるものを作成してみましょう。
ライフプランも併せて考えながら、ライフプランシミュレーションを行うことで今後のお金を見える化することができます。
手書きもしくはエクセルなどの表計算ソフトを使う他、インターネット上のシミュレーションサイトなどを利用することも可能です。いくつか試してみてご自身で行うのが難しい場合には、ファイナンシャルプランナーに依頼して作成してもらうことも可能ですので検討してみましょう。
ライフプランシミュレーションを行った結果、このままではお金が足りなくなりそうだ、という場合には、具体的な対策を考えていく必要があります。主には次の4つになります。
1.支出の見直し
2.働き方の見直し
3.資産活用
4.資産運用を考える
まず手軽にできるのは支出の見直しです。加入している生命保険の見直し、通信料の見直しなど比較的取り組みやすいものから、家賃の安い場所への引越しや、マイホームを売却してひとまわり小さい住居への住み替えまで、様々な選択肢があります。取り組みやすいものから検討していきましょう。
次に働き方を見直し、できるだけ長く働くというものがあります。現役時代のように年収500万円、700万円といった収入は難しくても、年収100~200万円といった水準であれば、それほど大きな負担を感じることなく働き続けることができるのではないでしょうか。
例えば、年収200万円で60歳から70歳まで働けばそれだけで2,000万円になります。
さらに、資産活用も選択肢になります。例えば、マイホームをお持ちであれば、持ち家を担保としたローン、 リバースモーゲージを活用することで、マイホームを老後の生活資金に換えていくことも可能です。住み慣れたご自宅に住み続けたまま、老後の生活資金を確保できます。
最後に資産運用です。例えば投資方法の一つとして、非課税制度である「つみたて NISA」は何歳から始めても20年間非課税で運用することが可能です。これまで預貯金中心ということであれば、株式などを対象とした投資信託に投資する「つみたて NISA」の利用などを検討してもよいかもしれません。
50歳から始めると非課税期間が終了するのは70歳、60歳から始めたら80歳と、人生100年時代を考えると遅すぎるということはありません。
ここでは4つの選択肢をご紹介しましたが、実際に見直しされる際には、ご自身のライフプランや価値観を大切にしながら取り組みやすいものから実践していただければと思います。
老後の人生の土台となるお金と健康について不安があるようでしたら、少しでも解消しておくことが重要なポイントです。
その上で、どのような活動に生きがいを見出していきたいか、考えていきましょう。いつまでも人の役に立つ仕事をしてきたいか、ご自身の興味ある趣味やスポーツなどの活動を中心にしていきたいか、はたまたご家族やご友人との交流に時間を使っていきたいか、じっくり考えてみましょう。
人生100年時代において老後のお金をどのように準備していけばよいのか、基本的な考え方をご説明しました。最後にご説明したように、お金は老後の人生設計の1つの要素です。お金について漠然とした不安を抱えたままでは、老後の人生を楽しく幸せに過ごしていくのは難しいかもしれません。
今回ご説明した手順でまずは現在の状況をご確認の上、対策が必要ということであれば、取り組みやすいものから1つずつ実行していただければと思います。小さくても、まずは最初の一歩を踏み出して、実際にアクションを起こしていくことが大切です。ぜひすぐに始めていただければと思います。
大手証券会社にてデリバティブ商品の開発やトレーディング、フィンテックの企画・調査などを経験後、2018年1月に独立。「フツーの人にフツーの資産形成を!」というコンセプトで情報サイト「資産形成ハンドブック」を運営。YouTube「資産形成ハンドブック」配信中
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