老後資金の過不足を知るためには、キャッシュフロー表や収支表などを作成し、シミュレーションを行う必要があります。
シミュレーションの結果、老後資金が不足する結果になったとしても、生活費の削減によって生涯の収支を大きく改善できるため、これによりマイナスを解消できる世帯が多いことを、この連載ではお伝えしてきました。
一方、無理な節約は生活の満足度を大きく下げてしまうこともあります。大切なのは、現在の支出の費目(例:食費、教育費、住宅費)ごとの使い方を把握し、使うお金の配分を見直すことです。見直すべき費目を明確にする分析方法は、前回の「老後に向けてやるべきことは『節約』でなく『支出配分の最適化』」で解説しました。
老後に向けてやるべきことは「節約」でなく「支出配分の最適化」
しかし、私の実際の家計相談では見直すべき費目が分析により明確になったとしても、あえて他の費目から見直しを始めることがあります。
この記事では、満足度を下げずに生活費を減らす、具体的な方法について考えていきます。
標準的な世帯で最も金額が多い費目は「食費」ですが、削減の継続が難しい費目の1つだとも感じています。日々の暮らし方の変更や計画的な買い物が必要となり、継続のハードルが高いからです。
毎月の支払金額に変動がある費目を「変動費」と呼びますが、変動費の削減を継続するには暮らし方を変える、あるいはこだわりや趣味を少しがまんすることが必要になることも多いです。
一方、必ず毎月ほぼ固定された金額を支払っている費目である「固定費」は、1回見直しを行うだけで効果が持続するものが多いです。暮らし方にあまり影響せず、見直しが可能な費目が多いのもポイントです。
例えば、スマートフォンの契約を夫婦で見直した結果、月の料金が8,000円下がり削減効果が4年続いたとすると合計38.4万円もの支出が減ったことになります。
外出先で動画を見ることは少ないが使っているデータ通信量を把握することなく大容量プランを契約している、あるいは音声通話を頻繁に使うのにかけ放題のオプションを利用していないなど、
使い方にマッチしていない契約をしている人も少なくなく、適切な契約をすることにより暮らし方に影響せず満足度も低下せずに料金を下げることができたお客様を多く見てきました。
同様に保険料も、必要な保障内容や金額と、契約している保障の内容や金額に大きな差異があることも多く、暮らし方に影響せずに見直しやすい費目です。
また、固定電話や新聞のように利用の頻度が落ちている、あるいは他で代用できるにもかかわらず、何となく続けているものがあれば、止めてしまっても暮らし方への影響は少ないでしょう。
まずはこうした固定費に注目し、契約内容を適切に見直す、あるいは止めることが、満足度を下げずに生活費を減らす重要なコツとなります。
新型コロナウィルスの感染拡大により家で過ごす時間が増えたことも影響し、新たな固定費として存在感を増しているのが、サブスクリプションサービスです。サブスクリプションを略して「サブスク」と呼ばれることも多いですが、月1回などの定額料金を支払うと、使い放題になるサービスを指します。
代表的なものに、動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」や、音楽配信サービス「Spotify(スポティファイ)」、電子書籍配信サービス「Kindle Unlimited(キンドル アンリミテッド)」などがあります。
月々の金額は数百円から数千円のサービスが多く、無料のお試し期間が設定されていることが多いので、気軽に契約してしまいがちですが、それらが積み重なり無視できない金額になっている相談者も少なくありません。使用している頻度を考え、定期的に見直すことが必要です。
固定費の見直しだけで生涯の収支を大きく改善でき、老後資金を十分に確保できる相談者も多いのですが、それだけでは不十分なため、変動費の削減も必要な相談者も一定数いらっしゃいます。
後者のケースでの家計見直し相談では、効果が持続しやすい固定費を先に見直し、相談者が削減効果を実感した上で、変動費の見直しに手をつけるようにしています。継続が難しい変動費見直しのモチベーションを少しでも保ちやすくするためです。
変動費の見直しでもう1つ気をつけている点は、一度に多くの費目を削減しようとしないことです。変動費は全般に継続が大きな壁になるため、労力を分散させないようになるべく1つの費目に絞って見直し、削減が一定期間継続できて定着したら、次の費目の見直しに移るのがおすすめです。
変動費の中で金額が圧倒的に多いのは通常「食費」です。金額が多い分、見直せると削減効果が大きいのですが、削減を継続するのは難しい費目でもあります。
まず、外食費と食料購入費に分けて把握し、外食費が多い世帯は外食の回数と金額の予算を決め管理することで削減を図ります。これは食料購入費を削減することに比べると継続しやすいです。
一方、食料購入費を削減するには、購入する店舗を変える、割高なコンビニなどでの購入をNGにする、中食(弁当や惣菜などを購入したり、デリバリーなどを利用して、調理・加工されたものを購入して食べる食事)の頻度を減らす、
あるいは食材のムダを減らすために計画的に購入するなどの対策が一般的ですが、忙しい共働き世帯ではなかなか実行できないこともあります。
そのようなケースでは、10代のお子さんを巻き込み、買い物や料理を任せて中食を減らし家内調理率を高めることにより、食料購入費を削減しながら満足度も向上した例もあります。お子さんが興味を持てば YouTube で気軽に料理を学ぶこともできますので、検討してみるのもよいでしょう。
生活の満足度をなるべく下げずに生活費を減らすには、現在の支出の費目ごとの使い方を把握し、使うお金の配分を見直すことが基本となります。実際の見直しの順序としては、暮らし方にあまり影響を与えずに見直し可能な費目が多く、1回見直しを行うだけで効果が持続しやすい「固定費」から始めるとよいでしょう。
通信費や保険料は、契約内容と必要な内容がマッチしていないことが多く、見直しで削減効果を得やすい典型的な費目です。最近ではサブスクリプションサービスも定期的に見直したい費目になっています。
変動費を見直す場合は、固定費を先に見直して削減効果を実感した後の方がモチベーションを保ちやすいです。継続の労力を分散させないようになるべく1つの費目に絞って見直し、削減が一定期間継続できて定着したら、次の費目の見直しに移るのがよいでしょう。
金額が多い費目、例えば食費などを見直した方が、大きな削減効果を得やすくなります。生活の満足度を犠牲にせず金額を削減する生活費の見直しに、ぜひ取り組んでいただければと思います。
2007年に横浜FP事務所を開業。個人相談に特化したFPとして、老後資金、ライフプラン、生命・火災保険、住宅ローンを中心に累計3,500件超の個人相談を実施している。豊富な相談経験を活かし、執筆やセミナー講師も多数。 2011年より一般社団法人全国ファイナンシャルプランナー相談協会の代表理事に就任、公正なFP相談の普及に奮闘。神奈川県立産業技術短期大学校で非常勤講師も務めている。
平野 雅章さんの記事をもっとみるtayoriniをフォローして
最新情報を受け取る