老後・介護・相続につながる「生前家族会議」 親子で上手に話し合う方法は?

親が高齢になると、自然に持ち上がってくるのが相続の話。とはいえ、子から話を切りだすのは気が引けるし、そもそも家族揃って話す習慣のない家庭では、そのハードルがより一層上がります。

そんな悩みを持つ方は、まずお金の話を抜きにした「生前家族会議(※1)」から始めてみませんか? 具体的にどうやって実施すればよいのか、一般社団法人あんしん相続支援センター理事の小林啓二さんにお話を伺いました。

※1 生前家族会議は、一般社団法人あんしん相続支援センターの商標登録です

今回のtayoriniなる人
小林啓二
小林啓二 1962年東京都生まれ。一般社団法人あんしん相続支援センター理事。アセット東京株式会社代表取締役。1985年から33年間、不動産に携わり、取引は住宅だけでも1000件超えの実績。また商業施設・公益施設の複合開発、分譲マンション開発および販売、そして賃貸不動産の総合管理に従事し、更に中大型店舗の出店開発にも従事した経験から不動産にまつわる相続問題に関わる。相続者目線に立ったコンサルティングには定評がある。

遺言書も大切。でもそれだけじゃ、人間味がない?

――あんしん相続支援センターが提唱する「生前家族会議」についてお聞かせください。これは具体的に、何を話し合う場として定義しているのでしょう?

小林

財産を受け渡す人(被相続人)が、自分の生き様や家族に対する想いを伝える場、ですね。会議といっても「必ずこれを決めなくてはいけない」といったルールはなく、マニュアルに沿って機械的に行うものではありません。

――生き様や想い。てっきり、お金や不動産の話を中心に話すのかと……。

小林

家族によって財産目録を作成する場合もあれば、財産については一切触れないこともあります。相続の話はもちろん大切ですが、元気なうちに本人の口から「どんな気持ちで生きてきたのか」を共有しておくことも重要です。

――もっとお堅い内容だと思っていたので、ちょっと気が楽になりました。

小林

それはよかったです。例えば、遺言書はそこに気持ちが文字として書いてあっても、それだけではなんだか人間味がない気がしませんか? 同じ内容でも、できれば生前に本人の言葉で家族に伝えることができたら理想だと思います。

相続=民法の規定にそって財産を分けることですが、実際は人のさまざまな感情が入り混じるし、もっと人間臭いものですから。

――確かにそうですね。具体的にはどう進めればいいのでしょうか?

小林

まだ子どもが小さかった時の思い出話から始めて、家族それぞれに対する気持ちを正直に話せばいいと思います。「●●のあの時の行動に感謝している」とか、「みんながいて幸せだった」とか。親と子それぞれが勝手に相手の気持ちを想像したり解釈したりしてしまうことって、実はわりとあるものなんです。

うまく言葉にすることより、気持ちを整理することが大切

――でも、改めて親子の間でお互いの気持ちを言葉にするのは、そんなに簡単ではない気がします。

小林

そうですね。私も生前家族会議の相談にいらした方に、「何をどう伝えたいか」を前もってヒアリングしますが、ほとんどの人はうまく言葉にできません。あと、当日になって感情が邪魔して言えないなんてこともありました。必要に応じて、私がファシリテートすることでサポートしています。

でも、大切なのは、うまく伝えることではなく、被相続人が気持ちを整理することなのです。

――気持ちの整理……?

小林

はい。だから、なんというか生前家族会議の話をしていてなんですが、合議体としての会議は開かれなかったけれども、その人が自問自答できたならそれで満足されることもあります。

もちろん、生前家族会議の場には、家族全員そろうのが理想です。ただ、一部の子どもたちだけ、夫婦だけ、あるいは一人で自問自答するだけで終わったとしても、そこに意味がないわけではありません。会議を観念的に捉えて自分なりに気持ちを整理することで、潜在的な悩みが具体的な課題になることもありますから。

――まず何より、被相続人の意識が大切なのですね。ただ、子が生前家族会議に興味を持っても、親が話し合いの席についてくれないことも多々あると思います。子が親にきっかけを与えるにはどうしたらいいでしょうか?

小林

第三者の話や意見を聞く機会を作るのが有効だと思います。「このセミナー話題だって」とリーフレットを渡したり、「私もまだ読んでないけど、これおもしろいみたい」と参考になりそうな書籍を差し出したり。これくらいの温度感のアプローチがちょうどいいと思います。ストレートな言い方は避けたほうがいいですね。

被相続人が問題意識を持てば、あとは行動するだけです。まずは、小さなきっかけを作ってみましょう。

備えあれば後悔なし!早すぎる事前対策はない

――とはいえ、家族会議自体に「難しい」「ややこしい」「話しづらい」というイメージはなかなか拭えません。いざ話し合いとなる手前で、なにか有効な準備はありますか?

小林

自分の当たり前が家族の当たり前とはかぎらないから、日ごろからコミュニーケーションをとることが大切です。詩人・相田みつをさんの作品で、「うばい合えば足らぬ、わけ合えばあまる」という言葉があります。いつか訪れる相続の場面でも、そういう精神をみんなが持てたら理想ですよね。

――相続について話し合う前の生前家族会議が、コミュニケーションのきっかけになるといいですね。

小林

そうですね。お金の話をするにしても、大切なのはその背景にあるお互いの気持ちです。自分名義の財産を平等に分けるのかそうでないかは、当人が選択することですから。

いずれにせよ、なぜそうしようと考えたのかをきちんと伝えることで、家族みんなが納得して相続がスムーズになる可能性は大いにあります。何もしないのは、ある意味で責任回避という見方もありますので、ぜひ多くの家庭で行ってほしいですね。

――何もしないは責任回避! 胸に響きました。

小林

ちなみに、家族会議とはちょっと違いますが、欧米では約8割の人が通称「will」と呼ばれる遺言書を書いているそうです。日本にはまだその感覚がないですよね。

――8割も!

小林

willを残す彼らの気持ちには、「この先自分がいなくなっても積極的に生きて欲しい。そのための私の想いを伝えよう」という意識があります。そして、読み手はその気持ちを感じて生きる力に変えていきます。

こういった感覚は、まだ日本にはあまり浸透していないかもしれません。むしろ、亡くなった後の話をするなんて後ろ向きで、ちょっとネガティブに感じる人もいる。昭和以前は家督相続(※2)だったので、複数人に財産を分ける感覚がなかった。憲法が制定されてから均分相続に変わったため、家督相続の感覚が残る世代は、そういった時代の変化にまだ追いついていないのでしょう。

――我々ももっと自分の気持ちに向き合って、さらに家族ともラフに話し合えるようになるといいですね。

小林

人生は残り時間が見えない砂時計のようなものです。だからこそ、生前家族会議を難しく考えないでほしいと思っています。どんなに仲の良い家族でも、完全な以心伝心はありません。恥ずかしくても自分の思いを伝えなきゃと、気軽に相談してもらえたらうれしいですね。

※2 被相続人である戸主が亡くなった場合、必ず長男がひとりで全ての遺産を継承・相続するのが原則とされていたもの

編集:ノオト

関紋加
関紋加

有限会社ノオト所属の編集者、ライター。ヨガウエアやオーガニックコスメの販売経験から、好きな分野は美容、健康、料理、ライフスタイルなど。現在は、企業のオウンドメディアを中心に活動中。

関紋加さんの記事をもっとみる

おすすめの関連記事

介護が不安な、あなたのたよりに

tayoriniをフォローして
最新情報を受け取る

ほっとな話題

最新情報を受け取る

介護が不安な、あなたのたよりに

tayoriniフォローする

週間ランキング

ページトップへ