老後資金はいくら必要なのか、どのように準備していけばよいのかなど、老後資金について何らかの不安をお持ちの方も多いかもしれません。老後資金についてはまずご自身が何歳まで働いて収入を確保していくか、そして公的年金をいくら受給できそうか、といったポイントが大切です。
そのうえで、今回ご紹介するiDeCo(個人型確定拠出年金)などの私的年金制度を上手に利用していくことで、有利に準備していくことが可能になります。本記事では、iDeCoの基本的な仕組みについてご説明致します。
日本で確定拠出年金制度が始まったのは2001年ですから、制度が開始されてすでに20年が経過しています。確定拠出年金は、導入している企業の従業員が加入する企業型と、個人事業主や企業年金のない会社員が加入できる個人型(愛称:iDeCo)の2タイプがあります。
特にiDeCoは2017年に制度が改正され、専業主婦(夫)や企業年金のある会社員、公務員など対象者の範囲が広がり加入者が急増しています。次のグラフのように、2016年3月末時点では約25.9万人だった加入者数は2021年3月末時点においては約194.6万人と約7.5倍に増加しています。
さらに、直近の2021年10月末では約220.9万人まで増加しています。
まずiDeCoという制度の大まかなイメージをつかんでおきましょう。次の図をご覧ください。
iDeCoに加入すると、一般的に毎月掛金を拠出しながら積み立てを行っていきます。積み立てるお金は株式や債券などを対象とした投資信託、預金、保険といった商品からご自身で運用商品を選択して運用していきます。
そして、60歳以降に、老後資金として一時金もしくは年金(およびその組み合わせ)という形で受け取ります。年金の場合には金融機関にもよりますが、受給開始から5~ 0年の期間で受け取ることになります。
つまり、現役時代に積み立てを行い、途中は金融商品を利用して運用していき、60歳以降に老後資金として受け取って使っていくという仕組みになります。これだけだと一般的な積立投資と大きくは変わりませんが、iDeCoの場合は税制上の優遇が3つあることがポイントです。
まず積立期間中ですが、掛金が全額所得控除となります。例えば、企業年金のない会社員の方がiDeCoに加入する場合、掛金の上限は月額2万3,000円(年額27万 6,000円)となりますが、この全額が所得控除になります。
つまり、個人の所得税や住民税を計算するときの費用として扱われることになりますので、所得税率が10%、住民税率が10%の場合、積立期間中は毎年、合計で 27万6,000円 ×(10%+10%)=5万5,200円の節税になるというわけです。
そして、運用期間中の運用益は全額非課税となり、受け取る際も退職所得控除や公的年金等控除の対象となります。この受取時の税制については後ほど詳しくご説明します。
1.掛金が全額所得控除となる
2.期間中の運用益が非課税となる
3.受取時も退職金控除や公的年金控除の対象となる
改めてiDeCoの制度について概要をまとめると次のようになります。
加入対象者は、国民年金被保険者で、2022年5月からはそれまでの60歳未満という条件が65歳未満となります。
60歳以降に国民年金に任意加入される方(40年間の加入期間に満たない方や海外居住者)に加えて、会社員など厚生年金加入者(国民年金第2号被保険者)として60歳以降も働いていく場合には加入が継続できることになります。
実際に投資できる具体的な商品は、利用する金融機関によって異なりますが、投資信託、保険商品、定期預金などからご自身で選択することになります。
毎月の拠出金額から商品に割り当てる拠出額を決めて、積み立てていきます(例えば、掛金が2万円の場合、商品Aに8,000円、商品Bに6,000円、商品Cに6,000 円など)。
拠出額については、月額5,000 円以上1,000 円単位で設定することができ、上限金額については職業や企業年金の有無等によって次のように細かく定められています。
自営業者/フリーランス等の国民年金第1号被保険者の方は、厚生年金がないこともあり、iDeCoの限度額は最も高く、年額81.6万円(月額6.8万円)となっています。
会社員や公務員の方は、勤務先の年金制度によっても変わりますが、年額14.4万円(月額1.2万円)から年額27.6万円(月額2.3万円)となっています。
対象者の欄に、「要件を満たす企業型 DC」(ここでDCは確定拠出年金)という記載がありますが、これまでは企業型DCの会社掛金の上限をiDeCoの拠出限度額分引き下げる労使合意、規約の変更がされていることが要件とされていました。
2022年10月以降はこの要件がなくなり、企業型DCに加入されている方が、基本的にご自身の意思に基づいて自由にiDeCoに加入できるようになることが決まっています。
iDeCoでは現役時代に積み立ててきたお金を老後資金として受け取ることになるのですが、受け取り開始年齢は60~75歳(2022年4月以降。それまでは60~70 歳)と決められています。
逆に言えば、59歳以下で受け取ることはできませんので、結婚する、家を買うなどのライフイベントでお金が必要になったとしても、iDeCoで積み立てたお金を引き出すことはできません。
受け取る方法は、まとめて一時金として受け取る方法、5~20年にわたって少しずつ年金として受け取る方法、さらに一時金と年金を組み合わせて受け取る方法から選ぶことができます。
ここで受け取る際の税金についてご説明します。
まず一時金として受け取る場合ですが、税制上は退職所得という扱いになり、次のような計算式に基づいて所得金額が計算されて課税されることになります。
退職所得の金額 = (収入金額 - 退職所得控除額)×1/2
退職所得というのは、企業にお勤めの方が受け取る退職金等に対する税制で、退職所得控除額は次の表のように計算されます。
勤続年数とありますが、iDeCoの場合には勤続年数を掛金の拠出期間と読み替えて計算することになります。
具体的にiDeCoに25年間加入して、一時金として受け取る金額が1,200 万円となった場合で計算してみましょう。
退職所得控除額は、20年超の場合になりますので、800万円+ 70万円 ×(25-20)=1,150万円となります。つまり、退職所得の金額は、
(1,200 万円-1,150 万円)×1/2 = 25 万円
となるわけです。退職所得は他の所得(例えば、給与所得や事業所得等)とは分けて計算される分離課税となりますので、この25万円に対して所得税・住民税が計算されることになります。
なお、お勤め先から退職一時金を受け取り、さらに同じ年にiDeCoについても一時金として受け取る場合などは基本的に合算して計算されることになります。
次に、年金として受け取る場合についてご説明します。こちらは公的年金収入などと同様に雑所得という扱いになり、次のような計算式に基づいて所得金額が計算されます。
雑所得 = 年金収入金額 - 公的年金等控除額
ここで、公的年金等控除額は次のように決められています。
例えば、65歳から毎年120万円を10年間にわたり受け取る場合、毎年のiDeCo受給による雑所得は、120万円-110万円=10万円となります。
ただし、公的年金も同じく雑所得になりますから、iDeCoに加えて公的年金を65歳から年間200万円受け取る場合、合算されて65歳以降の雑所得金額は、(200 万円+120万円-110万円)=210万円となります。
雑所得は総合課税の対象となりますから、他の所得と合算されて最終的に所得税や住民税が計算されることになります。また、国民健康保険に加入している場合には、保険料は前年の所得に基づいて計算され、iDeCoの雑所得も算定対象となりますからその分国民健康保険料がアップする可能性があります。
老後資金を準備する仕組みの一つとして iDeCoが広まりつつあるものの、最新の加入者数は約220.9万人と、現役世代全体の人数からすればまだごくわずかです。
iDeCoは税制上の優遇措置が充実している一方、60歳までは引き出すことができない、運営機関等に支払う手数料が発生するなど、注意が必要な点もあります。
ご自身のライフプランを考えながら、つみたてNISAの併用も視野に入れ、長期的な視点で資産形成に取り組んでいただければと思います。
大手証券会社にてデリバティブ商品の開発やトレーディング、フィンテックの企画・調査などを経験後、2018年1月に独立。「フツーの人にフツーの資産形成を!」というコンセプトで情報サイト「資産形成ハンドブック」を運営。YouTube「資産形成ハンドブック」配信中
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