高住連に聞く、老人ホーム紹介業の課題。「紹介料高騰」「入居お祝い金」に対応し、入居者本位を実現するには

人生の締めくくりの住まいを選ぶ老人ホーム探しは、慎重な決断が求められるものです。そんな老人ホーム探しをサポートする「老人ホーム紹介事業者」は、多種多様な老人ホームが存在する中、一般消費者の強い味方になってくれます。

ところが、老人ホーム紹介事業者の「医療依存度に応じた高額な老人ホーム紹介料」が報道で取沙汰されるようになり、老人ホーム紹介業全体の公正さ、中立さが改めて問われる形になりました。

「高齢者向け住まい紹介事業者届出公表制度」を運営する高齢者住まい事業者団体連合会(※1)(以下、高住連)では、昨今の報道を受けて届出事業者に求める遵守事項を改定。そこには、入居者が使う介護保険や医療保険の給付を強くあてにした紹介手数料の設定や、一部の紹介事業者が営業施策として実施している「入居お祝い金」への問題意識が見て取れます。

今回は、高住連事務局長の光元様に、改定された遵守事項について、その背景などを聞きました。聞き手は株式会社LIFULL senior代表取締役の泉です。

※1 高齢者向け住まいに関わる関係団体(公益社団法人全国有料老人ホーム協会、一般社団法人介護付きホーム協会、一般社団法人高齢者住宅協会)が共通課題に取り組むべく2015年4月に設立された連合会。

プロフィール
光元兼二
光元兼二 高齢者住まい事業者団体連合会(高住連)事務局長
2016年に保険会社からの出向という形で介護事業へ従事。4年勤めた後、高住連の事務局長へ就任。現在は高齢者向け住まいにまつわる共通課題の解決へ向け、高住連に関わる団体間の調整や連携といった業務を担う。
泉雅人
泉雅人 LIFULL senior代表取締役
2010年に株式会社LIFULL(旧ネクスト)に中途入社後、新規事業であったLIFULL 介護に携わり、その成長を牽引。2015年の分社化に伴い、株式会社LIFULL seniorの代表取締役に就任。

高齢者向け住まいに関わる共通課題を“一緒に解決していく”高住連

ーー最初に、高住連とはどのような団体か教えてください。

光元兼二氏(以下、光元氏):高住連は2015年、居住系の、いわゆる有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅等を所管する団体が集まり、「声をひとつにして、たくさんある共通の課題を一緒に解決しよう」との目的で組織した連合会です。

私は2016年に保険会社から出向で介護事業者へ行って4年勤めた後、高住連の事務局長に就任しました。今は共通課題に対する議案のとりまとめや高住連を構成する3団体の調整、その他団体との連携などを行っています。

泉雅人(以下、泉):私は2019年に事業者検討委員会が発足したタイミングで、「介護施設の検索ポータルサイトを運営する会社として意見を聞きたい」ということで高住連に呼んでいただきました。その時からのご縁です。

老人ホーム探しを安心できるものにしたいと創設された「高齢者向け住まい紹介事業者届出制度」

ーー高住連が創設した「高齢者向け住まい紹介事業者届出公表制度」について、どのような制度か教えてください。

光元氏:入居検討者様やそのご家族、ケアマネジャーや医療機関にとって、頼れる相談先の参考となるように、高齢者向け住まいの紹介事業者一覧を公表しています。

紹介事業者は高住連へ、所定の項目について届出をし、毎年(例年は10月)更新いただきます。高住連は届出があった紹介事業者を公表し、更に構成団体の会員および厚生労働省に報告しています。所定の遵守項目が履行されない場合や届出項目に虚偽が判明した場合、公表を取り消す場合もあります。

泉:有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の数は増加しており、サービスの種類も多岐にわたります。初めて介護に直面する方やご家族は適した入居先を決める際に迷ってしまうのが普通です。

光元:おっしゃる通りです。そのため紹介事業者に頼ることが多くなってきました。

紹介事業自体には開業するための法規制や審査等がないので、「本当にこの人たちに任せて安心なのだろうか」という懸念が入居を検討している方やご家族にあることは事実です。その懸念を払拭するために創設されたのが「高齢者向け住まい紹介事業者届出公表制度」です。

どのような事業者がどこにどれくらい、どれほどの規模で存在しているのかを把握し、一覧を公表する。そして紹介事業者の質を高めていくことも目的の一つです。

老人ホーム紹介業の「運営の透明性」「公平中立性」「相談の質」を高める

ーー高住連が解決していこうとしている課題には、どのようなものがあるのでしょうか。

光元:老人ホーム紹介の事業モデルにおける課題には、主に「運営の透明性」と「公平中立性」、そして「相談の質」の3点があると考えています。

まず「運営の透明性」については、「紹介業の人たちに何を任せられるのか。どのような仕事をする人たちなのか」という点や、「お祝い金などがどこから出ているのか。どれほどの金額が動いているのか」に着目しています。透明性を持って事業展開していかなければ、社会的な信頼は得られないと考えています。

2点目の「公平中立性」は利用者にとって重要なポイントです。「紹介手数料の多い施設』に連れていかれるのでは?」など恣意的な誘導と、利用者に疑念を持たれないように、透明性を高めていく。公平で中立な立場を保てる事業形態とは何かを考えていく必要があります。

最後は「相談の質」です。老人ホームの紹介業は極端にいうと、電話一本で「明日から私が紹介事業者です」と言えば始められます。そのため、紹介会社や相談員によって質にばらつきがないように整えていかないと、業界として信用されなくなってしまいます。

利用者本位の老人ホーム紹介事業をめざして

ーーそれらの課題について、どのような対策を立てていますか。

光元:消費者保護や事業の健全なる発展を実現するためには、やはり紹介業の適正化が必要です。最初は大手の施設運営法人を中心に課題認識をすり合わせ、途中から当事者である紹介事業者にも入っていただきました。2019年に委員会を立ち上げ、ホームの運営事業者、紹介事業者が集まって議論する場を設定しました。

2021年には届出公表制度ができあがり、今までできていなかった「紹介事業者について把握し、事務局から紹介事業者へ連絡が取れる体制」を作りました。現在は全国にある703社(2025年7月1日時点)の紹介事業者へ一斉に連絡できる体制になっています。

さらに2022年度以降は相談員向けのe-ラーニングによる基礎講座を始め、事業者向けのコンプライアンスマニュアルの展開や消費者向けの情報共有・注意喚起なども行っています。

泉:「紹介業は誰でもできてしまう。誰がやっているか分からない」「質がいいのかどうかも分からない」という状態だったところから、まずは実態を明らかにし、スキルなどの最低ラインを揃えていったわけですね。

老人ホーム紹介料の高騰問題と届出制度の遵守項目の改定

ーー2025年1月に「高齢者向け住まい紹介事業者届出公表制度」の遵守項目を変更されました。

具体的には紹介手数料を定める際に「家賃・管理費等の自費部分に応じた平均的な紹介手数料から大幅に上振れした金額設定を行わない。特に、別表7に定められた疾病(※2)を持つ方などへの社会保障給付費をあてにしたとみなされる金額設定は厳に慎むものとする」としています。

また、倫理に違反する行為として「成約後のお祝い金やキャッシュバック等の名目による顧客誘導、入居希望者の介護度や医療の必要度等の個人の状況や属性に応じた手数料設定、ソーシャルワーカー等に対するリベート(紹介料等)の支払い」が例示されました。

こちらの狙いや背景について教えてください。

※2 多くの医療的ケアを必要とするため、医療保険による訪問看護の提供が可能になる、厚生労働省が定める疾病

光元:全体的な項目自体は、実はあまり変わってないんです。ただ、ボリュームアップしました。

これまでの行動指針・遵守項目というのは、どちらかというと顕在化していない課題について書いていました。昨今明らかになった紹介料高騰問題などを受け、具体的に掘り下げてルール化するために今回、改定しました。

改定の背景としては、まず厚生労働省の老健局高齢者支援課長からの通知が、高住連の3団体向けに送られたことがあります。一言でいうと、「高住連が作成している届出公表制度の遵守項目・行動指針を見直しなさい」という要請がありました。

この問題については、衆院予算委員会でも、福岡厚生労働大臣から不適切との見解が出され、さらに公平性に疑念を持たれる事例があると指摘、「不適切な紹介料の提案は指導の対象となる。引き続き自治体や関係団体と連携して指導徹底を図りたい」と述べられたのは記憶に新しいところです。    

泉:紹介料については、金額よりも「何を目的に設定しているか」が問題になっていますね。「日常的に医療的ケアが必要な、医療依存度の高い入居者が入れば医療保険報酬が手に入る。その医療保険報酬目当てに、高額の紹介料を設定する」という状況が残念ながらあります。

2025/07/30

高騰する“老人ホーム紹介料”問題とは?老人ホーム紹介業の仕組みと課題を解説

ーー遵守項目に反する行為をやり続けている紹介会社があった場合、ペナルティはあるのでしょうか。

光元:届出遵守項目の違反を高住連が把握した場合は、まず運営の見直しについて依頼を行います。そして運営の見直しに応じられない場合には、「事業者のリストから削除する」ことにしています。私たちのところには実際、紹介会社および施設の運営事業者双方からトラブルの事例などが届くようになっています。

「入居お祝い金」の課題とは?

ーー紹介料の高騰の話と併せて、「成約後のお祝い金やキャッシュバック等の名目による顧客誘導」も倫理に反する行為として例示されています。一部の紹介会社では、自社経由で老人ホームへの入居に至った方へ「入居お祝い金」を進呈しています。こちらの具体的な問題点について、教えてください。

光元:まず消費者を保護する観点からお伝えします。

入居お祝い金については、消費者がお祝い金の有無や金額で紹介事業者を選ぶ可能性を否定できません。選んでいるという意識がないまでも、個人情報を登録してしまうという方が正確なところかもしれません。本来、老人ホーム紹介業は相談対応の質でお客様に選ばれるべきであり、金銭的なインセンティブによって選ばれることが当たり前になれば、老人ホーム紹介事業の健全な競争を妨げ、結果として業界全体の「相談対応の質」の低下を招く恐れがあります。

相談対応の質が下がれば、必ずしも自身のニーズにマッチしない住まいで晩年を迎える方が増えるでしょう。

私たちは介護業界に携わる者として、介護報酬について国に要望しなければならない場面もあります。だからこそ消費者保護が置き去りにされている現状があれば、それを自ら是正する努力は必要なことだと思っています。

私たちは公金を使って事業を営む業界で活動しており、健全な環境を自分たちで作っていきませんかという想いから、今回の投げかけにつながっています。

泉:たとえばどんなに入居先を探す条件が厳しい方でも「何とか居場所を見つけてあげたい」との想いで、粘り強く支援する紹介事業者さんもいると聞きます。ところが、お祝い金の有無で選ばれる環境には、こうした志ある事業者が立ちゆかなくなるリスクがあるということですね。

ーーでは、施設運営事業者の視点での問題はどのようなものでしょうか?

光元氏:入居お祝い金があることで、施設運営事業者に対する紹介手数料の二重請求が発生していることがあります。

例を出してみましょう。入居希望者であるXさんの2人のお子さん、YさんZさんは、それぞれ別の紹介事業者に問い合わせました。

Yさんが問い合わせた紹介会社Aは資料請求に応じた時点で紹介料が発生する契約内容です。一方Zさんが問い合わせた紹介会社Bは見学同行で紹介料が発生します。

実質、B社の見学同行から入居に至ったことから、施設はB社に紹介料を支払うことになります。しかし、A社にはお祝い金の制度があり、Yさんがお祝い金に誘導され、A社経由での入居を申告したため(あるいはA社の事後確認でXさんが当該施設への入居が確認できたため)、A社からも施設側に紹介料の請求が来る。そうしたケースが報告されています。

光元氏:もし紹介会社Bが「Xさんご家族が紹介会社Aとやり取りをしていること」を事前にわかっている場合、二重請求トラブルを避けるため、紹介会社Bは、相談から手を引くこともあるようです。こうして、入居希望者の選択肢が狭められる可能性もあるのです。

現状、入居お祝い金について規制する法律はありません。ただ、業法が存在する職業紹介業界では、すでに「入社お祝い金」などの同様のシステムは禁止になっています。他にも通信業界では、健全な競争が妨げられるとして、端末割引で顧客を奪い合う商慣習が是正されました。本来は通信の値段やサービスで競争すべきという考えからです 。老人ホーム紹介業界でも、こうしたルール作りが求められていくのではないでしょうか。

泉:消費者としてはお金がもらえるところを選んでしまう気持ちはよく分かります。しかし業界としては一定のルールが求められます。

光元氏:この問題について、誰かを悪者にするつもりはありません。それぞれの紹介事業者が個社の事業を発展させるために一生懸命やってきただけで、今までルールがなかったことに原因があると考えています。

ルールがなかったが故に起きたことなので、健全な将来へ向けて、消費者保護を軸にして考えられる方向に舵を切ることが求められるタイミングになったのだと、消費者、関係機関の方々から「こういう人たちだったら安心して任せられる」と思っていただけるルール作りになればと考えています。

2025/07/30

老人ホームの入居お祝い金とは?その仕組みと構造的な課題を解説

老人ホーム検索サービスは“不安な人が真っ先に頼れる存在”

光元氏:老人ホーム検索サービスの運営者として、入居者希望者に対しては、どのような想いをお持ちですか。

泉:介護のことで困っている人は「今抱えている不安をなくしたい。安心したい」という一心だと思います。「困ってるんだけど助けてくれる人がいない」という不安が強いと感じています。

LIFULL 介護は「いちばん不安な時に、いちばんの頼りになる。」をブランドポリシーとして掲げていて、“不安な人が真っ先に頼れる存在”として認識してもらえるように、サービスを作っています。不安を持っている人に実際に接する際にも、このような想いが伝わるように努力しています。これはLIFULL 介護に限らず、すべての老人ホーム検索サービスが目指していることだと思います。

老人ホーム紹介業のあり方は、今後どのような状態が望ましいとお考えでしょうか。

光元:まずは、自主的な規制のなかで適正に運営すべきだと考えています。

届出制度を「ここへ届け出ている事業者さんなら倫理的にも安心だよね」と思っていただけるものにしていきます。そのためには、紹介のプロセスを標準化する必要があります。

たとえば保険業界だったら、保険代理店はお客さまと接する際に、権限明示といいますが、「私はこの保険会社の代理店で、どんな立場で話しているのか」をはっきり伝えることが求められます。このような立場説明などを標準的なプロセスとして、仕組みとして作っていくことを想定しています。また、高住連に悪質な紹介事業者の情報が集まる仕組みもさらに整える必要があると考えています。

泉:やはり利用者本位であってほしいですね。もちろんビジネスとして継続するために利益を出すことは必要です。しかし私たちも含め、介護に関わるならば、倫理観を欠いてはいけないと思います。

我々検索サービスを含め、老人ホーム探しに携わる事業者は、いま大きな転換点にあります。

ご家族にとっては、信頼できる相談先を選ぶことが、安心できる住まい選びの第一歩です。そのためにも、業界全体として「信頼できる紹介」「誠実な支援」をどう実現していくかが問われています。

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