私は藤谷さんと、「ヘドバンしながら老後を考える」の連載を始めたり、身近に介護職の人が居ることもあって、「副業・複業としての介護の仕事ってどうなんだろう?」というのがずっと気になっています。介護職員初任者研修(以下、初任者研修)は修了してるんですが、実際に現場で働いた経験がないので、今日は先輩のお二人に、色々お話を伺いたいと思います。
「大変な仕事」と思われがちな介護職ですが、意外にもそこで働く人や働き方は多様性に溢れています。夢を追いかける若者から、子育てが終了して第2の人生を謳歌するシニアまで、様々なバックグラウンドの方が、多様な働き方で介護に携わっていることは、実はあまり知られていません。
tayoriniで連載中の「ヘドバンしながら老後を考える」で取材を行っている、バンギャルでライターの藤谷さんも、介護業界で働く一人。そんな藤谷さんと、バンドマンで介護の仕事をしているIさん(仮名)に、副業や複業での介護の仕事の魅力を伺いました。
「オタクのための老人ホームって作れますか?」バンギャルが、推しの力で楽しく過ごせる老後を追う!
聞き手は、自身も介護の資格を持つ漫画家の蟹めんまさんです。
私は藤谷さんと、「ヘドバンしながら老後を考える」の連載を始めたり、身近に介護職の人が居ることもあって、「副業・複業としての介護の仕事ってどうなんだろう?」というのがずっと気になっています。介護職員初任者研修(以下、初任者研修)は修了してるんですが、実際に現場で働いた経験がないので、今日は先輩のお二人に、色々お話を伺いたいと思います。
よろしくお願いします!
まず、ライター、バンドマンと、元々別のお仕事をされているお二人が、介護の仕事を始めようと思ったきっかけを教えてください。
私も、蟹めんまさんと「バンギャルシリーズ」の連載を始めたことがきっかけですね。取材のネタになればという気持ちもあって初任者研修を取り、近所の訪問介護ヘルパーの事業所でアルバイトとして働き始めました。最初は週2日働いていたんですが、今は週1日くらいに抑えて、文筆業も並行してやってます。
僕は2010年ごろに上京してバンド活動を頑張ってきたんですが、2020年にコロナの影響で思うように活動できなくなってしまって。そんな中で長年同棲してる彼女と結婚しようと思っていたんですが、彼女のお父さんに「きちんと働いてないやつに娘をやれるか!」って怒られまして。それで、とにかく就職して正社員になろうと思って色々当たった結果、幼馴染のバンドマンに紹介してもらったのが現在の勤務先の会社でした。すぐに初任者研修を修了して、今は正社員として介護施設で働きながら、バンド活動も続けています。
初任者研修も他の仕事をしながら修了したと思うんですが、実際どれくらいの時間がかかりましたか?
僕は最短ルートで修了したかったので、今の会社に入社してすぐに週2日学校に通い始めて、期間としては3ヶ月弱で修了できました。会社の福利厚生を使わせてもらったので、その間も出勤扱いになるのがありがたかったですね。
素晴らしいですね。 私は、週1回通って半年程度で修了する予定だったのですが、途中で体調を崩して入院してしまい、休み休み通った結果、半年以上かかりました。たしか原則として8ヶ月以内に履修しなければならないので、正直ギリギリでしたね。
なるほど。でも逆に言えば、それくらい引き延ばすこともできるということですね。お二人は、介護の現場で実際にどんな業務をしているんですか?
僕が働いてる介護施設は、65歳以上の方を対象に、自立した生活を支援する施設なので、食事や入浴などの身体介助があまり必要ない、比較的元気な方が多いです。なので、服薬の見守りや、利用者さんの相談にのったりすることが僕らの役目です。集合住宅の管理人みたいなイメージかもしれないですね。ただ、中には年齢を重ねて段々一人では身の回りのことが難しくなってきた利用者さんもいるので、そういう方はヘルパーさんに来てもらって介助をお願いしています。
ということは、Iさんが自分で介助をする機会は、あまりないんでしょうか?
基本的にはしませんが、ヘルパーさんがいない時間帯に利用者さんが体調を崩したときなどは、もちろんサポートしますよ。
利用者さんからはどんな相談が寄せられてきますか?
人によりますが、たとえば、とある利用者さんはすごく買い物が好きで、通販で買った大量の荷物や出前が施設に届いたりするんですよ。「スマホでついつい買い物しすぎて困ってる」ってご相談をいただきましたね。
スマホやネットに親しんでいる利用者さんなんですね。今の時代は高齢者=ネットに不慣れというわけではないと。
70歳になったばかりとか比較的若い利用者さんは、使いこなせる方が多いですね。そういう方には「最後の注文ボタンを押す前に声かけてくださいね」って話したりしてます。
藤谷さんの訪問介護はどんな仕事ですか?
いわゆる世間がイメージする通りの「ヘルパーさん」ですね。自転車に乗って色々なお家に伺って、おむつの交換をしたりタオルで身体を拭いたり、あるいはきちんと薬を時間通りに飲んでいるかの確認などの身体介助から、日用品の買い物や病院の付き添い、掃除や調理のサポートなんかもしてます。やることは、そのお家によってさまざまですね。
訪問介護の仕事といえば、食事や入浴のサポートといった身体介助のイメージがありましたが、掃除や買い物のような生活の援助もするんですね。
そうなんです。ちなみに、私が働いている事業所では面接のときに“出来ること”と“出来ないこと”を確認してくれました。たとえば「身体介助に抵抗あるなら、時給は変わるけど掃除だけでも大丈夫ですよ」と。介護職はハードなイメージを持たれがちですが、事業所によってはライトな仕事だけでも歓迎してもらえるようです。私は肩を痛めているので入浴介助など身体を抱えるような仕事はできないと伝えました。
利用者さんのお家には一人で行くんですか?
慣れるまでは先輩と行ってましたが、基本的には一人です。何かあった場合は病院と連携して対応することもあります。私は集団行動が苦手だから施設ではなくて訪問介護の仕事を選んだところもあるので、一人で行って一人で帰ることができる、一つの場所に留まらなくていいという点は自分の特性に向いてるなと感じています。
お二人とも、実際働いてみて元々のお仕事との両立のしやすさはどうですか?
事業所にはフリーライターもやっていることを話してあるので、シフトはかなり融通を効かせてもらっています。先ほども言った通り、元々は週2日勤務でしたが、面接の時点で週1日でも大丈夫とは言ってもらえました。また、単行本の作業など文筆業が立て込むときは、事前に連絡しておけば1カ月丸々休ませてもらうこともできました。
その柔軟さは、確かにありがたいですね。Iさんは週5日のフルタイム勤務とのことなので、バンドとの両立は体力的にも大変そうなイメージです。
僕はスケジュールを組むのが苦手なのもあって、名古屋でライブをした次の日の朝5時半に東京に帰ってきて7時から介護の仕事、なんて日もありますね。そういう日は気合いで乗り越えてます(笑)。
かなりハードなスケジュールの日もあるんですね。
ただ、勤め先の施設長が元イラストレーターで、僕がやってるような音楽も好きみたいなので、「Iくんにはバンド続けてほしい」って応援してくれてるんですよ。そういう部分もあって、さすがに1カ月とかの長期間は休めないですが、多少融通を利かせてもらえることはありますね。
介護の仕事をしていて楽しいと思うのはどんなときですか?
僕は人と喋るのが好きなので、利用者さんとコミュニケーション取るのが楽しいです。だからこの仕事はかなり向いてると思うんですよね。バンドでも、お客さんはもちろん、ライブハウスの人や共演者の人とも接するので、改めて考えてみるとどちらも人と接する仕事なんです。介護の仕事を始めて、コミュニケーション能力もさらに上がった気がしますね。
バンドマンって、お客さんを煽って場を盛り上げるプロですもんね。
施設でも利用者さんを煽ったりしてますよ。
えっどういうことですか?
たとえば食事の時間なのに自分の部屋から出てこない利用者さんがいたら、他のスタッフに「Iさんお願い!」って最後の切り札みたいにお願いされるので、いい感じに煽るんです。そうすると、最終的にはご機嫌で食事の場に出てきてくれたりするんですよ。あとは服薬を面倒くさがる方にきちんと飲んでもらったりとか…。
ちなみにどんな風に煽るんですか?
その人の特徴とか性格によって変えますが、たとえば関西生まれの人なら適当な関西弁で明るく「も~●●さん、何言うてんねん!」って言ってみたり。そうするとつい笑ってくれて気が紛れちゃうことが多いんですよね。
バンドマン力!
まぁそういうバンドでの経験が介護の現場で活きてるっていうのはあるかもしれないですね。でもライブでは職場で絶対言えないような言葉を歌ったりするので、ライブの翌日に出勤するとなんだか別人になった気がして情緒がおかしくなったりします(笑)。
例えばヴィジュアル系のライブだと「首がもげるまで頭振れ!」とか煽ったりしますね。
そういうのを職場で言ったら大変なことになっちゃいますね。でも高齢の方って意外とブラックジョークが好きだったりするんです。だからあまり構えすぎず、楽しく過ごしてもらえるように接してますね。
藤谷さんは利用者さんとどんな風に接していますか?
私はIさんと逆のタイプですね。先輩のヘルパーさんがすごく快活に利用者さんに話しかけている姿を見ると、「この接し方は自分には無理だな……」と正直思っちゃうんです。だから、薬を飲むのを確認する、きちんとオムツを処理するといった最低限の仕事ができていればOKとある程度割り切って、上手くコミュニケーションが取れなかったとしても、クヨクヨしないように心がけていますね。
そういった心がけも大切ですね。ライターの仕事には、どんなことが活きていますか?
まずはやっぱり、「ヘドバンしながら老後を考える」の連載を執筆する上でかなり勉強になりましたね。資格取得のための授業で聞いた話からヒントを得て、実際に企画を提案したこともありました。あと色々なお家に訪問して、その人の暮らしが見られるのもメリットだと思います。たとえば本棚を一緒に片付けながら、その方がどんな本を読んできたのか知れたり。物書きをする上で、自分と異なる世代の人がどんなことを考えていて、何が好きかを知るのは大切だと思うので良い経験ですね。
それは私もすごく興味あります。Vlogを見てるような感覚になりそうですね。
あと高齢の方が好きなテレビ番組の傾向を知るのも楽しかったりしますよ。やっぱり定番は「NHKのど自慢」と「笑点」で、「孤独のグルメシリーズ」も好きな人が多いですね。
僕も「のど自慢」の面白さは、介護の仕事を始めて利用者さんと一緒に見るようになって気づきました。違う世代の好みを知るのって案外楽しいですよね。
藤谷さんは2年、Iさんは約4年、副業・複業として介護の現場で働いていますが、続けるモチベーションになってるものって何かありますか?
モチベーションという感じではないかもしれませんが、訪問介護って自分の健康を保つのにいい仕事なんです。買い物や病院へのつきそいで移動があると、1日1万歩以上歩いたりすることもあるので、かなり運動するんですよね。普段部屋にこもって文章を書いたり本を読んだりするばかりだと気が滅入るので、外に出て身体を使いながら全く違う仕事をすることで、心身の健康を保っている部分はありますね。あとはやっぱり、直接人の役に立てる仕事というのも大きいです。
僕も、誰かに必要とされてることが実感できるのはモチベーションになってます。バンドでは、長年自分の曲をお客さんに届けてきたので、基本的に承認欲求が強いんです。だから仕事を通して自分の存在意義が確認できるのは大きなやりがいですね。バンドと違うのは、介護は目の前にいる人の役に立てて、直接感謝をしてもらえること。やっぱりそれが嬉しいですね。
そういえば私も昔スーパー銭湯で働いてたとき、高齢の方にすごく優しくしてもらったのを思い出しました。当時30代半ばでしたけど、すごい若者扱いしてくれて嬉しかったです。
高齢の方って基本的に優しいですよね。抱えている疾患によってはコミュニケーションを取るのが難しい方も実際いますけど、まぁそれは仕方のないことなので。訪問介護の仕事をしていても、基本的に利用者さんは優しい方が多いなと思います。
あと個人的に一番気になるのは、副業・複業として働いている方が同僚にいたとき、専業で働いている方がどう思うのかというところです。正直「あなたはこの仕事、片手間でやってるんでしょ?」みたいに思われることもあるのかなと。
僕はそういう風に接されたことは全くないですね。というか、居てくれないと困る存在になろうと思って全力で働いてるので、どっちが本業でどっちが副業という感覚もないんですよね。まぁ稼げてるのは確実に介護の仕事なんですけど、バンドが趣味とも思ってないですし。
なるほど。複業か専業かは関係ないと。でも、勤務時間が他の人より短いことで、例えば長時間勤務している人の中では肩身が狭い、というのはあったりしないですか?私はここ数年で家族を3人看取ったんですが、その経験もあって「介護職=命を扱う仕事」というイメージが強くて。副業・複業として短い勤務時間で働くとなると、利用者さんとの関わりも少なくなってしまいますし、周りの方にもあまり良く思われないのではないかなと。
私が働いている事業所は、扶養の範囲内で働きたい方とかも含めてパートタイムで働いてる方がとても多いです。だから私が本業か副業かを気にしている人も、ほぼいないですね。
そもそも介護の仕事ってみんなで協力してやるものなので、コミットできる時間や熱量はバラバラなのが当たり前なんじゃないでしょうか。シフトに入っている30分、1時間をきちんと働けば、色々な働き方の人が居ても問題ないですよ。それが当たり前だと私は思ってますし、他の介護職の人もそういう考えの人が多いんじゃないでしょうか。
なるほど、それすごく良い考え方ですね。目から鱗です。でも、たとえば訪問介護だったら、「自分は●●さんのお宅を何曜日に担当する」となるわけですよね。利用者さんの生活スタイルや特徴などマニュアル化できない部分も多いと思うので、休みたいときに代わりの人に頼むにしても、属人化していてなかなか難しい、なんてこともあるのではないでしょうか?
逆に、なるべく属人的にしないように業務が作られていると思いますよ。うちの事業所では申し送りのノートなんかが作られていて、やることも大体マニュアル化されているので、誰がやっても一定のクオリティのケアができるようになっています。まぁ曜日によって誰が来るのかが自身のルーティンに入ってる利用者さんもいらっしゃるので、なるべく固定の方が良いとはいわれていますし、私もそう思いますけども。
多くの人が関わって、無理のない範囲で少しずつ利用者さんの生活を支えてるってことですね。
介護の現場は、一人でも多くの人に長く働いてもらえるように、また提供するサービスの質が人によって落ちないように、すごく考え抜かれている印象があります。
うちの施設も、僕以外にもバンドマンがいたり、劇団員をやってる方、バンギャルの方などいろんな人が働いてます。自分の人生にとって大切なものや大好きなものがあって、それを大事にしながら働きたい人には、介護業界って働きやすいと思いますよ。
※本企画は厚生労働省補助事業介護のしごと魅力発信等事業 情報発信事業(WEBを活用した広報事業)として実施しています。
1989年生まれ。埼玉出身のフリーライター。中2からバンギャル人生を歩み始め、今に至る。「Real Sound」「ウレぴあ総研」などで執筆。
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