介護の仕事って、よく言われる「3K(きつい、汚い、危険)」のイメージがありますよね。それって排泄に関わる仕事があるからだと思うんです。でも、実際に業務を始めてみると驚くほどすぐに慣れますよ。僕自身も1日で慣れましたし、ずっと苦手なままの人は自分の周りにはいませんでした。
お笑いコンビ・マッハスピード豪速球のボケ担当であるさかまきさんは、お笑い芸人として活動する一方で、10年以上にわたり主に夜勤のアルバイトとして介護職を続けてきました。普段はSNSで「#介護芸人の日記」として介護職の日常を発信し、2022年4月に初の著書『介護芸人のコントな世界』、2024年1月に『お尻ふきます!!』を出版しています。
そんなさかまきさんを介護の世界に誘ったのは、お笑いタレントスクール時代の元同期、石本さんでした。介護職員として働きながら芸人を志していた石本さんから、「介護の仕事は芸人の活動と両立しやすいよ」と声をかけられたのがきっかけだったそうです。
現在、石本さんは介護の道一本に専念し、日々邁進しています。今回は、そんな介護芸人・さかまきさんのルーツを作った石本さんとさかまきさん、いずれも介護経験10年以上の中堅介護職であるおふたりに、介護職のあるあるについてお話を伺いました。
介護の仕事って、よく言われる「3K(きつい、汚い、危険)」のイメージがありますよね。それって排泄に関わる仕事があるからだと思うんです。でも、実際に業務を始めてみると驚くほどすぐに慣れますよ。僕自身も1日で慣れましたし、ずっと苦手なままの人は自分の周りにはいませんでした。
たしかに。自分もすっかり慣れちゃいました。実際働いてみて一番苦労したのはコミュニケーションですね。働き始めた頃は何を話しかけたらいいかも分からないし、勇気を出して「おいくつですか?」と尋ねてみても、本人も分からなくて迷惑そうにされちゃったりして(笑)。
年齢を覚えていない利用者さんも多いですからね。80歳を過ぎている方が「今45歳です」と言うこともありますし。
そうそう。その一方で、昔の話になると饒舌になる方が多いので、今ではよく利用者さんの昔話を聞かせてもらっています。聞き方にもコツがあって、まずは利用者さんの背景を理解し、よく観察します。たとえば主婦だった方が夕方にソワソワしていたら「そろそろ夕飯の支度の時間ですね」と話しかけると、「今日は何を作ろうかしら」と会話が始まるんです。
ひとりひとりに昔話を引き出すヒントがあるんですよね。「港に行かなきゃ」と言って夜中に起きる方がいたんですが、聞くとやっぱり若いころ港で働いていたんですよ。
僕、普段はコントをやってるんですけども、利用者さんと話す時、コントの「設定」に入っていくような感覚に近いものがありますね。僕のことを夫だと思っていた利用者さんから「北海道旅行でお肉が美味しかったの、あれどこだったかしら」と話しかけられたので、「知らないよ」と答える代わりに「十勝かな」と答えたら、「そうそう、十勝!」と喜ばれたことがあります。合ってんのかよ! と思わず心の中でツッコミましたけど(笑)。
うちの施設でも似たようなことがありますね。あるスタッフを息子だと思ってる利用者さんがいて、ほかのスタッフだと入浴してくれないんですけど、そのスタッフだと素直に入浴してくれるので助かっています。
女性スタッフに比べ、男性スタッフの声かけでは腰が重い利用者さんに、試しに声を高くして「こんにちは〇〇さん、一緒に向こうに行きましょうか〜」って言ってみたら、スっと立ち上がってくれたこともありました。
あとこれ夜勤あるあるだと思うんですけど、利用者さんが施設を家だと思っている場合、夜中に鉢合わせたとき、泥棒だと思われちゃうんですよね。こればっかりは話を合わせるわけにはいかないから、「清掃を頼まれた清掃業者です」って言ってます。「朝までには終わらせるんで、ゆっくり寝ててくださいね〜」って伝えると安心してもらえます。
清掃業者! いいね。自分は「ここはホテルで、自分はホテルマンです」って言っていたけど、次はそれでいってみようかな。
最初に思い浮かぶのは、利用者さんのご家族から感謝されたときですかね。「うちの母を見てくださって本当にありがとうございます」とかって言われると、やっぱりね。こちらとしては「仕事として当然のことです」とは言うものの、ジーンときちゃうよね。
わかる。「仕事なんで」と言いつつ嬉しいよね。自分はこないだ、別の施設から来た利用者さんに手引き介助をした時、「君、うまいね」って言われて嬉しかったな。
それは嬉しい!
感謝されたというと、最近すごく嬉しかったことがあって。ある女性利用者さんが、認知症が進んで好きだった化粧もしなくなり、落ち込みがちになっていたんですね。その方が介助中に「自分が情けない」と泣き出されて。精一杯励ましてみたものの落ち込んだままだったので、鏡の前で丁寧に髪をとかしてみたんです。「そんなことしなくていい」と言われましたが「まあまあ、寝癖を直すだけだから」と続けると、次第に表情が明るくなってきて。「お化粧もしときますか?」と聞くと、「しとこうかね」と久しぶりに化粧をしてくれました。そのとき初めて「ありがとう」って言葉をいただいて。それはすごく嬉しかったし、やりがいを感じました。「これは俺の手柄だな」って思いましたね(笑)。
手柄で思い出したんですけど、うちの施設にちょっとやんちゃな男性利用者さんが入居たんですね。そしたら、ご飯は食べない、薬も飲まない、自宅へ帰ると荷物をまとめる、状況を説明すると腕を捻り上げるって状況で、急いで対策を考える必要がありました。そんな時、窓の外のゴミ捨て場に集まっているカラスに目が止まりました。そこでその方に「カラスが来て困っているんです」と相談してみると、「じゃあ俺が追っ払ってやる!」と言って、窓からじーっと見張っていて、カラスが来ると追い払ってくれるようになりました。そしたらご飯も食べてくれるようになって、自宅へ帰ろうとすることもなくなったんです。
そんないいエピソード持ってたんか、それ使わせてよ(笑)。
友達が飲みすぎたときとか、ついつい慣れた動きで介助しちゃいますね。あと、街で高齢の方が転んだら猛スピードで助けにいっちゃう(笑)。
確かに、そういう時にパッと動けるよね。あと、毎日いろんなことが起きるからたいていのことは笑って対応できるようになった気がするな。たとえば、利用者さんが強い言葉を発しちゃうことってよくあるんですよ。自分の父も今年から介護が必要になったんですけど、まさにそういう状態で。自分以外の家族は慣れていないので父と喧嘩になってしまうんですが、家族の中に介護に詳しい人がひとりでもいると、こういう状況をうまく取り持てると思います。
あとは、高齢の方との会話が得意になりますね! 妻のお母さんに初めて会った時すっごく緊張して小さくなってたんですけど、おばあちゃんが出てきた途端、急に元気な声で「初めましてー!」って(笑)。
わかるわかる(笑)。
やりがちなんですけど、高齢の方と話すとき、赤ちゃん言葉で話しかけるのは絶対にしないほうがいいです。優しくしようという気持ちの表れだとは思うんですけど。でもやっぱり僕らの先輩なので。耳が遠い方や、のんびりした雰囲気の方でも、対等なトーンで話したほうがいいですね。
僕はよく、少しドジっ子を演出しますね(笑)。 「腕時計してないのに腕見ちゃった!」とか、「何もないところでつまずいちゃった!」「うっかり大きなあくびしちゃった!」とか。
なにそれ!?(笑)。
高齢の方は子ども好きな人が多いからかな? 子どもっぽさを見せると喜んでくれる気がしますね。
人手不足の現場が多いので、効率化が得意な人って意外と求められてたりするかもしれないですね。介護の仕事って、書類多くない?
多いですね。夜勤の時、利用者さんひとりひとりの記録をつける書類があるんですけど、寝ていることが多いのでだいたい全部「入眠中」って書くことになるんですよ。だからうちでは「入眠中」スタンプを作りました。今はさらに進んで、書類をデジタル化しちゃったので本当に楽になりましたね。
デジタル化! いいなぁ〜。デジタルに強い人も職場にいたら嬉しいですね。
昔働いていた施設で、元ホストの人が入社してきたんですよ。最初「ホストに介護できるのか?」と思ってたんですけど、いざ働き始めてみたら、うまい。やっぱりね、人の心をつかむのがうまいんですよ。特に女性利用者さんには大人気で、いつも周りに人が集まっていました。
人を楽しませられる人は強いですね。レクリエーションの企画をするときに、ドッグセラピーみたいな、子どもっぽくならずに楽しめるアイデアを出せる人とかも活躍できると思います。
自分は今、施設で主任として働いているんですが、誰もが働きやすい環境を作ることを大切にしています。残業を減らし、スタッフに穏やかな気持ちで働いてもらうことが利用者さんの幸せにとっても大事なことだと思ってますね。
僕は、こうして日々介護の情報を発信することです。介護はまだまだ暗いイメージが強いと思いますし、人手不足もあったりで、なかなか皆がやりたがる仕事ではないですよね。「憧れの仕事」として介護職が挙がることは少ないでしょう。看護師さんに憧れる人が多いように、介護職にも憧れる人が増えたらいいなと思うんです。介護には大変な面もあるけど、それ以上に素敵な面がたくさんあります。そんな魅力を発信していけたらと考えています。
それに発信を意識していると、業務の面白い側面に気づきやすくなり、日々楽しく働けるっていう副次的効果もあるんですよ。今はSNSで誰でも情報発信ができるので、個人情報に気を配りつつ介護の楽しいエピソードを発信することで、自分も楽しみながら働けるし、介護業界全体が盛り上がっていくと思います。
どこの施設も待遇が改善されてきており、辛い職場は少なくなっていると思います。自分が働く施設では、休みがしっかり取れて残業もほとんどありません。プライベートが充実しているスタッフも多いです。自分も仕事終わりにジム行ってますし(笑)。デイサービスの仕事なら土日休みの事業所もあります。あと、やりがいはすごくあると思います。介護は辛い仕事じゃないよって伝えたいですね。あと、介護業界あるあるかもしんないですけど、飲み会が多い。月3ぐらいある。
それはお前の職場あるあるだろ(笑)。ただ飲み会は盛り上がる。あるある話とかで盛り上がるよね。僕もちょっと似てますが、介護職って辛いイメージがあると思うんですけど、そんなことないって伝えたいです。これまでいろんな仕事を経験してきたけど、介護職は楽しい瞬間が多い仕事だと感じます。なので、実際やってみると辛い印象にならないですよ。
介護職を離れる人って「もう介護の仕事はしない」って辞めていくけど、戻ってくるパターン多いよね。昔「これからはバーで働く」って辞めた人がいたんですけど、転職して別の施設にいったらその人いて「あれ? 」ってことありましたからね(笑)
わかるわかる。戻ってくる人が多い。経験してると、結局介護の仕事が一番良 かったなってなるんだろうね。
本企画は厚生労働省補助事業介護のしごと魅力発信等事業 情報発信事業(WEBを活用した広報事業)として実施しています。
イラスト:松永映子
東京都在住のフリーライター。2013年より「旅」や「ローカル」をメインテーマに、webと紙面での執筆活動を開始。2015年に編集者として企業に所属したのち、2018年に再びライターとして独立。日本各地のユニークな取り組みや伝統などの取材をライフワークとしつつ、持ち前の探究心を武器に幅広いテーマで記事を手がける。
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