共働きならではの定年準備で注意しておきたいこと

前回、下記の記事で「定年準備の始め方」についてご紹介しました。

2023/09/25

共働きの定年後に向けた準備~いつからどう始める?シニアライフへのお金の流れを整えておくステップとは

今回は、その定年準備をしていく際に、「ここはぜひ気をつけておきたいポイント」や「見落としやすいポイント」を見ていきましょう。

収支の波を把握する~変化が訪れるのはいつ、どれくらい?

共働き家庭の定年準備で、とりわけ早い段階から手をつけておきたいのが、「収支の波の把握」です。特に「収入」は、夫婦ともに会社員で年齢差もある場合、いくつもの収入額の「波」を迎えるのが一般的です。

定年前後の収入額の波は、主に以下のような時点で迎えることになります。

1.定年時点

2.定年後も継続雇用等や再就職で働く場合は、それらに移行した時点

3.継続雇用等や再就職の後、完全リタイアする時点

4.公的年金の受給開始時点

共働きの場合、これら4つが夫婦それぞれにあるとすると、収入額の波は合計8つになります。さらに、もし夫婦ともに勤め先に「役職定年」の制度があれば、収入額の波は10にも及びます。

▲【図1 】共働き家庭 定年前後の収入の変化( 1例)

ちなみに、継続雇用等で収入額がどれくらい変わるかは、お勤め先によってさまざまです。なかには現役時代から50%減という方も。ご自身のお勤め先の場合を確認いただくのが一番ですが、すぐにはわからないという方は、下記のデータ(図2)も参考にしてみてください。

図2は、60歳直前の賃金(賞与含む)を100としたとき、61歳時点の賃金がどれくらい変化したかを指数で表したものです。60歳まで正社員として働き、それ以降も継続雇用されているフルタイム勤務者(正社員・非正社員)が対象です。

業種にもよりますが、「平均的な水準の人」では78.7と、60歳直前と比較して4分の3程度に減少しています。

▲【図2 】フルタイム勤務・継続雇用者の61歳時点の賃金水準の平均値

まずは、自分たちの場合の定年前後の「収入の波」、そして「支出の波」、ひいては「収入-支出=収支の差額」の波をしっかり把握し、うまく波を乗り越えられるよう準備しておくことが定年準備を成功させるポイントです。

夫婦の家計を整理する

「収支の差額」の波を捉える出発点は、現状の家計の数字の把握です。ただ、忙しさに紛れて、これまで家計をあまり管理してこなかったという共働き家庭は多いかもしれません。

定年後は現役時代と比べると、“入ってくるお金”が大なり小なりボリュームダウンします。しかも、現役時代のように、「今からたくさん稼げばいい」といったリカバリーはもはや効きません。

だからこそ、収支の差額の波を定年前の早い段階から把握する意味があります。収支の差額がマイナスの時期は、すなわち資産を取り崩していくことになる時期です。この時期をいかに短くできるかが、定年後の「資産寿命」を左右します。

そこで、「収支の差額」をできるだけ手間なく管理ができるように、できるだけ早いうちから整えておきたいのが「家計管理のしくみ」です。

共働きの家計管理は、どう「しくみづくり」をする?

共働きの家計管理では、「夫婦2人の収入と支出をすべて合算」して管理している家庭もあれば、収入も支出もそれぞれで管理して、共同でかかるお金のみ「共同財布」や「支出の分担」をしている家庭もあるでしょう。

▲【図3 】共働きの家計管理タイプ

図3のいずれのタイプでも、現役時代は自分たちに合ったタイプで管理できていれば問題ありません。ただし、別々に管理していることで、定年後のお金がどうなっているのかが、まるで見えないなら要注意です。

お互いに「相手がなんとかしてくれている」とタカをくくっていて、いざ定年後、このままでは立ちゆかないとわかって大慌てという事態だけは避けたいところです。 また、現役時代とは異なり、定年後の家計は、夫婦の収入も支出も合算で管理したほうがわかりやすい面があります。

というのも、現役時代は給与収入などの収入の入口が夫婦1つずつであっても、定年後は収入の入口がいくつもに分かれることが少なくありません。例えば、公的年金に加え、企業年金やiDeCo(個人型確定拠出年金)、個人年金保険などを受取るというようにです。

さらに、まだまだ働くという人は、その収入もあります。 このように収入の入口がたくさんある場合は、夫婦の収入と支出合算で管理したほうがわかりやすく、シンプルに管理できるからです。

ただし、合算で管理することでプランの立てやすさや管理のしやすさはあるものの、夫婦それぞれの価値観や感情を犠牲にして無理に合算管理したりする必要はありません。無理することで、せっかくの定年後の生活が楽しくなくなってしまっては本末転倒だからです。

一方で、定年後も別々に管理していく場合は、お互いをあてにせず、それぞれ責任をもって老後資金を準備しておく覚悟は必要かもしれません。

これだけは共有しておきたいものは?

夫婦の収入と支出を合算しての管理には抵抗があるという場合でも、せめて収入額や公的年金受給の見込額だけでも夫婦で共有しておくとよいでしょう。公的年金をどう受取るか、例えば受給開始の「繰下げ」をするのかといったことも、お互いの収入額や年金見込額がわかっていたほうが、より判断しやすいからです。

「繰下げ」受給は、原則65歳からの公的年金受給を最大70歳まで(※1)後ろ倒しにすることで、受給額が増額されるしくみです。増額されるのは、「繰下げ月数×0.7%」。

つまり、繰下げ1年につき受給額が8.4%増額、70歳までの5年間繰下げで42%増額です。 (※1 2022年4月から施行の改正で、繰下げは75歳までできるようになります)

基礎年金と厚生年金は、別々に繰下げることができますから、夫婦それぞれの年金見込額や男女間の平均余命の差も考慮しながら、例えば妻の厚生年金のみを繰下げするといったことも可能です。

あるいは、お互いの年金額を比較し、夫婦のうち年金見込額が多いほうを繰下げて、少ないほうを65歳で受取る手もあります。繰下げによる増額は月0.7%という「率」で計算されるため、年金額の多いほうを繰下げしたほうが、増える「額」自体は大きくなるからです。

そのほか、夫妻どちらかがまだ働いていて収入があり、「収支の差額」がまだプラスならば、夫婦共がリタイアするまで年金を繰下げるという考え方もあります。

定年前後の「こんなはずではなかった」を招くものは?

ところで、多くの定年前後の相談をお受けしていると、ご相談者が「定年後はこんなはずではなかった」と口になさることがあります。

その「こんなはずでは」の理由の1つが、「退職金」です。退職金というまとまったお金が入ってくると一気に家計に余裕が出たような錯覚に捉われ、“ご褒美支出”が多くなってしまうご家庭をちらほら見かけます。

特に共働きの場合、「まだ、もう1人の退職金があるから、ちょっとくらい贅沢してもいいよね」との油断から、“ちょっといい旅行”、“ちょっといい食事”、“この際家電の買換えを”と繰り返していると、「えっ、もうこんなに退職金が減っている」と驚く羽目になることも。

ずっと働き続けていた成果でもある退職金。「少しくらいご褒美に」というお気持ちはよくわかります。しかし、退職金は、定年後も長く続く生活のための大切な資金です。

定年後のマネープランを見ながら、例えば「ご褒美に使うのは1割まで」といったふうに決めてその分は心置きなく使い、残りは確実に取り置くというふうにするとよいでしょう。

定年前後の「こんなはずではなかった」を防ぐには?

定年後の「こんなはずではなかった」を防ぐには、「想定外」をできる限り無くしていくのがコツです。 「想定外」が最も定年後のお金にダメージを与えるからです。

「想定外」には病気や介護などの予期せぬお金だけでなく、「こんなお金も必要」とあらかじめ想定できていなかったものも含まれます。

そこで、 以下のチェックリストを参考に、定年後の「想定」ができているかどうか、ぜひチェックしてみてください。

意外に見落としがちなのが孫へのお金です。孫が生まれると思っていた以上にかわいくて、何かと節目節目にお金を出したり、一緒にお出かけや旅行をしたりして出費がかさむというケースは少なくありません。

▲【定年後のライフプランチェックリスト】

チェックポイントは、ぜひとも夫婦で早めに共有しておき、できることなら、さらに共有の範囲を広げておくことをおすすめします。例えば子どもや親、兄弟などです。

特に、介護は自分たちの介護だけではありません。それぞれの親の介護にかかるお金の負担が必要な場合、定年後のマネープランに決して小さくない「想定外」の影響を受けることになります。

しかし、これを「想定外」ではなく「想定内」にしておくだけで、あらかじめ他の支出を調整するなどで対応することも可能です。それができるのも、あらかじめ「収支の差額」の波を捉えることができていればこそです。

まとめ

ここまで、さまざまな定年準備のポイントをご紹介してきましたが、いかがでしょうか? 意外とやっておくことは多いと感じたかもしれません。しかし、「定年前」に準備しておくことで、不安なく充実した定年後を送ることができるとすればどうでしょうか。

「これからの人生の中で、今この瞬間が一番若い」を合言葉に、早め早めに準備を始めてみてください。

福島 えみ子
福島 えみ子 ファイナンシャルプランナー(CFP・1級FP技能士)・行政書士

「変化の多い人生にフレキシブルに対応できるマネープランニング」をモットーに、金融商品を販売しない中立の立場で、個人相談、セミナー・企業研修、執筆、コンテンツ企画・作成等を行う。銀行、法律事務所での実務経験から、特に、資産運用、相続、不動産分野、リタイアメントプラン等を得意とする。

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