お仕事、家事、子育て、介護等、日々の生活に追われてお忙しくされている方が多いのではないかと思いますが、今後の人生全体における『時間』と『お金』について、しっかりと向き合ったことはありますでしょうか。今回は、人生100年時代の時間とお金について考えてみたいと思います。
人生において貴重な時間ですが、みなさんは何にどのくらい使っていくか、どう配分していくか、長期的に考えたことはありますでしょうか。
筆者が一般的な方のイメージで試算してみたところ、次のような配分になりました(なお、人生100年時代と言われるものの、現時点での平均寿命等から考えて、以下では人生90年として計算しています)。
具体的な計算の前提は次の表の通りですが、90歳まで生きるとすると、人生は約79万時間(90年 ×365日/年 ×24時間/日)となります。平均の睡眠時間を7.5時間/日とすると、約25万時間を眠って、もしくは布団の上で過ごしていることになります。
活動内容 |
配分 |
---|---|
全体 |
788,400 時間(100%)= 90 年 ✕365 日/年 ✕24 時間/日 |
睡眠 |
246,375時間(31%)= 90年 ✕365日/年 ✕7.5時間/日 |
仕事 |
88,200時間(11%)= 40年 ✕245日/年 ✕9時間/日 |
教育 |
31,360時間(4%)= 16年 ✕245日/年 ✕8時間/日 |
その他 |
422,465時間(54%) |
※90歳まで生きると仮定して試算
人生の3分の1近くを睡眠として過ごすのであれば、枕や布団、ベッドなど睡眠時に使うものは多少お金をかけても、できるだけよいものを使った方が健康で幸せな人生が送れるのではないかという気がします。
そして、仕事は1日9時間で、年間245日を40年間続けると仮定すると、約9万時間となります。通勤時間や、年間の休日数などいろいろだと思いますが、ここでは1つの目安とお考えください。ちなみに、片道1時間を通勤にかけている場合、40年間では、約2万時間を通勤に充てていることになります。
また、大学卒業まで教育を受ける場合、平均的に1日8時間を学校で過ごすと仮定すると、教育を受ける時間として約3万時間を過ごすことになります。
そして、これら以外の日常生活(食事、入浴、洗面、トイレ、趣味、スポーツ、家族、友人、一人など)が残りの約42万時間となっています。
会社員や公務員の方は、再雇用などの機会が用意されているものの、現時点では60歳で定年を迎えるという方が多いのではないかと思います。定年後も65歳まで働き、65歳で完全引退したとすると、90歳までの残りの人生は、どれほどの自由時間があるのでしょうか?
例えば、朝起きて8時から夕方18時まで、つまり1日あたり10時間を自由に使える時間だと仮定すると、約9万時間(10時間/日 ×365日/年 ×25年)の自由時間があることになります。
もちろん、途中から要介護や認知症、病気等により、完全に自由に使えるわけではなくなる可能性もありますが、この約9万時間というのは現役時代に40年間働いていた時間とほぼ同じくらいです。
この約9万時間、何をして過ごしていくか、ライフプランとして考えておくことはとても重要です。リタイア後の人生を元気に過ごしていくためには、「きょういく」と「きょうよう」が大切、とよく言われているのですが、何を意味しているかご存知じでしょうか?
これは「教育」と「教養」ではありません。「今日行くところ」と「今日の用事」という意味です。
次のグラフは、40代前半でお仕事をされている男性と、60代前半でお仕事をされていない男性の平日の時間の使い方についての調査結果です。
左の40代前半の方のグラフでは黄色の仕事をしている部分が非常に大きくなっていますが、右の60代前半の方のグラフでは、TV 等、休養等、趣味等の時間が大半を占めている様子が確認できます。
もちろんテレビを見ることが悪いとは思いませんが、見たい番組があって見ることと、他にやることがないからテレビでも見ておくか、では人生の過ごし方として大きく異なるのではないかと思います。
その意味で、リタイア後の人生では、「きょういく」(=「今日行くところ」)と「きょうよう」(=「今日の用事」)がとても大切になってくるわけです。趣味などの習い事や、仲間とのサークル活動など、定期的に用事を入れておくことが重要です。
最近、FIRE(Financial Independence, Retire Early)という、経済的自立と早期リタイアを達成するという新しいライフスタイルが注目されています。
そこでは手取り収入のうち、半分以上、極端な例では8割といった水準を貯蓄や資産運用にまわすと同時に、生活費を抑えることで、30代や40代での早期リタイアを目指すというものです。
先ほどと同じように、FIRE 達成時の年齢を30 歳、40 歳、50歳とし、それぞれ90歳まで生きると仮定した場合に、FIRE 達成までの勤続時間と、FIRE 後の自由時間を計算してみると次のようになります。
FIRE年齢 |
FIREまでの勤続時間 |
FIRE後の自由時間 |
---|---|---|
30歳 |
17,640h(9h×245d×8Y) |
219,000h(10h×365d×60Y) |
40歳 |
39,690h(9h×245d×18Y) |
182,500h(10h×365d×50Y) |
50歳 |
61,740h(9h×245d×28Y) |
146,000h(10h×365d×40Y) |
▲22 歳から働き始めて FIRE 達成後、90 歳まで生きると仮定して計算
30歳で FIRE を実現すると、その後の自由時間は勤続時間の約 12.4 倍、40歳なら約4.6倍、50歳なら約2.4倍となります。
FIRE を目指している方からすると余計なお世話だと言われるかもしれませんが、それこそ「きょういく」と「きょうよう」をしっかり考えておくことが、FIRE 後の人生を実りあるものにする上で大切だと思います。
人生の時間に続いて、人生のお金についても考えてみたいと思います。人生全体のお金、特に退職金のある会社員の場合での収入に注目すると次のようなイメージになるのが一般的です。
社会人になってから60~70歳まではお仕事をすることで収入を確保し、人生の後半では公的年金を受け取りながら、それまでに蓄えてきたお金を取り崩しながら生活していきます。会社員や公務員の方は退職金や企業年金などを受け取れる方もいらっしゃると思います。
そして、支出の方では、一般的に人生の3大資金と言われるのは、住宅資金、教育資金、老後資金です。
住宅は購入時に頭金としてある程度まとまったお金が必要になります。また、お子様が生まれれば成長に伴い、公立か私立かで金額水準は異なりますが、教育費が必要になります。老後は公的年金収入で十分か、足りないと思われる場合には老後資金として現役時代から資産形成していくことが大切になります。
人生の収入と支出を少し具体的な数字で考えてみたいと思います。
例えば、現役時代の手取り収入が平均400万円の会社員の方の場合、65 歳からの公的年金収入(手取り)を170万円とすると、生涯での手取り収入は約2億円となります。
内訳 |
収入金額 |
---|---|
手取り収入 |
1億6000万円(79%)= 400万円/年 ✕40年 |
公的年金 |
4250万円(21%)= 170万円/年 ✕25年(65歳~ 90歳) |
収入合計 |
2億250万円(100%)= 1億6000万円+ 4250万円 |
そして、この約2億円を何に使っていくかは人それぞれですが、例えば次のような使いみちを考えてみます。
内訳 |
支出金額 |
---|---|
住宅 |
5040万円(24%)= 6万円/月 ✕12ヶ月 ✕70年(20歳~90歳) |
食費 |
4599万円(22%)= 600円/食 ✕3食/日 ✕365日/年 ✕70年 |
水道光熱費 |
840万円(4%)= 10000円/月✕12ヶ月 ✕70年 |
通信費 |
420万円(2%)= 5000円/月 ✕12ヶ月 ✕70年 |
生命保険 |
480万円(2%)= 10000円/月 ✕12ヶ月 ✕40年(20歳~ 60歳) |
その他 |
9321万円(46%) |
これはあくまで 1つの例ですが、ここで大切なことは約 2 億円の使いみちはすべてご自身の意志で決めることができるということです。利便性がよく広めの家に住みたいという方は住居費の配分を高めにするでしょう。また、おいしいものを食べるためなら少しお金をかけてもいい、という方もいると思います。
毎月、毎年といった時間軸のみならず、長期的な人生全体にわたって、お金をどのように使っていくかを考えていくことも大切です。
途中で結婚、マイホーム購入、出産、子供の教育、転職、引っ越しなど様々さまざまなライフイベントを経験しながら、人生は進んでいきます。そして、まとまったお金が必要になることもあれば、教育費のように継続的に一定のお金が必要になる時期もあります。
最終的な人生における収入合計と支出合計は人生が終わってみるまでわかりませんが、人生の途中でお金を適切なスピードで使っていけるよう、今後の収入と支出、そして資産残高を見える化すると、漠然とした不安を軽減するのに役立ちます。
つまり、次のようなグラフを作成する、いわゆるライフプランシミュレーションと呼ばれるものが役に立つのです。
今後のライフプランに応じて、どのタイミングでどのくらいのお金が必要になりそうか、その時に収入はどのくらいになりそうか、正確に予測することは難しいですが、大まかな目安であっても具体的に計算してみることで、人生のお金を見える化することが可能です。
など、将来のお金を見える化することで、今のお金の使い方、人生の選択肢が変わってくるのです。
高齢期には医療費や介護費でお金がかかる、出費が多くなる、と考えている方も多いと思いますが、2020年(令和2年)の総務省の家計調査(家計収支編)によると、二人以上の世帯のうち65歳以上の無職世帯の消費支出(月額)は、世帯主の年齢が65~69歳で260,145円、70~74歳で242,579円、75歳以上で213,303円と高齢になるほど支出は低下していきます。
「DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール(ビル・パーキンス著/児島 修 訳)」という本では 45~60 歳から資産の取り崩しを始め、今しかできないことにお金を使っていこう、ということが書かれています。
そしてタイトル通り、究極的には死ぬまでに資産を使い切り資産をゼロにしてから死のうという考え方です。
次のグラフは、世帯主の年齢階級別に家計の資産状況をグラフにしたものですが、日本人は若い時よりも高齢期になるほどお金持ちになっており、80歳以上の世帯が最もお金持ちになっています。金融資産だけを見ると1,619万円ですが、宅地と住宅を合わせた不動産で2,864万円保有しているのです。
一般的に資産は配偶者や子へ相続されることになります。80歳以上の方の子は50代~60代でしょうから、子育てのピークを過ぎ、一段落している頃かもしれません。
相続が発生してから初めてまとまった資産を渡すよりも、少しずつでも子育てなどでお金がかかる時期に渡しておいた方が子はより豊かな人生を送れる可能性が高いのではないかと思います。
お金の使い方については、今月、来月という短期的な視点から、長くても、5年後、10年後の子ども供の教育費といった時間軸で考えている方が多いのではないかと思います。
そして、子育てが一段落したら、いざ老後資金となるのではないかと思いますが、できれば 20~30 年といった長期的、大局的な視点で時間とお金の使い方について考えていくことが人生の選択肢を広げ、より豊かに人生を送るためには大切だと考えています。
これからの人生で最も若い日は、今この記事を読まれているまさに今日です。今後の人生について、今日から長期的なライフプランニング、マネープランニングを始めてみてはいかがでしょうか。
大手証券会社にてデリバティブ商品の開発やトレーディング、フィンテックの企画・調査などを経験後、2018年1月に独立。「フツーの人にフツーの資産形成を!」というコンセプトで情報サイト「資産形成ハンドブック」を運営。YouTube「資産形成ハンドブック」配信中
横田 健一さんの記事をもっとみるtayoriniをフォローして
最新情報を受け取る