「人生100年時代に、70歳を晩年と考えるのはまだ早い。始めるべきは終活ではなく、老活です。スポットライトから一歩引いたとしても、社会が求める行動を通してまだまだ世間のお役に立てるはず」
そう語るのは、2019年4月に『70歳のたしなみ』(小学館)を上梓した、昭和女子大学理事長・総長の坂東眞理子さんです。
73歳の坂東さんが約2年をかけて同書を書き上げた背景、70代に入りご自身が意識していることなどを伺いました。
――早速ですが、「70歳」をテーマに執筆された理由を教えてください。
今の社会には、「断捨離」「終活」など捨てる・終わるといったネガティブなフレーズが高齢者と紐づいた状態であふれています。「歳を重ねること」「人生100年時代」をもっと前向きにとらえて欲しいと考え、70歳からこれからの30年をどのように歩むかを自身と向き合う「老活」を取り入れてほしい。そんな思いから執筆したのが、『70歳のたしなみ』という本です。
――確かに、書店では「エンディングノートの書き方」「子どもに迷惑をかけない終活」などをテーマとした書籍をよく見かけます。
歳を取るほど、人は受け身になりやすくなるため、晩年の準備を意識した書籍が多いのかもしれません。ただ人生100年時代である現代において、70歳を晩年ととらえ、その先の準備をすぐに始めることが本当に正しいかどうかは疑問です。
――どういうことでしょうか?
この背景には、親世代と比較した「思い込み」があります。例えば、死のタイミング。私は祖母を72歳で亡くしていますが、母も同じぐらいの年齢で生命を終えると考えていたようです。そのため、「孫の成人式までは、とても生きられない……」とよく口にしていました。
しかし、実際どうだったこと言いますと、母は92歳まで生を全うし、孫娘の晴れ着姿もしっかりと見ることができました。
――寿命も生き方も、自分の親世代と同じ感覚でいるのは、ちょっと違うということでしょうか?
その通りです。あなたの周りにも「この人、いつも元気だな!」という80〜90代はいませんか。親世代の老後と、これからの世代の老後の違いを受け止め、将来を考えるきっかけになったらと思います。
――ご自身の年齢の変化を意識される場面がありましたら教えてください。
「急いで階段を登ると息苦しい」「子どもの声が聞こえにくい」など、体の変化はもちろん感じています。心の面でも、年齢を意識していないつもりだったけれど、こういった書籍を書いているということは、本当のところ少なからず気にしていたのだなと思いますね。だからこそ、年齢に合わせて心の向き合い方を整える必要があるとも感じたのです。
――普段から実践されている「年齢と心の向き合い方」を、ぜひ教えてください。
自身の状況や体調に合わせて、自身が「したいこと」「できること」「やれること」の3要素を活かし、若い人たちの手助けとなるようなボランティアを始めてみたり、新たな挑戦と向き合ったりしています。
――もし、「やれること」「したいこと」などが分からない場合、どうしたら良いでしょう。
「何か出来ることがあったら、声をかけて」と周囲に伝えておくだけでも、きっかけは生まれます。もしかしたら、普段と違う行動や挑戦をする自分に対して、周囲の目が気になるかもしれません。ただ、「人はあなたが思うほど自分に注目していない」と分かると、すっと楽になりますよ。
私もこれまで参加していなかった会合などに行く時は、いつも緊張していました。ですが、「参加したことで喜んでくれる人」「新しい人」との出会いを経験してから、少しずつ気持ちが前向きに変わっていきました。
ただ、1つだと環境に依存してしまう可能性があるので、3つぐらい掛け持つとちょうど良いのではないでしょうか。
――ちなみに、坂東さんオススメの活動はどんなものがありますか?
無理なく働けるよう、フルタイムではなく、月20時間程度からできる「ボランティア」や「アルバイト」などの取り組みが私たちの世代にはオススメです。
それこそ、今問題になっている年金2,000万円問題。65歳から85歳までの20年間で毎年100万円ずつ稼ぐと考えると、無理なく備えられるのではないでしょうか。月20時間でできることを組み合わせていくことによって、きっと近しい金額が得られるはずです。
――書籍内で紹介していた、「キョウヨウとキョウイクをつくる」にも通じますね。
そうですね。「キョウヨウとキョウイクをつくる」というのは、今日用事がある(キョウヨウがある)、今日行くところ(キョウイクがある)があることを意味するフレーズです。
先ほども述べたように年齢が上がるほど、「行くところも、用事も誰かが与えてくれる」と受け身になりやすくなります。だからこそ、能動的に自分から仕事や用事を作れることが必要になってくるのです。
――興味のあるところには、積極的に足を運ぶべき、と。
そうです。100歳以上の方が7万人を超える日本社会だからこそ、長期的に「キョウヨウとキョウイク」の精神が必要となります。
例えば、2020年に開催予定の昭和女子大学100周年の同窓会に自分の足で参加することを目標にしている90代の卒業生がいます。彼女のようにライフイベントに目標や楽しみを見出すことで、人生をより良いものにしている人は少なくありません。それぞれが自分の目標を持つからこそ、元気に長生きできるのです。
――書籍出版から半年以上経過しましたが、読者の皆さんの反応はいかがですか?
正直、どのような反応が来るかは私も不安でしたが、世代を超えて受け入れられたように感じます。
70代前後の人からは「これからの生き方の指南書」「これまでにない視点を得られた」、親が70歳を迎える30〜40代の方からは、「前向きに親と向き合う元気をもらいました」などのお声をいただきました。
――書籍内で紹介されている、「意識して上機嫌に振る舞う」「今日が人生で一番若い日」などは、30代の私も心がけようと思いました。
ありがとうございます。私自身が日々取り入れている内容を始め、これから70歳を生きる皆さんにも意識してもらえたらと思う心構えを紹介しました。
歳を重ねることに対して、「人生下り坂、何もすることがない」など後ろを向かずに、もっと前を向いて生きて欲しい。人生100年時代を生きる皆さんには、生産性のある行動や考えを選んでほしいと思います。
編集:ノオト
撮影:小野奈那子
1988年生まれの兼業ライター。医科学(修士)。健康・ヘルスケアをはじめ、ビジネスやIT関係のテーマにも取り組む。散歩と食べることが好きで、新しい土地を散策するのが趣味。
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