人生は旅のようなものと例えられることがあります。行き先を決めない旅もまた楽しいもの。「なるようになる、自然なめぐりあわせこそ人生」、それもまた真実です。しかし、こと老後のお金に関しては「なるようになる」では心もとないもの。
そもそも「老後のお金はどれくらいかかる?」から、「それを把握するためのステップは?」「いつから準備を始める?」「共働きの場合の留意点は?」などについてご紹介していきます。
老後のお金の準備、つまり「定年後の準備」といったときに、「定年後の『定年』とはどの時点と考えればいいのでしょうか?」というご質問をよくお受けします。定年制度のある会社で働いている場合、定年年齢を迎えた後も、継続雇用等で働き続ける人は少なくないからです。
マネープランの観点からは、継続雇用以後は収入が現役時代よりも下がってしまうという人が多いため、収入の変化を軸に定年を把握していくことがベストです。最初に迎える定年を「メイン定年」、継続雇用等の後、完全に仕事からリタイアしてしまう時点を「サブ定年」と把握しておくとよいでしょう。
この点、共働きの場合は、夫婦2人の定年が同じ時期とは限りません。しかも、2人ともが継続雇用等で定年後も働くなら、2人分のメイン定年・サブ定年という4つの家計の変化ポイントを迎えることになります。
なお、ここからは、現役時代の収入からの大きな変化を重視して、たとえサブ定年がある人でも、「定年準備」の「定年」は、「メイン定年」としてお話ししていきます。
「老後のお金、普通はどれくらい用意すればよいでしょうか?」と尋ねられることは多いのですが、どれくらい用意すればよいか?は家庭により千差万別です。
それはなぜでしょうか? それを知るには、そもそもの“老後資金の中身”を知る必要があります。
老後資金は、「定年後の支出総額」と「定年後の収入総額」の「差額」です。つまり、この差額部分こそが、自分たちの「老後の必要資金額」になるわけです。
ところが、定年後の生活費やイベント支出などの「支出総額」、そして公的年金額などの「収入総額」は、家庭ごとに異なる“変数”です。ひと頃話題になった、「老後資金の 2,000万円問題」が誰にでも当てはまるわけではないのは、家庭によって異なる変数があるからです。
特に把握しておきたいのが、「定年後の支出総額」の中身です。それは、大きく分けて以下の3つです。
1.定年後の生活費用 (月々の生活費+年単位で支出するもの)
2.生活費以外の特別費用 (住居のメンテナンス費など)
3.もしものときのための費用
例えば、今現在の皆さんの家計にしても、住居費や食費をはじめとする「生活費」の額は家庭ごとに違うはずです。それだけでなく、生活費以外のお金も、その家庭ごとのライフスタイルや家族構成によっても変わることでしょう。これは、定年後であっても同じです。
だからこそ、まずは、「自分たちの場合は、どのような定年後を送りたいのか?」を考えておくことがポイントになります。
そこで、定年準備の最初のステップは、まず、定年後にどのようにしたいのかを自由に思い描くことから始めてみてください。
思い描いたことは、できる限り書き留めておきましょう。何歳のときにこれをやりたいなど、時系列で書き留めておくことがポイントです。
そして、最大のポイントは、「誰と」「どこで」「どんなことを」しているかをできるだけ具体的に思い描くということです。「どこで」暮らすかによって、住居費、光熱費、さらに食費も違ってきます。「誰と」暮らすか、例えば高齢の親あるいは子どもと同居するかによっても生活費が変わります。
「定年後は今みたいに仕事の服もいらないし、洋服代はそれほどかからなそうです」、こうおっしゃるのをよく耳にします。しかし、いざ定年後はというと、新たに始めた山歩きのためにアウトドア向けの服装をあれこれそろえることになった人も。
そのほか、仕事の服はいらなくなった代わりに、頻繁になった趣味や友人との集まりでいつも同じ服装というわけにもいかず、結局、服を買うことが増えたという声もよく聞くところです。
こうした支出が「想定外」とならないように、定年後の自分たちをできる限り具体的に思い描いておくことが意外に大切なのです。
思い描いて書き留めたら、ぜひ家族で共有してみてください。
ご相談の現場で、こんなやり取りにたびたび出会うからです。
夫のほうは、「相続した地方の実家で、昼は地域貢献のボランティアや畑仕事、夜は幼なじみと集まるなど、のんびり自然に囲まれて暮らしたい」とのこと。 ところが、それを聞いた妻のほうは、「今のところを離れるなんて! 友達と会えなくなるし、通っている習い事も続けたいのに!」と驚愕。
夫は、「実家を相続した時点で、戻るのは当然わかっていると思っていた」と、ご夫婦の言い争いが始まってしまうことも。
言い争いまでいかなくとも、「当然わかっていると思っていた」「そんなふうに考えているとは知らなかった」といった言葉は頻出です。ギャップがあると、スムーズにプランニングに移りにくくなってしまいます。
「長年いつも一緒にいるから、お互いのことはよくわかっている」と思うかもしれません。しかし、こと定年後の話に限らず、考えていることは夫婦や親子であっても、言葉に出してみないとわからないものです。
ぜひ、休日にゆったりとお茶でもしながら、お互いが思い描いている定年後についてシェアしてみてください。シェアすることで、「それもいいね」と、新たな発見や共通の楽しみも生まれるかもしれません。
定年後、「誰と」「どこで」「どんなことを」しているかを具体的に思い描き、家族とシェアできたら、次のステップ3は、「描いた定年後を金額に落とし込む」です。
まずはステップ1で書き留めた「描く定年後」の横に、具体的な金額を記載していってください。生活費以外のイベントについても、持ち家の場合のメンテナンス費用や住み替え費用、家電の買い替えなども忘れずに、大まかに、でもとにかく具体的な金額にするのがポイントです。
また、「定年後の生活費」といっても、「現在の生活費」を起点として、そこから定年後はどう変化するのかで把握するのが現実的です。そのため、まずはこのステップで同時に、「家計の現状把握」をする必要があります。
この家計の現状把握ができていない家庭は意外と多く、特に共働き家庭では収入の入り口が2つあるため、「あまり気にせずお金を使っていた」「それぞれで把握していて家計の全体像がわからない」などで、月々や年間の支出額がわからないケースにたびたび接します。
このステップ3を行う過程で、現在の家計やお金の流れもこの機会にすっきりと整えていきましょう。
一方で、ぜひ意識したいのは、支出の想定に一定の「余白」をとっておくということです。
例えば今50代の方なら、学生時代などの若い頃、今のようにスマホでどこにいても連絡が取れたり、インターネットで多様な情報がどこにいても手に入ったりといったことは思いもしなかったのではないでしょうか。 こうした時代の家計では、通信費といえば固定電話のみでした。
ところが、今はインターネットやプロバイダー代、家族分のスマホ代も含まれ、通信費の膨張に悩む家庭も少なくありません。
このように、家計の中身や金額も世の中の動きによって、今後も変わる可能性があります。
どのような世の中になるのかまでは想定が難しいもの。そこで、世の中の変動に備えるための余白のお金も見込んでおく、つまり、少しゆとりを持った金額にしておくことがポイントです。
思い描いた定年後を具体的な金額に落とし込むステップ3を終えたら、次のステップ4では、いよいよ総額を出していきます。定年後の「支出総額」と「収入総額」です。
「支出総額」は、ステップ3で具体的な金額として把握したものを合計し、次に、「収入総額」を把握していきます。
定年後の「収入」として、公的年金、そして企業にお勤めの方なら企業年金、また、iDeCo(個人型確定拠出年金)や個人年金などを準備している人はすべてリストアップして、総額を出していきましょう。退職一時金も忘れず含めてください。
そして、これらの総額を出すとともに、いつ受け取れるのか?を時系列で整理しておくとベストです。
共働きの場合は、これらを夫婦2人分、しかもそれぞれの定年や公的年金開始年齢が異なる場合は特に、あらかじめ把握しておかないと、収入の変化の波に翻弄されかねません。 ここでしっかり整えておきましょう。
そして、いよいよ最後に、「支出総額」から「収入総額」を差し引くと、「自分たちが定年後のために準備しておくべきお金」の具体的な金額が得られるというわけです。
このように、定年後のお金を把握するステップをご紹介してきましたが、もしかすると、「これは結構時間がかかる作業では?」と思われたかもしれません。ましてや、共働きの場合は、「定年後」が段階的に訪れますから、なおさらです。
しかも、ここまでのステップは、まだ「定年後の必要額」を把握したにすぎません。肝心なのは、その先にある、「では、そのお金を準備するためにはどうするのか?」という「対策」の部分です。準備が早ければ早いほど、余裕を持って「対策」ができます。
ぜひ早めに行っておきたい定年後の準備ですが、一方で、定年目前という人でも、遅すぎると諦めないでください。自分のこれからの人生の中で、今この瞬間が一番若いのです。思い立った今が一番早いスタートです。
なお、ご紹介したような、定年後のお金を把握するステップが「大変」と感じる方は、私たちのようなファイナンシャル・プランナーを活用していただくこともひとつの選択肢です。
「変化の多い人生にフレキシブルに対応できるマネープランニング」をモットーに、金融商品を販売しない中立の立場で、個人相談、セミナー・企業研修、執筆、コンテンツ企画・作成等を行う。銀行、法律事務所での実務経験から、特に、資産運用、相続、不動産分野、リタイアメントプラン等を得意とする。
福島 えみ子さんの記事をもっとみるtayoriniをフォローして
最新情報を受け取る