はじめまして。東京都新宿区でケアマネジャーをしている森岡真也と申します。
このコラムでは、介護や暮らしの心配ごとがあるときに、頼りになる場所や、人物をご紹介していきます。
皆さんは、自分の家族や友人などに、介護の心配が出てきたとき、まずはどこに相談に行きますか? 自分が住んでいる場所の近くに、介護の相談ができる場所はありますか?
介護にかかわった経験がないと、もしかしたら見当もつかないかもしれませんが、実は私達の身の回りに、意外とたくさんあるんです。
公的な機関としては、「地域包括支援センター」があります(※1)。保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員などの専門職が、介護に関する相談を受け、必要に応じて、介護保険の利用申請などを行う場所です。(ちなみに、介護保険は申請をしないと利用できないのです)
また、どの地域にも「居宅介護支援事業所」があると思います。居宅介護支援事業所は、介護保険法上に位置付けられた介護支援専門員……つまり、私たちケアマネジャーがいる事業所です。私たちは介護認定を受けた方のケアプランを作成したり、介護の相談を受けることができます。ケアマネジャーという介護保険の専門家に相談ができる場所です。
地域包括支援センターも、居宅介護支援事業所も、だいたいどこの自治体にもあるとは思うのですが、いざ相談に行こうとすると、もしかすると敷居が高いと思う人も多いかもしれません。もっと気軽に、カフェや喫茶店に入るような気分で介護の相談に行けるところはないでしょうか?
そんな場所を探しに、大阪府羽曳野市に行ってきました。
今回伺ったのは、居宅介護支援事業所×カフェ×時計店という全国でも稀有な場所「山勝ライブラリ」。代表の山下勝巳さんに話を聞いてきました。
山下さんは、専門学校卒業後、特別養護老人ホーム・老人保健施設・通所介護等併設の施設で8年間働き、その後介護の会社に転職して、ケアマネジャーや有料老人ホームの施設長、高齢者住宅の立ち上げ、教育研修等の仕事を歴任しました。
会社で働いているうちに地域福祉に興味が湧き、2013年に、生家だったお父様の経営している時計店と併設で、「ライブラリケアプランセンター」という居宅介護支援事業所を立ち上げました。最初は、ケアマネジャーが一人しかいませんでしたが、現在は6名のケアマネジャーを抱えた事業所になっています。
「ライブラリケアプランセンター」立ち上げ時には、カフェ併設の構想は無かったそうです。「働いているうちに、自身が地元で何ができるのか考えるようになった」と山下さんは言います。
山下さんの働くエリアは、昔からある小さな商店街。大規模スーパー等の進出と高齢化の波を受け、少しずつシャッター街化していく状況でした。そんな中、山下さんは自事業所の目の前の、郵便局や小規模スーパーなどに必ず立ち寄る地域の方々に目を付けました。地域の方々が気軽に立ち寄れる場作りと、地元商店街の活性化を考えるようになったそうです。
カフェ構想のきっかけはお父様の仕事。時計店で働くお父様のところには、時計を直しにくる以外の目的で、お父様の人柄に惹かれて話をしにくる人がいました。
「自分で好きな場所に行こうという能動的な動きが大切だ。」と考えた山下さんは、気軽に介護の相談“も”(この「も」が重要)受けられる場所として、2017年にカフェ「FIKA三丁目」を「ライブラリケアプランセンター」に併設しました。現在は1階がカフェと時計店、2階が居宅介護支援事業所になっています。
実際カフェに滞在していると、実に多くの人が出入りするのに驚かされます。
仕事帰りにコーヒーを飲みに来る、近所で働く女性。万歩計を持って街歩きをし、FIKA三丁目で待ち合わせて話をして帰る男性3人組。セニアカーでコーヒーを飲みに来る男性。近所の、困りごとのありそうな方の情報を、ケアマネジャーに伝えに来る近所の女性。その女性に声をかけられ店に入ってきた女性。ケアマネジャーに介護の相談をしにきた女性。お父様目当ての時計店のお客様。福祉用具専門相談員や訪問リハビリの理学療法士、他地域の専門職の来訪。
この人の流れを、カフェの店長として流麗に捌いていくのが、奥様の山下信乃さんです。自身でもお客様の話をゆっくりと聞きながら、来客や相談の方を、山下さんやお父様、他のケアマネジャー達に適切に繋いでいきます。
店の奥には、地域のさまざまなサービスをマッピングした地図が壁に貼ってあります。近所の高齢者の送迎をしてくれる美容院や、摂食嚥下障害のある方に適切な食事を提供してくれる弁当屋、出張訪問してくれる電気屋などなど。地域の方や専門職から集まった情報を収集し、ニーズのある方に繋いでいく一つの形が出来上がっていました。
羽曳野市は約12万人の人口で、地域包括支援センターが1か所とのこと。山勝ライブラリが、地域包括支援センター的な役割を担っている面もありそうです。
店の中には、山下さんが好きなキャラクターもの雑貨の販売コーナーなどもあり、見た目は完全に街のお洒落なカフェ&雑貨店。老若男女が集まり、コーヒーを飲み(なんと、食べ物は持ち込みも可能です)、話をしながらちょっと介護相談もでき、時計も直せる。こんな場所が町に一つでもあると素敵ですね。
次回も、介護や暮らしの頼りになる場所・人を紹介していきます。
「ライブラリケアプランセンター(居宅介護支援事業所)」
「FIKA三丁目(カフェ)」
〒583-0864 大阪府羽曳野市羽曳が丘3丁目5-37
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※1 地域包括支援センターは、自治体によって独自の名称(高齢者総合相談センター、あんしんすこやかセンターなど)を用いているところがあります。
東京都新宿区で活動する現役ケアマネジャー。 居宅介護支援事業・訪問介護事業・地域密着型通所介護事業を運営する株式会社モテギ新宿ケアセンターを統括している。 本業の傍ら、区内の専門職や住民のネットワーク作りに奔走する。 実は家事・育児が本業との噂もある。
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