家計の状況を見える化し、きちんと把握されていますか?
一般的に企業が経営状況を対外的に開示する際には同じルール、つまり一定の会計基準に基づいた損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)などを作成しています。損益計算書は企業がどのくらい儲かっているか、そして貸借対照表は企業がどのくらい資産を持っているかを説明する資料です。
これらをご家庭の場合に当てはめてみると、収入と支出の差がどのくらいだったかを示す年間収支や、手元にどのくらいの資産があるかを示す資産残高を一覧にしたものになります。
長期的に資産形成を行っていく際には、まずご自身の年間収支や資産残高を見える化して把握したうえで、整理し適切に組み換えていくことが大切になります。
本記事では具体的にどのように把握していけばよいのか、説明させていただきます。
家計簿をつけている方は年間の収支を把握されているかもしれませんが、家計簿をつけていなかっとしても、1年にどのくらい稼いで、どのくらい使っているかを確認しておくことは大切です。
次の図は、ご家庭における年間収支のイメージを図にしたものです(※)
(※必ずしも税制上の正確な表現にはなっていませんので、その点はご了承ください)
会社員や公務員の方であれば給与収入が、個人事業主の方であれば事業収入が、それぞれ主な収入源になっているはずです。そして、株式や不動産などの資産をお持ちの方は配当収入や家賃収入もあるかと思います。
これらの収入から社会保険料や税金が差し引かれたうえで残った手取り収入を日々の生活費として使っていくわけですが、手取り収入のうち一部は将来のために積立預金、積立投資などの形で資産形成していくことになります。
しかし、こちらの図をよく見ていただきたいのですが、「資産形成」は2ヶ所にあり、ひとつは「税引き前」、もうひとつが「税引き後」となっています。税引き前に利用できる資産形成の制度は税制上認められた一部のものになりますが、それらを活用すると、税制上所得控除という扱いになります。
つまり、所得税や住民税を計算するうえで基となる所得金額を小さくすることができますので、結果的に税負担を軽減、つまり節税もしくは繰り延べできるわけです。
税引き前の資産形成制度としては、個人型確定拠出年金、企業型確定拠出年金のマッチング拠出分(個人が拠出する掛金分)、個人事業主の方を対象とした国民年金基金や小規模企業共済などがあり、これらは拠出した掛金全額が所得控除となります。
また、資産形成向けの生命保険である個人年金保険も生命保険料控除として保険料の一部が所得控除となります。
ご自身の働き方、つまり会社員・公務員なのか、個人事業主なのかによって利用できる制度は異なりますが、いずれにしても税引き前の資産形成制度を利用すると、毎年の所得税・住民税が軽減されますので、資産形成のスピードを高めることができるのです。
ただし、ひとつご留意いただきたいのですが、これらの資産形成の制度を利用される際には、資産運用の判断をご自身で行っていく必要があるものもあります。一方で、運営機関が利回りを保障してくれるものもありますので、ご自身にとって使いやすいものを上手に選んでいただければと思います。
次に、現在お持ちの資産状況について確認していきましょう。筆者は資産残高一覧表、もしくは企業の貸借対照表(バランスシート)になぞらえて家計版バランスシートと呼んでいます。
まず、手元にある預貯金、有価証券、生命保険契約などの金融資産、不動産や自動車などの実物資産を列挙していきます。そして分かる範囲で、現在売却して換金したらいくらになりそうかという大まかな金額を確認していきます。
例えば、20年前に新築マンションを5,000万円で購入した場合、今売却したら4,500万円くらいかな、といった場合には、購入価格の5,000万円ではなく、現在売却した場合の価格である4,500万円としておきましょう。
また、生命保険については解約返戻金があるものについてのみ、解約返戻金の金額を書いておきましょう。
そして、資産残高一覧表の左側、つまり資産の方が完成したら、次に右側、つまり負債の方についても整理していきましょう。
一般的な家庭で最も大きな負債は住宅ローンだと思いますが、他にも自動車ローン、教育ローン、奨学金、クレジットカードの利用残高など、金額が大きいものはしっかりと確認しておきましょう。
なお、資産の総額から、負債の総額を差し引いた金額は純資産と呼ばれています。左側の資産だけを見て合計7,000万円だったとしても、負債として住宅ローンなどで4,500万円ある場合、正味の純粋な資産である純資産は2,500万円になるというわけです。
この資産残高一覧表を整理できたら、まず確認していただきたいのは、金融資産の利回りと、住宅ローンの借入金利です。例えば、金融資産として、預金2,000 万円(預金金利0.001%)、有価証券500万円(期待利回り4%)となっている一方、住宅ローン1,000万円(借入金利1.5%)となっていたとします。
この状態は、金利1.5%を払って1,000万円を借り、金利0.001%の預金に置いている状態と言えます。ライフイベントなどで特にまとまったお金を使う予定がないのであれば、預金1,000万円を使ってこの住宅ローンを繰上げ返済してしまうと、資産形成のスピードが上がります。
また別の選択肢もあります。例えば、運用のリスクを取れるという方の場合、預金の半分である1,000万円を、住宅ローンの繰り上げ返済にまわすのではなく、期待利回り4%の有価証券に投資することで、資産形成を加速させることが可能になります。
いずれにしても、資産残高一覧表を整理したうえで、資産の利回りと、負債の金利のバランスを確認し、資産の組み替えを適切に行っていくことが重要です。
ここまでご説明してきた年間収支と資産残高一覧表をまとめて1つの図にすると次のようになります。
毎年の収入から一部を資産形成に向けていくわけですが、税引き前で資産形成できる制度を優先的に利用していくと効果的です。
そのうえで、税引き後の資産形成であっても、住宅ローンなどの借入金の返済にまわしていくのか、より積極的に投資などにまわしていくのか、ご自身のスタンスにあわせて適切に資産を組み替え、管理していただければと思います。
少しでも早く借入金を減らしてしまいたいという考えもあれば、低金利の住宅ローンはそのままで、より積極的に運用していこう、という考えもあるかと思います。
お仕事や家事、育児などに追われ、お金の管理はあまりきちんとできていないという方も多いのではないかと思います。
しかし、できれば年に1回くらいは、家計の状況について今回のような年間収支と資産残高一覧表という形で棚卸しを行えると、家計の状況を明確にし、見える化することができます。
そのうえで、ご家族で今後、どういったことにお金を使っていくとより幸せになれそうか話し合い、メリハリをつけて有意義なお金の使い方をしていただければと思います。
大手証券会社にてデリバティブ商品の開発やトレーディング、フィンテックの企画・調査などを経験後、2018年1月に独立。「フツーの人にフツーの資産形成を!」というコンセプトで情報サイト「資産形成ハンドブック」を運営。YouTube「資産形成ハンドブック」配信中
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