<介護×テクノロジー> “おむつゼロ”の世界を目指す--「DFree」は排泄から介護を変える

画期的なテクノロジーが世界のモノゴトをより便利に、より効率的にアップデートしています。介護の世界でもテクノロジーを活用する動きが加速。そこで、<介護×テクノロジー>を推進するトップランナーの現在地をキャッチアップするべく、今回はトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社を訪れました。

手掛けているのは、尿の排泄を予知するIoTウェアラブルデバイス「DFree(ディー・フリー)」。下腹部に装着して超音波で膀胱の変化を捉え、専用アプリでスマートフォンやタブレットから排泄のタイミングを確認できるというもの。

2019年 1月 には、世界最大級の最新電子機器の見本市「CES」で、「Innovation Awards」をはじめ4つの賞を獲得するなど、国内外から熱視線が注がれています。開発の経緯や製品の特徴について、営業担当の草西 栄さんに話を聞きました。

トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社草西 栄さん

――排泄予知デバイスというのは世界初だそうですが、開発に至ったきっかけから教えてもらえますか?

草西

弊社代表の中西がアメリカに留学していたとき、辛いもの好きだったこともあり、引越し前日に辛いものを入れた鍋を作ったそうなんです。そして翌日、荷物を運んでいる最中に、急な便意に襲われ、路上で漏らしてしまったという事件がありました。

その経験がかなりのダメージで、「どうすれば自分のようなつらい思いをする人が減るだろう」と考えるようになったそうです。

――排泄にまつわるトラブルは、誰しも人生で一度は経験したことがありますよね。

草西

ですよね。中西がそのトラブルに見舞われたとき、ちょうど日本国内でも大人用おむつの売上が子ども用を逆転して話題になっていました。少子高齢化が大きな社会問題として取り沙汰される中、排泄にまつわる課題をハードウエアで解決するべく、2015年に当社を起業。現在、排尿予測のDFreeを個人向けと介護施設などの法人向けに販売し、排便予測は研究開発中です。

排泄予測デバイス「DFree(ディー・フリー)」

――DFreeはどのような仕組みなのでしょうか?

草西

超音波で膀胱にたまった尿を検知して、Bluetoothでスマートフォンやタブレットにデータを送信。個人ごとの設定に合わせて、おしっこのタイミングをお知らせする仕組みです。膀胱は水風船のような形で、大きくなったり小さくなったりと、膨らみ方が変わるので、その形状を超音波センサーで常時計測して、どれくらいの量が貯まっているのか1~10段階の数値で評価します。

ちなみに、身体の中の状態を感知する方法はいくつかありますが、日常使いできるデバイスにしたかったので、安全性を考えて超音波を採用しました。

DFreeが排泄を予測するしくみ

――どうやって装着するのでしょう?

草西

恥骨から1~2㎝ほど上部に、ジェルを塗ったセンサーをテープで固定します。コードでつながったバッテリーが搭載されている本体部分と合わせても90gと軽量のため、装着時の負荷も少なく、外出時にも使っていただけます。DFree以外で装着前に準備するものとしては、スマートフォンもしくはタブレット、テープ、ジェル、ティッシュくらいなので、気軽に使っていただけます。

DFree使用イメージ

――自分では「まだトイレに行くタイミングじゃないな」と思っていても、急に尿意が襲ってきて焦ることもありますよね。でも、DFreeならたまっている尿量が視覚的に把握できるとあって、「そろそろかな」と備えられるのは安心にもつながりますね。

草西

はい。数値化してみると人によっては、10段階のうち9なのに全然トイレに行きたいと思わない人もいれば、3でも我慢できないという人もいます。でも、数値で分かるとギリギリでお漏らししてしまう人には早めにトイレに行くように促せますし、逆にあまり溜まってないのに頻繁にトイレに行く人には「もう少し溜めてみよう」とトレーニングすることができます。

こんなお悩みがある方に

――どのような人に利用してもらいたいとお考えですか?

草西

排尿に困難を抱えている人に広く使っていただけますが、トイレでの排泄の回数を増やしたいと考えている方や、頻尿や尿漏れなどのトラブルが増えてきて困っている方、オムツなどの対策を検討し始めている方などには、ぜひ利用していただきたいですね。

中西が経験したように、排泄でトラブルがあると、絶望してしまったり生きにくさを感じてしまったりと、つらい思いをすることになってしまいます。それが日常になってしまうと、自尊心すらも失いかねませんから。

――確かに、「排泄」と「生きること」は切っても切り離せないものです。

草西

そうですね。たとえば、DFreeを在宅介護で活用されているユーザーさんの話で、介護されているお父さんが夜間、ベッドに戻って横になってはトイレ行き、戻っては行き……の生活が毎日続いていたそうなんです。トイレに付き添うお母さんからすると、家事も睡眠もままならない状態。泌尿科に相談しても原因が分からなかったとか。

でも、DFreeを使うようになって、お父さん自身も「これくらい溜まっているんだな」と視覚で確認できるようになり、意識して溜められるようになったと喜びの声をいただきました。

――DFreeによって、介護される側の意識が変わり、介護する側の生活も好転したということですね。

草西

実際、何度もトイレに立つと疲れてしまうので、本人にとっても自分のたまり具合を認識できることは、プラスに働くはずです。また、在宅介護などの個人向けだけではなく、施設向けに展開しているサービスだと、ひとつの画面で複数の入居者のたまり具合を表示することができます。数値を設定すると通知がくるようになるので、介護する側の負担も減る可能性があります。

――やはり、なるべくおむつに頼らず、適切なタイミングにトイレで排尿するということが大切ですよね。

草西

そうですね。介護の観点からはもちろん、健康という観点からも大切だと思います。おむつのデメリットとして、まず考えられるのは感染症や膀胱炎です。高齢者は抵抗力が落ちている方が多いですから、尿路感染症などが原因で入院するケースもあると聞きます。また、たとえば足腰が弱りはじめていた方が入院などでベッドの上で排泄介助が当たり前になってしまうと、帰宅する頃には筋力が落ちてもうトイレに行けなくなる、ということもあり得ますよね。

――負の連鎖ですね……。

草西

おむつを否定するわけではありませんし、必要な方がいることももちろん理解しています。しかし、健康的な生活を目指すなら、なるべくおむつを使わないことが望ましいです。DFreeという装置を上手に活用することで、おむつ生活が遠のいて、より快適な排泄生活が手に入るなら、そこにテクノロジーの価値があると思います。

――DFreeは介護の世界をどう変えていくと思いますか?

草西

最近では、「長生きのリスク」なんていうことが言われ、健康寿命の重要性が注目されようになってきています。長生きをしても、生きる意味が感じられていなかったり、幸せではなかったりしたら、寂しいですよね。自分の力で排泄するということは、人としての尊厳やプライドを守り、自信や意欲につながると思います。

僕たちは単にデバイスを作りたかったのではなく、生きる意欲を引き出す手助けになりたいんです。なので、DFreeは単純な介護の効率化や、管理される介護を目指すのではなく、「本人の意志を尊重する介護」をお手伝いするデバイスでありたいと思っています。

――排泄を上手にコントロールできれば、生きる意欲にもつながりますよね。

草西

そう思います。あと、介護が抱える問題すべてをテクノロジーが解決するとは思っていません。やはり人の手によるケアは重要です。テクノロジーの力を借りて、一部の負荷が少しでも減れば、その分だけ心を込めた介護に時間が掛けられるようになるのではないかと思います。介護に携わる人たちのプロフェッショナル性を高め、また、その人にしかできないケアを継続させるためにも、DFreeを活用していただきたいです。

末吉陽子
末吉陽子 ライター

ビジネスからグルメまで幅広いジャンルで記事を執筆。

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