介護において、周囲に相談しにくい悩みの一つがニオイの問題です。尿臭や便臭、体臭などが混じり合った言葉では形容しがたい鼻に残る独特のニオイは「介護臭」と呼ばれることもあります。
この介護空間特有のニオイ問題に取り組むのが、「消臭力」「ムシューダ」など独自のエアケア技術を活かした商品を発売する、エステー株式会社です。
今回は、介護用消臭剤・脱臭剤ブランド「エールズ」のマーケティングを行う三浦健治さんに、在宅介護における臭い問題の現状から、エールズブランドが出来上がるまでを伺いました。
――介護現場において、ニオイがストレスになると聞きました。そもそも、「介護臭」とはどのようなニオイなのでしょうか?
人によって表現は様々なのですが、「おじいちゃんのニオイ」「古新聞のニオイ」など言われることが多いです。抽象的な表現になってしまうためか、どのようなニオイかを具体的に言葉で説明するのは難しいとされていました。実際に介護中の方々にヒアリングしても、みなさんどのようなニオイか表現しにくいと仰っています。
――そうなのですね。では、在宅介護における「ニオイ」って、どのくらい問題になっているのですか?
エステーが独自に行った「介護時の困りごと」のアンケートでは、「介護時のニオイ」については、上位から4番目という結果でした。実際に介護者の方にお話を伺うと、「友人家族、孫を呼びにくい」「鼻の周りに、いつまでもニオイが残っているような感じがして不快」など精神的な面で負担を感じているようです。この悩みは介護者やそのご家族だけではなく、介護される方やケアマネジャーさんからも寄せられています。
――ニオイって、とてもデリケートな問題ですよね。正直、家族でも伝えにくいかも……。
「家族だからこそ言えない」という人もいれば、「家族だからこそ、遠慮なく言う」など、個人やご家庭によってそれぞれですね。ただ他人のニオイって、普通に生活していても指摘しにくいことだと思います。排せつ物や体臭がダイレクトに関わってくる在宅介護なら、なおのことではないでしょうか。
――ちなみに家庭で取り組まれているニオイ対策には、どのような方法があるんですか?
当社でヒアリングしている範囲だと、ご自分で選んだ一般家庭用の防臭剤や芳香剤でニオイを消しているケースが多いです。ケアマネジャーさんからオススメされた消臭剤や芳香剤、空気清浄機を使用している人もいるようです。
――一般家庭用と介護家庭用の消臭剤の効果にどのぐらいの違いがあるのでしょうか?ニオイ対策ならどれを使っても効果は同じなのかな……と考える人もいそうです。
一般家庭用と介護家庭用では、ニオイの原因となる臭気や要素が異なるため、そもそも配合する処方成分が違います。用途の合わない商品を使うことで、部屋の中で香りと悪臭が混ざった様な微妙な香りになってしまうなんてこともあるのです。
――そういえば以前、リビング用の消臭剤をトイレに置いていたらニオイに違和感を覚えたことがありました。
それは、おそらく消臭したい対象悪臭と消臭剤に含まれる処方成分が合わなかったためですね。私たちは大妻女子大学との共同研究で、介護空間特有のニオイには、「尿臭」「便臭」「汗臭」「加齢臭」に加え、「湿布臭」という湿布のような臭気を持つ「サリチル酸メチル」の存在も確認でき、この5つの臭気成分が混ざり合うことで「介護空間の複合臭」を作り出していると解明しました。
このニオイを解決する消臭剤を開発し、介護用品として発売したのが「エールズ」シリーズです。2017年5月の発売以降も研究は続けており、現在は「置き型消臭剤」「ふとん消臭スプレー」「ポータブルトイレ消臭シート」、使用済みオムツのニオイもれを解決する「脱臭炭ニオイ取り紙」の4種類の商品を展開しています。
――ここからは、「エールズ」について詳しく教えてください。
「介護の空気を少しでもより良い方向へ変えよう」という思いから「エールズ」は誕生しました。これは、「空気を換えよう」というエステーのキャッチコピーに掛けられています。
実は2016年頃まで、「介護臭」を解決する商品は市場ではあまり存在と認知がされておりませんでした。今でこそ他社も介護用消臭剤を販売していますが、私たちも含め未開の領域だったのです。
しかしニオイに悩む在宅介護の人たちが多く存在することは社内リサーチや政府データから明らかでした。だからこそ、「消臭力」「脱臭炭」などの一般家庭用商品で培った技術で何かできないかを必死に考えました。その結果、完成したのが「エールズ」シリーズです。
――「エールズ」のパッケージやサイトを見ると、介護用品という印象をほとんど感じません。
「エールズ」には「介護する方、される方たちの気持ちを明るく、前向きにするためにも、介護用品っぽく見せない」というこだわりがあります。
例えば、パッケージに表記されている「介護家庭用」という文字はロゴの下にさりげなく書かれています。一方で何に効くかをアピールすることは購入判断にて重要なため、「尿素」「体臭」のようにニオイのキーワードは目立つ場所にシールで貼り付けました。使用時にはどちらの表記もすべて剥がせるようにしています。
――かなり細かいところまで、こだわりを持たれているんですね!
はい。ロゴが太陽のマークであること、カラーリングが淡いカラーであることも介護用と感じさせないブランディングです。ちなみに商品名のエールズは、介護する方、される方を応援してエールを送るの「Yell」からきています。
――正直にいうと、介護用消臭剤という商品が存在することを知りませんでした。
そうですよね。市場調査などから、実際に介護をしている人たちも「介護消臭剤」を知ってはいるが、実際に使ったことはないという人が多い印象です。あとは、「お店に商品を探しに消臭剤売り場へ行ったけれども、見つけられなかった」というお声を頂くことがあります。
――どういうことですか?
おそらく、介護用消臭剤が「介護用品売り場」に陳列されているからです。ドラッグストアの介護用品売り場に行くと、大人用オムツや尿とりパッドが売り場を大きく占める中、おしり拭き等の排せつケア用品などと並んでエールズをはじめとする介護用消臭剤が陳列されています。
――なるほど。介護用品売り場ではなく、最初に消臭剤・芳香剤売り場を探す人もいそうです。
あくまでも仮説ですが、「ブランドは知っていても、実際に売り場で見ない」「介護用消臭剤って、スプレータイプの商品しか無いのでは?」のように介護者の方にブランド情報や特長、商品ラインナップも届きにくいのかなと思います。
発売から3年目に入り、「エールズ」が、より一層、介護に携わる方々にご購入される為に「エールズ」の良さをアピールすることが、引き続きマーケティング面の課題です。
――これからますます認知を広げていく必要がありそうですね。
マーケティング担当としては、「エールズ」がみなさんの手に届くよう、引き続き介護に携わる人たちとコミュニケーションを取れたらと思います。少しでも手にとっていただけるよう、ネットショッピングといったEC(イーコマース)でも販売中です。
ありがたいことに、最近はケアマネジャーさんの間にも「エールズ」が広がってきました。施設職員に対しても「エールズ」の認知拡大へのプロモーションも定期的に図っております。在宅でご利用いただくのはもちろん、介護業界全般で「エールズ」を活用いただけるよう努めていきます。
――最後にニオイの問題に悩む人へ、メッセージをお願いします。
ぜひ、周囲に介護について話せる人や相談できる人を作ってください。「介護におけるニオイの悩みは、家族だから打ち明けにくい」という人もいます。ヒアリングを通して「きっとみんな同じ気持ちを抱えている。だから自分は我慢しないと…」と考えてしまう人たちをたくさん見てきました。
正直、日常のたわいのない会話から介護が話題になることは、そうそうないと思います。だからこそ、ケアマネジャーでも友人でも介護について気軽に話せる人が1人いるだけで、ニオイに限らず介護に対する向き合い方が変わってくるのではと考えています。
私たちは「エールズ」を通して、介護と向き合うみなさんをこれからも応援していきます。
編集:ノオト
撮影:二條七海
1988年生まれの兼業ライター。医科学(修士)。健康・ヘルスケアをはじめ、ビジネスやIT関係のテーマにも取り組む。散歩と食べることが好きで、新しい土地を散策するのが趣味。
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