資産形成と聞くと、難しそうだ、ややこしそうだ、といった印象を受ける方もいらっしゃると思いますが、その基本原則はとてもシンプルです。
今回は資産形成の大原則と、実際に各ご家庭で今すぐ実行することができる具体的なアクションについてご説明させていただきます。
資産形成の大原則と呼ぶべきものについては様々な方が提唱されていますが、筆者は次の式をご紹介しています。
ここで資産を増やしていくために重要なポイントは次の4つになります。
1.支出は、収入の範囲内におさえる(まずはここから)
2.支出を減らす(優先順位をつけて支出を見直す)
3.運用利回りを高める(お金にもしっかり働いてもらう)
4.収入を増やす(キャリアアップや兼業・副業)
これら4つのポイントについては、多少の個人差はあると思いますが、基本的に上から順番に実行しやすくなっていると思います。
1つ目は、支出は収入の範囲内でということです。「そんなことはわかっている!」とお叱りの言葉をいただくかもしれませんが、実際に手取り収入のうち、どのくらいを支出にまわしているか把握できている方は少ないのではないかと思います。
究極的にはその方のライフプラン、つまり何歳まで働くか、結婚するのか、子どもは何人か、などによって変わってくるのですが、筆者は一般的には手取り収入の8~9割で生活していきましょう、とお話ししています。逆に言えば、手取り収入の1~2割で将来に向けて資産形成をしていくわけです。
2つ目のポイントは、支出の削減です。何でもかんでも節約しましょうというわけではありませんが、優先順位をつけた上でメリハリをつけてお金を使っていくことが大切です。
3つ目は、お金にも働いてもらうということです。手元にあるお金の一部については、株式や不動産といった資産を対象とした投資信託などを活用して運用していくのです。目標利回りの目安としては、高くても 5%程度が現実的かと思います。
預貯金ですとほぼ0%ですので、それと比べれば、3%、4%といった水準であって、長期の資産形成においては十分でしょう。
資産形成の大原則の最後のポイントは、そもそもの収入を増やしていく、ということです。現在のお仕事を頑張ってキャリアアップしたり、取り組みやすい副業や兼業などを行ったりすることで、収入を増やしていくわけです。
資産形成の大原則ということで4つのポイントをお伝えしましたが、そのうちの2つ目以降について、より具体的に考えてみたいと思います。
次の図の②~④が、先ほどのポイントに対応しています。
資産形成のために、比較的取り組みやすいのが支出のコントロールです。とにかく節約、というわけではありませんが、知らず知らずのうちに、いろいろとお金を使っていたりするものです。年に1回など、できれば定期的に支出をチェックし、見直していくとよいでしょう。
支出を見直す際にまず基本となるのが、支出を固定費と変動費の2つに分けることです。固定費というのは一般的に住居費(住宅ローン、家賃など)、保険料、通信費など、変動費というのはその他、食費、日用品費、被服費、交際費などです。
一般的に固定費というのは契約(いわゆるサブスクも含みます)になっており、それらを見直す、つまり変更する手続きは面倒くさいので取り組むにはハードルが高くなります。しかし、重い腰を上げて一度見直してしまうと、その節約効果は長期的に持続していきますので、かなり大きな効果が期待できます。
特に効果が大きいのは、住宅ローンの見直しです。ここ何年も金利水準は低下傾向にあり、特に日本ではゼロ金利、マイナス金利などと言われる状況になっていますので、10年以上前(場合によっては5年くらい前)などに住宅ローンを借りた方は見直す余地が大きいと思います。
例えば、10年前に5,000万円を金利1.2%、35年で借りた方は現在その残高は約3,779万円になっています。金利が変動しなかった場合、残り25年間で支払う金利負担分は約597万円となりますが、もし0.5%の住宅ローンに借り換えたとすると金利負担分は約242万円まで下がります。
借り換えに伴う費用が、この金利負担の差額355万円よりも十分小さければ、その分が節約につながりますので、かなり大きな金額になるのではないでしょうか。
ここでは住宅ローンの借り換えを例にご説明しましたが、他の固定費についても同様です。保険料や、通信費については、同様のサービス内容でより割安なものが出てきていないか、一度チェックしておかれるとよいでしょう。
出抑制の2つ目としては、所得税や住民税の節税があります。
自己負担の医療費がある程度高額になった際の医療費控除を始め、各種所得控除や税額控除で適用できるものがある場合には、きちんと適用して確定申告していくことが大切です。
例えばiDeCoと呼ばれる個人型確定拠出年金や、企業型確定拠出年金でもマッチング拠出は所得控除になるうえ、長期の資産形成にも適した制度となっています。
そして、厳密には節税ではありませんが、比較的多くの方が利用できる制度として、いわゆるふるさと納税があります。所得に応じて一定限度までは自己負担 2,000円で、寄附先の自治体から、寄付金額の3割を上限とした返礼品を受け取ることができるというものです(税制上は寄附金控除という取扱いです)
このように少しでも支出を抑えられると、その分を資産形成にまわしていくことができるのですが、そこで重要になってくるのが資産運用における利回りアップです。
将来に向けて資産形成をしていく場合、預貯金だけという方もいらっしゃるかと思いますが、株式や不動産といった期待利回りが比較的高いものを積極的に組み入れていくと長期的には利回りアップが期待できます。
株式や不動産と言っても、直接それらに投資する必要はなく、それらを対象として投資される投資信託を活用していけば比較的手軽に投資していくことが可能です。
長期的な資産形成において最初に商品を選ぶ際には、世界の幅広い株式に分散して投資できるインデックスファンドを中心に検討されることをおすすめします。1本の投資信託で、3,000~9,000銘柄に分散して投資することも可能ですので、個別株式と比べるとかなりリスクを抑えることが可能です。
その際には、つみたて NISA や iDeCo などの税制優遇制度を利用することで税負担も低くなりますので、長期で資産形成をしていく際には積極的に活用されるとよいでしょう。
最後は資産形成のための収入アップ、特に働いて稼いでいくというものです。若いときにはご自身のスキルアップを図ることで、キャリアップや副業・兼業などで収入を拡大していくことも可能でしょう。
一方、働いて得る勤労所得を増やすというと年収アップと思われがちですが、別の考え方として働く期間を長くするという選択肢もあります。人生100年時代と言われ、現在の日本人の平均寿命は男性が81.64歳、女性が87.74歳(令和2年簡易生命表)となっています。
お勤め先の都合で60歳定年と言われても、60歳で完全にリタイアしてしまうと、老後と呼ぶにはかなり長い時間が待っています。
多少年収は下がったとしても、60歳以降も長く働いていくことで生涯収入は大きくなります。農業従事者をはじめ、国会議員や落語界など60代、70代も当たり前のように現役で働いている業界もあります。
会社勤めが長い方であっても、現役時代の経験やスキルを活かし、60代以降もお仕事を継続していくことが十分可能な時代になっているのではないでしょうか。
60歳以降も働き続けると、一定の収入が確保できるので、公的年金を繰り下げて受給することも選択肢になります。公的年金は現在原則として65歳から支給されますが、例えば受給を5年間繰り下げて70歳からにすると42%増やすことができます。
また、60歳以降も厚生年金に加入して働き続けると、受け取れる年金額はその分増えていきます。
公的年金は生きている限りは一生受け取れますので、何歳まで生きるかわからない、長生きリスクという観点では非常にありがたい収入源となります。
資産形成の大原則とその具体的なアクションということで、ご紹介してきました。
家計の支出の見直しのような短期的に取り組めるものもあれば、60歳以降もできるだけ長く働くなど、長期的なライフプランに影響を与えるものもあります。
ご自身の人生で、どの時期に収入を確保し、いつまでどのように働いていくか、またお金にはどのくらい働いてもらうか、最適な選択肢は誰にとっても同じというわけではありません。ご自身の価値観や考え方、ライフプランに応じてご自身なりのスタイルを確立していただければと思います。
大手証券会社にてデリバティブ商品の開発やトレーディング、フィンテックの企画・調査などを経験後、2018年1月に独立。「フツーの人にフツーの資産形成を!」というコンセプトで情報サイト「資産形成ハンドブック」を運営。YouTube「資産形成ハンドブック」配信中
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