<介護×テクノロジー>動きたくなるIoTヘルスケア「Moff」は“楽しさ”から介護を変える

より便利で、より快適な暮らしを送れるように、人間はあらゆるモノゴトを進化させてきました。テクノロジーもそのひとつ。いまやあらゆるものがインターネットにつながり、AIやロボットが人間のように働いてくれます。そうした時代において、じつは介護の世界も新たなテクノロジーを活用して進化を遂げようとしています。

そこで、<介護×テクノロジー>を推進するトップランナーの現在地をキャッチアップするべく、今回訪ねたのは株式会社Moff。ウエアラブル端末や3次元動作認識技術を搭載したアプリなど、テクノロジーによって高齢者のリハビリ、トレーニングを支援するツールを企画・開発している会社です。創業社長の高萩昭範氏に、理念やこれからのビジョンについて伺いました。

株式会社Moff高萩昭範さん

――Moffさんは、最先端のテクノロジーによって、楽しく持続可能なヘルスケア・サービス作りをされています。

高萩

現在、Moffではウェアラブルセンサーの「Moffバンド」、リハビリアプリの「モフトレ」、体力・運動機能測定ができるアプリ「モフトレ・チェック」のサービスを展開しています。「Moffバンド」は手首や腕、足首などに装着できるアイテムで、センサーで身体の動きを感知します。

Moffバンドのイメージ
高萩

そして、「モフトレ」は、Moffバンドで感知した動きのデータを取得して、タブレット端末に本人の動きをアニメーションで表示、トレーニングやリハビリを自動で記録できるアプリです。モフトレでは、7つの動作項目に基づいて、「お風呂をまたぐ」「トイレの立ち座り」など日常の動作強化につながるトレーニングを中心に、音楽と連動させた映像や脳トレのようなゲームなどのコンテンツを搭載しています。

3つのうち、一番新しいサービスが体力・運動機能測定ができるアプリ「モフトレ・チェック」です。アプリでは、高齢者の運動機能評価に有用なテストとされる「TUG(Timed Up and Go test)」や「片足立位」などの項目を用意しました。

これまでは、椅子から立ってから数メートル歩き、戻って座るまでの時間を二人がかりで、ストップウォッチで計測していたのですが、Moffバンドを使えば一人で、スタートからゴールまで自動です。また、立つから戻って座るまでの行動、行程の秒数を出せる機能を開発しました。これはウエアラブル端末の中でも、Moffがはじめて搭載しました。

ーーそれは画期的ですね!

高萩

あと、転倒リスクがどれくらいかについても判定できます。理学療法士さんがいれば、プロのアドバイスを受けられるのですが、デイサービスには不在なことがほとんど。そのため、「運動して機能は回復しているんだけど、補助なく一人で歩かせて大丈夫か判断がしにくい」という問題がありました。「モフ・チェック」であれば、家族やケアマネさんが確認しても一目瞭然です。ビフォアアフターを確認するため、定期的に使用していただきたいと思って開発しました。今後は運動機能の評価結果からオススメのトレーニングをレコメンドする機能の実装も予定しています。

モフトレ、モフトレ・チェックの画面
モフトレ、モフトレ・チェックの画面

――これだけの製品を開発できたのは、どのようなテクノロジーがあってのことでしょうか?

高萩

一番は、センサーです。筋肉の傾きや移動距離をMoffバンドのセンサーが感知して、端末にデータを送信する仕組みがベースになります。センサーの技術がなければ、Moffシリーズを世に送り出すことはできませんでした。センサーは我々が作っているわけではありませんが、センサーをどう活用・応用するかについて考えた結果、Moffというブランドが誕生したという背景があります。

モフトレのしくみ

――そもそも、なぜMoffを開発しようと思われたのでしょうか?

高萩

創業当初から、「家族のためのサービスを手掛けること」を目標にしていました。そこから掘り下げ、家族が幸せになるためには健康でいることが大事であり、身体を動かすためのソリューションを開発したいと思ったんです。もちろん健康とひとえに言っても幅広く、肉体的な問題だけではなく、精神的な問題もあります。ただ、一番汎用的な解決策は「ちゃんと運動すること」ではないかなと。その運動をいかに楽しく、意味あるものとして継続できるかという課題を、テクノロジーで解決したいと考えました。

ーーなるほど。開発はどのように進んでいったのでしょう?

高萩

まずは、ハードウエアやアプリの開発からスタートしました。もともと最初は子供向けの製品を想定していんです。それが、介護施設を運営されている方々から「興味がある」とのお声をいただき、実証実験にも協力してくださるように。そこから、高齢者にも活用していただける製品にしようということで、開発の方向が変わっていきました。

私の親戚が研究をしていた縁もあって、「高齢者のスポーツ健康科学」という観点から大学と一緒に高齢者のデータを取り、まずはどのような動きをしているかを把握。要介護・要支援の高齢者は、元気な高齢者と違ってどのような配慮が必要なのかということで、介護施設の運営事業者の皆さんにもご協力いただき、100名以上の方にトライアルいただきました。その次に、有効なトレーニング方法を考えるというステップで開発を進めたかたちです。

高萩昭範さん

――当初は、子ども向けの製品を考えられていたとのことですが、高齢者にも使ってもらえる製品となると想定とは違うものになったのでは?

高萩

私も、全然違うものになるのかなと思っていたのですが、どちらかというと共通点の方が多いという発見がありました。たとえば、Moffは「音楽に合わせて動くこと」を大事にしているのですが、子どもって音楽を聴いたら楽しくなって、身体を動かすわけです。ただ、高齢になるとそうはいかないだろうな……と思っていたんですが、まったくそんなことはなく、楽しそうに身体を動かす方がほとんど。また、Moffに搭載しているセンサーによって、タブレットなどに動作の情報が反映されるのですが、それをとても面白がってくださるんです。

――いい意味で、予想を裏切られたと。

高萩

そうですね。とりわけ発見だなと感じたのは、認知症の方の反応です。実験前は「認知症の方に受け入れられるのは難しいと思うよ」と言われていました。確かに、Moffの性質として、言葉で指示するのではなく、直感で楽しむことを前提にしているので、難しいことが多いだろうと思っていたんです。しかし、ふたを開けてみると、一番夢中になってやってくださったのが認知症の方々でした。

――それはすごいですね!

高萩

たとえば、要介護4以上の重度の認知症患者さんが多い施設で、実験の機会をいただいたときは、さすがに厳しそうだな……と思っていたんです。でも、音楽に合わせて鼻歌まじりに積極的に身体を動かしてくれたんです。しかも、データを取ってみると、どんどん身体の可動域が上がっていたんです。認知症が進行すると、じっとして動かないことが多いとのことだったので、とても嬉しかったですね。ちなみに、その結果をもとに脳科学の専門家に聞いてみたところ、「音というのは脳の根源的な部分を刺激するので、Moffが有効に作用したのでは」とのことでした。

――大人になると、音に合わせて身体を動かす感覚が薄れがちですが、人間にとって音と動作は密接だということなんですね。

高萩

そのようです。なので、「美空ひばりさんの曲を入れてください」というリクエストがあれば、Moffに入れるようにして音楽をアップデートできるようにしています。あとは、やはり視覚的な効果もポイントです。重度の認知症の方も、自分の動作とアニメーションが連動していることが分かるようで、「こう動かしてみるとどうなるだろう?」とトライされます。また、「何月何日に誰々さんがどの運動を何回、何秒ぐらいやったか、可動域はどれくらいか」についても、自動的に記録されるので現場の負荷も減ります。

――なんだか、いいことづくめですね!

高萩

Moffは、プロスポーツ選手やボディビルダーを育てるためのツールではなく、あくまでもおじいちゃん、おばあちゃんにとっての適切な運動を促し、記録して、管理も効率化していくことを目指して開発しています。もちろん、それぞれの施設でレクリエーションを工夫されているので、その一部として有効活用してもらえたらと思っています。Moffなら楽しく、積極的に取り組んでもらえると自信を持っています。

――高齢者に限らず、誰しも嫌々ながらやることは続かないですもんね。

高萩

テンションが上がらないとダメですよね。余談ですが、以前、トライアルで高齢者施設に数週間だけMoffを貸し出したことがあったのですが、期間が終わると入居者さんから「なんでやらなくなったの?もう一回やろうよ」という声が上がったそうです。基本的なことかもしれませんが、「やってみると楽しい→楽しいから日課になる」という流れが大事だと実感しました。

――身体機能が衰えると、運動から遠ざかってしまうのはとてもよく理解できます。

高萩

ただ、高齢だからといって、諦めてほしくないんです。たとえば、私の祖母のケースですが、高齢になってから骨折が原因で何回も入院を繰り返していました。でも、寝たきりにはなりませんでした。それはリハビリをすごく頑張ったからに他なりません。運動の総量をしっかり確保すれば、元気に歩き続けられる世界があるので、本人が「もういいよ」と諦めないように、短時間で効果的な運動をしてもらう。それが、介護に求められていることであり、Moffというテクノロジーで解決をアシストしたいんです。

モフトレを行っている様子

ーーMoffは健康寿命を延ばしてくれるツールのひとつと言っても過言ではなさそうですね。では、最後にこれからの展開について教えてください。

高萩

いまは、どちらかというと身体機能の向上がメインですが、認知機能や口腔機能、生活習慣など、対象範囲を広げたいと思っています。あと、特に「モフトレ」を介護施設や有料老人ホームで活用される際には、皆さん集まれる場所で一斉にやっていただいているのですが、個人の居室でできるようにするとか、ユーザーさんの実生活に近づく仕様にしたいです。

末吉陽子
末吉陽子 ライター

ビジネスからグルメまで幅広いジャンルで記事を執筆。

末吉陽子さんの記事をもっとみる

おすすめの関連記事

介護が不安な、あなたのたよりに

tayoriniをフォローして
最新情報を受け取る

ほっとな話題

最新情報を受け取る

介護が不安な、あなたのたよりに

tayoriniフォローする

週間ランキング

ページトップへ