そろそろ、何か親孝行がしたい。そう思い立った時、「一緒に旅行をしよう」と考える人は少なくないでしょう。しかし、親が高齢であれば体力的な心配が伴う上、からだの状態によっては介助が必要な場合もあり、旅行プランを立てるにもちょっとしたコツがありそうです。
では、高齢者との旅を計画する時に気をつけるべきポイントは何か。高齢者専門旅行事業を手がける青山シニアトラベルの後藤聡さんに、親との孝行旅行を安心して楽しむポイントを聞きました。
――まず、青山シニアトラベルがどのようなサービスを行っているのか教えてください。
高齢者の日ごろの外出に関する困りごと解決のほか、目的や人数に合わせた旅行のプランニングを行っています。元々は、介護保険では対応できない、銀行や役所、近所のスーパーへの外出、通院などに付き添う支援のみを行なっていましたが、今では、国内外の旅行もサポートしています。
――高齢の親との旅行ニーズは、年々増えていますか?
はい。ご両親を旅行に連れて行きたいというご相談は、ここ数年とても多いですね。
――親との旅行となると、いつもと勝手が違うことが多々ありそうです。まずは、何から決めればよいでしょうか?
まず、ご両親に「どこへ行きたいのか」「何をしたいのか」をつぶさに聞いてあげてください。あれこれ予定を詰め込まず、旅の目的はシンプルに1つだけにするのがオススメですね。
――なるほど。まずは目的を絞ることから、と。
高齢者が同伴する旅行は、体力面や移動手段などを考慮して、なるべく負担をかけないプランニングが必要です。同世代同士で行く旅行と異なり、あまり多くのイベントを詰め込んでしまうと、親を疲れさせてしまいますからね。孝行旅だからこそ、自分がしてあげたいことよりも、親が本当に望んでいるプランを練りましょう。
――高齢者にとって負担になるぐらいイベントを詰め込んでしまう方が多いのでしょうか。
高齢になった親の体力よりも「親孝行」という気持ちが先行してしまい、温泉に行って観光もさせてあげたい、美味しいものも食べさせてあげたいなどとイベントの詰まったプランを立ててしまう人もいます。高齢となったご本人は自分の体力はわかっていたりするので、温泉だけで満足な場合もありますよ。なので、まずは何を望んでいるか聞いて、できるだけシンプルなプランを心がけましょう。
――ちなみに、どんな旅先が人気ですか?
季節の花に触れられるスポットは人気が高いですね。うちは大阪の事業所なので、関西圏が中心になりますが、チューリップが咲く淡路島・明石海峡公園などは春先から特に人気です。春は桜も見頃ですが、淡いピンクよりも原色でくっきりと見えるチューリップのほうが、視力が衰えている高齢者にも楽しみやすいんですよ。
――桜よりもチューリップが喜ばれるとは意外でした。では、冬場のオススメは?
冬は、イルミネーションやプロジェクションマッピングが人気です。人混みに不安を感じる人もいるかもしれませんが、最近のイルミネーション会場では車椅子の人のためのスペースが確保されているケースも珍しくありません。ただ、冷えるのでトイレの場所は事前にチェックしておくべきです。
――お手洗いですか?
たとえば、車椅子のまま個室へ入らなければならない場合は、あらかじめバリアフリーのトイレがある場所を確認しておかなければ、現地で困ってしますよね。
また、息子さんがお母さんを連れて旅をする場合、逆に娘さんがお父さんを連れて旅をする場合には、トイレや入浴の介助の問題が生じます。自分が付き添うことのできない場所で何かがあっては大変だと、私どもにご相談いただくケースは多いです。
まずは、トイレの心配が少なくてすむ、車で60〜90分というアクセスの場所から徐々にお出かけに慣れていくのもオススメです。
――旅といえば、食事もぜひ楽しみたいところ。どんなことに気をつけるべきでしょうか?
人それぞれ、体力やからだの状態によって必要な支援や介助は異なります。旅先でレストランを予約する際にも、通常メニューのままでいいのか、それとも細かくカットする必要があるのか、咀嚼能力に合わせてあらかじめ手配しておかなければなりません。
――親の身体状況は、あらかじめ押さえておかなければなりませんね。でも、離れて住んでいると、なかなか難しいかも…。
たとえ自分の親であっても、最新の健康状態には意外と疎いものです。希望の旅先ヒアリング時に、合わせて確認しておきましょう。また、もし日頃からお世話になっているケアマネージャーさんがいるなら、事前に細かく確認しておくことが大切です。ケアマネージャーさんは最大の情報源で、「最近、右足が上がりにくいので気をつけて」、「今こういう薬を飲んでいるので忘れずに」など、現時点の状況を踏まえてアドバイスをくれるはずです。
――なるほど。それは重要ですね。
もし認知症があるなら、薬についても知っておくべきですし、視野や聴覚に不自由があるなら、エスコートの仕方も変わってきます。仮に、右耳が聴こえにくくなっていることが事前にわかっていれば、なるべく左側から寄り添って話しかけてあげるなど、ご本人を少しでも安心させてあげる対応がとれますからね。トラブルを未然に防ぐためにも、このあたりはあらかじめ最大限に注意を払っておかねばなりません。
――今日教えていただいたプランニングのコツを踏まえて、孝行旅を計画してみようと思います。
そうですね。外出や旅行という楽しみがあれば、気持ちにハリが出たり、リハビリを頑張るモチベーションが生まれたりするケースも多いです。実際、いつも故郷での同窓会に付き添わせていただいているお客さまは、毎回のように「いい冥土の土産になった」、「きっと今回で最後でしょうね」とおっしゃっていますが、87歳になった今年も元気に同窓会に出席されました。きっと内心では次の同窓会も楽しみにしていらっしゃるのだと思います。
また、競馬が大好きで、自分で馬券を買いに行くことを目標にリハビリに励み、駅の階段を自分の足で上り下りできるようになった方もいます。ご本人が望むことであれば、外出や旅行の目的は何でもいいと思います。お出かけは心身の元気を回復してくれますよ。
――行きたい場所に親子で出かければ、かけがえのない思い出も増えますね。
その通りだと思います。私たちがこの事業を始めた16年前と比べると、スロープや車椅子用のトイレなど、街中や観光施設の設備は見違えるように整備が進んでいます。つまり、その気さえあればどこにでも出掛けられる時代になりつつあるわけで、今後は高齢者の旅行意欲はもっともっと高まっていくでしょう。ご両親が望む旅行を実現することができれば、きっと今よりもさらに元気になり、明るく長生きしてくれるはずですよ。
フリーライター。インタビューやルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『日本クラフトビール紀行』(イースト・プレス)、『この場所だけが知っている 消えた日本史の』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)ほか。
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