資産形成していく際には、株式、債券、不動産といった資産をどのように配分していくか、つまりアセット・アロケーション(資産配分)が長期のパフォーマンス上は重要になるといわれています。
本記事では、アセット・アロケーションを検討する前に、まず確認していただきたいお金の管理方法から、コア・サテライト戦略、資産形成に適切なアセット・アロケーションまで、お金のさまざまな管理方法についてご説明させていただきます。
みなさんは持っているお金をどのように管理されていますでしょうか?
お財布、貯金箱、銀行口座、証券口座など、さまざまな形でお金をお持ちになっていると思いますが、筆者は次の4つに分けて管理していくことが大切だと考えています。
1.ふだん使うお金
2.とっておくお金
3.もうすぐ使うお金
4.老後に使うお金
今お持ちのお金をすべて合計し、この4つに分けて管理していくことが資産形成への第一歩だと考えています。1つずつご説明させて頂きます。
最初の「ふだん使うお金」ですが、これは日常的に使う生活費口座にお金を入れておくものです。例えば、毎月の生活費が30万円の場合、1.5ヶ月分の45万円程度を入れておきます。
家賃や住宅ローン、水道光熱費、通信費、クレジットカードなどもできればすべてこの口座から引き落とされるように設定しておくことで、日々の生活費が把握しやすくなります。
1ヶ月ではなく1.5ヶ月となっているのは、クレジットカードの支払いタイミングによって多少引き落とし額が大きくなる可能性を考慮し、余裕を持たせるためです。
2つ目の「とっておくお金」というのは、何らかの原因で職を失ってしまった、病気やケガなどで働くことが難しくなってしまったといった場合でも一定期間はこれまでどおりの生活が送れるように貯めておくお金です。
上の図では1年程度と一つの目安を示していますが、例えば共働き会社員夫婦の場合であれば6ヶ月程度でも十分かもしれませんし、個人事業主や片働き専業主婦(夫)家庭の場合には2年分くらい持っておかないと心配かもしれません。
いずれにしても、何かあったとしても生活していけるよう、いつでも引き出せる元本保証の預貯金や個人向け国債などで確保しておくものです。例えば、毎月の生活費が30万円で、1年分の生活費を確保する場合には360万円ほど準備しておくことになります。
3つ目の「もうすぐ使うお金」は、今後5年以内にまとまったお金が必要になるライフイベントがある場合、それに備えてお金をとっておくものです。
結婚、出産、マイホーム取得、子どもの教育費、自動車購入など、まとまったお金が必要になりそうなライフイベントがある場合には、そのお金は元本保証の商品で準備しておきましょう。
最後に「老後に使うお金」ですが、これは現在お持ちのお金から、上述の1~3を差し引いて残ったお金になります。
1~3のお金をすべて確保できていれば、それ以外のお金についてはしばらく使うことはありませんので、長期的な視点で資産運用に振り向けていくことも可能になります。
老後に使うお金については、安全資産と運用資産の2つに分けて、運用資産の部分については長期投資による資産形成にまわしていくとよいでしょう。
例えば、現在1,000万円持っていて、現在の生活費が月額30万円、とっておくお金は1年分、もうすぐ使うお金が100万円といった場合、老後に使うお金は、
= 今お持ちのお金-ふだん使うお金-とっておくお金-もうすぐ使うお金
= 1,000 万円-30 万円 ×1.5-30 万円 ×12-100 万円
= 495 万円
となります。この495万円を預貯金など元本保証の安全資産と、投資信託などの運用資産に分けて管理していくことになります。
老後に使うお金について、安全資産と運用資産の割合はどのように決めればよいでしょうか。
これについては1つの正解といったものはありません。
基本的にはその方のリスク許容度に応じて決めていくことになりますが、資産運用に慣れている方であればほとんどの金額を運用にまわしてもよいでしょうし、これまで一度もやったことがないという方であればまずは運用資産1割くらいから始めてみましょう、となります。
筆者が1つの目安として考えているのは 「マーケットの暴落などで運用資産が一時的に半分になったとしても心穏やかに人生を送っていける金額」 と考えています。これは割合というよりも、金額で考えることが大切だと考えています。
これまでの例のように、現在1,000万円お持ちで、老後に使うお金としてその約半分、495万円を割り当てられる場合を考えてみましょう。
豊富な投資経験がある方であれば、495万円全額を投資にまわしておき、一時的にその半分ほどの含み損状態になったとしてもなんとも思わないかもしれません。
しかし、これまで一度も投資をしたことがない方の場合には、10万円を投資して、それが一時的であったとしても半分の5万円になってしまうのは精神的にきついと感じられるかもしれません。
このように運用資産が一時的に半分になったとしても心穏やかに人生を送っていける金額が一つの目安になると考えています。まったくのゼロで今から始めていく、という場合には例えば毎月1万円、もしくはつみたてNISAの投資可能額である毎月3.3万円といった金額から積立投資を始めてみることも選択肢のひとつです。
一度に資金を投じる一括投資と比べると、積立投資は少しずつ投資金額が増えていきますので、投資商品の時価の変動に慣れていくという意味でも、積立投資がおすすめです。
安全資産と運用資産の割合もしくは運用資産の金額が決まったら、具体的な投資対象は何を選ぶのがいいのでしょうか。
投資についてどのくらいの知識・経験があるかにもよりますが、現在のマーケット環境を考えると、資産形成に向けては世界株式を対象としたインデックスファンドがよいと考えています。つまり、おすすめのアセット・アロケーションとしては世界株式100%ということになります。
そして世界株式のインデックスファンド1本だけだとあまりにも面白みがない、少しは個別株投資やアクティブファンドなども買ってみたい、という方の場合には、運用資産をコア、サテライトの2つに分けて、サテライト部分で行っていくことをおすすめしています。
コア、サテライトの定義はさまざまですが、このように分類して投資していく戦略は一般的にコア・サテライト戦略と呼ばれています。
運用資産のうち、8~9割をコアとして、残りの2~1割をサテライトとしてリスクを管理していけば、個別株投資などでパフォーマンスが大きく悪化したとしても運用資産全体への影響は限定的になります。
世界株式のみでいいですよ、と言うと「株式だけで、債券は必要ないのか?不動産や金は必要ないのか?」など、さまざまな疑問が湧いてくると思います。
しかし、一般生活者の方が長期的に資産を増やしていくためには、日本のみならず、日本も含めて世界の幅広い株式に分散投資をしていくことで必要十分だと考えています。
現在の日本国債10年ものの利回りをご存知でしょうか?2021年11月時点で0.07~0.08%となっています。海外先進諸国の国債利回りも歴史的な低水準となっており、米国で1.5 ~ 1.6%程度になっているものの、ドイツやスイスではマイナス、フランスではほぼゼロとなっています。
投資としてわざわざリスクを取るにしては期待できるリターンが低すぎるのではないでしょうか。
また、よく投資対象として金(ゴールド)も注目されます。しかし、金というのは何か付加価値を生み出す資産ではありません。「金1kgを購入して30年間保有したら金が3kgに増えた!」ということはありません。
価値が増えることはなく、その時の需要と供給によって、価格が上がったり、下がったりするのみです。長期的に上がる場合もあれば、下がることもあり得ます。
こういった観点から、基本は世界株式のみで十分と考えています。なお、不動産も株式同様に付加価値を生み出す資産ですので、長期投資に向いている資産といえます。世界株式に加えて、一部、日本を含む世界の不動産を対象とした投資信託を組み入れてもいいと考えています。
※有価証券の取引等の投資は、元金割れのリスクもございます。リスクもご承知の上、投資者自身の責任のもとでご判断ください。
本格的に資産形成していく際に、どのように資産を配分すればよいのか、アセット・アロケーションをどのようにすればよいのか、悩まれる方が多いかもしれません。
しかし、まず大切なことは、日々の生活に支障をきたすことなく長期的に投資を継続できるようお金を管理していくことです。そのためには、どのくらいのお金を投資にまわしていけるかを決めることであり、その点では冒頭でご説明した4つに分けるという考え方が大切だと思います。
これまで明確な目的意識を持ってお金を管理してこなかったという方も多いと思いますので、まずはお金を4つに分けるところから始めてみていただければと思います。
大手証券会社にてデリバティブ商品の開発やトレーディング、フィンテックの企画・調査などを経験後、2018年1月に独立。「フツーの人にフツーの資産形成を!」というコンセプトで情報サイト「資産形成ハンドブック」を運営。YouTube「資産形成ハンドブック」配信中
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