確定拠出年金の活用方法 ~オーストラリアから学ぶ、ライフスタイルと資産形成のヒント 第1回~

国の政策や財政状況、文化的な背景など多くの要因により年金制度は形づくられています。私が以前ファイナンシャルプランナーとして働いていたオーストラリアの年金制度と日本の制度の比較を参考に、「自分らしく」生きていくためのライフスタイルのヒントにしていただければと思います。

オーストラリアの事例から見る日本の制度

40代、50代にはいってくると老後の生活にいくら必要か、いくら不足するのか、どのように資産を形成していけばいいのかということを、折に触れて考える機会が増えてくるのではないかと思います。個々の目標や考え方、ライフスタイルによりこの必要とする金額は相当な差になります。

希望する老後生活に対して不足する金額は2,000万円なのか5,000万円なのか早い段階で把握し、そのための準備を始めたほうがその差を埋めることができる可能性が高くなります。

老後の収入と生活を考えるときに、国の年金制度から支給される額が多い少ないという議論はありますが、その国に住むほとんどの方にとって重要な土台となることは間違いがないでしょう。

国の政策や財政状況、文化的な背景など多くの要因により年金制度は形づくられています。 私が以前ファイナンシャルプランナーとして働いていたオーストラリアの年金制度では、老後のための資産形成は自己責任の要素が高く設計されています。

その推進のために年金の積み立てと運用利益に対して優遇された税率が適用されます。後で触れますが、日本における同様の制度の税率はオーストラリアよりも優遇されています。

オーストラリアでも国から受け取る年金だけで、十分にゆとりある生活を送ることができるほどではありませんので、この制度の効果的な活用が資産設計上重要になります。

一方で、十分に個人で年金を積み立てることができなかった方でも、国から支給される年金の範囲で生活は随分と楽しまれているようにみえます。

それぞれの仕組みには長所や短所があると考えられますが、ここではオーストラリアの例から、考え方や制度の違いを参考にして、ライフスタイルの一つのヒントにしていただければと思います。

オーストラリアの制度と実例

オーストラリアの年金制度はシンプルで、老後に向けての資産設計は確定拠出年金が中心となっていました。

2020年度までは雇用主は強制的に給与支払額の9.5%を従業員のために確定拠出年金の口座に支払う制度となっていました。2021年度から2025年度まで毎年 0.5%ずつ増やしていく予定で2025年度は12%になる見込みです。

この確定拠出年金の制度は、積み立てた金額の15%、運用益に対しても15%の税金がかかります。

オーストラリアの所得税は日本と同様に累進課税制度を採用しており税率は以下のとおりです。

居住者税率表(2020-2021)

課税所得

税率

$18,200以下

0.0%

$18,200超〜$45,000以下

19.0%

$45,000超〜$120,000以下

32.5%

$120,000超〜$180,000以下

37.0%

$180,000超〜

45.0%

上記に加えて健康保険料が2%となります。所得税率だけで見ると高く見えるかもしれませんが、年金保険料や住民税といった税がなく、一定の収入以下の人には税金が控除される制度があります。

オーストラリアでは、1ドル85円換算で年収約155万円以下の人は税率が0円となっています。この年金の積み立て時の15%という数字は、15%超の所得税の税率の方にとっては、その差が税率上優遇されるということになります。

表を見ていただくとわかるとおり15%以上の所得税となる所得は約155万円超で、多くの方にとって年金に積み立てることによって、所得税を下げる効果が出てくるということになります。

年収約383万円を超えると32.5%に一気に上昇しますのでより大きな効果が出るということになります。また、一般的な投資の利息や配当も所得に合算されることから運用部分についても年金内で運用したほうが利益に対して税率が低くなるということになります。

日本とオーストラリアの確定拠出年金の制度との比較

日本の確定拠出年金の制度についてですが、オーストラリアと比較すると、かなり税務上優遇されているという感想です。日本では確定拠出年金への積み立て額の全額が所得から控除され、その結果として所得税と住民税が軽減され、さらに運用益に対しても非課税となります。

老後の資産形成のためにとても優遇されている魅力的な制度設計となっていて、資産設計上ではまずは考慮に入れたほうがいいと考えられる制度となります。この制度を活用していく場合、年金内で積み立てた資金は、どのように運用していくかがもう一つの大きなポイントになります。

日本人の金融資産の半分以上が、超低金利にもかかわらず銀行の普通預金や定期預金などの貯蓄を中心とした資産分野に配分されています。

金融庁のデータにもあるとおり、現預金を中心とした資産構成の結果として、先進主要国の金融資産と比較すると資産が増加しておらず、個人の保有する資産の差が拡大してしまいました。

オーストラリアでは確定拠出年金のデフォルトといわれる標準的な資産配分では、運用対象の金融資産の50%以上はリスク資産といわれる株式に配分されている形になっています。結果論にはなりますが過去20年の履歴をみると、高いリスクの資産配分をしていた国のほうが資産を増やしており、資産の増加率で大きく水をあけられる結果となっています。

オーストラリアでは、ほとんどの勤労者は、強制的に確定拠出年金に資産が積み立てられていくことから否応なく運用について考える機会が増えます。預貯金や債券型に配分してリスクを低くすることもできますが、その結果低いリターンになっても自己責任とされています。

日本ではなかなか資産が運用へ回らないという状況のなか、貯蓄から資産形成へという掛け声のもとに、日本の確定拠出年金やつみたてNISA等の資産形成のための制度は思い切った税制上の優遇措置が取り入れられています。

運用に目を向け始めると、投資という名のもとにさまざまな情報が耳に入ってくるようになり驚くほど高い利回りをきく機会もあるかもしれませんが、よくできたありえない話もたくさんあります。

その点、確定拠出年金を活用した資産運用では、ちまたにあるようなありえない話が入ってくる余地は限りなく低いため、老後に向けてしっかりと資産形成に向きあっていくことができるプラットフォームということができるでしょう。

オーストラリアのこの年金制度に関しては、日本と比較すると税率の面では高く設定されていますが、それでも効果的な老後のための資産形成ツールとして活用していくことが標準的な考え方となっています。

日本には確定拠出年金の他にもNISAやつみたてNISAといった税制上優遇された制度があります。最善となる選択肢を考えるにあたり、なるべく早い段階で一度はこれらの制度を活用することの是非を検討してみるとよいでしょう。

藤本 崇
藤本 崇 1級ファイナンシャル・プランニング技能士

オーストラリアでファイナンシャルプランナーとしてスタートし、不動産、金融、保険業界等の実務を通して数百件以上の相談にのってまいりました。 知らない間に政策や経済環境などによって変わっていることは様々あります。 日々の生活では気づかない別の選択肢があることをファイナンシャルプランニングを通して知っていただき、よりよい選択をしていただくために全力で応援してまいります!

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