76%〜184%の間で受取額が増減! 年金の「繰り上げ」「繰り下げ」制度の概要と受給タイミングの考え方

老後資金を考える上で把握しておきたい老齢年金(以下、年金)の受給額については、ねんきん定期便とねんきんネットを活用することで知ることができます。

2023/09/25

自分で確認! 「ねんきん定期便」と「ねんきんネット」の利用法

また、2022年4月にリリースされた公的年金シミュレーターでは、年金の受け取りタイミングを繰り上げた場合と繰り下げた場合の受給額についても確認できます。

この年金受給の「繰り上げ」「繰り下げ」について、どのように考えれば良いのでしょうか。この記事では、老齢年金における「繰り上げ」「繰り下げ」制度の概要と、受給のタイミングを決める際の考え方について解説します。

そもそも年金の繰り上げ・繰り下げとは何か?

公的年金制度の加入者に老後の補償として給付される老齢年金は、原則として受給者が 65 歳になったタイミングで支給が開始されます。

支給のタイミングは「原則65歳から」であるため、1ヶ月単位で繰り上げ(受給のタイミングを早めること)、繰り下げ(受給のタイミングを遅らせること)ができます。繰り上げの場合は最短60歳から受給を開始することでき、繰り下げは最大で75歳(※)まで10年間、受給開始を遅らせることが可能です。

※75歳まで繰り下げが可能なのは昭和27年4月2日生まれ以降の人

この繰り上げ、繰り下げを考えていく上で、最も重要なことは、タイミングによって受給する年金額が変化することです。詳しくは、後述しますが基本的に。「繰り上げ」は早く受給できる一方で月額受給額が減少し、「繰り下げ」は受給が遅くなるものの月額受給額は増加します。

現状では、国民年金の繰り上げ受給の利用者は11.7%、繰り下げ受給の利用者は1.6%のみでほとんど利用されていない状況となっています。

「厚生年金保険・国民年金事業年報(令和2年度)」より編集部作成

老後の資金計画は、一人一人の家庭・資産状況によって異なるため、一概に「◯◯歳で受給を開始するのがベスト」ということはできません。ただ、原則として「早く受け取ろうとすれば減り、遅らせれば増える」ということは認識しておいた方が良いでしょう。

繰り上げは受給額が減る以外にもデメリットがある

年金を65歳から繰り上げて受給した場合、1ヶ月につき受給額が0.4%(※)減額されます。 仮に65歳から支給される年金の月額が6万円だった場合、受給を1年間(12ヶ月)繰り上げて64歳から受け取り始めた場合、その額は4.8%減の57,120円ということになります。

60,000円×{1-(0.4%×12)}=57,120円

60歳まで5年間繰り上げた場合、受取額は65歳から受け取れるはずだった年金額の76%まで減ってしまいます。そして、減額された支給額は生涯続くことになります。例えば、65歳時点での受給額が月額6万円だった場合、45,600円になってしまうのです。

60,000円×{1-(0.4%×60)}=45,600円

このように支給額が減ってしまうことが繰り上げの最大のデメリットですが、それ以外にも注意すべき点があります。具体的には以下のような点です。

  • 障害者年金が受給できなくなってしまう
  • 国民年金の任意加入ができなくなってしまう
  • 老齢基礎年金と遺族年金をどちらか選ばなければいけなくなってしまう
  • 寡婦年金を受け取れなくなってしまう

※昭和37年4月2日生まれ以降の人の場合

繰り上げを検討する場合には、上記のようなデメリットも理解しておくことが重要になります。

繰り下げで受取額は最大1.84倍だが、デメリットにも注意

年金額が減少する繰り上げに対して、繰り下げの場合は1ヶ月につき 0.7%増加します。そのため、75 歳まで繰り下げた場合、受給額は65歳の受取額1.84倍(0.7%×12ヶ月×10年)まで増えることになります。前述のように65歳時点での受給額が6万円だとすると、以下のような計算になります。

60,000円×{1+(0.7%×120)}=110,400円

ただ、受給額が増えると、その分税金や社会保険料も増加するので、増加分をすべて受け取れるわけではありません。また、一般的に1割の医療保険と介護保険の自己負担割合が2〜3割に増加する可能性があるというデメリットにも注意が必要です。

繰り下げた場合でも遡って一括受給という選択肢もある

前述したように繰り下げを選択することで受給額は増加します。しかし、繰り下げた場合に、必ずしも増加した額の年金を受け取る必要はありません。遡って通常額を受け取るという選択肢もあるからです。

例えば、70歳から受給を開始する予定で繰り下げを行ったものの68歳時点で病気や災害により、まとまった額の現金が必要になったとします。そうした場合には、65歳から68歳までの3年間の年金を遡ってまとめて受給し、68歳から引き続き増額されない年金を受給することもできるのです。

このように繰り下げた場合でも、自身の健康状態や資産状況にあわせた年金の受け取り方の選択肢があることも理解しておくと良いでしょう。

「元気なうちに現金を受け取る」か「保険機能による安心感を得る」か

「繰り上げ」と「繰り下げ」、それぞれの場合の受給額の総額が気になるという方もいるでしょう。以下は、60歳からの平均余命(ある年齢の人々があと何年生きられるかいう期待値)と、その年齢までの受給額の合計を受給年齢別にまとめたものです。

※厚生労働省「平成30年簡易生命表の概況」によると、60歳の平均余命は男性「23.84」女性「29.04」 ※老齢基礎年金の満額64,816円として計算(令和4年度4月からの月額)

「自分が何歳まで生きるか」は誰にもわかりません。だからこそ「なるべく早く手元に現金が欲しい」「心身が健康なうちに出来るだけ多く使いたい」と考えるのであれば、繰り上げという選択肢を選ぶことになるでしょう。

一方で、年金は終身(亡くなるまで)で受給することができるため、「長生きした時のための保険」と考えることもできます。今後は平均余命がさらに伸びていく可能性を考慮し、それに備えた「保険機能」を重視するならば、繰り下げという選択肢を選ぶことになるでしょう。

また、60歳で定年を迎えた際に、体調面に不安があるなどの理由で生活費の確保が困難な場合は、繰り上げを行った方が良いと考えられます。それに対して、65歳の時点で「当座の生活費に困っていないし、働けるうちは長く働きたい」と考えるのであれば繰り下げを検討しても良いでしょう。

「繰り上げ」を検討した方がよいのは
  • 早く手元に現金が必要な人
  • 心身が健康なうちに出来るだけ多く使いたい人
  • 自分で資金を運用したい人
「繰り下げ」を検討した方がよいのは
  • 出来るだけ長く働きたい人
  • 65 歳時点で当座の生活費に困っていない人
  • 年金の保険機能を重視する人

このように、年金の繰り上げ、繰り下げをどのように考えるかは、個人の働き方や価値観によって異なってきます。

受給タイミング判断の第一歩として、正しいシミュレーションを

これまで解説してきたように、年金の繰り上げ・繰り下げには、それぞれメリット・デメリットがあり、受給のタイミングについて一律的な正解はありません。また、夫婦であれば、どちらかのみが「繰り上げ」もしくは「繰り下げ」を選択するということもできます。

様々な選択肢や可能性があるため、まずは受給タイミングを考える前提となる資金計画のシミュレーションを行うことが重要になります。シミュレーションを行うことで、現在の収入と支出のバランスや資産状況で、自身が思い描く老後を送ることができるのか、事前に確認することができるでしょう。

単純に「繰り上げ=減る・繰り下げ=増える」ではなく、いずれを選ぶ場合でも正しい知識に基づき、自分と家族にとって最適な選択肢を選べるように準備を行う必要があります。その第一歩として、まずは自身の老後資金についてシミュレーションを作成してはいかがでしょうか?

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