『子育てとばして介護かよ』著者・島影真奈美さんに聞く ――ひとりで介護を抱え込まない大切さ

仕事や子育ての悩みは気軽に相談できるのに、親の介護になると話は別。「相手に気を使わせてしまうのでは」と思うあまり打ち明けることができず、ひとり悩みを抱えてしまう人もいるでしょう。

義父(当時89歳)と義母(当時86歳)の認知症が立て続けに発覚し、そこから始まったら別居介護。文字だけみれば、かなりキツそうな状況をユーモラスに描いた『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)を上梓した島影真奈美さんに、介護をひとりで抱え込まない大切さについて伺いました。

今回のtayoriniなる人
島影真奈美
島影真奈美 ライター、編集者。国内で唯一「老年学研究科」がある桜美林大学大学院に社会人入学した矢先に、夫の両親の認知症が立て続けに発覚。現在は、仕事、研究、介護のトリプル生活を送る。新刊『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)発売中。noteで「別居嫁介護日誌」連載も。

知らぬ間に「地域の見守り対象」になっていた義両親

――義両親の最初の異変は、義母からの妙な電話からだったそうですね。

島影

はい。2016年の春に「息子が浮気しているかもしれない」「家にあったはずの現金がない」という電話があったのが始まりです。浮気に加えて、3万円を盗んだ疑惑までかけられた夫は憤慨していましたが(笑)、この時点では夫婦揃って、加齢に伴うもの忘れの笑い話くらいにしか受け止めていませんでした。

――そういった電話があったことは、夫以外の人にも話しましたか?

島影

自分の母には話しました。母は元看護師で介護施設に勤めていたことがあり、認知症の祖母を遠距離介護した経験もあります。何度か「早いタイミングで様子を見に行った方がいい。電話だけだと分からないこともあるから」と言われました。でも、私はさほど深刻にとらえていなかったんですね。

――認知症を疑ったのは、どんなタイミングだったのでしょうか。

島影

最初の電話から半年ほどたった頃、義父から「ドロボウに入られた」と電話がかかってきたのがきっかけです。義父は当時、お願いしていた警備会社を疑い、義母は「知らない女性が家を勝手に出入りしている」と訴えていて……。そこで初めて認知症を疑い、ふたりに「もの忘れ外来」受診を勧めたんです。

ただ、義両親は認知症の自覚はなく、むしろ、「自分たちが認知症でないと証明するため」という気持ちから受診をOKしてくれました。病院探しは手伝ったものの、付き添いの申し出は「自分たちで行けるから大丈夫」と断られてしまい、それ以上は「一緒に行きます」と強く言えませんでした。結果についても、「あまりしつこく聞くのも……」と思い、義両親からの報告を待つことにしたら、何もなくあっという間に半年が経ってしまいました。

――そのときは、誰かに相談したのでしょうか?

島影

義両親の異変を感じる以前から、「“生涯現役”で働ける人は、そうではない人と何が違うのか」に興味があり、「老年学」を学ぶために大学院に通っているのですが、同級生は50~60代が中心で、介護経験者も多かったんです。相談というよりは、彼らに「こんなことがあったんだよね〜」と井戸端会議のように軽く話していました。

もの忘れ外来の結果報告を待っているタイミングで、夫のいとこに勧められ、義姉と一緒に地域包括センターに相談に行きました。すると、実はすでに義両親が「地域の見守り対象」だったことが発覚! 職員さんたちが自宅を訪問し、それとなく介護保険の利用を促してくれていたのですが、義両親が「うちはまだ必要ない」「子どもたちには言わないで」と断っていたことも分かりました。自分にも介護が始まる意識が芽生えました。

追い詰められている時期は、その状況にも気付けなかった

――島影さんはどんな介護からスタートしたのですか?

島影

義姉と地域包括支援センターに行ったところが介護のスタートだったと思います。今後の手続きや介護サービスを導入する段取りを相談する中で、「家族側の窓口であるキーパーソンを決めてください」と言われたんですが、なかなか話がまとまらず……。そのモヤモヤした状態に耐えられなくなって、つい「手続きとか引き受けましょうか」と手を挙げてしまったんです。

――ご主人にはそのとき相談したのですか?

島影

それが、相談もせずに、その場の勢いで立候補してしまって(笑)。キーパーソンが決まらないまま、次のステップに進めない状況は避けたい一心でした。場を仕切るのは苦手ではないし、だったら自分が引き受けちゃおうと。老年学を学んでいた好奇心もあったと思います。

ただ、最初はよかったのですが、関係各所と様々な調整をしている間にアップアップになっていて。ちょうどその頃、要介護認定を受けるための訪問調査の翌日から、名古屋へ出張したんです。そのとき「ここにいたら、もうどんな電話が来ても物理的に対応できない」と思ったら、初めて開放感に包まれて、「ああ自分も追い詰められていたんだ」と気付きました。

――自分だったら……と想像すると、相当テンパっていそうな気がします。追い詰められたとき、周囲に打ち明けましたか?

島影

同年代の友達に相談するのは、最初は難しかったですね。携帯の電話帳を一晩中眺めながら「この人には相談できない。この人も……」とやっていたこともありました。今では理由も思い出せないので、きっと些細なことだったのだろうと思うのですが、やたら切羽詰まってしまい……。悶々と一人で悩み続けた時期は本当に辛かったです。

――同年代だと子どもの進学や親子関係といった「子ども問題」に注力している人が多いから、そこに対して介護の話はしづらい思いがありそうですね。

島影

そうですね。私の場合、地域包括支援センターで最初に出会った看護師さんが親身になってくれたことにずいぶん助けられました。もの忘れ外来の受診の経過や義両親の様子をメールで情報共有し、介護認定に必要な手続きはもちろん、「義両親にはどのような説明をすると受け入れてもらえやすいか」などいろいろ相談に乗ってもらいました。

――自分ですべてを抱え込まないことが大事ですね。

島影

ホントそうだと思います。何から何まですべてを家族だけで対応しようとすると、共倒れのリスクが跳ね上がります。家族間で解決しようとするより、外部の専門職の方たちに間に入ってもらい話をしたほうが、うまくいくことも多いです。そうすれば、家族は「親の意向を尊重し、気持ちに寄りそう担当」になることができますしね。

――介護される側が嫌がるようなことを伝える場合は、外部にお任せした方がうまくいくということですか?

島影

同じことを伝えるとしても、「誰が、どう伝えるか」で親の気持ちも変わります。例えば、家族から「認知症なんだから日中はデイサービスに行って」と言われるのと、医師から「日中デイサービスに参加すると、体力もつくし、もの忘れ予防にもいいですよ」と勧められるのでは、印象が変わりますよね。また、嫌なことを無理強いされたら、誰しもカチンと来ますよね。それが、親子間ならなおさらです。逆に、意向を尊重するし、嫌なことを言わない・しないことが伝わると、聞く耳を持ってもらいやすくなります。

――人に相談するようになって、困った出来事はありましたか。

島影

相談したせいで困ったという経験はあまりないですね。ただ、単なる雑談のつもりが、「もっとご主人と話し合うべき!」「あなたがテキパキやりすぎ」「親なんてほっとけばいい」とアドバイスされ、困惑したことはありました。けっこう、頑張ってるつもりなのに、さらにダメ出し!? と。今思うと、私が辛そうなのを見かねて励ましてくれようとしていたような気もします。でも、私からすると、余計に落ち込むわ! という(笑)。このあたりは相性もあるので、「合わない」と分かった相手とは極力踏み込んだ話をせず、適当にスルーするのも大事かなと思います。

――自分が弱っているとき、「介護はどう?」と相手から聞いてもらえると、つい色々話してしまいそうです。

島影

気軽にいろいろと話してしまっていいと思います。「どうせ介護のつらさなんて誰も分かってくれない」とひとりで抱え込むと、より一層つらくなっちゃうので。ただ、そうはいっても「経験者なら分かってくれる」「付き合いが長い友だちなら気持ちを受け止めてくれる」など期待しすぎるのは要注意です。ときには「話さなければ良かった!」と後悔する瞬間も、きっとあるはず。運悪く、そういう相手に当たってしまったら、次回避けるための参考材料にする。そうすると、「うちの親こんなことがあって〜」と笑って話せる相手が少しずつ増え、気持ちもラクになっていくと思います。

本格的な介護前のモヤモヤも、形に残したかった

――介護が始まった翌年の2018年9月から、noteで介護日誌を公開し始めた理由を教えてください。

島影

介護を始めた当時から、ひょんなことから介護に関わった経験を何らかの形で書き残したいとは思っていました。同じような状況に直面するかもしれない人たちに手渡すことで、誰かの役に立てるかもしれないって。でも、とにかく次々に事件が起こり、対処に追われてなかなか手をつけられずにいました。早く書きたいという焦りもあるけど、リアルタイムで進行中の介護をどこまで書いていいのか、と腹を決められずにいたところもあって。そんな中、夫から定期的に「いつ書くの? まだ書かないの? 書くべきでしょう」と背中を押され、半分やけっぱちでnoteに書き始めたのが2018年9月のことでした。

――ご家族からは何か言われたりしましたか。

島影

実は義両親や義姉には、介護日誌のことは伝えてないんです。もともと、「どんどんうちのことを書いて」「世の中の役に立てて」と言われてはいたんですが……。義両親は現在、それぞれ「自分は少々忘れっぽくもなっているが、認知症ではない。夫(妻)は認知症かも?」という認識です。『子育てとばして介護かよ』を読んだら、笑ってくれるかもしれないけど、「認知症だったの!?」と傷つくかもしれない。だったら、わざわざ伝えなくてもいいかなと。ただ、マンガ家の川さんに描いていただいた義父母のイラストがすごくかわいいので「お義母さん、見てみて!」と報告したくなるのを必死に我慢してます(笑)

書籍には、義両親がモデルとなったイラストも(画像提供/KADOKAWA)

――ネット上で介護をオープンにすることで、周りからはどんな反響がありましたか?

島影

「不謹慎かもしれないけど……笑った!」「こんなこと言っていいのかわからないけど、面白かった」という感想をたくさんいただきました。もちろん笑ってもらえるのが何よりうれしいです(笑)。あとは「実は自分も介護をしている」「そろそろ親の介護が始まりそう」という話を聞く機会が急に増えました。それも30〜40代が意外と多くてびっくり。みんな「介護の話を同世代にしても困らせるだけかな」と思うと、口に出しにくいんですよね。私もそうでした。

書籍は、介護の体制を整える以前のモヤモヤ期から書いているので、「この状況はまだ深刻じゃない」「この程度のことを大変だというのは気が引ける」という理由から話題にしづらいという人からも反響がありました。

介護は少し手を抜くくらいがちょうどいい

――私も、親の老いが気になり始めているので、一気に読み進めてしまいました。

島影

介護が始まる前のモヤモヤや不安な気持ちが生々しいうちに書かなくちゃ! と思っていました。介護ってどうしたらいいんだろうと気になってはいても、まだ何も起きてない。そんなときに、「しっかり準備しておきましょう!」と言われても、なかなか難しいと思うんです。でも、まったくの丸腰で介護の荒波にダイブすると、とんでもない大嵐に巻き込まれる可能性がある。ちょっと先のてんやわんやをのぞき見しておけば、多少は心の準備もできて、海に飛び込んだときに海水をたらふく飲まずに済むかもしれない。それぐらいのノリで、親の老いが気になる人にも、気軽に読んでもらえたらうれしいです。

――読んだ後に、「介護も親とのコミュニケーションのひとつなんだな」と思えました。

島影

私も自分が関わってみて実感したんですが、認知症になったからといって、いきなり何もかも忘れるわけではないし、生活ができなくなるわけでもありません。お金の管理が難しくなっても、サポートする手立てはあるし、帰り道がわからなくなっても何かしら帰る手段を見つければいい。介護が始まっても、認知症になっても“人生終わり”になんてならないんです。

それに介護って大真面目に向き合えばいいというものでもない、というのが面白いところでもあって。一生懸命になりすぎて余裕がなくなると、つい親に対してガミガミ言ったり、物言いがきつくなったりします。そうすると、親もてきめんに、言うことを聞いてくれなくなるんです。むしろ、適当にサボって、「申し訳ないな」と罪悪感を覚えるぐらいのほうがやさしく対応できるし、親も聞く耳を持ってくれる。完璧な介護を目指すより、多少手を抜きながらでも、“もめない介護”に向かって努力するほうが、みんなのストレスを最小限にしていけるのかなと思います。

――最後に、将来やってくるであろう介護を目の前にして「介護からは逃げたい」「できるだけ避けたい」と思ってしまう人に一言お願いします。

島影

考えると気が重い、できる限り考えたくないのは自然なことだし、介護から逃げても構わないとも思っています。ただ、気を付けたいのは漠然と「できるだけ避けたい」と思っているだけでは、いざというとき、逃げそびれる危険性をはらんでいるという点です。

私の場合は自分から介護のキーパーソンに立候補してしまったのである意味、自業自得なのですが、人によっては、親に涙ながらに頼まれて身動きがとれなくなったり、他の兄弟に押し切られたりする可能性もあります。だからこそ「どうしても介護から逃げたい」と思うなら、現行の公的介護保険制度をしっかり理解し、親の健康状態や経済状況を把握し、本気で"逃げ道"を探ることをオススメします。

例えば、折り合いが悪い親と同居し、将来の介護を考えて憂鬱な気持ちになるという状態であれば、親が元気なうちに、別居の道筋を探るのが最初の一歩です。具合が悪くなってからでは家を出られなくなり、周囲に自動的に"介護要員"認定されてしまうリスクが跳ね上がります。

――そこまで切実に逃げたいと思っていない、ある程度は支援するつもりではいる・・・・・という微妙な状況の場合はどうでしょうか。

島影

まだ親御さんが元気なら、“起こっていない介護”に気をもむよりも、「親の現状」を知るあたりから始めてみるのはどうでしょう。

親が困りごとを相談しやすい空気をつくることで、結果として介護の必要性の早期発見・早期対応にもつながりやすくなるのではないかと思います。親自身の気持ちとしても、"年をとってみないとわからない"という部分が結構あるので、子ども側が焦って結論を迫らないことも重要です。ストレスがかかりすぎない範囲で、とりとめもない雑談につき合い、親の日常生活や好きなこと、楽しみをリサーチしておく。そうすると、のちのち介護する側・される側の負担軽減にも役立ちます。

編集:ノオト
撮影:小野奈那子

ミノシマタカコ
ミノシマタカコ

ライター/ウェブ編集。インタビューもののほか、スマホ、IT、旅行や散歩、イベントレポート、体験系、狛犬関連、ほか雑多に執筆中。日本参道狛犬研究会会員。くるまマイスター検定3級。

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