芸人としての腕前で社会貢献。オラキオさんが介護の仕事を「ライフワーク」という理由

体操服がトレードマークの芸人・オラキオさんは、介護の仕事に携わる「介護芸人」としての顔もお持ちです。芸人としてのキャリアを積んでいく中で介護の仕事と出会い、現在は「介護業界に携わることはライフワークとして続けていきたい」と語るほど。オラキオさんが感じた介護の仕事の魅力についてお伺いしました。

今回のtayoriniなる人
オラキオ
オラキオ 2003年に結成されたお笑いコンビ「弾丸ジャッキー」の体操担当。
「とんねるずのみなさんのおかげでした」~細かすぎて伝わらないモノマネ選手権~第14回・20回大会で優勝。2016年3月末をもって「弾丸ジャッキー」を解散し、現在は芸人、俳優として活動中。

若い頃の合コンで培ったノウハウが、介護の現場で活かせた

――どういった経緯で介護の仕事に関わることになったのでしょう。

オラキオ

友人の紹介で、有料老人ホームの施設長の方と飲む機会があったんです。飲んでいるうちに施設長さんが酔っ払って「僕、芸能人がスキャンダルを起こした後に、禊みたいな感じで介護の仕事をするのが本当に腹立つんですよ」って話をし始めて。

――不祥事を起こした芸能人が介護のボランティア等に参加するケースは過去に何度かありました。そのたびに「介護の仕事を罰ゲームのように扱わないで」「イメージ回復のために都合よく利用するな」という批判が起きています。

オラキオ

施設長にそう言われて、「たしかにな」って思ったんですよね。普段からそういう仕事をしている方が「失礼だ」と感じるのは納得できます。なので「僕が言うのもおかしいけど、なんかすみません」って謝ったら、「申し訳ないと思うんだったら、オラキオさんが介護の仕事をやってくださいよ」って言われたんです。こっちも結構酔っ払ってたんで「じゃあやりますよ」って返して。
でもお酒の席の話だったし覚えていないだろうと思ったら、次の日に電話がかかってきました。そこからあれよあれよと実務者研修を受けることになって、1年ぐらいかけて修了した後は有料老人ホームにちょこちょこ行かせてもらうようになりました。

――売り言葉に買い言葉で始まったんですね(笑)。今はどのくらいの頻度で行ってらっしゃるんですか?

オラキオ

月1回行けるかどうかですね。実務者研修を受けていた時期がちょうどコロナ禍の真っ只中だったんで、芸人という仕事柄、不特定多数の人と会う自分が施設に行くのはちょっと怖くて。この1〜2年で少しずつ行くようになっていますが、感染リスクは今も変わらずあるので、あまり率先して行けてはいない状況です。行けたときは、利用者さんのお話を傾聴したり一緒にトランプや体操をしたり、たまに食事の介助や排泄介助もしています。

――実際にやってみて、どんな発見がありましたか?

オラキオ

やってみたら、お笑い芸人の仕事と似ているところがすごく多かったんですよ。芸人として20年以上培ってきたものがダイレクトに活かせました。お笑い芸人って、好かれてなんぼなんです。ギャグを言うにしても、好きになってもらっていたらハードルがめっちゃ下がって何を言っても笑ってくれる。介護も、好きな人に介助してもらうのと「なんかイヤだな」と思う相手に介助してもらうのでは、利用者さんにとって全然違うじゃないですか。だからまずは好きになってもらわないといけない。そこが本当に一緒だな、って。

――好かれている=ウェルカムな姿勢になっている、ということですもんね。

オラキオ

それから、芸人は空気を読むのも大事です。相手が何を考えて何を求めているかを読み取って、それをタイミングよく提供する。介護の現場も同じで「今こうしたほうがいいな」「今はちょっと違うかな」って考えて動く必要がありますよね。僕は介護初心者ですが、それでもすんなり入っていけたのは空気を読む力があったからだと思います。
もっといえば、すごく語弊があるかもしれないけど、介護現場は合コンと似ていると僕は思うんです(笑)。偉い社長、先輩芸人、女の子たちがいる席で、全員の気持ちを察しながら場をうまく回して盛り上げるってことを、若い頃は散々やってきました。その合コンで培ったノウハウが、介護の現場でそのまま活きるんですよ!これまではそういう場で「オラキオがいると盛り上がるわ」って言われるだけだったのが社会の役に立つなんて、こんなにいいことはないですよね。そしてそれに気づいたとき、介護の仕事は臨機応変に動けなきゃいけないし、クリエイティブにものを考えなきゃいけないんだということもよくわかりました。

介護業界は、過去のお笑い業界かもしれない

――2020年からは介護人材の定着支援サービス「kaigo FIKA」にも関わっていらっしゃいます。これはどういったサービスなんでしょう?

オラキオ

介護職員さんたちとおしゃべりをして、みなさんのストレス解消や潤滑化を図ることで人材の定着を目指そうという取り組みですね。僕みたいな芸人と何十年も介護の仕事をしている方がMCで、ひとつの施設から職員の方5〜8人程度に参加してもらってZoomで雑談します。月に1回、1時間程度と短い時間ですが、定期的におしゃべりしてガス抜きをしてもらおうという場です。介護業界は若い方の離職率の高さが課題になっているので、コミュニケーションを活性化することで課題解決を目指すのが狙いになっています。

――現場の介護職員の方から聞いたお話で、印象に残っているエピソードはありますか?

オラキオ

ある介護職員さんが教えてくれた、ドラマみたいな話があって。その方は、お看取りをした利用者さんからプレゼントされた折り紙をずっと大事に持っていたんですね。嫌なことがあって仕事を辞めようか悩んでいたときに、ふと目に入ったその折り紙をなんの気なしに開いたら「◯◯ちゃん、いつもありがとう」って、亡くなられた利用者さんからのメッセージが書いてあったそうです。そのおかげで今も辞めずに続けている、とおっしゃってました。

――本当にドラマのようなエピソードですね。

オラキオ

この仕事を長く続けている方は、みなさん一個は何かしらエピソードを持ってますね。逆にいうと、そういう出来事があって介護の仕事のやりがいや面白さに気づけたから、長く働けているんだろうな、と。だから若い介護職員さんにも早くそういう出来事に出会ってほしいし、「kaigo FIKA」がそれまでの繋ぎになれたらいいなと思います。

――逆に「意外とこういうところが大変なんだ」と新たに気づいた部分もありますか?

オラキオ

排泄介助などにストレスを感じている方が多いのかと勝手に想像していたんですが、そこはそうでもなくて、むしろ職場の人間関係や働き方で悩んでいる介護職員さんが多いですね。コロナ禍以降、仕事以外の場でのコミュニケーションが減っている影響が大きいんだと思います。昔は職場の人と飲みに行ったり遊びに行ったりがあったけど、そういう機会が全然なくなってしまった。しかも介護施設って、同じ施設内でもフロアが分かれると同期とすらなかなか会わないんですよ。だから悩みがあっても1人で抱え込んでしまいやすい。
だから「kaigo FIKA」でいろんな人と雑談して悩みを共有できると、「みんな同じように悩んでいるんだ。自分だけじゃないんだ」って思ってもらえるんですよね。それは「kaigo FIKA」をやっていていちばん良かったなと思うところです。まだ実施例が少ないので十分なデータはないんですが、「kaigo FIKA」を2年間やったある施設では、その期間に1人も退職者が出なかったんですよ。

――それはすごい!

オラキオ

介護の仕事は第三者から「すごい仕事だね」と認められる機会が少ないんです。それどころか親や家族などには「大変そうだから辞めたら?」と言われちゃう。自分で言うのは本当におこがましいけど、そこで一応は芸人である僕から「利用者さんにそう言ってもらえたってことは、あなたの仕事がすごく良かったんだね」とか言われることで承認欲求が満たされたり「次も頑張ろう」って思えたりするところはあるのかな、と思ってます。

――たしかに、第三者からは「大変そう」というイメージ一辺倒になりがちです。

オラキオ

なんだったら「でもやることは簡単なんでしょ」って思われてるところもあるので、どうにかイメージを変えていきたいですね。大きい目標としては、介護業界全体の地位を上げたいんですよ。
お笑い芸人って、昔は雑に扱われる低い地位にあったんです。演歌歌手や落語家さんの前座だったり、ストリップ劇場の合間でコントをやったりする存在にすぎなかった。それがビートたけしさんや明石家さんまさん、松本人志さんなどのおかげで「芸人ってすごい」「お笑いやってる人ってかっこいい」って思われるようになりました。介護業界も、そういうヒーロー的な存在が現れてテレビにガンガン出たりYouTubeで再生回数を稼いだりするようになったら「介護の仕事ってクリエイティブでかっこいいじゃん」ってなるんじゃないか。僕がそうなりたいとは思わないけど、そういうふうに介護業界自体の地位が上がっていけばいいな、と思ってます。

――素敵な目標ですね。それでいうと、芸能人が"禊"として介護に関わることについては今はどう考えていらっしゃいますか?

オラキオ

「それでも、やったらええやん」って思ってます。禊だろうとなんだろうと介護にかかわっているわけですよね。それによって業界が注目されることにもつながりますから。とにかく、多くの人に介護というものを身近に考えてもらえるようになってほしいんです。

介護の仕事は、現場に立つだけではない。アイデアが生きる業界

――介護に関わっていて、いちばん満足感を覚えるのはどんな場面ですか?

オラキオ

若い介護職員さんが普段は話さないようなことを「kaigo FIKA」で話してくれるんです。たとえば恋人がいるかどうかなんて、セクハラになるから職場の人は聞けないんですよ。でも僕は芸人なので、バカなふりして「彼女いるの?」とか「休みの日、何やってるの?」とか聞いちゃいます。それで後から施設長や上司の方に「最近元気がないと思ったら、彼女とうまくいってなかったんですね。そうとわかっていたら接し方も考えられます。FIKAがなかったら知れなかった。オラキオさん、ありがとう」って言ってもらえたときなんか、すごく嬉しいです。
介助を通じて直接的に利用者さんの役に立とうというよりは、介護職員さんたちが充実した気持ちで働けるようになることのお手伝いに喜びを感じますね。そのケアはすごく大事だと思うし、結局それが利用者の方にとっても良い結果をもたらすと思うので。

――現場で介助をすることだけが介護の仕事ではない、ととらえていらっしゃるんですね。

オラキオ

それは強く思います。いろんな関わり方があっていいんだな、って。現場に立つ人だけでなく、起業する人とか、改善のためのアイデアを出す人も増えて欲しいですよね。
介護にはもちろんマニュアルがあるけれど、利用者さん一人ひとりで求められるやり方は違っていて、臨機応変にやらないといけないことが多いですよね。だから「こうしてみたら?」っていう改善策の提案が「それ、いいね」って採用されやすい環境がある。そういう意味で、クリエイティブなアイデアと相性がいいんですよ。
コロナ禍で「リモートお墓参り」が注目されましたよね。あれを知ったとき「めちゃくちゃいいな」と思ったんです。最先端の技術×介護を含む高齢者向けのサービスって、いろんな可能性があるな、と。それこそ今は介護施設でロボットの技術を取り入れる動きも進んでいます。業界をもっと良くするための考えが常に求められているので、伸びしろは大きい気がします。クリエイティブな若い起業家さんたちにもどんどん入ってきてほしいですね。

――最後に、今後やってみたいことを教えてください。

オラキオ

介護に関する仕事は、一生やっていきたいと思ってます。僕が芸能の仕事を頑張ることも、ある意味ではその一環というか。介護のお仕事をされている方たちにとって、やっぱり僕らみたいな芸人ってちょっと非日常的な存在ではあると思うんです。そういう存在と触れ合うことが日常のアクセントになって、ストレス解消にもつながるのかな、って。究極的には、僕が行くことでスタッフの皆さんや利用者さんたちが「わーっ、オラキオさんが来てくれた!」ってなったら最高ですね。それも幸福度を上げることにつながりますから。だから両方頑張っていきたいと考えてます。
それから、介護に関するバラエティ番組もやりたいですね! 芸人がガンガン出てきて笑いを交えながら介護について取り上げる番組を、ゆくゆくはやれたらいいなと思ってます。

写真:古川公元(アトリエあふろ)

※本企画は厚生労働省補助事業介護のしごと魅力発信等事業 情報発信事業(WEBを活用した広報事業)として実施しています。

斎藤岬(さいとう・みさき)
斎藤岬(さいとう・みさき)

1986年、神奈川県生まれ。編集者、ライター。月刊誌「サイゾー」編集部を経て、フリーランスに。編集書籍に『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』「HiGH&LOW THE FAN BOOK」など。

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