「家でみるのも、施設に預けるのも愛」EXITりんたろー。が見てきた介護の現場と、そこにいる人々

一見してチャラ男、しかしにじみでる人の良さが隠せないことで人気を博す芸人、EXITの二人。りんたろー。さんは8年間介護のアルバイトをしていたことでも知られています。

一般的に「大変そう」と思われがちな介護業界に8年も従事したその理由とは? さらに、介護の現場で働いたからこそ見えてきた、「もしも自分の家族に介護が降りかかったら」のお話も伺いました。
 

今回のtayoriniなる人
りんたろー。
りんたろー。 1986年3月6日生まれ。静岡県出身。2017年にEXIT結成。チャラ男漫才で人気を博し、多くのバラエティ番組やネタ番組に出演している。12月25日には初の単独DVDが発売される。

チャラ男だから介護が性に合っていたのかもしれない

――りんたろー。さんは24歳から8年間、介護のアルバイトをしていたんですよね。働いていたのはどんな施設だったんですか?

りんたろー。

めっちゃちっちゃいところでした。一軒家をリフォームしたデイサービスだったんですけど、お泊りもあったし、いろいろやってました。

――なぜそのアルバイトを選んだんですか?

りんたろー。

家の近くに新しくできるところの募集が出てたんです。もともとおばあちゃんっ子っていうのと、その頃からチャラ男だったんで、チャラ男とお年寄りの方がコラボレーションしたら何かおもしろいエピソードが生まれるかなって思って。オープニングメンバーっていうのもあって、みんな素人だったんで、利用者さんがまだいない状態で介助の仕方を習いながら始めました。

――とはいえ、バイトはほかにもいろいろ選択肢はあるじゃないですか。

りんたろー。

アルバイトをただのアルバイトにしたくなかったんです。その前はパチンコ屋で働いてたんですけど、芸人って急に仕事が入って休まないといけないときがあるんですよ。そういうときに、自分がやりたいことを否定されちゃったりもするので、ちょっと違うのかな? と思ってました。それだったら、お笑いにも活かせて自分も楽しくできることをしてみようかなって。始めてみると、全然知らないことばっかりで楽しかったですね。周りもおばちゃんが多くて、「芸人やってんすよ」って言うと応援してくれる優しい人ばっかでした。

――具体的にはどんな仕事を?

りんたろー。

全部やってました。お風呂も入れるしご飯もつくるし、迎えにも行くし。着替えや口腔ケアもやって、お散歩も行って食事介助もしてたし。夜勤のときは寝かせて様子を観察したりもしてました。

働いているところが小規模だったのがマジで良かったって今は思いますね。大きい施設の話を聞くと、小規模のところよりスタッフは多いけど、そのぶん利用者さんも多くて大変じゃないですか。僕の働いていたところは要介護度も平均1〜3くらいの方たちだったし、7〜8人の利用者さんを3人くらいでみてて、夜勤でも多くて5人を一人でみるくらいだったんで。それでも大変は大変だったですけど、ほかの施設と比べたら、だいぶ楽だったと思うんですよね。だからこんな感じで介護を語っていいのかわからないんですけど。

――たしかに、夜勤1人で20人くらいの方を見るという話も聞くので、場所によって状況は違いますよね。現場で働くようになってから、事前に習ったこととの違いを感じる場面はありましたか?

りんたろー。

最初はそういうことだらけだった気がします。ご飯を食べてもらうために「とろみをつける」とか「刻んでみる」とか習ってたけど、そもそもまず全然食べなかったり、尿量も、教わった尿とりパッド数をどんどん超えてくるし。パッド変えて5分後にまた呼ばれて、「どうなっちゃってんの!? どこにどういうタンクがあるの?」みたいな(笑)。でもそれも「ちょ、出しすぎじゃない!?」みたいにツッコみながら楽しんでやってましたね。

――仕事との相性は良いと感じていたんですね。

りんたろー。

いい意味でマジで適当だし明るいから、おじいちゃんおばあちゃんは喜んでくれてた気がします。真面目な人ほど向いてないと俺は思ってます。人によっては認知症もあるし、ときにはその症状から心無い言葉を言われちゃうこともあるんですけど、それって介護する側が何か言ってもどうにかなる問題じゃないじゃないですか。それでいちいちその人を責めてたら、たぶん仕事が成り立たない。だから「何言ってんの〜」とか、いい感じに受け流せる人が向いてるような気がして。僕はそうだったから、合ってたんだと思います。

――働いているときも見た目はチャラかったんですか?

りんたろー。

ヒゲも生えてたし金髪だったんですけど、おばあちゃんたちから「覚えやすくていいよ」って言われてましたね。

――意外とお年寄りの方は派手な外見を褒めてくれますよね。

りんたろー。

「ハイカラだね!」って言われてました。おばあちゃんの中にも、いってみたら元ギャルがいるわけですからね。利用者さんたちはすごく気さくにしゃべってくれました。僕が隣に寝てくれないと「眠れない」って言ってるおばあちゃんがいたんですけど、ほかの仕事もあるから困っちゃうじゃないですか。「どうしよっかな」って悩みながらパッとおばあちゃんのほうを見たらもう寝てて、「いや、寝れるんじゃん!」って。そういう、ほっこりする話がいっぱいできましたね。

パチンコ屋で重いドル箱運ぶより、おばあちゃんを運ぶほうがいい

――ただ、介護の仕事はイメージ的に「大変そうだね」と言われることも多くなかったですか?

りんたろー。

「よくできるね」みたいなことは言われましたけど、俺からしたらマジで居酒屋とかのほうが「よくできるね」って感覚でした。そういうバイトも経験したけど、ずっと立ちっぱなしでドリンクつくって運んで、話す相手はお客さんだけ、みたいなほうが俺はしんどかったです。おじいちゃんおばあちゃんといろいろしゃべってたら楽しいし、やることも多いじゃないですか。施設によって違うだろうし向き不向きもあると思いますけど、パチンコ屋で重いドル箱運んでるなら、おばあちゃん運ぶほうがよっぽどいい。

――名言ですね。

りんたろー。

あと、「おじいちゃんおばあちゃんのうんことかおしっこ、よく触れるね」ってめっちゃ言われるんですよ。でも僕は最初からそこは抵抗なかったですね。慢性鼻炎っていうのもあるかもしれないですけど……。実際にやる前は「大丈夫かな?」って思ってましたけど、そんなことより大変なことがいっぱいあるから、全然余裕でした。

――「そんなことより大変なこと」というのは、具体的にはどんなことでしょう?

りんたろー。

やっぱり認知症のある利用者さんに心無い言葉をぶつけられると「その人の人格じゃないから」と思っていても、悲しくなりましたね。昼間はいい人なのに、夜になるとかまってほしいのか、そういうモードに入っちゃったりして。そういうときは病みそうになりますけど、ほかのところが楽しかったんで、うまいことやってました。

――「おじいちゃんおばあちゃんとしゃべるのも楽しい」とおっしゃっていましたが、どんな話をしてたんですか?

りんたろー。

おじいちゃんおばあちゃんって、昔のことをすっげぇクリアに覚えてるじゃないですか。戦争のときの話とか、どういう商売をしてどういう人生を歩いてきたかとか、聞いてると楽しいです。あ、全身ゴリゴリに和彫りが入ってる人がいて、風呂入れるときに超ビビりましたね。ギャルの介護士が職場にいたんですけど、「このあたりのヤバい人なんすよ」って教えてくれました。

――ギャルとチャラ男の介護士がいる施設だったんですね。以前に別のインタビューで、同じ職場に彼女がいたという話をされてましたが、同世代も結構多かったんですか?

りんたろー。

ちょこちょこいました。福祉系の学校に行ってる女子が多いっすね。その時の彼女は介護現場で長く働いてる子だったんで、「こういうときはこうしたらいいよ」とかいろいろ教えてもらってました。

――ちなみに、介護の仕事をしていたことが今の仕事で役に立つときってありますか?

りんたろー。

エピソードトークのネタはめちゃくちゃ多いです。それと、お年を召された方が集まる場所に行くとき、話のトーンを変えるのが自然にできます。声の出し方とか間(ま)の取り方を変えて、聞き取りやすいようにしてます。街頭ロケなんかでも、いきなり話を聞かせてもらうのって難しいんですけど、介護やってるときに習った「目線を同じ高さに合わせて、身体に触ってあげるとしゃべってくれる」っていうのをやるとうまくいくんですよ。おじいちゃんおばあちゃんに気に入られるスピード、パないです。

――自分の祖父母とすら、あまり話さないので見習いたいです。

りんたろー。

僕は実のおばあちゃんともずっと電話とかしてるので。最近ペースがすごい上がってきて、ほぼ毎日くらいかかってくるんですよ。寂しいんかな?

受け流すのも、家族の間では限界があるから介護サービスを頼って欲しい

――「tayorini」では、漠然とした「介護は大変そう」というイメージを払拭するための情報を発信していきたいと考えています。たとえばこれから自分の親が介護を受けるようになったとして、当人と家族がそれぞれ健やかに生活するために、何が大事だと思いますか?

りんたろー。

さっきも言いましたけど、やっぱりうまく受け流すことが大事だと思ってて……。でも、俺も自分の親やおばあちゃんがそうなったときに同じことができるかっていうと、また難しいなと思います。できることなら一緒に住みたいですけど仕事の状況にもよるし、誰かに頼らないとしんどいってわかってるので、そういう施設とか介護サービスは頼ると思います。

――毎日電話をするほど仲がいいおばあちゃんだったとしても。

りんたろー。

介護が始まって、家でみる人も施設に預ける人もいると思うんですけど、どちらが愛がないとかじゃないと思ってて。預けるのもすごく愛があることだから。たとえばデイサービスに預けることで1日でも自分の心に余裕ができるのって、すごく大事なことだと思うんですよ。

――確かに、余裕がなくなると何でもうまくいかない。

りんたろー。

「私が全部やらなきゃ」って抱え込んで抱え込んで、それが弾けて手をあげちゃったり、逆に放置しちゃったりすることがあるのも見てきました。いくら大切な人でもそうなってしまうくらい、1人での介護はストレスがかかることなんだと思います。できない状況も僕はわかるので、家族や施設を頼ってうまく分担して、良いように回っていく状況がつくれたらいいですよね。そこで信頼できる介護士に出会えたらもっといいし。利用者さん達も最期をどこで迎えるか、病院なのか自宅なのかはわかんないですけど、ウチの施設に来てくれている間は、楽しい思い出をつくってもらえたらいいなって感じで働いてましたね。

――だからこそ、介護士の方の働き方にももっと余裕ができたらいいですよね。

りんたろー。

そうなんですよね。ひとりひとりと本当はちゃんと向き合わないといけない、でも山積みの仕事も回していかないといけない……ってなったら、そりゃイライラもしますよね。受け流すのも限界がある。給料も安いじゃないですか。

そこは施設側とか、もっと上のほうでなんとかしないといけない。

――りんたろー。さんは、自分が介護される側になったら、どんな介護士さんがいいですか?

りんたろー。

それはチャラ男で! チャラくて適当な優しい人がいいですね。

 撮影:八木虎造

斎藤岬(さいとう・みさき)
斎藤岬(さいとう・みさき)

1986年、神奈川県生まれ。編集者、ライター。月刊誌「サイゾー」編集部を経て、フリーランスに。編集書籍に『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』「HiGH&LOW THE FAN BOOK」など。

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