溜め込むよりもうまく喧嘩をした方が良い。料理研究家・小林まさみに聞く嫁舅関係の築き方

人生100年時代とも言われるいま。シニア世代の暮らしや働き方が変化しつつある。しかし、いざ自分が歳を重ねるとどうなっていくのかイメージができない、あるいは周囲のシニア世代とどう関わっていいのかわからない、なんて悩みを抱えている人もいるのではないか。
 

そんな人に向けて、「LIFULL STORIES」と「tayorini by Lifull介護」ではメディア横断インタビューを実施。嫁舅で料理家として活躍する小林まさみさん・まさるさんにお話を伺った。2人の関わり方や、年齢との向き合い方について深堀り。本記事では、まさみさんのインタビューをお届けする。
 

『キユーピー3分クッキング』や『NHK きょうの料理』など数々の有名料理番組に出演する料理研究家・小林まさみさん。ある時から今年で91歳を迎える舅のまさるさんと一緒に仕事をするようになった。まさみさんのこれまでの歩みや、まさるさんとの関わりから見えてくるシニア世代との関わり方について話を伺った。

今回のtayoriniなる人
小林まさみ
小林まさみ 料理研究家。結婚後、料理研究家を目指し、会社勤めをしながら調理師学校で学ぶ。在学中より料理研究家のアシスタント、テレビのフードコーディネーターのアシスタントを務め、独立。現在は料理教室、雑誌、単行本、テレビ、企業のレシピ開発、イベントなど幅広く活動している。

Instagram @kobayashimasami.masaru

6年勤めたメーカーを辞め、料理の道に進んだ理由

まさみさんが料理を学び始めたのは学生時代のこと。短大の家政科で学び、調理実習もその中の一つだった。しかし、当時は将来的に料理の道に進もうとは考えていなかったという。

短大卒業後、事務員としてとあるメーカーに就職し、約6年間勤務した。会社員として日々の仕事をこなす中で、こんな思いが浮かんできた。

「簡単な経理をやったり、総務のような発注業務をやったりと、事務の仕事を続ける中で、だんだんと本当にこれでいいのか?と思うようになりました。それで、好きな事を仕事にしたいと思って洋裁教室に通ってみたのですが、楽しいけど仕事には結びつかなくて……。

しばらくして、結婚が決まり、1年ほど前から母に習って料理を勉強し始めました。ほうれん草の胡麻和えとか、茶碗蒸しとか、肉じゃがとか基本の味を教えてもらいました。改めて料理をしてみるととても楽しくて、だんだんと『これを仕事にしたい』と思うようになりました」

結婚後、会社勤めをしながら調理師学校に通うことを決意。昼は会社員、夜は学生というハードな生活を送ることとなった。それからしばらくして、会社を退職。学生をしながらも次第に、料理研究家やフードコーディネーターのアシスタントとして仕事をするようになっていった。

「調理師学校への入学が決まってすぐに憧れていた先生に電話して。本当は『アシスタントにしてください』と言いたかったけれど、まだ何もできないので恥ずかしくて言えずに、『料理を習いに行きたいです』と伝えました。最初は本当に習っていたのですが、しばらくするとアシスタントに誘ってくださって。それからどんどんと他の現場にも呼んでいただけるようになりました」

軽い気持ちで依頼した舅の仕事っぷりに驚いて……

様々な料理研究家やフードコーディネーターのアシスタントとして忙しい日々を送っていたまさみさん。数百個の餃子を包んだり、たくさんの野菜をみじん切りにしたりと、家の中でもテレビ番組や雑誌などの仕込みに追われた。

そんな生活を続けるうちに、まさみさんも夢だった自身の料理本を出版することに。普段は仲の良い同業の友人にアシスタントを頼んでいたが、当時はどうしても人手が足りない状況にあった。そんな状況を見かねたまさるさんが「俺が行くよ」と声をかけたところから、嫁舅コンビでの仕事が始まった。当時を振り返ってまさみさんはこう語る。

「確かに困って、家の中でも『どうしよう』とはよく言っていたけど、まさかお義父さんからそんな風に言ってくれるとは思わなかったですね。

でも、とにかく1人でも多い方が良い、とりあえず洗い物要員くらいの気持ちでお義父さんにも来てもらうことにしました。そうしたら想像以上に働いてくれて、しかも洗い物だけじゃなくて包丁研ぎまでし始めた。長時間の撮影を普通にこなしたことに大変驚きましたね」

当初は「洗い物要員」だったまさるさんの仕事っぷりに驚いたのはまさみさんだけではない。知人のライターやフォトグラファー、さらには当時まさみさんがアシスタントをしていた料理愛好家・平野レミさんらから、「すごい」「面白い」といった声が寄せられるようになった。

周囲の声に後押しされ、だんだんと一緒に働く頻度が上がっていった。気づくと、まさるさんも一人の料理家としてデビューするまでになっていたという。

嫁舅から仕事仲間に変わっても良い関係を続ける秘訣

ただの嫁舅から、仕事仲間へと。関わり方の変化によって、二人の関係性への変化や新たな発見はあったのだろうか?まさるさんに尋ねると「仕事を一緒にし始めて、料理に熱中する姿を見て、まさみちゃんは大物になると思った。こんな行動力は自分にはないし、こんなわかりやすい喋り方は自分にはできないと感じた」と語る。こう言われたまさみさんは次のように返す。

「同じことを私の両親にも言ってくれたけど、両親はきょとんとしてたよね(笑)。私の中には焦りがあったのかもしれません。会社を辞めてまで調理師学校に行かせてもらったし、生徒の中では年をとっての入学だし。もう戻れないから、なんとか結果を出さなきゃと思っていました」

相性バッチリの仕事仲間に見える二人だが、実は最初からそうだったわけではない。

「結婚当初はすごく気を遣ってたんですよ。義理のお父さんなので、敬語も使っていたし、料理も全部自分がやらなきゃと思っていました。その後仕事をしながら学校も行って家事も全てやってというのは無理があって。そんな中である日、酔っ払って帰ってきたお義父さんが『料理やらせてくれ』って言うんですよ。それで、お義父さんは実は料理したかったんだと気がついて、お願いすることにしました」

また、現在でも喧嘩をすることもあるという。では、どのように20年間も一緒に仕事を続けてこられたのだろうか。

「喧嘩は今でもします。怒って生放送なのに撮影に行きたくないと言い出すとか(笑)。でも、喧嘩って悪いものではなくて発散できるならしちゃった方がいいと思うんですよね。

今では、10分も経てば元通りみたいなうまい喧嘩をできるようになりました。

発散することは、私とお義父さんだけではなく、私と他アシスタントさんの間柄でもそうです。言いたいことをちゃんと伝えることは、長く良い関係性を続けていくためのポイントかもしれません」

シニア世代と関わる時「全部やってあげよう」とは思わない

まさみさんは、まさるさん以外にも自身が運営する料理教室や、仕事で訪れた現場で幅広い年代の人々と関わってきた。そんな中で感じる、世代の異なる人とうまく協働している人に共通する特徴があるという。

それは、年齢に頼らずに気遣いをすること。例えばアシスタントに依頼する際には、「手伝ってもらっている」という意識を忘れずに、きちんと感謝の気持ちを持って接することが大切だという。一方で、アシスタントになる際は「手伝わせてもらっている」と言う気持ちを忘れない。互いにバランスをとって考えることでより良い関係性が気づけるのではないかと語る。

また、自身の両親も含め、シニア世代と接する機会も少なくないまさみさん。シニア世代と関わる上で意識していることはあるのだろうか。

「自分で全部やってあげようとしないことが大事だと思います。例えば、私は実の両親とは離れて暮らしていますが、普段は両親と同居している姉が日常のサポートをしてくれています。その代わり月に数日は、両親がうちに泊まりに来て、日常ではフォローできない食事、身体を動かすことのサポートなどをしています。こんな風に、常に側にいなくても他の家族と協力してシニア世代をサポートすることはできると思います。


また、両親が泊まりに来た時もお客様扱いはしません。ご飯を作るかわりに洗い物はやってもらう。お義父さんに対しても同じで、買い物、掃除などお願いしてます。お年寄りを過剰にお年寄り扱いするよりも、自分でできることは自分でやってもらった方が、健康にも老化防止にもいいと思うんですよね。もちろん大変な時は、十分な手助けをしますが、何かタスクをお願いするついでに、シニア世代が運動したり人と話したりするきっかけをうまく作ってあげるのもうまい付き合い方なんじゃないかなと思います」

そんなまさみさん自身は、歳を取ることについてどう考えているのだろうか。最後に、まさみさん自身が描く理想の歳の重ね方を教えてもらった。
 

「歳を取ることが楽しみ、とまではまだ思えていません。でも、自分の周りを見るとお義父さんや料理教室の生徒さんなど、楽しそうに生きている70代以上の方がいて。平野レミさんがよく『若い人には巻かれろ』と言っていたのですが、楽しそうに生きているシニア世代の方々はみんな若い人たちと混ざってうまくやっています。自分もそういうふうに歳を重ねていけたらいいなと感じています」

「お年寄りだから」と過剰に気を使いすぎることなく、相手をよく見て接することが良い関係性のカギ。当たり前のようでいて、忘れがちな視点だ。また、高齢化社会がますます進行していく中で、若い世代とシニア世代の関わり方の例として、まさみさんの考え方が参考になる人も多いのではないだろうか。

今回、まさみさんにとってはお義父さんに当たるまさるさんにも話を伺った。まさるさんの料理家人生や、まさるさんの視点から見たまさみさんとの関係性も語られている。

取材・文:白鳥菜都

写真:服部芽生

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