生活費を把握するメリットと家計簿なしでできる簡単把握術

私が相談の最初に相談者に尋ねる質問の1つに、月の生活費があります。相談の予約時に調べておくことをお願いしていますが、生活費を正確に把握できている人は本当に少ないのです。

この記事では、生活費を把握することにはどんなメリットがあるのか、生活費を正確に把握するにはどうしたらよいのかを考えていきたいと思います。

自分が思っているよりも生活費を使っていることが多い

相談者に月の生活費を尋ねると、一番多いのが「あまり把握できていないので、大体の金額を書いてきました」という回答です。

毎月固定的に支払っている固定費(住居費、水道光熱費、通信費、教育費、保険料など)は銀行通帳などで確認できるものの、毎月の金額が変動する変動費(食費、交通費、医療費、教養娯楽費など)は感覚に頼った正確性の低い数字になっているため、相談者が自己申告した生活費の総額は実際の生活費よりかなり少なくなりがちです。

また、最近増えているのは、家計簿アプリを使っているものの、正確性が低くなっているケースです。

例えば、夫婦のどちらかしか使っていない、現金支払いを十分反映できていない、あるいは一部のバーコード決済(〇〇pay)などデータ連携の対象外となっている支払い方法を多く使っているなどが、原因として挙げられます。

私は3,500件を超える相談を行ってきましたが、紙の家計簿や家計簿アプリを適切に活用し生活費を正確に把握できている人は、5%いるかいないかというほど少ないです。

後述する方法で正確な生活費を計算した結果が自己申告より3~5割多いというケースが普通で、中には自己申告の3倍だったというケースもあります。支払い履歴を漏れなく積み上げて生活費を正確に把握することは、実は相当難しいことがわかります。

正確な生活費の把握は支出を減らす効果あり

生活費を把握するのは簡単ではないですが、それでも把握することには大きなメリットがあります。その1つは支出が減る効果です。家計簿アプリの利用者への調査では、平均で月2万7,848円(年間約33万円)の収支改善を実感し、家計改善を実感した方のうち約6割が、「無駄遣いが減った」と回答しています(※1)。

有名なダイエット法に、日々摂取する食物とそのエネルギー量を記録し自覚することで食生活の改善につながり痩せるという「レコーディングダイエット」がありますが、生活費でも記録し自覚することでお金の使い方が変わる効果が見込めます。

相談者にお話を伺っていて興味深いのは、基本生活費(全支出から住居費、教育費、保険料、一時的で特別な支出を差し引いた金額)を計算した結果、40万円台と平均より極端に多い方は「そんなにお金は使っていない」とおっしゃる方の比率が高く、20万円前後と平均よりやや少ない方は「お金を使い過ぎている」とおっしゃる方の比率が高いことです。使っていることを自覚することの大切さが表れていると思います。

正確な生活費の把握が老後資金計画の精度を決める

自分たちの老後資金が足りるかを判断する方法は主に2つあります。1つ目は、数十年先までの家計収支と手元のお金の残高をシミュレーションする「キャッシュフロー表」の作成、2つ目は老後の世帯の総収入と総支出を比べ、過不足の金額を把握する「収支表」の作成です。

どちらを作成する場合でも、精度を最も左右する要素の1つが生活費の正確さです。

例えば、月の世帯生活費が本当は30万円なのに、把握している生活費は25万円だったとします。現時点で妻が45歳、95歳で亡くなるまで生活費が一定だったとすると、年間で60万円の貯蓄額の誤差が生じ、95歳では60万円×50年間=3,000万円もの誤差になってしまいます。

生活費の把握が正確でなければ、どんなに精密にキャッシュフロー表や収支表を作成しても大きな誤差が生じ、その結果を基にした老後資金計画は意味の乏しいものとなります。

生活費は「手取り年収額」-「1年間で増えた貯蓄の額」で計算できる

生活費を正確に把握することは難しいと書きましたが、概算で簡単に把握する方法もあります。以下に概算する式を挙げます。

昨年の世帯収入(手取り額)- 一時的で特別な支出 - 昨年 1 年間で増えた貯蓄額 = 年間生活費

昨年の世帯収入は、手取り額を把握する必要があります。サラリーマン世帯の方は1月から12月までの給与と賞与の明細か、銀行通帳の振込額を足し上げることで計算ができます。

さらに簡単に計算するには、源泉徴収票の「支払金額」から手取り額をシミュレーションしてくれるウェブサイトなどを利用する方法もあります(前提とする控除などで多少の誤差が生じます)。

昨年1年間で増えた貯蓄額は、銀行通帳または銀行のウェブサイトで昨年12月31日の残高から昨年1月1日の残高を差し引くことで計算できます。勤務先で財形などの積立制度を利用している方は1年間の積立金額も忘れずに足しましょう。

iDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISAを行っている方は年初と年末の評価額を比べるのではなく、1年間に拠出した金額を足すようにします。

項目別の支出額はわからない点がデメリットですが、生活費の総額を正確に把握することは可能ですので、キャッシュフロー表や収支表の作成で利用できます。

老後資金が足りない場合は、月にいくら生活費を下げれば老後収支がプラスになるのか、具体的に金額を計算でき、具体的なアクションにつなげやすくなります。

また生活費の総額がわかれば、例えば平均値と比べることで多いのか少ないのか、多ければどの程度多いのかを自覚することができ、家計見直しのモチベーションを得ることができそうです。

老後の収支表の作成方法は、下記の記事で解説しています。

2023/09/25

収支表を作り、老後のお金の過不足を予想しよう

項目別の支出額を把握するにはアプリかクレジットカード明細+銀行通帳

生活費の総額がわかり、生活費を具体的に見直したいという場合、項目別の支出額に基づいて改善すべき項目を見極めるのが効果的です。エクセルのファイル、あるいは印刷物の家計簿をつけるというのが基本的なやり方ではありますが、ここではもう少し手間を省いて把握する方法を2つご紹介したいと思います。

1つ目は、スマートフォンの家計簿アプリを利用する方法です。有名なアプリには、銀行、クレジットカードなどのデータを自動的に取込む、あるいは現金で購入したレシートを撮影することで読み込む機能が備えられたものも多いです。

最初に設定してしまえば、あとは家計簿作成を自動的に行ってくれる部分が多いので、かなり手間が省けます。利用のコツは、生活費の支払いに使用する銀行とクレジットカードをあらかじめ絞り込むことです。

連携できる金融機関の数に制限があるアプリが多いですし、数が多いと最初の設定の負担も増えます。また、バーコード決済は連携の対象外となっているサービスも多いので注意が必要です。

2つ目はクレジットカードの明細と銀行通帳から項目別に支払い金額をエクセルなどで集計するやり方です。コツとしては、なるべく現金での支払いをせず、現金で支払わなければならない場合は必ずレシートをもらうことです。

また、バーコード決済は、支払い履歴を見ることができるのはアプリ内だけで、ウェブサイトで PC から見ることができない、あるいはダウンロード機能がないものが多いため、集計作業がしにくい点に注意が必要です。

まとめ

何となく抱いている老後資金の不安は、老後の収支を想定し過不足を把握しなければ、解消するのは難しいものです。そのために意味のあるキャッシュフロー表や収支表をつくるには、生活費を正確に把握することが必要です。

まずはここで挙げた計算方法で生活費の総額を把握すれば老後の収支の過不足を算出することができ、支出削減の効果も見込めるかもしれません。

また、具体的な生活費の見直しには項目別の支出額の把握が必要ですが、長期間続ける必要はなく、3ヶ月間続けることができれば対策のための傾向は把握できると考えています。キャッシュレスの活用がコツになりますが、ぜひトライいただければと思います。

平野 雅章
平野 雅章 相談専門ファイナンシャルプランナー(CFP)

2007年に横浜FP事務所を開業。個人相談に特化したFPとして、老後資金、ライフプラン、生命・火災保険、住宅ローンを中心に累計3,500件超の個人相談を実施している。豊富な相談経験を活かし、執筆やセミナー講師も多数。 2011年より一般社団法人全国ファイナンシャルプランナー相談協会の代表理事に就任、公正なFP相談の普及に奮闘。神奈川県立産業技術短期大学校で非常勤講師も務めている。

平野 雅章さんの記事をもっとみる

同じ連載の記事

おすすめの関連記事

介護が不安な、あなたのたよりに

tayoriniをフォローして
最新情報を受け取る

ほっとな話題

最新情報を受け取る

介護が不安な、あなたのたよりに

tayoriniフォローする

週間ランキング

ページトップへ